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異世界物怪録  作者: 止まり木
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第四十五話 動き始める

「…。サナリエンさんからの報告は以上です」

 山ン本は、サナリエンの部屋から出るとすぐに、座敷にマリリエンとゴットスを呼び、サナリエンの言っていた事をかいつまんで話した。

 それを聞いた長達は、それぞれの反応を示す。

「エルフの馬鹿者共めっ!」

 マリリエンは、エルフの事を罵倒してはいたが、悔しそうに顔をしかめた。

「ふんっ」

 ゴットスは、それ見た事かと鼻を鳴らした。当然エルフから迫害されている獣人であるゴットスは当然、エルフの戦士達が全滅した事に対して残念には思っていない。

 それぞれの反応を冷静に見ながら、山ン本は続ける。

「問題はここからです。サナリエンさんは、我々あやかしの里に対して救援を要請しました。それに対し我々は、返答をしなければなりません」

「ほっときゃいいんだ。あんな奴ら!それに、救援の要請と言っても個人的にだろう?無視しても何の問題も無いだろ」

「…わしらとて、あやつらは好かん。じゃが、わしとしては、見捨てて置く訳にはいかん。…それに、人族がエルフ達だけで満足するわけではないじゃろう」

「性急に答えを出せる案件ではありません。そもそも、サナリエンさんの言っている事が本当の事かどうかも分かりませんしね」

「こりゃ!山ン本!貴様サナリエンちゃんを疑っておるのか!?」

 ちゃぶ台をドンと叩きながら反論するマロ爺に、山ン本はたしなめる様に言った。

「可能性の話しをしているのです。ですので、まずは事実確認をします。大体の場所は聞いています。カラス天狗達に森の外へと偵察に行ってもらいましょう」

「…たのむ。わしらの方からも偵察に行かせるが、今から戻って、実際に偵察が出るのに一日は掛かるじゃろう」

「まっ俺としては、どっちでもいいけどな。俺達からは人出はだせねぇが、何かあったら言ってくれ」

 それからマリリエンは、村に伝える為に大急ぎで帰っていった。

 今回は大急ぎという事で、朧車を使って…。嫌がるドトル戦士長を無理矢理乗せて。

 それだけ、なりふり構っていられる状況では無いという事だった。

 一方ゴットスは、来た時と同じように、でいだらぼっちによって作られた道を歩いて帰っていった。


 エルフの惨状を聞き偵察の要請を受けた天狗は、即座にカラス天狗の精鋭を呼び集めた。装備は、もちろんマロ爺から徴用したカメラ郡に野営装備。それに今回の目玉は"天狗の隠れ蓑"だ。

 "天狗の隠れ蓑"とは、日本の昔話に出てくるトンでも道具だ。能力は"天狗の隠れ蓑"を着た者の姿を透明にし、姿を見えなくするというもの。

 言うなれば、妖怪の不思議パワーで作られた光学迷彩だ。

 これがあれば、たとえ障害物が何一つない空を飛んでいたとしても地上の人間達に気づかれることは無い。正に偵察にはうってつけの道具だ。

 そして"天狗の隠れ蓑"を着たカラス天狗達は、首から高性能デジタルカメラを下げ、事実を確認すべく空へと飛び立った。

 エルフの足で二日掛かる距離をカラス天狗達は半日で飛んだ。やはり、何の障害も無い空を進むのと、地形が複雑に変化し、木々などの障害物がある森を進むのとでは進行速度はやはり段違いだった。

 カラス天狗達は、戦闘が行われたと思われる場所を上空からカメラで撮影する。その時に偶然人族の乗った馬と見られる足跡の痕跡を見つけた。彼らは頷きあうと、その足跡の先を確認する為に、翼を動かした。



 カラス天狗達が森の外へと偵察に出た頃、アオキとヒビキは、山ン本の屋敷にサナリエンのお見舞いにやってきた。

 アオキとヒビキは、ろくろ首に案内された客間にいるサナリエンを見て驚いた。

 何時ものサナリエンは生真面目で、自信があり妙にえらそうな雰囲気をしていた。だが今のサナリエンは、その時の見る影も無かった。

 部屋に居たサナリエンは、布団の上で体を起こしてはいたが、ボーっと外を見ていた。アオキ達がこの部屋に着たことにすら気付いていない。その姿も大分憔悴しており、目に生気は無い。

 その状態にヒビキは面食らった。

 (こりゃ、相当だな…)

 アオキも珍しく、目を見開いて驚いた。

 気を取り直して、着ているパーカーのポケットに手を入れ挑発的に言った。

「よう。ずいぶんな様じゃねぇか」

 ずかずかと部屋に入るなり、ヒビキはサナリエンの座っている布団の横へとどっかと腰を下ろした。行儀の悪いことに膝を立てた状態出だ。

「…」

 アオキは黙ったまま、他の妖怪達から託されたお見舞いの品が入った風呂敷を置いてヒビキの隣に座る。

そこでようやくサナリエンは、アオキ達が来た事に気がついた。ゆるりと首をアオキ達に向け、まるで虚空を見ているような瞳でアオキ達を見る。

「…ああ、アオキにヒビキか…どうしたんだ?」

 声にも生気はなく、まるで幽鬼が話しているようですらあった。

 寿命の長いエルフにとって死とは、身近なものではない。もちろん、森に入ったエルフが帰ってこない事は稀にある。だが、それで大勢の仲間を一度に失うという事は今までにサナリエンが経験したことは無い。一種の虚脱状態に陥っていた。


