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24. 魔王様、新勇者のようです

遅くなりました

そしてちょっぴりまじめ

 どこか鼻につく油と鉄の匂い。あちこちから聞こえる作業員たちと声と共に物資が運ばれていく。

 アズガード帝国第17機動艦隊旗艦≪エレパス≫。その格納庫で行われている作業をバル・ダトスは静かに見つめていた。


「首尾は?」

「問題ありません。予定の8割を完了。この調子なら定刻通り≪ゲート≫へ出発できますよ、提督」


 直ぐ後ろに控えていた副官であるドラ・ハーベスが手元の資料を確認しながら答えた。その答えにバルは小さく頷く。


「面倒な事だ。本国から離れれば離れる程こういう手間が増える」

「仕方ありません。DATEと言えど、やれることには限界はあります」

「次元活性変圧機関、略してDATEか。これのお蔭で我らアズガード帝国は覇道を進められるが何でも出来る魔法の道具ではないという事だな」


 空間そのものをエネルギーに変える。そんな馬鹿げた力を有していても、出来ない無い事はある。いくらエネルギーは無尽蔵でも弾薬、物資、それに兵士たちの食糧等。それらまで生み出せる訳ではないのだから。


「実はな、先ほど本国へ報告を行っていた」

「でしょうね。あちらと連絡が付くのは≪ゲート≫が起動している間だけでしょうし。それでどうでしたか? やはり叱責を?」

「逆だ。むしろ喜ばれたよ」


 バルの答えにドラの眉がぴくりと跳ねた。その顔には何故? と書かれている。


「将軍を始め、軍からは当然糾弾されたさ。未開の星相手に何を手古摺っているのかと。だが政治家や科学者連中は逆に喜んでいたよ。我が軍を圧倒するほどの特異種族の力に。先ほどお前はDATEにも限界があると言ったな? まさしくそうだ。DATEは万能ではない。まともに扱うには高度な知識と技術が必要だ。そして何よりも≪ゲート≫だ。あれの建造費用とその手間が我らの侵攻作戦に対して大きな壁となっている」

「仕方ありません。≪ゲート≫は本国と辺境を結ぶ星間圧縮航行装置ですよ? あれのおかげでこんな辺境でもそれなりの速さで物資の運搬が出来ますがその建造の際は大型DATEを積んだ戦艦そのものを繋ぎ合わせて超高出力のDATEとして運用する。そんな事をしてれば費用も手間もかかります。これでも昔よりは改善されていると聞きますが」

「まだ足りないという事だ。この宙域の≪ゲート≫が建造された際もまずは先発隊が長い時間を抱えてその材料となる戦艦を引き攣れて来なければならなかった。その航行の途中で故障や問題で≪ゲート≫建造に使えなくなった艦だってあったと聞く。それを見越して予備の艦船を含めての大所帯での長旅だ。だがその旅路の果て、せっかく建造しても碌な成果を上げられずに放棄された≪ゲート≫も存在する」

「知っています。だからこそ事前に探査機を先行させて、入念な調査の元に建造するのでしょう? それでこの話があの特異種族の力とどうつながるのですか?」

「簡単だ。その特異種族の力を利用してDATEをもっと効率よく、便利な物にできればと考えているのだ。ゆくゆくは≪ゲート≫に頼らずとも戦艦一つで同じことを出来るようにとな」


 なんともまあ、とドラが呆れた顔をする。バルも同意見だった。


「戦艦一つで、ですか。成程、それなら我が国の覇道も今とは比べ物にならないほど早まりますね。本当にそんな力が使えればですが」

「そこに関しては同感だな。だが使えないとも限らないしそれも事実だ。だからこそ本国の連中は期待している。あの星……フェル・キーガと言ったか。その星の連中の力を我がものにすることをな」


 そこまで言うとバルは再び物資の搬入を進める格納庫の様子に視線を向ける。大半は今回の補給物資の受け取り作業だが、中には逆にここから出発し≪ゲート≫を通り本国へ向かう物もある。その中の一つ、棺桶の様な形をしたカプセルを見やる。


