トレジャーハンターは優しい吸血鬼に魔法のオルゴールを贈る
「第7回小説家になろうラジオ大賞」参加作品です。
【キーワード オルゴール】
「オルゴール?」
場末に店を構えるトレジャーハンタージョニーは助手のキャシーに聞き返した。
「ただのオルゴールじゃない。『魔法のオルゴール』よ」
「『魔法のオルゴール』? 初耳だ。知らないぞ。どこにあるかなんて」
「依頼者によると旧ヴラド伯爵邸にあるんだって」
「何? あの化け物屋敷にか?」
ジョニーは考え込んだ。仮にもトレジャーハンターの看板を掲げている以上、危険なところに乗り込むのは承知の上だ。しかし、あそこ……旧ヴラド伯爵邸は……
「仲間内でもあそこに挑戦した奴、みんな逃げ帰って来てるんだよな」
「ふふふ」
逡巡するジョニーを見て、何とも言えぬ微笑を浮かべるキャシー。
「それでは世界一の凄腕トレジャーハンタージョニー君はこの依頼を受けられないというのかな?」
「受けないとは言ってないだろ」
キャシーの挑発に簡単に乗るジョニー。
「じゃあこの依頼受けていいんだね?」
「おおっ、受けてやろうじゃねえか」
「やったあ。この依頼。気前が良くてね。前払い分でガッポリ貰えるの。これで当面家賃の心配はないわ」
「キャシー。おまえそれが目的か?」
化け物屋敷の噂は本当だった。廃屋にツタが絡まるのは定番だが、ここのツタはジョニーに巻き付いて、その血を吸わんとする。更におびただしい数の屋敷に巣食うコウモリもジョニーの血を吸わんとする。
依頼者は資料として古びた屋敷の図面をくれた。「魔法のオルゴール」の在処が分かっていても依頼者が自分で取りに行けなかった理由。それはこのあまたの吸血生物の存在だろう。
それでもジョニーはたどり着いた。屋敷の一番奥の部屋に。そして、安置された棺の中から「魔法のオルゴール」を手に入れたのだ。
「ギギギーイ」
老女性の依頼者はジョニーの姿を認めると飛び掛かってその血を吸わんとした。ジョニーはそれをかわす。
「遅くなって申し訳ない。発症してしまったんですね。でも大丈夫。このオルゴールの音を聴けば」
オルゴールの音を聴くと老女は静かになり、やがて灰と化していった。
「貴女は優しい人だ。父のヴラド伯爵は不死の研究の副作用で吸血鬼になった。娘の貴女は意思の力で発症を抑え込んでいたが、抑えられなくなった。他人に迷惑はかけられない。貴方は自ら『魔法のオルゴール』での死を選んだ」
「さよなら。優しい人」
ジョニーは穏やかな気持ちで依頼者の屋敷を去った。後でキャシーから何で報酬の残額を貰ってこなかったと怒られることも知らずに。
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本企画には他に「仮面舞踏会ではないのに仮面を着ける伯爵令嬢は王太子の婚約者」と
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