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異世界物怪録  作者: 止まり木
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第三十七話 宴の夜

 犬神達が他の獣人に囲まれている中、アオキはその様子をのんびりと見つつ、一人飲んでいた。

 犬神は、彼らが始祖様と呼ぶ原初の獣人に間違われ、好意を寄せてくる女の獣人に囲まれ、アザミは、その美しさから多くの男の獣人に囲まれ、ヒビキは、いつも一緒に遊んでいた獣人の子供達に囲まれ一緒に騒いでいる。

 だが、無口で大きな体を持つ鬼であるアオキの周りには余り人が居なかった。別に嫌われているわけではないが、いつも無口で黙々と働くアオキに対してどう接すればいいのか、まだテルポス村の住人達も掴みかねているのだ。いつもならばこういう時、カラス天狗がそれとなく仲介役となって一緒に飲んでいるのだが、今日はあいにく、道が開通した後、問題なく道が繋がったことを報告する為に里へ帰っていた。

 なのでアオキは、キャンプファイアから少し離れた場所で、のんびりと一人チビチビと飲んでいた。

 そこへ、ある人物が人物が声を掛けてきた。

「お久しぶりね。アオキ」

 声を掛けてきたのはサナリエンだった。片手に酒の入ったコップを持ち、飲んでいるのか頬が少し紅潮している。

「サナリエン。もう大丈夫なのか?」

 アオキは驚きもせずにサナリエンを、見上げながら言った。今大丈夫なのかとアオキが聞いたのは、オーガと戦った際におった怪我のことだ。サナリエンはあの朧車が暴走する中、一人だけぴんぴんしていた。

「ええ、おかげさまでね。お邪魔しても?」

「問題ない」

 サナリエンは、許可を取ると、アオキの隣に席を下ろした。とはいえ、二人ともあまり会話が得意ではない。その結果は、明白だ。

「…」

「…」

 圧倒的沈黙。周りが騒がしい分、アオキとサナリエンの一角は完全に浮いている。

「…ねぇ。貴方は元気だった?」

「ああ」

 何とか会話しようと、サナリエンが話しかけたりするが、将来の無口であるアオキは、一言返すだけで会話が終わる。

 お互いに、ちびちびとコップを傾けつつ、少し離れたキャンプファイヤを眺める。

「ねぇ~!何やってんのぉーーーーサナリエン!」

「きゃっ!って貴方フューリ!何すんのよ!」

 そこへ突然ダークエルフのフューリがサナリエンに後ろから抱きついていた。フューリは、ドトル戦士長の付き添いとして今回の道作りの見学に来ていたのだ。しかし、朧車に乗るには、定員オーバーなので妖怪達と一緒に歩いてこの村に来たのだ。そして、妖怪達の救援物資配布を手伝っていた。

「あっ!君はアオキっちだよね。前にエルフとの話し合いの時には、簡単にしか挨拶できなかったら改めてするよ。あたしフューリ。ダークエルフの戦士をしてるよ~よろしくー。いや~話し合いの時のあのテーブルドゴン!って奴凄かったね~。あたしびっくりしちゃったよ。…ん?アオキ?!あー!そうだアオキだ!サナリエンをいとも簡単にぶっとばして、とっ捕まえたんだよね!どうやったの!…あれっ?それなのになんで?サナリエンが隣にいんの?ははぁ~ん。そういえば、あんた言ってたもんね。あたしより強い人…」

「ちょっちょっと、待ってよ!」

フューリのマシンガントークがヤバイ方向に向かっている事を察したサナリエンは、強引に遮った。

「知り合いなのか?」

 アオキは、親しそうに話す二人に疑問を持った。現在エルフとダークエルフの仲は、かなり悪い。断絶しているといってもいい。なのにエルフであるサナリエンとダークエルフであるフューリがこの様に親しげに話し手居るのが不思議だった

