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異世界物怪録  作者: 止まり木
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第四十二話 傲慢の対価

投稿が遅くなって申し訳ありません。しばらく不定期が続きそうです。

 レゴラス村長達が、人族たちに襲われ、虜囚の身になっていた一方、サイラス戦士長達は、突然現れたモンスター達とその中に居た三体のオーガの対処に追われていた。

 もしこれが森の中だった場合、エルフ達はその数の有利を生かして、オーガを包囲、セオリーどおりに精霊魔法による拘束後、矢の一斉射撃で倒せただろう。その後、距離を取りつつ他のモンスター達の殲滅。しかし現在は、大量のゴブリンに囲まれた状態で森の端にいる。しかも発見が遅れたせいで、かなり近づかれてしまっていた。この状態では包囲先方は使えない。サイラス戦士長は即座に決断した。

「ちぃ!これだけ接近されるとこちらが不利だ!一旦森から出る!近くにいれば、まだ精霊魔法は使える!奴らを森から釣り出し、そこで、ヴァインド・ヴァインを使って足止め!その後、一斉射!」

「了解っ!」

「分かりました!」

 サイラス戦士長は、いの一番で森の外に飛び出した。だが、すぐに付いて来ているエルフの気配が少ない事に気がついた。

 何事かと、振り向くと、そこには森から出るのを躊躇しているエルフの姿があった。

(こんな時に何をやっているのだ!)

 エルフの戦士の中でも、森の外に出た戦士は少ない。元々森の外は野蛮な土地といわれており、忌避される傾向があったのだ。特に若いエルフは幼い頃からの教育によって、その傾向が強い。その為、森から出るのを躊躇ってしまったのだ。

「何をしている!早くしろ!」

 先輩のエルフ達にせかされて、ようやく動き出す。だが、もう遅きに失していた。棍棒を振り上げたオーガ達が、突っ込んできたのだ。

 森から出ることを躊躇してしまったエルフ達は、突進してきたオーガが振り回した棍棒にしたたかに打たれ、ボキリと骨の折れる嫌な音をさせて弾き飛ばされる。

「ぐあああああああああああ!」

「ほぐぅうううううううううう!」

 地面に倒れ付す同胞を横目に、サナリエンは、オーガ達の意識を自分へと向けるために矢を放った。

「くっ!こっちよ!オーガ共!」

 サナリエンは、年配の戦士達と同様サイラス戦士長の指示を躊躇うことなく行動していた為、助かっていた。お陰で、オーガ達の意識はサナリエンへと集中した。

 それを好機と見たサイラス戦士長が弓を構えながら精霊魔法を唱える。

「森の精よ!我が魔力をもって、かの者を捕らえ給え!バインド・ヴァイン!」

 彼に向かっていたオーガ達を、地面から伸びた無数の太い蔓が拘束する。拘束された、オーガ達は自分達にまきついた蔓から逃れようと全力でもがいた。その力は凄まじく、あたりに太い蔓が引きちぎられる音が響く。

「長くは持たん!構えっ!」

 エルフ達は、一斉に弓を構え、拘束されているオーガへと狙いを付ける。ここまで来れば、エルフ達にとってオーガは的でしかない。誰しもがそう思った。

「はなっ!?」


 サイラス戦士長が放てと号令を出そうとした瞬間、サイラスの周囲に居たエルフ達の背後から矢が飛んできた。背後に居たアルフォンス達が、エルフの村長の確保を終え、モンスターとの戦いに集中してしまっていた。エルフ達へとボーガンの矢を放ったのだ。