 アオキは、そんな様子のサナリエンを見て、風呂敷から、丸々とした柿を取り出し、ポケットから取り出した小刀でするすると剥いていく。柿を剥き終えると今度は風呂敷から素朴な木の皿を取り出して、その上で切り分ける、最後に爪楊枝を刺してサナリエンに差し出した。

「タンタンコロリンの柿だ。うまいぞ」

「アイツにまともな柿を出させるのに苦労したぜ。ありがたく思えよ」

 タンタンコロリンとは宮城県仙台市に伝わる柿の木の妖怪のことだ。老いた柿の木が化けた妖怪で、樹木版経立とも言える存在だ。僧の姿に化け、色々なところを歩き回り、種を撒き、最後は元の柿の木の場所に戻って姿を消すのだと言う。最近の物語では、タンタンコロリンは柿の実におっさんの顔と小さい胴体がくっ付いた姿をしているものもある。

 この里のタンタンコロリンは、基本的に前者ではあるが、最近の物語に影響されてて変な造型の柿を実らせるのが趣味になっていた。

 余談だが、柿に関する妖怪として柿男と言う妖怪もいるが、こちらは、かなりス○トロ系の妖怪なので、ここでは説明はしない。興味がある方は調べてみると良いだろう。当方は責任を取らないが…。


 サナリエンは差し出された木の皿を受け取ると、ゆっくりとした動作で爪楊枝を掴んで一口柿を食べた。

「甘いな…」

 だが、それ以上食べることなく、食べかけの柿を力なく木皿の上に戻す。

「ありがとう。でもすまないが、もうおなかが一杯だ。残りは二人で食べてくれ」

 これが普段のサナリエンだったら、すました顔をしながら、内心大喜びで皿の上に乗った柿を全部食べただろう。

「こりゃ重症だな。まっしゃーねーか」

 この様子にさすがのヒビキも顔を曇らせる。アオキのほうも、表情には出にくいがおろおろとしている雰囲気がしている。そして次々に里の妖怪達がサナリエンへのお見舞いへと持ってきたものを差し出す。

 里の妖怪達からのお見舞いは、おはぎなどのお菓子や、剣玉などの暇つぶしのおもちゃ、変わったものでは、妖怪お手製の漫画本など多岐に渡った。だが、サナリエンはそれらに一切興味を見せず、ただ薄く笑って「ありがとう」と言っただけだった。

 アオキが不器用ながらも励まそうとしようとするが、基本無口なアオキには言葉が見つからない。コミュニケーションが苦手なアオキは、とても歯がゆい思いをしていた。

 ヒビキも挑発交じりにサナリエンに話しかけるが、帰ってくるのは気の無い返事ばかり。さすがのヒビキでもこれではどうしようもない。まるで相手にされていないのだ。

 数時間ばかり粘ってみたが、二人は成果を上げることはできなかった。 

 


 アオキ達がサナリエンを見舞い衝撃を受けた翌日。

 山ン本は、自分の屋敷の書斎で偵察に出ていたカラス天狗から受け取った報告書を読んでいた。

「これは、これは…厄介ですね」

 山ン本の前にあるテーブルには、偵察の時に取られた写真が大量に置かれていた。その中には、戦場を俯瞰で撮ったものや、エルフと思われる人物の食い荒らされた遺体、同じように食い荒らされたモンスターの死体などが写っていた。

 だが、山ン本が見ていた写真は、そのどれでもなかった。

 山ン本は、それが写った写真を手に取ると、唸った。

 その写真に写っていたのは、簡易的な洋風の砦を上空から撮った写真だった。報告書によれば、その砦は、フィフォリアの森からそお遠くない位置に作られているらしい。

「これ程までの野営地を立った数日で作り上げるとは…」

 そして、その砦の写真の隣では、その砦に大量の物資を乗せた荷車と武装した兵士達が入っていく様子が写っている。それは、どう見てもこの砦の警備を目的としているものではなかった。もし警備のための人員だとしたら数が多すぎるのだ。

 明らかにこの人員は警備を目的としているものではない。では、何を目的としているのか?少し考えれば誰にでも分かる。

「戦…ですか」

 ならば、相手は明らかにエルフ達だ。現在のエルフ達は、森林戦闘のプロである戦士団を欠いた状態だ。攻め込むには絶好の機会といえる。 

「ほっ!まるで墨俣の一夜城の様じゃの」

 そこへ、いつの間にか山ン本の背後からマロ爺の呟きが聞こえた。

 墨俣の一夜城とは、織田信長の部下である藤吉郎秀吉、後の豊臣秀吉が美濃国の斎藤龍興との戦の際に一夜にして城を作ったと言われる城の事だ。実際に、一夜で作られたわけでは無いらしく、一夜と例えられるほど短い期間で作られたとか、実は最初から城があり、それを秀吉が奪取したとか様々な異論がある。

 突然現れたマロ爺に気にした事もなく山ン本は問うた。

「さて、どうしましょうかね?」

「最初は、盟約に基づき話し合いじゃろうて。何、ワシが行く。問題あるまい?」

「貴方だけでは心配ですので、他のものもつけましょう。アオキとそうですね…アザミがいいでしょう。彼らを連れて行くなら許可しましょう。それに手っ取り早く済ませるために、カクさんも連れて行ってください」

「カクの奴も連れて行っていいのか?それなら簡単に終わるじゃろうが、つまらんのう」

「今は、時間が有りません。敵対するならする、しないならしないと、白黒はっきりさせておきたいのですよ。出発の準備は、こちらでしますので、明日出発してください」

「それもそうじゃのう。時間を掛ければ相手に利するだけじゃしのう。分かった。アオキにはワシから話しておこう。今日もサナリエンちゃんの見舞いに来ておるからのう」


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