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異世界物怪録  作者: 止まり木
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第四十六話 砦潜入

大変お待たせして申し訳ありません。

「ちょっと失礼するよ。サナリエンちゃん。アオキ、アザミおるか?」

 アオキとアザミに人族との交渉に随伴する事を伝える為に、マロ爺はサナリエンがいる客間を訪れた。

「なんじゃこれは?」

 マロ爺は、サナリエンの部屋の様子を見て驚いた。

 サナリエンが寝ている布団を中心に、アオキが持ってきたと思われるお見舞い品が散乱していた。お菓子や、本などはもちろんの事、仏像や木彫りの熊(観賞用にはいいのか?)、さらには何故持ってきたのか理解に苦しむ大木槌など。もはやお見舞い品じゃないだろと言いたくなる様なものまで転がっている。

 アオキは、そんな中で、持ってきた風呂敷の中からお見舞いの品(?)を次から次へと取り出し、布団の上に座っているサナリエンに見せる。

 だが、それらを見てもサナリエンは小さな反応を返すばかりだった。

 アオキは、基本的に口下手な為、基本無口だ。その為、身内や仲間達が殺されたサナリエンを慰める言葉も元気付ける言葉もかける事は出来なかった。

 それでもアオキは、友人であるサナリエンを慰めたかった。勇気付けたかった。

 苦心の末に、思いついたのが、お見舞いの品を送ることだった。しかし、何を持っていけば彼女を元気付ける事が出来るか、サナリエンの好みが分からない。なので、手当たりしだい持ってきたのだ。もしのこの状況をろくろ首に見られれば、アオキは確実に雷を落とされる。


 その様子をアオキの隣にいたアザミは困った様子で見ていた。大荷物を担いで大通りを歩いていたアオキを見て、何をしようとしているかわかって心配で着いてきたのだが、案の定こんな状態だ。

「だから言ったじゃない。サナリエンちゃんにそんなに沢山のお見舞い品持って言ったって迷惑になるだけだって…あら?」

「だが…ん?」

 そこでようやく、アザミがマロ爺の来訪に気がついた。

「あら、マロ爺もサナリエンちゃんのお見舞い?驚いたでしょ。これ皆アオキがサナリエンちゃんを元気付ける為に持ってきたのよ」

「あやつ、口下手だからってこんなに持ってくる事はないじゃろうに…」

 マロ爺は呆れた風に言い、散乱しているお見舞いの品を踏まないようにしながら、部屋に入る。

 その間にアザミは、ひょいひょいとお土産の品をどかしてマロ爺の座るスペースを作って座布団を置く。その座布団にひょいと座ると、布団の上に座っているサナリエンに挨拶した。

「サナリエンちゃん、大丈夫かい?体は痛くないかの?何かほしいものはあるかい?」

「体は、もう良くなったわ。ありがとう。もう十分よくしてもらっているわ」

 マロ爺の問いかけに、答えるサナリエンだが、その声に元気はなく、浮かべる微笑も明らかに無理をしているのが見て取れた。

(さすがに昨日今日で元には戻らんか…。さもありなん。…アオキも不器用じゃの)

