第3章 内政編 第10話 到着
それから一週間後。
ウーゾの店の前には、アウル領へ向かう者たちが集合していた。
「皆さん、おそろいっすね」
一人ひとりに言葉を交わし、満足そうにうなずくモルト。
クラーチ家の就職希望者は、元の使用人やメイドは十五人。それに加えて新たにメイド希望が三名。エルフと獣人の女の子が、それぞれ一人ずつ。それに加え、何と人間の女性が一名、応募してくれている。
使用人希望の男性はいなかったが、今回メイドを希望してくれた彼女たちは皆、屋敷の手入れや修繕を含め、使用人がするような仕事もしてくれるということだ。
入植希望者は四家族。合わせて二十名。中にはいつかの痩せた犬人族の男もいる。
「モルトさん、その節はどうも……」
「気にすることないっすよ。入植者の募集に応じてくれて助かったっす」
申し訳なさそうに頭を下げる男に笑顔で応えるモルト。
「お~い!」
満足そうにもふもふ尻尾をゆっくり揺らしているモルトの元に、ウーゾとバドがやって来た。
「あまり集まらなくて、すまんな」
ウーゾ申し訳なさそうに大きな体を小さくして謝る。
「十分っすよ」
「実はな、モルト……」
バドによると、アウル領ブラックベリーで、風土病が出たという噂が出回っているという。その影響もあってか、使用人やメイドの応募者の内、何人にも断られたそうだ。
「俺もウーゾも、もう少し集まると踏んでたんだけどな」
「仕方ないっすよ。ただ、あの病はもう出さないってレオン様が言われてるんで、心配することもないんすけどね……」
今回は、大型の馬車が三台。御者はカールトンとその息子たちである。全員が乗り込んだのを確認してモルトが、声を上げた。
「それじゃあ、出発するっすよ」
「おう、元気でな」
「モルト、またな~!」
腕組みをして笑顔を浮かべるウーゾの隣で、モフモフ尻尾を揺らしながらバドも大きく手を振っている。
「バド~! ウーゾ~! 行ってくるっす~!」
三台の大型馬車に乗り込んだ一団は、一路ブラックベリーに向けて旅立っていったのだった。
◆
ブラックベリーでは、建物の内装の補修工事と、農地の整備が着々と進んでいた。その進捗具合に、俺も大満足である。これ以上の開墾は、入植者に任せてもよさそうだ。
この日、視察を終えた俺は、屋敷に帰ってくるなりドランブイに呼び止められた。
「レオン様、ウチの商会の船が着いたようですぞ」
ドランブイと共に見に行くと、港には巨大なガレオン船が五隻。それぞれに品物が山のように積まれている。山エルフの船員たちも積み荷の運搬作業を手伝ってくれていた。
「傷モノや、古い在庫ばかりです。本来なら処分品なのですが、その中でも使えたり食べたりできるものは、全て持ってくるよう指示を出しておきました」
積み荷は、日用品・家具・衣類・生活雑貨・穀物などの食料といったように多岐にわたっていた。
「こんなにもか……。本当にいいのか?」
「はい。構いませんよ」
ドランブイの商会は『シードル商会』という大陸南部では指折りの大店。特にキールの所の御用商人となってからは、業績もうなぎ上りだという。
街で内装作業中の山エルフを除いて、総出で運搬作業を行った。屋敷に収まり切れない分、は領主屋敷の近くの民家を倉庫代わりにと思っていたのだが、一軒だけではとても入りきれず、三軒分使うことになってしまった。
「ドランブイ、ありがとうな」
「いえいえ。お役に立てて何よりです」
キールからは、書簡が届けられた。内容は、ラプトル肉のお礼とモルトたち一行が無事キールの館に到着したという知らせ。翌日ブラックベリーに向かうそうだ。それと、俺が贈ったラプトル肉を使って、バーベキュー大会をしたらしい。いいなあ。手紙の末尾には、美味しくて大好評だったので、また欲しいという言葉が添えられていた。
ここから西へ船で半日もあれば、ドラゴンの一大生息地である『大森林』に着く。ここの入り口に罠を設置するのはどうだろうか。
「試される価値はあるかと」
ドランブイの言葉を聞いて安心した。俺は、早速山エルフたちに相談し、館のラプトルを輸送につかった檻を、何個か送ってもらえるように頼むことにしたのだった。
◆
そして翌日、ついに、モルトたち一行がブラックベリーに到着。
「レオン様~。お久しぶりっす!」
「久しぶりだな、モルト。元気そうで何よりだ」
せわしなく尻尾をぶんぶん振るモルトを先頭に、皆続々と下船して俺の前に整列する。
カールトンをはじめ、元の屋敷の使用人にメイド。それから、新しく募集に応じてくれたメイド希望の女の子たち。そして入植者の皆さん。
「坊ちゃま。呼び戻していただき、ありがとうございました。是非もう一度お仕えしとうございます」
カールトンは、皆を途中まで運んでくれただけで良かったのだが、モルトによると、ここに残ると言い出して聞かず、結局ここまで付いて来たのだという。
「本当にいいのか。しばらくは無給だぞ」
「はい。他の皆さんも同じですし」
カールトンによれば、息子たちはそれぞれ、王都で仕事を見つけてくれたので心配ないという。書庫の管理も、自分に代わって息子たちがしてくれているそうだ。
「い、いや、カールトンいくら何でも……」
「お兄様!」
「レオン様~!」
俺がカールトンにかけようとした言葉は、例の二人によってかき消されてしまった。いくら何でもお前たち。厚かましすぎるんじゃないか?
「何を仰っているのです。こんなことを言ってくれるカールトンこそ、重用すべきです」
「そおっすよ。こんな奇特な申し出は、有り難く受け取るに限るっす!」
確かにカールトンは、大変ありがたい存在なのだが。
お前たち、少しは遠慮というものをだな……。
とにもかくにも、記念すべき最初の領民を迎えて、ようやく我が領は動き出したのであった。




