第2章ー17
日本海兵隊のスブラ湾上陸作戦直前の作戦会議です
「吉松中将は、どう見る」
林忠崇元帥は、吉松茂太郎第2海兵師団長に問いかけた。
海軍航空隊の偵察結果について、海兵隊は林総司令官と各海兵師団長、黒井悌次郎参謀長の4人が集まって協議していた。
「トルコ軍は動いていませんな。
スヴラ湾上陸を警戒していないのでしょうか」
吉松中将は首を傾げた。
「動きたくとも動けないのだ」
林中将は人の悪い笑みを浮かべた。
「トルコ軍の戦意は基本的に低い。
それを塹壕線で補い、英仏軍に抗戦している。
だから、いつ上陸作戦が始まるか、警戒しないといけなくなると、トルコ軍の兵は移動をためらうようになる。
移動中や塹壕線を築く前等に敵兵に襲われたくないからな」
「なるほど」
柴五郎第1海兵師団長は、得心したような声を挙げた。
「そして、派手な偵察活動を始めることで、近いうちに大規模な作戦が行われるという緊張感を持たせる。
だが、そもそもが戦意が低い部隊だ。
緊張感が長くは続かない。
時間が経つと却って弛緩してしまう」
林元帥は更に説明した。
周囲の面々も肯いた。
「スヴラ湾の防衛体制はどのように評価する」
林元帥の問いに柴中将は答えた。
「おそらく直接防衛に当たっているのは、2個大隊規模、多く見積もっても1個連隊に満たないと私は見積もります」
「私も同感です。
鉄条網も充分には張られていません。
我が2個師団が上陸後に急進すれば、スヴラ湾のトルコ軍の防衛線は総崩れになってもおかしくありません」
黒井少将は発言した。
吉松中将も肯きはしたが、渋い顔をしながら、口を挟んだ。
「しかし、急進するとなると砲兵の支援ができません。
砲兵の上陸を行い、砲兵の支援を可能にした上で、海兵を前進させたいものですが」
吉松中将は、実際の戦場経験が無い。
日清・日露戦争では東京で後方勤務にしか当たっていない。
砲兵の支援が無いことに吉松中将はどうにも不安を覚えて仕方なかった。
「砲兵以外の火力支援があっても不安か」
林元帥は言った。
他の3人は顔を見合わせた。
「どういう方法があるというのです」
黒井少将が3人を代表して質問した。
「航空機から爆弾を降らせてはどうかな」
林元帥の返答に、他の3人は更に驚愕した。
「しかし、航空機には無線機がありません。
我々が爆弾を降らせて欲しい場所を航空機に指示して、そこに爆弾を降らせる。
それは不可能な話では」
柴中将が言った。
「予め時間と場所を我々が海軍航空隊に指示して、その予定に合わせて海軍航空隊は爆弾を降らせてくれればよい。
発想を変えるのだ」
林元帥は平然と言った。
3人は思いもよらない解決法に沈黙して考え込んだ。
「航空機1機に500ポンド爆弾1発が積める。
30機全機に爆弾を積んで、一時に爆弾を降らせれば、1万5000ポンド、キログラムにすれば約6700キロだ。
75mm野砲弾約1000発がトルコ軍に浴びせられることにならないか。
それに心理的影響は絶大なものになるぞ。
何しろお前たちでさえ、航空機の爆撃と言う発想に驚くくらいだ。
トルコ軍が予想していると思うか。
予想外の攻撃を受けて、戦意の低いトルコ軍が戦線を維持できると思うか」
林元帥は言葉をつないだ。
他の3人は考えた。
確かにそうだ、30機全機で時間と場所を予定して爆弾を一時に降らせる。
しかも上陸作戦と連動して行う。
トルコ軍が予想して対応できるはずがない。
「ああ、それから言っておく。
これは1度きりの方法だ。
2匹目のどじょうは狙わん。
最初だから効くだけと思え、いいな」
林元帥は釘を刺すのも忘れなかった。
2回目以降は敵も対応策を練るだろう。
「分かりました。準備を始めます」
黒井少将が言った。
柴中将も吉松中将も肯いた。
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