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林 「...」
浅沼 「...林さんが優しい人だってこと、凛たちが忘れないでいてくれると良いですね。」
林 「...忘れた方が良い。これからきっと辛いことがたくさんある。それを凛たちは乗り越えていかなければいけない。優しさだけでは乗り越えられないこともある。」
浅沼 「厳しくするんですか?」
林 「ああ。」
浅沼 「嫌われますよ?」
林 「嫌われるくらいがちょうど良い。本望だ。」
浅沼 「...ふっ。全く。林さんらしいな。」
軍隊のような場にいることを出来る限り感じさせないように凛たちには上官として扱われたくない。
そんな思いから教官と呼ばせるようにして、凛たちの生活を守るために仕事場の統括は凛に一任し、我々は出来る限り介入しないことを上に頭を下げてお願いした。
凛が小さい頃から持病のことは気にかけ、瀬良のように定期的に医者を入れては凛の持病を気にかけるよう指示を出しながらずっと見守っていた。
ー回想終了ー
凛 「...」
目の前の十五になった凛は、私の話を何も言わず、ただ涙を流しながら聞いていた。
林 「...これが真実だ。凛のご両親は凛を売ろうとなんてしていない。必死に守ろうとしていた。」
凛 「...」
林 「...何もできず、見ていることしかできなかった。本当に申し訳ない。」
凛 「...あなたは親でしたよ。少なくとも私自身はそう思っていました。今の話を聞いてもそれは変わりません。」
林 「っ...」
凛 「...話してくれてありがとうございます。」
林 「...この前、水瀬と昔の話をした。自分のことを茜坂に連れてきたことを後悔してないかと聞かれた。私自身、後悔はしていない。しかし、それが凛たちのためになっていたかは分からない。」
凛 「...私たちはたしかに不本意でここに集まったのかもしれません。けれど、私は皆に出会えたことだけは嬉しく思っています。教官や浅沼さんにも。」
林 「っ...そ、そうか。」
凛 「...」
林 「...凛。私もあの日から親代わりをしてきて凛と過ごす日々はとても楽しかった。凛と出会わなければこんな時間を過ごすことはできなかった。凛に感謝してる。」
凛 「...私も感謝しています。お世話になりました。」
林 「...ああ。」
凛が出て行こうと戸を開けると浅沼が座り込んで泣いていた。
凛 「...浅沼さん。浅沼さんにも感謝しています。」
浅沼 「っ...ああ...俺も...」
浅沼は立ち上がって凛を見た。
浅沼 「...頭撫でて良いかな。」
凛 「...はい。」
浅沼は泣きながら凛の頭を撫でた。
浅沼 「...大きくなった...強くなったなぁ...」
凛 「...お二人のおかげです。」
浅沼 「...ふっ。林さんも。」
林 「わ、私は...」
浅沼に手を引かれ私も凛の頭に手を置くと凛は安心したように笑った。
凛 「...昔のようです。」
浅沼 「...ああ、本当。」
凛 「...お二人の手は大きくてあったかい。」
林 「っ...」
凛が部屋を出ていくと私は泣いていた浅沼を見た。
林 「凛たちの計画を知っていて協力していたのか?」
浅沼 「...何となくです。外の世界の地形について教えてほしいと頼まれて何となく勘付いてはいました。けれどあんな計画...いくら凛たちでも無理ですよ、全滅どころじゃない...」
林 「...ああ、分かっている。だが、凛たちが自分で選んだ道だ。」
浅沼 「やりますか?」
林 「...一緒にやってくれるか?」
浅沼 「...私も凛の親代わりをしてきたつもりです。もちろんです。」
林 「...ありがとう。頼りにしてる。」
そして、計画実行の時間、私は姿を隠しながら橘たちが抜け道から無事に出ていくのを見ていた。
浅沼 「全員、無事に出て行きましたか?」
林 「ああ。」
振り向くと浅沼も刀を持って来ていた。
林 「...計画通りというところだろう。」
浅沼 「...凛たちが真っ向勝負で挑むつもりなら、私たちも痺れ薬や眠り薬など姑息な手は使わず真っ向から行きますか。」
林 「そうだな。」
私は昨日磨いていた刀を見て、武器庫の鍵を机の奥に閉まった。
林 「...この前の一件から銃の持ち込みを制限していて良かった。」
しばらくして、子どもたちが逃げたという知らせが届き、子どもたちを捕らえるよう上から命令が降りた。
浅沼 「...行きましょうか。」
林 「...大丈夫か?」
浅沼 「...私も凛のおかげでなれる訳がなかった親代わりができたので。最期まで凛たちを守る側でいます。」
林 「...そうだな。少しでも時間を稼ぐぞ。」
少しして兵士たちが外に向かおうと走って来て、私と浅沼で道を塞いだ。
兵士 「...裏切りですか?」
林 「...私たちを倒してから行くんだな。」
私も浅沼も何人もの兵士を斬り倒し、出来る限りの時間を稼げるよう必死に戦った。
しばらくして、私も浅沼も動けなくなってきて二人で座り込んだ。
浅沼 「...凛、反抗期ありましたっけ...」
浅沼は目を閉じて体重を私に預けていた。
林 「...親孝行ものだ。最期までずっと。」
浅沼 「...ですね...」
私は息が浅くなって来た浅沼を自分の膝を枕にするように寝かせ、頭を撫でた。
浅沼 「...凛...」
林 「...」
誰かの不幸の上に立つ幸せは幸せだと思わない、その芯を小さい頃からずっと最期まで貫いてくれた。
育てろと言われたあの日から、凛のご両親に恥じないように凛を立派に育てなければいけないと思い詰めることも何度もあった。
凛はまっすぐ大きくなり、自分で道を選んで仲間と一緒に立ち向かえるほど立派になった。
力が入らなくなり目を閉じると、凛の姿が目に浮かんだ。
初めて話し、立って、笑って、泣いて...
私はその日、凛の親代わりになったあの日から初めて涙を流した。