「ええ。彼女とは村が別れる前からの友達なの」

「村が別れる前?」

「言ってなかったっけ?元々あたし達ダークエルフとエルフは、一緒の村で暮らしていたのよ。だけど、なぜかは知らないけど、私達が物心付く頃前くらいから、エルフ達がだんだんと高慢になって、あたし達ダークエルフを見下してくるようになったのよ。それであたしが80歳位の時ダークエルフの我慢の限界が来てね。あたし達は村から出て行ったのよ」

「そういえばそんな事を話し合いの時に聞いたな。そうなのか?」

 一応ダークエルフ側だけの証言を聞いて判断するのはフェアでは無いと思ったアオキは今度はサナリエンに聞いた。

 するとサナリエンはしばらく考え込んでから答えた。

「…確かに、あの頃は、ダークエルフに対してエルフ達は、きつく当たっていた。…けど、それは、ダークエルフ達の怠惰な生活態度を改めさせようとっ!だからって何も出て行く事は無かった!」

 エルフがアオキ達、妖怪に良く思われていない事はサナリエンにも分かっている。しかし、ダークエルフ達に言い分があるようにエルフ達だって言い分がある。

「そうか…」

 アオキは、一言そういうだけだった。その態度が気に食わなかったのかフューリが聞いた。

「あんたさーあたし達の話聞いてなんか無いの?」

「別に」

 そっけない返答を聞いたフューリは不愉快そうに、眉をしかめる。

「何それ。感想とかも無いの?冷たくない?」

「似たような話は、何処にでもある。それぞれの話に真実があり、また嘘があるのだろう。それに、その問題を解決するのは、お前達であり、俺では無い。故に俺から言う事は無い…。だが…」

「だが…何よ」

 そこで言葉を止めたアオキに、ふてくされたような表情のフューリが続きを促す。

「それでも、お前達の仲が良い事が分かった」

 フューリがきょとんとした表情で、サナリエンもびっくりした様子でアオキを見ている。

「アッハハハハハ。君、面白い事言うね?」

 フューリは、アオキの方を見ながら突然大笑いした。そして、サナリエンの体から離れるとサナリエンから離れ、アオキ隣に立った。

 アオキは、座っているが、背の小さいフューリが隣に立ってみると、フューリの頭の位置が少しだけアオキの頭の位置から少し低い程度だ。

 そこで、フューリはアオキの背中をバシバシと叩きながら言った。

「よっしゃ。あたし、あんた気に入ったよ!」

そして、今度は青木の背中に抱きついた。フューリの体が小さな割に大きな胸がアオキの背にあたる。そして猫のように頭をアオキにこすり付ける。だが、アオキはそれを気にした風も無く手に持っていたコップを傾ける。

「ナッ!」

 それを見たサナリエンは、思わず声を上げる。だが、そんな事にかまわず、真顔に戻ったフューリがサナリエンのほうを向いて言った

「それよりさ~あんたん所どうなってんのよ?あのエルフと妖怪達との話し合い。前々からプライド高いなぁって思ってたけど、さすがにアレは無いんじゃないの?」

「そっそれは、私だって反対したんだ!でもお父様も長老達も一切聞き耳を持って下さなかったんだ!」

「ホント。戦士長じゃないけどあんたの村、絶対おかしいわよ」

 フューリが顔をしかめて言うとサナリエンは小さな声で言った。

「私だってそう思うわよ。でも、どうしようもないじゃない。お父様も長老達の殆ども、この森にはエルフ以外必要ないって思っているの。あっ。でも普通のエルフは違うわよ。自分達に誇りを持ってるけど、だからって無闇に他の種族やダークエルフ達を見下したりしないわ。…あまり」

 サナリエンは、語尾はだんだんと小さくなっていき、同時にだんだんとうなだれていく。それによって、エルフの村で選民思想的な考えが主流になりつつあるか、もしくは既になっている事を二人は容易に想像出来た。