「さて、ここに来たのは、サナリエンちゃんのお見舞いという事もあるが、ついでにもう一、理由があるんじゃ」

「理由?」

 さすがにサナリエンも疑問に思ったのか首を傾げる。

 マロ爺は、好々爺とした表情から、厳しい表情になり、アオキとアサギの方を向く。

「明日、ワシは人族と交渉するため、人族の砦に向かって発つ。アオキ、アザミおぬしらはワシの共せい。これは里長からの命令じゃ」

 その意味を理解したアオキとアサギの二人は、表情を引き締めると、マロ爺のほうに体を向けると、両手の拳を畳みに付け、頭を下げながら言った。

「「謹んでお受けいたします」」

 二人は、そう返事を返した。だが…

「ダメよ!行ってはダメ!」

 今まで、ずっと心ここにあらずといった感じであったサナリエンが血相を変えた。あやかしの里の友人を失う事を恐れたのだ。

「あいつらは、卑怯で狡猾な奴らなのよ!人族との交渉なんて、行く必要なんて無いわ!行ったら殺される!」

 マロ爺に掴みかかり、肩をゆすりながら必死に説得する。

「…まぁ、サナリエンちゃんの話を聞くとろくでもない奴らなんじゃろうなぁ」

 ガクガクと前後に揺られながらマロ爺は、この里の妖怪のスタンスを説明する。

「じゃが、我々は古からの盟約により、例えどんな野蛮な相手でも最初は対話…交渉からと決まっておるんじゃ」

「だからと言って、あいつらと話し合うなんて!」

「ほっほ。なぁに。大丈夫じゃて。あやつらにワシらを殺せはせんよ。何…人との付き合い方については、エルフの方々より我々の方がよぉぉっく知っておるよ」

 自信満々にマロ爺が答えるが、サナリエンはそれを疑わしげに見ている。その人族に対して万全の準備を整えて望んだ結果、エルフ族の戦士団がほぼ全滅の憂き目に会ったので、そういう目で見てしまうのは仕方が無い。

 だが、それに対し、マロ爺は自信満々に言い返した。

「…確か、人の砦にはお前の父親が囚われているのだったな」

 ふとアオキが言った。

「そうよ。モンスター達の襲撃と同時に、…護衛の先輩達を殺して!」

 その時の光景を思い出したのかサナリエンは、憎悪を含ませた口調で言い放った。

「…そうか」

 それに対してアオキは、それだけを言うと何かを考え込むように沈黙した。

(まったく、何を考えているか分かりやすい奴だ)

 アオキの台詞から彼が何を考えているか速攻で理解したマロ爺は、ちらりとアザミの方を見た。アザミも同じようにマロ爺を見返しており、彼女もアオキの考えを見抜いている事が分かる。

 この場で分かっていないのは、いきり立ち本調子ではないサナリエンだけだ。

「そう言う訳じゃ。おぬしら二人は、出発の準備をせい」

「分かった。また来る。元気で」

「そうするわ。サナリエン。この仕事が終わったらまた来るわ。それまでにきちんと傷を治しておくのよ?」

 二人はマロ爺の言葉にスッと立ち上がる。

「待って!私も行くわ!ック!」

 自身の体に掛かっていた布団を吹き飛ばしし、体を前のめりにしながらサナリエンは言った。

「ダメじゃ。これは、既に我々あやかしの里の問題じゃ。無常な言うようじゃが、サナリエンちゃんは関係ない」

「ウッ!?」

 だが、それをマロ爺はバッサリと斬って捨てた。顔は何時もの好々爺然とした表情ではなく、反論を許さないという意思を込めた厳しい表情だ。妖怪の総大将とすら言われるぬらリひょんの迫力にサナリエンは、硬直し、冷や汗を流す。

 その間にアオキは振り返らずにそのまま、アザミは苦笑しながら手を振って部屋を出て行った。

 部屋には、サナリエンとマロ爺…そして、アオキが散らかしまくったお見舞いの品だけが残った。

 この後、散らかされた部屋の惨状を見たろくろ首に、アオキはこっぴどくしかられたのは、余談だ。


 

 翌日、朝日が昇る頃にアオキ達は旅立った。

 カラス天狗による"カラス船"に乗って。

 "カラス船"とはゲ○ゲの鬼○郎がカラスでやっていたアレの事だ。大量のカラスに、ブランコに繋がったロープを持たせて飛ばし、鬼○郎やその仲間達がブランコの椅子の部分に座るアレだ。

 知らない人が、傍から見れば一体何の冗談だと言いたくなる情景だった。


 夕方にフィフォリアの森の端まで来ると一向は、人族に見つからないように地上に降りる。そこで野営してから朝一番で、カラス天狗に一緒に持ってきてもらった荷物を背負うと、一同は砦へ続く道へと向かった。

 交渉団としていくのはマロ爺、アオキ、アザミの三人と交渉の助っ人であるサルのような妖怪、カクさんが1匹だ。それ以外のカラス天狗は偵察と連絡係に残る者をのこして全員帰還した。