「精々、本国にはこちらが得たデータとサンプルの解析を頑張って貰うとしよう。こちらには新型を寄越すそうだしな」

「新型ですか……今の話を聞いた後だと素直に喜べませんね。要するに『これを寄越すから早くしろ』ってことでしょう」


 バルが踵を返すとドラもそれに続きながら嘆息する。それからふと思い出した様に天を見上げた。


「そういば、その特異種族の男、勇者とか呼ばれている彼はそろそろ事を起こしている頃でしょうか」





 銀閃が舞う。その度に悲鳴が上がり、血しぶきが飛び交っていく。その中心に居る青年は感慨深げに周囲を見渡していた。


「話は聞いていたけど驚いたね。まさかこの空の果てでこんなに魔族と出会うなんて」


 感心しながらも、背後から襲いかかってきたオークの剣を聖剣≪無名の判定者≫で受け止め、返す刃でその首を刎ねる。再び血しぶきが舞い新生魔王城の通路を赤く染めていく。

 と、そんな彼の背中に声がかかった。


「もう、置いて行かないでよジェイル」

「ニーナ、ごめんね」


 彼の声をかけたのは金髪の少女、ニーナだ。煌びやかな金髪のショートカットが目立つ彼女は複雑な紋様が刻まれたロープと鳥を象った形状の先端部分に水晶を嵌めた杖を手にしている。彼女は周囲を見渡すと、『げ』と顔を顰めた。


「やだ、こんなに魔族が居るの? 気持ち悪い」

「全くだね。手早く済まそうか」

「うん!」


 血だまりの中で不自然な程平然な顔でジェイルは告げるが、ニーナが気にした様子は無い。杖を掲げると呪文を唱える。


「≪じゃれよ火蜥蜴≫」


 刹那、ニーナの杖から光が溢れそれが直ぐに炎へと変わる。その炎が通路を焼き払い倒れた魔族達の屍を燃やし尽くしていく。


「よし、オッケー」

「ありがとうニーナ。じゃあ先へ進もうか」

「うん! あ、だけどもし人間見つけたらどうする? この船の元々の搭乗員もいるかもしれないじゃない?」

「そうだね。そういう人たちは助けてあげるのもいいかもね。それで多少なりとあのアズガード帝国とやらに恩を売ってみようか」

「やだ、ジェイル意地悪そうな顔~」

「あはははは」


 まるでいちゃつく年頃のカップルの様な二人。だが離しながらも二人は炎の中を突き進み、襲い掛かってくる魔族達を容易く斬り伏せ、燃やし尽くしていく。豚面の巨体を持つオークも、小柄ながらも俊敏に動くゴブリンも、双頭の頭と蛇の尾をもつ狼オルトロスも、次々に襲い掛かるが、オークはその剣ごと切り裂かれ、ゴブリンは追尾する炎に焼かれ、オルトロスもまた聖剣によって細切れにされた。

 それらの動作を特に苦も無く行いならも、ニーナは拍子抜けした顔だ。


「なーんだ。こっちの魔王軍の魔族とやらもたいしたことないのね。魔王に着いてこんな所まで来るくらいだから相当な精鋭揃いだと思ったのに、フェル・キーガに居た連中と同じだわ」

「同感だね。どういう基準で選んだのかは知らないけどこの程度じゃ僕達の敵じゃない。この分だと魔王や四天王とやらも対したことないかもね」

「それは聞き捨てならないね?」


 不意に二人の会話に新たな声が混じる。警戒した二人が見据える前方、通路の角からゆっくりと声の主は現れた。


「この新生魔王城に搭乗する魔王軍。その人選はいたって簡単でね? 『来たい奴は来い』という事なのだよ。そうしたら多くの魔族がヒャッハーしながら何も考えずに飛び乗った結果がこれだよ」


 その声の主は半透明の緑色の物体だった。ぶよぶようねうねと動くその物体にニーナの顔が引きつる。


「何アレ……スライム? 気持ち悪い!」

「ははは失礼なお嬢さんだね。しかしその様子だと……成程、君たちが新しい勇者ご一行だね? いやはや、何とも幼い事で」

「はあ? 何言ってくれてんのよこのスライム! 良いわ、その気持ち悪い体をとっとと消し飛ばしてあげる!」


 幼い、と言う言葉にニーナが反応する。ニーナの年齢は17歳だがその身長は12,3の少女と同等であり、それを気にしていたのだ。なまじ、隣に立つジェイルが同年代にも関わらず平均より長身なのがそれに拍車をかけている。その怒りを晴らすべく、即座にスライムへと杖を向ける。


「≪じゃれよ――」

「っ、待て、ニーナ! 奴はただのスライムじゃない!」

「っえ?」

「少々遅いね?」


 一瞬だった。突然スライムが自ら弾け飛んだと思った瞬間、バラバラに弾け飛んだスライムが二人の体に付着する。


「きゃあああ何よコレ気持ち悪い!」

「っ、やはりこいつは―ー」


 突然の事で混乱するニーナと、何かに気づいたジェイル。その二人に先ほどの声が再び響く。


「敵の事すら勉強不足な新勇者殿一行へ自己紹介だ。我が名は魔王軍四天王が一人、魔霊将軍ネルソン。自爆と女子の服を溶かす事に至高の喜びを感じるスライムだよ」


 刹那、ジェイルとニーナに付着したネルソンの体の一部が一斉に爆発した。


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