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そして、橘先輩たちは途中で立ち止まり、僕らも立ち止まった。
橘先輩の元に早坂先輩たちが集まり、第二級人員の坂井先輩たちも集まった。
壮馬 「橘先輩...」
凛 「...後は頼んだ。」
壮馬 「...はい...皆、行くぞ。」
坂井先輩たちが先頭に立って走り出し、皆が走り出しても僕は橘先輩たちの後ろ姿から目を離さず立ち止まったまま動けなかった。
橘先輩たちは全員が刀を持っていて前だけを見ていた。
凛 「...皆、ありがとな。」
莉央 「何だよ、急に。」
凛 「...私一人では抱えきれなかった。皆のおかげで戦うという道を選べた。」
柚月 「僕らもだよ。凛が居てくれたからここまで頑張って来れた。」
唯 「お前のおかげで俺らも覚悟を持って誰かを守ろうと思えたんだ。」
凛 「...後悔しないか?」
藍 「しない。もう決めたんだ。」
蘭 「らしくないぞ。ほら、いつもどおり俺らに指示を。」
凛 「...誰一人、ここを通すな。少しでも時間を稼ぐぞ。」
唯 「おっしゃ。」
柚月 「僕らを強くさせたこと、後悔させてあげよう。」
蘭 「だな。」
凛 「...行くぞ。」
僕は戻ってきた坂井先輩に手を引かれてその場を離れた。
坂井先輩は泣きながら走っていて、僕らは何度か休みを取りながら、村の外れにあったある一軒家に辿り着いた。
壮馬 「はぁはぁ...ここか。」
薫 「...間違いなさそうだよ。」
坂井先輩がある封筒を持っていて住所を確認し、板橋先輩は表札の苗字を見ていた。
坂井先輩が玄関の引き戸に手を掛けると急に戸が開いてお婆さんが出てきた。
壮馬 「あっ...」
お婆さん 「...いらっしゃい。どうぞ。」
お婆さんはそれだけ言って、僕らを部屋に招き入れてくれ、僕らはそこで生活をすることになった。
僕は、先輩方の目を潜り抜けて、橘先輩たちと別れたあの場所を目指した。
夕方に何とかあの場所に辿り着くと、そこには茜坂の兵士がたくさん倒れていた。
湊 「...」
僕は頭の整理が追いつかないまま、目では先輩方を探していた。
壮馬 「っ...鳴瀬?」
振り向くと坂井先輩が座っていて、その腕の中には橘先輩が居た。
湊 「っ...」
僕が近づくと坂井先輩は僕を怒らずに橘先輩を抱き起こした。
湊 「...」
壮馬 「...顔をね、きれいに拭いてあげてくれるか?」
坂井先輩は懐から布を取り出し、僕はその布を受け取って震える手で橘先輩の頬を拭いた。
坂井先輩は泣いていて、僕が顔を拭き終わった後も橘先輩の怪我の手当てをしたり泥を払ったりしていた。
そして、少しずつ第二級人員と第三級人員が集まった。
薫 「...壮馬。」
壮馬 「...遅かった。遅かったよ...」
板橋先輩は涙を流しながらも坂井先輩の頭に手を置いた。
壮馬 「...さっきまで息はあったんだ。僕の顔見て笑って...それで...」
薫 「...安心したんだよ。きっと、全員を看取って力尽きたんだ。他の先輩方は顔が皆、きれいだった。壮馬のおかげで橘先輩も一人じゃなかった。」
壮馬 「...っ...うぅ...」
坂井先輩は橘先輩を抱きしめながらずっと泣いていた。
そして、橘先輩たちの顔や体を綺麗にして、全員を並んで寝かせて坂井先輩たちは布を掛けて花を供えた。
壮馬 「...全員、送り届けましたよ。先輩方。」
その日は第二級人員と第三級人員で夜が更けるまで泣いた。
あれから数年が経ち、僕らはそれぞれの道を生きるようになった。
茜坂のことは外の世界でも大きな噂になっていたけど、時間が経つにつれてそんな噂も気づけば消えていた。
第二級人員を始め、ほとんどが家を出て行き、年に数回家に集まるだけになった。
僕は今でもあの家で暮らしていて、坂井先輩とお婆さんの介護や庭の畑の世話をしながら生活している。
お婆さんの肩を叩きながら庭を見ると坂井先輩は花壇に水をやっていて花が綺麗に咲き誇っていた。
それぞれがそれぞれの美しさを持って。
壮馬 「鳴瀬。そろそろ出掛けようか。」
湊 「はい。僕ら、少し出掛けてきます。」
お婆さん 「あぁ。よろしく頼むよ。」
壮馬 「はい。」
僕らが花を持って橘先輩たちの元に行くと板橋先輩や優君たちも来ていた。
優 「あっ、湊!」
湊 「久しぶり。」
界 「久しぶりだな。」
薫 「元気だったか?」
湊 「はい。」
薫 「良かった。壮馬は?」
壮馬 「元気だよ。」
橘先輩たちのお墓には今でも頻繁に僕らが足を運んでるため、いつも綺麗な花が供えられていた。
壮馬 「...」
薫 「...やっぱり笑顔?」
橘先輩のお墓の前で立っていた坂井先輩の顔を覗き込むように板橋先輩は聞いた。
壮馬 「...えっ?」
薫 「そろそろ良いだろ。話してくれても。橘先輩のこと、好きだったんだろ?」
壮馬 「っ...それは...」
薫 「ふっ、赤くなった。」
湊 「ふふ。分かりやすい人ですね。」
壮馬 「なっ、鳴瀬まで...」
界 「で、どうなんですか?」
壮馬 「...す、好きだよ。今でも。」
優 「ふふ。喜んでますよ。橘先輩。」
壮馬 「そ、そうかな...」
薫 「あぁ。きっと笑顔になってる。」
壮馬 「...そうだと良いな。」




