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第4章ー9

 日本の欧州派遣軍総司令部は、独自に独墺軍のイタリア戦線の反攻の可能性について情報収集に努めた。再編制が成った陸海軍航空隊を投入した航空偵察。敵軍の無線通信の傍聴、英仏からの情報交換、民間の物資の移動情報等々、欠片のような情報でも集めていけば膨大なものになり、少しずつ見えるようになってくるものがある。その情報は予想外の動きを示していた。


「チロル方面とイストリア方面と両方で動きがみられるだと」10月半ばに総司令官の林忠崇元帥は、参謀次長の吉松茂太郎中将が取りまとめた情勢分析報告書の内容に驚いていた。

「イタリア戦線で反攻を行うにしても、チロル方面か、イストリア方面かどちらかでのみ反攻を行うと考えていたのだが、両面攻勢を独墺に行う力があったのか。どちらかは欺瞞情報ではないのか」林元帥は吉松中将に質問した。開戦から3年が経つ。独墺は英仏の封鎖に苦しみ、国力が損耗しつつあった。そのような状況下で主戦線の西部戦線なら乾坤一擲の大攻勢を企む可能性があるが、支戦線のイタリア戦線で大攻勢を行うとは予想外だ。

「私もそう思いたいですが、虚心坦懐に情報分析を行う限りは、両面攻勢を独墺は策しているとしか」吉松中将は答えた。横にいた総参謀長の秋山好古大将が、吉松中将に口添えした。

「日露戦争の時の黒溝台の戦いの時を思い出しませんか。あの時、満州軍総司令部はこの厳冬期に露軍と言えど大攻勢を行うはずがないという先入観に捕らわれていて、私たちが得た大攻勢の事前情報を無視しました。我々は同じ誤りを犯そうとしているのではありませんか」

「うむ。児玉源太郎大将ですらあの時は誤ったからな」林元帥は、あの時を思い起こした。

「では両面攻勢を独墺は策していると考えて、伊陸軍総司令部に警報を発しよう。無視されたら、向こうが悪いということだ。大よそしか分からんと思うが、独墺軍の総兵力はどう概算している」

「イストリア方面に35個師団、チロル方面に5個師団、予備として2個師団と概算しています」

「こちらはイストリア方面に41個師団、チロル方面に日本海兵隊が3個師団、予備として7個師団、内日本海兵隊1個師団か」林元帥は最新の味方の総兵力を思い起こした。

「おい、予備の岸三郎少将の第4海兵師団をチロルに呼び寄せろ。こちらが主攻勢だ」

「分かりました」秋山大将以下、欧州派遣軍総司令部は動き出した。


 伊陸軍総司令部の動きは鈍かった。日本の欧州派遣軍総司令部の警報のみならず、イストリア方面の現地情報(中には自主的に墺軍から投降してきた捕虜からの情報提供まであった。)にまで、独墺軍の大反攻の危険性を警告されたにも関わらず、イストリア方面での限定攻勢を独墺軍が取る可能性はある。それも攻勢防御程度で大反攻を行うはずがない、と伊陸軍総司令部は主張した。戦後の伊軍公刊戦史は、その時の伊陸軍総司令部の情報判断を、日本軍に大攻勢の警報を先に出されたために、それは誤っているはず、という先入観によってなされたと指摘した。

 ともかく、現実は変えられない。予想以上の難路等に悩まされたために、10月22日に始められるはずの独墺軍の大攻勢は2日遅れて始めざるを得ない状況になってしまったが、10月24日朝、チロル、イストリア両面からの独墺軍の大攻勢は発動された。事前に警戒態勢を取っていた日本海兵隊は直ちに激しく迎撃し、陸海軍航空隊に出撃を要請した。一方、イストリア方面の伊軍は緩い警戒態勢のままだった。独墺軍の大攻勢は戦術的奇襲にこちらでは成功した。

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