第1章ー16
海戦の状況とアジアの戦況、海兵隊の派兵準備です
山本首相の発言を受けて、伊集院軍令部長は説明を始めた。
「欧州ではドイツ艦隊は、あたかも日露戦争時の旅順艦隊のように港に引き籠っているとのことです。英仏両海軍は手ぐすね引いてドイツ艦隊が出撃してくるのを待っているとのことですが、英仏側もドイツの港のすぐ傍まで出撃してドイツ海軍を封鎖するわけには行かず、睨み合いになっています。その一方でドイツ東洋艦隊は姿を消しています。おそらく日本の参戦を必至と考え、南洋諸島の独領のどこかへ移動したのでしょう。海軍軍令部は総力を挙げてその捕捉撃滅に努めます」
伊集院軍令部長は断言した。
「そういえば、青島要塞への攻撃はどうなっている」
山本首相は長谷川参謀総長に話を戻した。
「9月1日に龍口湾に先遣隊を上陸させました。青島要塞攻略は第18師団を主力とし、各種重砲部隊等を加えて行う予定です」
それを聞いた牧野外相が口を挟んだ。
「その話を受けて、韓国が正式に対独宣戦布告を行い、1個旅団を青島要塞攻略に協力させたい旨の打診がありました。どうしたものでしょうか」
「ありがたい話だが、気持ちだけ受けておけ。ただでさえイギリス軍も加わる予定なのに韓国軍まで加わっては指揮系統が複雑になる」
長谷川参謀総長が半ば放言した。
他の面々も複雑な表情を浮かべる。
韓国が参戦するのは、国内の混乱を鎮めるためだ。
1個旅団を派遣すると言っても今から準備に取り掛かっては到着するのは10月以降になり、青島要塞攻防戦は峠を越えた後になるだろう。
あまり意味がない。
「海兵隊の派兵準備はどうか」
山本首相は林元帥に確認した。
「小銃と弾薬だけ持っていくので、気楽なものです」
林元帥はわざと明るく言った。
大変そうな素振りを示すと、やはり欧州派兵は止めた方がいいと言われかねない。
陸軍の2人と伊集院軍令部長はそう言いたそうな素振りを早速、示している。
林は内心で思った。
海兵隊が行くことで、陸軍や海軍本体も追加派遣せねばならなくなるのを警戒しているな。
実際に、わしや山本首相がそれを策しているのだからお互い様だが、それでも言うべきことは言っておかねばならん。
「それにしても、欧州では戦場で大量の死傷者を続出させています。海兵隊としては、海兵8個連隊を基幹とする2個師団を編制して欧州に赴く予定ですが、予備の海兵連隊4個を追加編制して補充等に当たらせる必要があるかと思いますが」
林元帥が発言すると、すぐに斎藤海相が援護に回った。
「確かにその必要がありそうですな。予算等の手当てを海軍の予備費用から行いましょう。足りない分は臨時予算編成を行う必要があるでしょう」
それを見た長谷川参謀総長は思った。
茶番を見せおって、臨時予算問題で陸軍2個師団増設を遅らせるつもりだな。
だが、反対するなら陸軍も欧州派兵に協力してほしいと言われかねん。
山県有朋元帥から、陸軍の欧州派兵は断固反対だと内命を受けているし、わし自身も欧州派兵には反対だ、沈黙するしかない。
牧野外相がそれを見て言った。
「英仏双方から、日本の欧州派兵に感謝するとの謝辞が届いています。その返礼として、今回の海兵隊の武器の代金は英仏が持つとのことです。弾薬代もある程度は持ちましょうと言っております」
「それはありがたい」
林元帥と斎藤海相は声を揃えて言った。
これで予算問題は低減できる。
長谷川参謀総長は表情に出ないように注意を払ったが、内心はますます不機嫌になった。
海兵隊が焼け太りしていくのが目に見えている。
陸軍師団を圧倒する火力を持つ海兵師団ができかねん。
「準備が整っているようですな」
山本首相は満足そうだった。
長くなったので分けます。
次で終わらせます。
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