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幕間ー7

 1916年1月の日本国内の状況です。

 大庭柯公は、東京朝日新聞の自分に与えらえれた机に脚を投げ出して、手に入った各新聞を読み比べていた。

 自分では無意識の内に鼻を鳴らしている。

 大庭にとって、今年の正月は気に食わない状況だった。

 第一次世界大戦で表向きは日本国内は好景気に沸いている。

 そして、日本の海兵隊と海軍航空隊は欧州に派遣されて戦果を挙げている。


「我が勇敢なる海兵隊の将兵は、ガリポリ半島でその任務を遂行して大勝利を収め、南フランスへと堂々と転進。

 嘘はついていないのが、却って性質が悪いな」

 大庭は、手元の新聞の見出しの一つに難癖をつけた。


 大庭は新聞社に勤める者として、それなりの情報源を持っている。

 その情報をそれなりに流したいが、世論に受ける情報を流さないと新聞が売れないというのも、また真実だった。


 ガリポリ半島に赴いた海兵隊が実際には疫病に苦しみ、昨年の10月にはガリポリ半島からの撤退を策していたのを、大庭は知っている。

 昨年8月に林忠崇元帥が指揮を執ってスヴラ湾上陸作戦を敢行して英仏日連合軍に大勝利をもたらしていたために、英仏日連合軍は面目を保った状態で、ガリポリ半島から撤退できた。

 そして、英仏は更に欧州にいる日本軍のために兵器等の供給に気を配ってくれるようになった。

 本来は喜ぶべきことだ。だが、それによって日本はますます欧州から軍隊が撤退できなくなりつつある。


 大庭としては、直接、日本に利益の無い欧州から日本軍は撤退すべきだと言いたかった。

 だが、現状で日本軍が欧州から撤退することは、日本が独墺等と単独講和することとほぼ同義だった。

 そうなると山東半島や独南洋諸島の利権を日本は放棄することになるだろうし、賠償金も得られないだろう。


 そんなことを東京朝日新聞の紙面で主張したら、読者が憤激するのが目に見えている。

 大庭としては、不本意ながら、欧州への日本軍の派遣を支持する意見を紙面で展開せざるを得なかった。

 大庭は手元の他の新聞記事を読むうちに、ある記事に目をとめた。


「欧州に派遣された将兵の内1000名近くの遺骨や遺品が地中海の海に眠っている。

 日本海軍の艦隊が護衛にあたっていれば、これらの遺骨や遺品は日本に帰れたのではないか」

 その記事の見出しはそうなっていた。


 日本海軍は海兵隊と海軍航空隊を欧州に派遣しているが、艦隊は派遣していない。

 なぜなら、英仏共に戦艦の数には不足をきたしていない。

 日本から戦艦を派遣する理由は全くなかった。

 むしろ、潜水艦対策のために駆逐艦の派遣を英仏は希望していたが、日本の駆逐艦の現状はお寒いモノがあった。


 インド洋を乗り越えられるほど航洋性能の優れた駆逐艦を当時の日本はほとんど保有していなかったのだ。

 海軍に詳しい新聞記者なら誰でも承知していることだが、わざわざ書くということは。

 大庭は頭の中を回転させた。


「おそらく立憲同志会が書かせているな」

 大庭は呟いた。

 山本権兵衛内閣が安泰なのは、政友会が準与党として衆議院の絶対多数を握っていることが大きい。

 立憲同志会は野党として山本内閣批判の糸口とするために、こんな記事を書かせたに違いない。


「この新聞記事をネタに山本内閣を叩くか。

 嘘は書いていないだけに性質が悪いな。

 東京朝日新聞としてもこの記事を批判できん。

 まともな駆逐艦を作っていない海軍が悪いのは事実だからな」


 だが、と大庭は更に考えを進めた。

 今、日本は好景気に沸いているが、裏では下層民の貧困が深刻化している。

 貧困層は政府批判となるとすぐ尻馬に乗りたがる。

 貧困層を中心に世論が暴走して艦隊派遣まで行くかもしれん。

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