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第4章ー15

 11月20日頃、カポレット=チロルの戦いは事実上終結した。伊軍の損害は概数で死者1万人、負傷者3万人、捕虜が30万人で、しかも捕虜になった中で無傷で投降した兵が29万人近くに達し、独軍の公式報告書にまで伊軍の捕虜を食わせるためにピアヴェ川を渡れなかったと書かれる醜態をさらした。伊軍の火砲もこの戦いの結果、約3000門が失われている。一方、独墺軍の損害はイストリア方面で約3.5万人、チロル方面で約2.5万人で合計約6万人が死傷した。日本軍の損害は死傷者約1.5万人、更に反撃によりトレント市街を望める地点まで逆に進撃しており、林忠崇元帥は日本軍については勝利を宣言した。それに対して、独墺軍はチロル方面では牽制攻撃を行ったのみで、物資欠乏によりやむなく退却しただけだと主張した(実は独墺軍の事前計画や当初の戦闘ではチロル方面こそ主攻であったことが周知判明するのは、20世紀末になってのことになる。)。


 カポレット=チロルの伊軍の大敗により、伊では政軍のそれぞれのトップ、首相、軍総司令官が共に辞任する羽目になった。このことから、日本軍が伊政府、軍に逆恨みされているのを見た英仏政府、軍は、再編制の必要もあることから、日本軍を伊から全面的に引き上げさせ、南仏に移動させることにした。その代りに英仏から各3個師団、合計6個師団が伊に派遣されることになった。林元帥以下の日本欧州派遣軍総司令部の面々は内心で英仏のこの決定を歓呼した。


 12月下旬、日本軍のほとんどは既に伊を離れ南仏へと移動を完了していた。日本欧州派遣軍総司令部は最後に伊を離れることになっており、ようやくヴェネチアから出発することができたが、鉄道で移動する途中で思わぬ歓待を受けることになった。


 パドヴァ市街に日本欧州派遣軍総司令部が乗った特別列車が近づいたところで、いきなり列車が停止させられた。何事か、と日本欧州派遣軍総司令部の面々の多くが驚いたが、すぐに安堵した。停止させられた列車に英仏両軍の高級士官が乗車してきて、式典をパドヴァで行いたいと言ってきたからである。林元帥は喜んでそれを受けた。乗馬してパドヴァ市街に入られたいのでしたら、といって白馬まで英仏両軍は準備してくれていた。


「林元帥に捧げ銃」英仏両軍の指揮官の号令がかかった。パドヴァの街に白馬に乗った林元帥を先頭に日本欧州派遣軍司令部の面々は入城した。道路の両脇を英仏両軍の将兵が固めており、捧げ銃で皆、敬意を表している。案内の兵に従って、英仏連合軍司令部まで林元帥たちは赴いた。英仏連合軍の総司令官を務める仏軍の将軍は敬礼して、林元帥たちを出迎えた。


「丁寧な歓迎、痛み入る。まるで凱旋将軍として出迎えられているようだ」林元帥は答礼しながら言った。

「伊への対応にさぞ苦労されたでしょう。どうか日本の皆様は、心ゆくまで南仏で休養、再編制されてください」仏軍の将軍は敬礼しながら言った後に続けた。

「自分はここに残るのが正直に言うと無念です。林元帥の命令でなら、私も含めて仏軍の将兵は喜んで突撃するでしょうに。野戦でしかも山岳地帯で、海兵隊で独陸軍に勝つとは、本当に皆、敬服しております」

「そこまで言ってくれてありがたい。それにしても、ここは伊陸軍総司令部も置かれていたはずだが」

「伊防衛のために奮戦した日本軍を追い出そうとする伊への英仏共同での面当てです。これくらいでちょうどいい」仏軍の将軍は言った後で笑った。林元帥たちもつられて笑った。



第4章の終わりです。後、エピローグを5話入れて、完結させます。

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