 三人の間に沈黙がおりる。気まずい雰囲気の中最初に口を開いたのは、珍しい事に普段無口であるアオキだった。

「あっ!おいっ!お前何アオキに抱きついてんだよ!」

 村の子供達と戯れていたはずのヒビキが、アオキにフューリが抱きついているのを見ると顔を真っ赤にして怒鳴り込んできたのだ。

「ん?お嬢ちゃん誰?あたしはダークエルフのフューリ。で?お嬢ちゃんは?」

 烈火のごとく怒っているヒビキに気にすることなくフューリは、マイペースに名前を聞いた。

「あたしは、あやかしの里の天邪鬼ヒビキ様だ!テメェ誰に断ってアオキに抱きついていやがる!」

 ヒビキの言い分を聞くとフューリはきょとんとした表情で聞き返した。

「あれ?ダメなの」

 そこまで言うと今度は"ああ"と察した表情になる。

「ああ、もしかしてお嬢ちゃん。この人の彼氏か何か?」

「ちちちげーよ!」

 もちろん天邪鬼であるヒビキが正直に答えるわけは無い。顔を真っ赤にして否定する。本心は当然逆だ。

「あんた初対面だよね?あたしはダークエルフのフューリよろしくね~!」

 更に真っ赤になって否定するヒビキを見てもフューリは、マイペース。その様子を見ていたアオキは、彼女の事をまるで猫みたいだと思った。

 そこで、アオキはふと疑問に思ったことをヒビキに聞いた。

「子供達はどうした?」

「あいつらか?あいつらは、もう夜遅いからって親連中が家に帰した。ぶ~ぶ~言って大変だったぜ。それよかっ!何でお前アオキに抱きついてんだよっ!」

「何でってあたしが、この人を好きになったからよ」

 フューリは、あっけらかんと言った。だがその一言は、二人に衝撃を与えるのに十分だった。

「「なっ」」

 ヒビキとサナリエンの声が見事にハモッた。

「だって、この人強いし、頼りがいありそうじゃない?それに、うちの村の連中と違っておおらかだしね!ぷはっ!お酒おいしぃ!」

 最後にフューリは、アオキの首に絡めていた腕に持っていた酒を飲んだ。

「くっ。離れろよ!それでもてめぇ女か!」

 とうとう我慢できなくなったヒビキが無理やりフューリをアオキから話そうと掴みかかる。それに呼応するようにサナリエンがアオキの方をつかんで引き離そうとする。

「やーよ。いいじゃな~い。別に減るもんではなし」

「それは女のあなたが言っていい言葉じゃないわよ!」

 それでもフューリは、アオキにくっ付き続ける。その小さな体の何処にそんな力があるのだろうか?曲がりなりにも鬼であるヒビキに引っ張られているのに、それに余裕で耐えている。

「よ~アオキ!お前モテモテじゃないか!」

「面白いことになっていますね」

 そこに、さっきまで村の女性たちに囲まれていた犬神が、山ン本と一緒にやってきた。ヒビキ達に囲まれ、纏わり疲れている様子を見て二人はからかった。

「懐かれた」

 アオキは、そういうと、ヒビキ達に揺らされながらも酒をあおる。驚いた事に、揺らされているというのに手に持っている酒の水面が微動だにしない。無駄に凄い技術だった。

「へ~。フューリの奴が懐くなんて珍しいな」

 そこに更に興味深そうに顎に手をやりながら、ドトルとゴットスが現れた。それだけでは無い。やはり、男女のいざこざと言うのは、何処にいても興味の対象になるらしく、テルポス村の獣人や、妖怪達が続々と集まってやんややんやとアオキ達に声援を送る。

 もはや、一体何をやっているのか自分ですら分からなくなって、思わず、サナリエンは笑ってしまった。

 エルフ、ダークエルフ、妖怪、獣人達が一緒に酒を酌み交わし、笑いながら馬鹿話で盛り上がる。

 今は、その中に居るエルフが自分ひとりだけだが、自分が架け橋となり、他のエルフ達も同じように騒げるようにしたいな、と改めてサナリエンは思った。

 そうして、新たな村の誕生と新たな森の友達祝う祭りの夜は深けていった。

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