第3章 内政編 第24話 エルフの国
アウル領ブラックベリーの領主館。
俺は執務室に、モルト、ドランブイ、セリスを集め『ドラゴンソルト』のブランド化について協議を行っていた。
源泉から離れた温泉成分の少ない塩は、レギュラータイプの『ドラゴンソルト』として従来の予定通り売ることになりそうだ。
温泉成分が多く含まれる塩は大きく分けて三種類あるそうで、それぞれ『レッドラベル』『ブルーラベル』『ゴールドラベル』と名付けてブランド化して売り出したいという。
「とにかく、今までの塩に比べれば、品質もかなり上です。値段の付け方によっては、今まで流通していた岩塩を駆逐してしまうかもしれませんな」
「なるほど……これは、慎重に行かないとな」
うちの塩が流通することによって、何かと困る生産者や流通業者もいるだろう。多かれ少なかれ影響は出るだろうが、最小限にしたいところだ。
ドランブイによると、一般的に大陸で流通している岩塩が、小袋ひとつ五百アールくらいなので、レギュラータイプの『ドラゴンソルト』は八百~九百アールくらいが妥当だという。
そして『レッドラベル』『ブルーラベル』『ゴールドラベル』は、それぞれ、小袋ひとつ二千アール程で売りたいらしい。
「次に販路ですが、王国以北に関しては、キール様に一任されるのがよろしいかと」
「王都の裏ギルドには、話を付けてるっすけど、公爵家の力も借りたい所っすね」
「こ、公爵家……お兄様!」
「まあまあ、セリス様。ここは穏便に」
「そおっすよ」
セリスよ。俺が一体何をしたと……。ドランブイありがとう。そしてモルト……。よくよく考えれば、全部お前のせいだけどな!
「いくらドランブイの所を窓口にすると言っても、問題は南部だな」
大陸南部に広がる亜人たちの領域。その中心となるエルフの国は、祖父が遺した記録によれば、大陸南部では一番古い歴史を持つ。
首都は国と同じ名を冠する「ハウスホールド」で、王城を中心に城壁が張り巡らされ、『城郭都市』などと言われているそうだ。 遥か昔この地は、木造の建築物が並ぶだけの大きな里だったらしいのだが、国として独立する際、国際社会に認めさせるためだろうか、街を覆う高い城壁が作られたという。
「とにかく、我が領がこれから国際社会に打って出るには、この「ハウスホールド」を押さえることが何よりも重要ですぞ」
え……? 打って出るも何も、俺は黒字経営さえ出来れば、辺境でのんびりしたいだけなんだが……。
「そうっすよ! ウチが力を付ければ王国だって無視できないようになるはずっす!」
い、いや、そこは無視していただいてもいいけどね。
「お兄様、我が領を発展させて、辺境へ追いやった王国を見返すべきです!」
見返すも何も、俺は辺境へ赴任させていただき、感謝しているくらいなのですが。
ちなみに、祖父は先代のエルフ王と親交があったそうだが、俺は一度もあったことが無い。いくらドランブイの商会を通しての交易だとしても、顔つなぎは必要だろう。
今後は、輸出だけでなく輸入を含めた交易も実現したいのだ。生活に必要な様々な物資も、遠い王国より、カルア海の先から調達できればいうことはない。
「やっぱり俺も、エルフ王に挨拶くらいはしておくべきかな」
「はい。レオン様も早急にお目通りされた方がよろしいかと。何しろハウスホールドは亜人たちの盟主を自認しておりますから……」
「レオン様!」
ドランブイの言葉が終わらないうちに、横から割り込む我が執事。もふもふ尻尾をぶんぶん振っている。
「何だモルト?」
「ここに来て、ようやく辺境伯らしい“まとも”なお言葉! 自分は執事として、こんなに嬉しいことはないっす!」
「お兄様、さすがです!」
「え……そ、そうなの……?」
「いや~よくぞ、ご自分から言ってくださいました。下手にすすめると、またレオン様が面倒くさがるんじゃないかって、心配してたんすよ」
「お前なあ……」
「今まで、散々尻拭いさせられてきたっすからね~。さすがにエルフ王の前では、ちゃんとしてくださいっすよ!」
「お兄様は私がお守りしますので、ご安心ください」
「お、お前ら……」
「とにかく、謁見のお伺いを立てておくっす。レオン様はやればできる子っすよ!」
「そうですとも、お兄様!」
「……」
何だかダメな子扱いされているみたいで、俺としてはちっとも嬉しくないのだが……。
“コンコン”
「そのときはにニーナもお供させてくださいまし」
銀のワゴンを押しつつ、お気に入りのメイド服に身を包んだニーナがやって来た。
「皆様、お茶が入りましたの」
◆
「もぐもぐもぐ……大丈夫です。お兄様は、私ひとりで守ってみせます」
「ニーナは、レオン様のお食事が心配ですの」
い、いや……。いくら心配してくれてもニーナはスイーツしか作れないんだよね。俺は、甘いものに全く興味ないのですが……。
「お兄様は、日々修行に身を置かれている身。スイーツ無しでも平気でしゅ」
おい、セリス。ケーキを頬張りながらしゃべるんじゃありません。
「自分は毎日でも食べたいっきゅ……」
モルト! お前も、もきゅもきゅ頬張りながらしゃべってんじゃねえよ!
「ニーナさまは、キール様の名代として、御同行なさるのがよろしいかと」
「まあ。ありがとうドランブイ。よく言ってくださいました。ケーキのお代わりはたくさんありますので、いつでも言ってくださいましね」
「自分も賛成っしゅ!」
「お兄様!」
ドランブイの発言に、ぱああっと、顔をほころばせるニーナ。それはともかく、モルト!お前の意見何て聞いてないからな! そして、セリス……。俺は何も悪くないと思うのですが。
とにかく、俺たちアウル領は『ドラゴンソルト』のブランド化と大陸南部への大規模輸出に向けて、動き出したのだった。
お読みいただきありがとうございます。次から第4章 遠征編 に入ります。
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