「ヒグっ!?」

 矢が当たったエルフの戦士は、痛みによって弓の照準がずれ、あさっての方向へと矢を飛ばしてしまう。

「ぐっ。これしきぃ!放てぇ!!!!!!」

 サイラス戦士長の右肩へと突き刺さり、構えが崩れるが、意地で立て直すと、太い蔓に巻きつかれているオーガの一体に向かって矢を放った。

 放たれた矢は、見事一体のオーガの目を貫き、そのまま深々と突き刺さる。目を貫かれたオーガは、悲鳴一つ上げずそのまま前のめりに倒れた。

「一体何処から!?だがっ!」

 サイラス戦士長は、倒れていくオーガを、見ていなかった。彼は、弓を落として膝を着き、肩に突き刺さった矢を震える左手で掴んだ。

「サイラス戦士長!ご無事ですか!」

 サナリエンが、膝を着いたサイラス戦士長に近づくと、肩の傷の様子を確かめる。サイラス戦士長は痛みに顔をしかめながらサナリエンに聞いた。

「何があった…この矢は…グッ。何処から」

「人族です!父…村長が、捕らえられています!そして、人族の奴らが弓のような機械で私達に矢をっ!」

 サイラス戦士長の問いに、サナリエンは応急処置をしながら答えた。

「そうか。このタイミングでモンスター達が集まってきたのは、あいつらのせいか!!」

 サイラス戦士長は、言葉に憎悪をのせ、悔しげに顔をしかめた。

 サナリエンと、サイラス戦士長が会話をしている間にも、モンスター達が後ろから迫り、前からは人族のボーガンの矢が、次々と放たれる。

 何とか無事だったエルフ達は、正面から来るモンスターを射抜きながら、背後から来る矢を警戒すると言う。非常に困難な作業を強いられることになった。

 痛みに汗を流し、膝を着きながら、サイラス戦士長は周りにいる生存者達を確認する。

 そして、少しの間目をつぶると。何かを決意した表情になった。

「シャーラ、リーマリエン、それとサナリエン!貴様らは、この場から脱出し、この事を村に伝えろ!」

「なっ」

「はいっ?」

「何を言ってるのですか戦士長!私達も戦います!」

 サイラス戦士長に指名された者達は、矢を放ちながら抗議の声を上げた。選ばれたのは、生き残りの中で、三人だけ生き残っていた女戦士だった。

 サナリエン以外の女戦士達も、それぞれが美しく、気の強そうな顔をしている。

 だが今はそれらも、この状況を生き残らんと必死の表情で矢を放っている。

「馬鹿を言うな。この状態で村長を救出。その後、モンスターの犇く森へと撤退など出来るわけないだろう。ならば、今すべき事は、起きた事を村に伝え、警戒態勢を取らせることだ」

「ならば、私では無く、足の速いセイラスを選ぶべきです!私の変わりに彼を!」

「いや、私の変わりに彼をっ!」

 サナリエン以外の二人の女戦士がそう主張したが、それは本人から否定された。

「あーわりぃ。俺、足やられてんだ。…いいからお前ら行けよ。時間が無いんだからさ。道は俺達が作ってやるから…」

 見れば、セイラスと呼ばれた男のふくらはぎには、人族が放ったであろう短い矢が貫通していた。だが、それでも彼は膝立ちの状態で、ゴブリンたちへと攻撃していた。

 それでも反論しようとする二人。戦士の矜持として、ただ女だからと言った理由で戦場から遠ざけられるというのは屈辱だった。そしてその事を、ストレートに戦士長に問いただした。

「それは私達が女だからですかっ!?」

「そうだ。だから何だ?」

 その問いに対し、サイラス戦士長もまたストレートに答えた。

「これは戦士長命令だ。お前達はエルフの戦士だ。なら分かっているな?戦士長の命令は何だ!」

「…絶対です」

 シャーラは、悔しげに答えた。リーマリエンも唇をかみ締めている。

「そうだ。恨むんだったら俺を戦士長に選んだ村長達を恨むんだな」

「そんなっ!」

 戦士長はそう言い放つと、もうこれ以上の議論は不要とばかりに、戦っている戦士達に次々と指示を下していく。

「魔力の残っている者は、森側左翼の比較的モンスター共の数が少ないところの奴らをまず一列拘束しろ!そして、その列の右側に人一人と通れるくらいの幅を開けてもう一列拘束する。その後、矢の一斉射で拘束した列の間にいるモンスター共を排除。そこを道として三人をこの戦場から脱出させる!すまないが、お前らの命を貰うぞ!」

