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蘭 「...」
林 「...蘭。お前はその高熱で記憶を失っていた。家族のことも思い出せば向き合う気でいたがお前は思い出さなかった。蘭が大きくなる度に話すことができなくなった。気が引けてしまってな。話すのが遅くなって申し訳ない。」
蘭 「...いえ。茜坂に連れて来てもらえなければどうなっていたか分からない。凛たちにも会えませんでした。感謝しています。」
林 「...凛はお前たちといるとどうだ?何か違うか?」
蘭 「そりゃ違います。でも、俺らの前であっても自分が崩れてはいけないという使命感を抱えているように感じます。」
林 「...そうか。」
蘭 「...凛は強くありたいのかもしれません。けれど、それでは凛が耐え切れません。浅沼さんや教官を頼りにしています。今のように弱っているときこそ、傍に居てあげてください。」
林 「...あぁ、考えておく。じゃあ、また。」
扉が開く音が聞こえると、水瀬先輩は教官を引き留めた。
蘭 「...教官。」
林 「何だ?」
蘭 「...凛の両親が凛を売ったという話、本当なんですか?」
林 「っ...なぜ?」
蘭 「...凛を見ていて疑問に感じたんです。正義感や優しさを持っている凛の親が本当にそういう人なのかどうか。」
林 「...」
蘭 「...茜坂に来てから、凛にその話をする大人はたくさん居ました。何か、それを凛に言うようにと命令されているかのように事あるごとに凛に言っていた。けれど、あなたと浅沼さんだけは言っていませんでした。そう記憶しています。」
林 「...お前のその記憶力は本当に驚かされる。」
蘭 「...一種の洗脳のように見えました。凛の両親は凛を捨てた。凛を金で売ったから、お前は茜坂のために身を粉にして働けと。そう洗脳しようとしているかのように見えました。」
林 「...」
蘭 「...もし、そうじゃない真実があるのならば凛にあなたの口から話してください。何も知らずにいるのはかわいそうです。」
林 「...分かった。折を見て話す。話したいことは以上か?」
蘭 「はい。ありがとうございました。」
林 「...こちらこそ。」
扉が開いて閉まる音がして早坂先輩はその場に座り込んだ。
莉央 「...」
そして、水瀬先輩も部屋を出て行った音が聞こえ、早坂先輩は僕の手を引いて僕のことも座らせた。
莉央 「...何で聞いてた?」
湊 「...通り掛かって部室の灯りがついていたので気になって。」
莉央 「...そうか。」
湊 「...早坂先輩はどうしてですか?」
莉央 「...最近、蘭の様子が何となく気になっててさ。蘭の親のこと、やっぱ気にしてたんだな。」
湊 「...」
莉央 「...俺らももう十五だし、覚悟を決めるべきときなのかもな。」
湊 「...覚悟ですか?」
莉央 「...あぁ。」
早坂先輩に部屋に送ってもらうと優君が布団に入って本を読んでいた。
優 「おかえり。遅かったね。」
湊 「う、うん。界君は?」
優 「今夜は、愁たちと怪談話大会をするんだってさ。」
湊 「そ、そう。優君は?」
優 「僕はね...」
優君は本を閉じて僕を見た。
優 「湊と話をしたかった。」
湊 「えっ?」
優 「...何だか僕に遠慮しているように感じて。僕、何かしたかな?」
僕は自分の布団の上に座った。
湊 「...」
優 「...僕の勘違いなら謝るけど、前に橘先輩と三人で話したときからだよね。」
湊 「...優君、ごめんなさい。僕、勘違いしてた。」
優 「勘違い?」
湊 「...その...えっと...」
優 「...良いよ。本音で話して。」
湊 「っ...優君が元気が無かった理由、橘先輩に庇ってもらって怪我をさせてしまったからだと思ってた。ただ、申し訳なさに負けそうで元気がないのかと思っちゃって...」
優 「...あぁ、僕が橘先輩に話したこと?」
湊 「...うん。橘先輩を守りたいなんて僕は思ったことなかった。あんなに強くて何も敵わない相手を守りたいだなんて思ったことなくて...優君がそう思ってるなんて考えもしないで優君の気持ちを間違って橘先輩に話してしまうところだった...」
優 「...それを気にして、僕に遠慮してたの?」
湊 「...なかなか言い出せなくて...」
優 「...何だ。そんなことか。」
湊 「...ごめん...」
優 「...ううん。どっちも間違いじゃない。湊の言うとおり、申し訳なさもあったよ。最初は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。でも、橘先輩を守りたいと思っていることも本当の気持ち。ただそれだけだよ。僕が湊に自分の気持ちを言わせるような状況にしてしまったのが悪いよ。だから、そんなこと気にしないで。」
湊 「...ありがとう。」
優 「ううん。湊が気にしていることはそれだけ?他にもある?」
湊 「...ううん。大丈夫。」
優 「...ふっ、湊、ここに来てから嘘が下手になったね。何か心配ごとでもあるんでしょ?」
湊 「っ...嘘が下手になった?」
優 「うん。分かりやすくなったね。良いことだよ、その方が人間らしい。」
湊 「...」
優 「それで、何を心配しているの?」
湊 「...あのさ、覚悟って何かな...」
優 「...覚悟?」




