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柚月 「凛?凛!」
皆が橘先輩の元に行くと橘先輩は顔色が悪く、力が入らないようだった。
凛 「...はぁはぁ...っはぁはぁ...」
蘭 「...誰か、教官を呼んでくれ。」
凛 「...いい...呼ぶな...」
莉央 「で、でも、こんな状況じゃ...」
壮馬 「...瀬良さんを呼びます。」
坂井先輩が走って出て行くと橘先輩は意識を手放し、近衛先輩が抱き上げた。
次の日、橘先輩は朝礼に現れなかった。
林 「点呼。」
蘭 「第一級人員、橘以外全員居ます。第二級人員。」
壮馬 「全員居ます。」
朝礼が終わり、食堂に向かうと瀬良さんが居た。
瀬良 「あっ、おはよう。」
湊 「おはようございます。橘先輩、どうですか?」
瀬良 「眠ってるわ。今日は一日休ませて様子を見てみる。」
湊 「そうですね。疲れが溜まってると思うので休ませてあげてください。」
瀬良 「...えぇ。」
その夜、第一級人員の部屋の花瓶の花を取り替えに向かうと教官と瀬良さんの声が聞こえた。
林 「...進行しているか?」
瀬良 「...はい。昨日から目も覚ましていなくて...」
林 「...」
瀬良 「...薬も足りてません。橘さんの容態が落ち着いたら町に薬を取りに戻っても良いですか?」
林 「...あぁ、考えておく。橘本人に話は?」
瀬良 「...まだ、これと言って話していませんが、橘さんなら自分の状況も理解しているんじゃないでしょうか。」
林 「...」
すると教官が急に部屋を出てきて、僕が持っていた花が潰れた。
林 「...聞いていたのか?」
湊 「い、いえ。今来たところです...」
教官の低い声に怖くなって咄嗟に嘘を吐いた。
林 「...そうか。」
教官が行くと僕は落ちた花びらを拾い、部屋から遠ざかるように歩いた。
部室の方に歩くと管理部の部室から灯りが漏れていて僕は部屋を覗いた。
中には教官と水瀬先輩が居た。
林 「それで、私に話とは?」
蘭 「...前に約束しましたよね。なぜ、私がここへ来たのか。十五になったら話をしてくれると。この前、十五になりました。聞かせてくれませんか?」
林 「...この話はお前にとっても辛い話だ。それでも聞くか?」
蘭 「...はい。お願いします。」
林 「...お前のことは上からの命令で茜坂に連れて来たわけではない。茜坂では橘を育てることに集中するよう命じられていて子どもを迎え入れるのはまだ先の予定だった。だが、浅沼と町に行ったときに身体中に痣や怪我の跡を負っている子どもがいた。早く手当しなければ危険な状況でその子どもは町で小さな魚を売っていた。ただ、食べられるような魚はなく、売れる見込みもなかった。浅沼がその魚を全部買おうとしたらその子どもは倒れて高熱を出していた。私はその子どもをおんぶして、浅沼とその子どもの家を探した。」
蘭 「...その子どもが私なんですね...」
林 「...あぁ。何とか家を見つけ、我々の話をしたら茜坂で引き取って欲しいと頼まれた。金も何も要らないから子どもを引き取ってくれと。我々も命じられたわけでもない子どもを連れて帰るのは怒られる可能性もあるから何度も断ったんだが断固として引き取る気はないと言われてな。」
蘭 「...捨てられたんですね。私は。」
林 「...あの家では食事も服もとても買えるような経済状況じゃない。子どもを育てる余裕なんてなかった。」
蘭 「...傷つけられていたんですよね、親に。それは経済状況とか関係ないんじゃないですか?」
林 「...後から分かったことなんだがお前の家は借金をしていて、その取り立て屋に子どもをも傷つけられていたんだ。」
蘭 「...」
林 「...小さかったしこれから鍛えれば凛の傍で置いてもらえるかもしれない。そう思って私たちはお前を茜坂に連れて帰った。」
蘭 「...あの日、教官は俺にお前の親は生きていて良かったなって言いました。あれは誰と比較して話していたんですか?」
林 「...よく覚えてるな。それは言えないが、水瀬の親はお前のためにお前を手離した。決してお前を私利私欲のために捨てたんじゃない。」
蘭 「...そうでしたか。」
林 「あぁ。でも、第一級人員で居られるのも、橘たちに遅れを取らず仕事が出来ているのも水瀬が努力しているからだ。それは認めている。」
蘭 「っ...あなたが褒めるなんて珍しいですね。」
林 「...この話をするときに、言おうと思っていただけだ。これで満足か?」
蘭 「...最後に。教官は私たちがどんな選択をするべきだと思いますか?」
林 「...それはお前たちが自分たちで決めるべきことだ。」
蘭 「...どんな末路を辿ろうと、ですか?」
林 「...自分たちが納得できる選択をすれば良い。」
蘭 「...」
林 「水瀬は何か迷っているのか?」
蘭 「...いえ。今日の話を聞いて覚悟はできました。自分のため、友人のため、後輩のために動きます。」
林 「...」
蘭 「...教官は後悔していませんか?私を連れて来たこと。」
林 「...してない。したことない。何度も上に頭を下げたことも後悔していない。」
蘭 「...」
林 「水瀬を連れて来て良かったと思ってる。今も昔も。」
蘭 「...ありがとうございます。」
林 「...もう十五か。そんなに時間が経ったか。」
蘭 「...凛の親代わりになってから十五年ですね。」
林 「...あぁ。早いな。」
教官が部室から出て来て、僕は人事部の部室に隠れて教官が行くのを待った。