「了解!」

「おう!」

「野郎を逃がすよりは、やる気は出ますね」

「そうですね!」

 戦士長の周囲で必死に矢を放ち、モンスター達を足止めしているエルフの戦士達が声を上げる。それは完全な空元気ではあったが、それでも脱出する三人に心配はかけまいと、エルフの戦士達は、皆笑顔で言った。

 その様子を見た三人も、覚悟を決めた。ここを脱出し、必ずこの事を村に伝えると。

「三人とも準備はいいな!合図を出したら作戦開始だ!」

「「「はいっ!」」」


「よし!今だ!作戦開始!」

 サイラス戦士長の声にあわせて、エルフの戦士達が、自らの魔力を振り絞って呪文を唱える。

「「「森の精よ!我が魔力をもって、かの者を捕らえ給え!バインド・ヴァイン!」」」

 発動した精霊魔法が、作戦通り二列のモンスター達を拘束する。だが、森からの距離に反比例して、魔法の威力は落ちているようで、モンスターの群れの最前列にいるモンスターの拘束はできなかった。森から離れすぎた為、森の精霊の力がそこまで及ばないのだ。

「やってやるわよ!」

 しかし、そんな状況でもサナリエン達は、森に向かって走り出した。移動しながら、弓に矢をつがえ最前列にいるモンスターに向けて矢を放つ。

 脱出を諦めた戦士達も、まだ、できた道にいるモンスター目掛けて矢を次々と放つ。矢は、作られた道の中に居るモンスター達を次々と射抜き、作戦通りの道を作る。

 当然、エルフの戦士達が、脱出の為の道を作っている事は人族たちにも丸見えだった。背後にいる人族たちから、より一層激しく矢が放たれ、一人二人とエルフの戦士達が地に伏せていく。隣に居た仲間が、倒れようとも、わき目も振らず、サナリエン達の道を作る為、矢を放ち続ける。

 そして、サナリエン達がそうやって作られた道へと入った。作られた道の両脇には大量のモンスター達が群がるが、バインド・ヴァインによって拘束されたモンスターが壁となり、手を出す事が出来ない。それでもなお諦められないモンスター達は、木の蔓にとらわれた仲間のモンスターごと攻撃し、壁ごと破壊しようとして、木の蔓に問われているモンスターを撲殺する。だが、モンスターを殺せても、良くしなる木のつるを破る事はかなわなかった。壁にあいた隙間から伸ばされるモンスターの手をたくみに避けながらサナリエン達は、脱出を図る。

 そしてとうとう、モンスターの群れの集団を突破し、森の中へと逃げ込むことに成功した。



「申し訳ございません。メスのエルフ三人に逃げられました」

 直接戦闘を指揮していた人族の男が、アルフォンスに向けて言った。

「3人程度かまわん。この程度誤差の範囲だ。これによってエルフのエリートの連中は壊滅だ。あいつらにはもうまともな戦力は無い。そうだろう?」

 その問いに答えたのは、アルフォンスの隣に居た小男だった。その男は、エルフの里に定期的に物資を運んでいたあの行商人だった。

「はい。そうでございます。アルフォンス様。残りのエルフ共は、弓はある程度使えますが、それほど戦闘が得意と言うわけではございません。我々の戦力ならたやすく、滅ぼす…いえ、刈り取ることだ出来ましょう」

 行商人はエルフの里では一度もした事のない凄惨な笑顔を浮かべながら言った。

「それにこの作戦では村長以外のエルフの戦士どもを皆殺しにするのが目的だ。例えメスであっても、この作戦では、殺さねばならなかった。叔父上の厳命でな。逃げたのなら、後で捕まえ、好きにする事が出来る。ククク、悪くは無いだろう?」

 アルフォンスの問いに、その場に居た全員が嫌な笑みを浮かべた。

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