19
早坂先輩たちは近衛先輩の声で取っ組み合いを止めて起き上がろうとして僕に気づいた。
莉央 「...鳴瀬?」
藍 「お前、いつから...」
壮馬 「す、すみません。橘先輩と三人で話をしていまして...」
柚月 「あー...そう...」
壮馬 「な、鳴瀬。部屋を出よう。し、失礼しました。」
僕は坂井先輩に手を引かれて部屋を出た。
坂井先輩は隣の部屋に僕の手を引きながら入り、壁に耳を当てた。
莉央 「びっくりした...」
藍 「今の話、鳴瀬は意味が分からないはずだ。大丈夫だろ。」
唯 「...なぁ。」
藍 「何だ?」
唯 「...浅沼さんは俺らを小さい頃から見てくれていた。それも信じちゃいけないのか?」
藍 「...俺らが何も疑わずに罠に嵌ったら終わりなんだよ。俺らが最後の砦でなくちゃいけない。全員を守るためには俺らが崩れたら駄目なんだよ。」
莉央 「...身内だと思っている人間も完全には信じるなということか。」
藍 「...あぁ。俺らにはそれも必要だよ。」
莉央 「...俺らは止めような。その...裏切りとか...」
柚月 「...僕らは大丈夫だよ。僕らはここに来たときから一心同体だよ。」
藍 「あぁ。俺らはどんな決断をしても一つで居よう。」
唯 「...あぁ。」
莉央 「...ありがとう。」
坂井先輩は黙って立ち上がり、僕の手を引いて食堂に向かった。
食堂はもう灯りが消えていて坂井先輩は灯りをつけて食器を洗い始めた。
壮馬 「...鳴瀬。食器、拭いてくれる?」
湊 「は、はい。」
坂井先輩は食器を洗いながら何度も手が止まった。
壮馬 「...」
湊 「...さ、坂井先輩。」
壮馬 「っ、何?」
湊 「...橘先輩はどんな夢を見ていたんですか?」
壮馬 「...そうだなぁ...どんな夢だろうね。」
湊 「...分かってるんですよね?坂井先輩も何度も見るって言ってました。隠さないで教えてくれませんか?」
壮馬 「...戦争の夢だとは思うよ。」
湊 「っ、戦争の...」
壮馬 「...自分たちが関わった兵器のせいで人が亡くなる夢だよ。でも、その被害規模になるか、どれだけの人を傷つけるかはその人による。俺も何度もそういう夢を見た経験はあるけど、あれだけ責任を感じている橘先輩であれば俺らには想像できないくらいの夢を見ていると思う...」
湊 「...橘先輩、泣いてましたね。」
壮馬 「...それくらい恐ろしい夢を見て、自分を責めているんだと思う。救ってあげられるなら救ってあげたいよ...」
湊 「...」
壮馬 「...これからどうなるんだろうね。僕ら。」
湊 「...あの、ここから出るという話があるのは本当ですか?」
壮馬 「っ...何だ、知ってたんだ。」
湊 「...本当なんですね。」
壮馬 「...まだ決まってないけどね。ただ、先輩方が何度かその話をしていた。さっきのもその話だよ。」
湊 「...」
壮馬 「...この話を知ってる人はそんなに居ない。それでも、賛成派と反対派で分かれてる。鳴瀬はどう思う?」
湊 「...分からないです。でも、今日の橘先輩を見ていて、橘先輩を助けたいと思いました。」
壮馬 「...そっか。」
湊 「...助けられる方法はここを出るしかないんでしょうか。」
壮馬 「...今のところ考えられるのは...そうだね、それしかないと思う。」
湊 「...」
数日後、橘先輩が復帰し、朝礼をして鍛錬をしているときだった。
僕らが剣術の練習をしていて、突然、銃声が鳴り響いた。
他の子どもの悲鳴が聞こえ、何が起きたのか分からず人が集まって行く方を見ると橘先輩が腕を押さえて倒れ込み、その腕からは血が流れていた。
林 「っ、橘!」
指導に当たっていた浅沼さんが銃声の方に走り、一人の男の人が複数人の大人に押さえ込まれていた。
浅沼 「何をしてる!」
その男の方を見ると男は泣いていて橘先輩を睨んでいるようだった。
男 「あいつが...あいつのせいで兄貴は死んだんだ!」
浅沼 「っ、何を...」
男 「あんなやつが居なければ...」
浅沼 「...黙れ。黙れ!」
浅沼さんが男を斬ろうとすると橘先輩が止めた。
凛 「待ってください...」
橘先輩の元には瀬良さんも到着し応急手当てをしようとすると橘先輩はそれを止めて立ち上がり、捕まった男の人の方へ歩いた。
凛 「...」
浅沼 「...凛?」
凛 「...私のせいというのは...」
男 「お前が作った兵器のせいで味方である兄貴も死んだんだ!お前を殺すために俺は茜坂に入った。」
凛 「...」
浅沼 「凛。こんな話、でたらめだ。凛が関わった兵器かなんて分かるわけがない。」
男 「...兄貴はお前のことを褒めていた。小さい頃から国の役に立てるお前を羨ましがっていたくらいだ。だから、お前の作った兵器で戦えることに誇りを持っていた。それなのに...」
凛 「...」
橘先輩は俯いて背中を震わしていて泣いているのが分かった。
教官が橘先輩の元に行き、橘先輩の背中に手を当てた。
林 「...浅沼。こいつを殺せ。」
浅沼 「っ、はい。」
浅沼さんが再度男を斬ろうとすると、橘先輩は浅沼さんの前に立って男を守ろうとしていた。
浅沼 「...橘。どうして...」
林 「...こいつは、お前を殺そうとしたんだぞ。その目的のために茜坂に来た。」