 人族の砦は、相変わらず活気付いていた。森とは反対側にある入り口には、続々と人と物資が流れ込んできており、砦の中は、ちょっとしたお祭りのようになっていた。

 マロ爺達は、その人族の列にまぎれて砦へと向かった。

 

 砦の入り口では、当然のように検問が敷かれており、外から来る人族を1グループごとに分けてチェックしていた。

 アオキとアザミの格好は、獣人達監修で傭兵風の格好をしているが、マロ爺だけは何故か棒御老公と同じような格好をしている。サルのカクさんは、アオキの背負っている箱の上に座っている。

 マロ爺の格好は、この世界では奇異であり、列に並んで待っていると他の並んでいる商人や傭兵風の格好をした人族からじろじろと視線を受ける。

 そんな視線を無視しつつしばらく待っていると、とうとうマロ爺たちの番になった。

 門番であろう兵士が、マロ爺達一行の前に来ると偉そうに言った。

「お前達は何名だ」

「ワシらか?ワシらは3人とこいつじゃ」

 マロ爺は、アオキの肩の上で興奮して、キョロキョロと興奮しながらアオキの頭をペチペチと叩いているサルを指差した。

「そのサルはおとなしいだろうな?砦の中でソレが暴れた場合、責任はお前達が追うことになるぞ」

「大丈夫じゃ」

「そうかでは、ここに来た目的は?」

「決まっておろう。商売じゃ」

 ここで、ここに来た本当の理由は言わない。ここで言ったとしても、すぐさま捕らえられてしまうのがオチだからだ。とにかく今は時間が無い。一分一秒でも早く、この森を攻めようとしている上役に会って交渉しなければならないのだから。

「…奇妙な格好をしているな?お前ら何処から来たんだ?」

「遠い遠い。はるか西の国からじゃよ」

「許可証を出せ」

「許可証?はて?そんな物必要だったかのう?」

「何だと!っ!?」

 普通ならここで追い返されるか、または捕縛されるかだろう。だが、マロ爺はぬらりひょんここからが本領発揮だ。ブワリと存在感が増し、兵士の視線がマロ爺に釘付けになる。

「のうアザミや…。そんな話、前の町で聞いたかのう?」

「いいえ。ご隠居様。あの方はそんな事はおっしゃっていませんでしたわ」

 マロ爺の問いに対して、平然と嘘で答えるアザミ。マロ爺はわざとらしくぺチンと毛の無い頭を掌でたたいた。

「あちゃー。あの方も、存外抜けたところがあるからのう」

「ないのか?ならばこの砦に入る事は許さぬ!」

 マロ爺の気配に気おされながらも何とか威厳を取り繕いながら兵士は言う。

「いいのかのう?あの方は、町の有力者じゃ。その方のたっての願いでここまで来たというのに、門前払いとは…。おぬしあの方の顔に泥を塗りたいのかのう」

 マロ爺は居もしない権力者をさも居るように語る。完全に詐欺の手口だ。

「ならば、その有力者の名を言ってみるが良い!」

「ここで言ってよいのかのう…」

 顎に手をあて、言うのを渋るのを見て、訝しがる兵士だったが、そこで何かに気付いたかのように兵士の顔が青ざめる。余程怖い相手を思い出したのか、槍を持った手まで震えている。

 普段ならこの程度の詐術など、引っかからないベテラン兵士なのだが、ぬらりひょんであるマロ爺の力により、思考が鈍らされている彼は有効だった。

「まっまさか、あの御方か!」

「そうじゃ…お前もあの方の逆鱗には触れたくあるまい?ここは一つ通してくれんかの?」

 そんな相手は居ないのに、マロ爺は重苦しく頷く。

「わっわかった。だから、俺が阻んだという話は…」

「はて?そんな話し合ったかのう?ワシらは世間話をしただけじゃろう?」

「うっ!おっほん。そうだったな。ようこそ商人殿。リノマ砦へ」

 マロ爺達は、殆どノーチェックで、まんまと砦の中に潜入する事が出来た。

次の話は、今回より間が空かないようにいたしますのでよろしくお願いします。

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