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異世界物怪録  作者: 止まり木
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第二十八話 突然の訪問者

「フム。犬神達はうまくやっているようですね」

 山ン本は、獣人の村から帰ってきたカラス天狗の持って帰ってきた報告書を読みながら呟いた。すばやく隅から隅まで読み上げると、隣に居たマロ爺に報告書を渡した。受け取ったマロ爺はパラパラと適当に流し読む。そしてある部分でクワッと目を見開いた。

「獣人の幼女を救助したじゃと!?何故じゃ!何故その子の写真のデータが入ったメモリーガードが添付されておらんのじゃ!これは、職務怠慢ではないか!何の為にデジカメを持たせたの思っておるのだ!あの戯け共!」

 マロ爺の言を"たわけた事"と判断したカラス天狗はマロ爺を無視して話を続ける。

「はい。現在は、狩りに参加したり、子供の世話をしたりと手伝える事を手伝っている状況です」

「なるほど。ありがたい事に外の情報を持っていたのは重畳ですね」

「そうですね…。それでこちらでは何か変わった事はありましたか?」

「変わった事…そうですねぇ。ダークエルフと言うまた別のエルフさんから接触があった位ですかねぇ」

「ダークエルフですか!?」

「ええ、アレは、貴方達が、里を出た翌日の事でしたね…」



 その日、あやかしの里は、霧惑いの結界が解かれるという事態から、ようやく落ち着き取り戻し始めていた。

 でも、霧惑いの結界が解かれた事により、里の雰囲気が変わっていた。特にメインストリート。

「まるでマロ爺の言っていた和風MMORPG風の世界になってしまいましたねぇ」

 メインストリートに面した茶屋で三時のお茶を飲んでいた山ン本は、その光景を見てそう呟いた。

 山ン本の目の前を、薙刀を持った坊主や、重そうな胴丸を装備した鬼達が闊歩していた。彼らは、里の周りの森を巡回して、外から入ってくるモンスターを駆除する役目を負った妖怪達だ。その為、以前は禁止されていた里内での武装を許可されていた。

 本来ならこれだけ物々しければ、里の雰囲気が殺気立った感じになりそうなものだが、そう殺気立っているの者はおらず、それが余計にゲームの中っぽさを際立たせていた。

「調査隊の皆さんは無事だといいのですが」

 そう呟くと、お茶を一口啜り、空を見上げた。二つの調査隊が出発したのが、まだ昨日とはいえ、殆ど何も知らない異世界では何が起こるかわからない。心配のし過ぎという事は無い。

「おや?あのカラス天狗は…」

 里の上空をカラス天狗が飛んでいるのは別に不思議な事ではない。日常的出来事だ。だが、空を飛んでいたのは、双子富士へと向かっていた調査隊のカラス天狗だった。

「昨日出たばかりだと言うのに早ですね。…もう何か見つけたのでしょうか?」

 山ン本は、お茶を飲み干すと、懐から財布を取り出して、お茶の代金を緋毛氈(ひもうせん)の長椅子に置き、立ち上がった。

「御代は置いておきます!」

「あいよっ!毎度あり!」

 最後のに茶屋の奥に居るお歯黒べったりに声を掛けると、山ン本は、自分の屋敷に向かって歩き出した。


 屋敷に帰ると、やはり帰ってきたカラス天狗は、双子富士の調査に向かっていたカラス天狗だった事が分かった。

 山ン本は、帰還したカラス天狗から報告を受けた。


 報告を受けるのは、山ン本の屋敷にある古式ゆかしい書院造の書斎だ。山ン本は、書院と呼ばれる明り取りの窓の前に置かれた文机の前に座り、静かに報告を聞いた。周囲には、巻物や、色々な事が書かれているコピー用紙が山のように積まれている、

「…それは、海が見つかったという事ですか?」

「いえ、それが海かどうかは…まだ。ただ端の見えない巨大な湖や、川の可能性もありますので…。そこに溜まっている水が塩辛いかどうかまだ確認しておりません。今頃本隊が調査に向かっていると思います」

 カラス天狗は、文机の反対側に正座をしている。

「それもそうですね。どうも私は日本基準で考えていたみたいですね」

「のお。何か見つかったのか?」

 そこへ、マロ爺声が聞こえてきた。

 声のした方を見ると、襖が少しだけ開かれ、マロ爺が書斎を覗き込んでいるのが見えた。

「マロ爺ですか…。いえね。海らしき物が見つかったんですよ」

「はい、双子富士を越えたあたりで発見しました」

 カラス天狗は、手を付いて体をずらすと、マロ爺のほうを向いた。

「おお、そいつはめでたいのう。で、新たな集落とかは見つけたか?」

「いえ、それはまだ見つけておりません」

「そうか…残念じゃのう」

 その時、輪入道の輪の助が、庭に転がり込んでくるのが見えた。相変わらず車輪が燃えている。焦っているのか珍しく汗をかいていた。

「里長!北の森でモンスター退治をしていた者達から、緊急の報告です。お客さんが来たそうです!」

「お客さん?エルフですが?」

「どうやらエルフらしいのですが、ちょっと違うようで浅黒い肌をしているそうです。本人達はダークエルフだと言っておりました!」

「何と!ダークエルフじゃと!それは本当か!」

 マロ爺は飛び上がって喜んだ。そして、襖をスパーンと開くと庭に面する廊下に駆け寄った。

「ダークエルフとは?」

 一方山ン本は、落ち着いてダークエルフと言う未知の種族についてマロ爺に質問した。

「ワシの知識じゃと、エルフと敵対しているエルフと言った感じかのう。何ちゅーか性格が正反対みたいな」

「…何か能力に違いでもあるんですか?」

「う~ん。確かそう違いは無かったはずじゃ。ただ…」

「ただ…なんです?」

 そこでマロ爺の鼻の下がデレッと伸びた。その表情の変化を間近で見た輪の助は、なんともいえない表情になった。

「普通のエルフと違ってナイスバディ何じゃ!」

「…そうですか。では、お会いしに行くとしましょう。おっとちょうどいい」

 何か、気持ち悪い顔でビシリと言ったマロ爺を放っておいて、山ン本が立ち上がると、庭に面した廊下に出て空を見上げた。そこにはちょうど良く、空に真っ白い木綿の布が飛んでいた。

「一反木綿!私を乗せてください!」

 ちょうど良いと思って、山ン本は手を上げてその布…一反木綿を呼ぶ。

 一反木綿は、その名の通り一反の木綿の布の姿をした妖怪だ。鹿児島県肝属郡高山町に伝わる妖怪で、夕暮れ時に空をヒラヒラと飛んでおり、人を見つけると、顔や首に巻きついて襲ってくるという。最近では、関東方面でも目撃証言があるらしい。

 この里では気ままに空を飛んでおり、お願いすれば希望の場所に運んでくれるタクシーのような仕事をしている。

「なんじゃい。何処まで運ぶんじゃい?」

「ちょっと、北の森まで乗せてください。お客様が来ているようなので。詳しい場所は、輪の助が知っていますから彼についていってください。輪の助、お願いします」

「まかせんしゃい!」

 山ン本が、一反木綿の背に跨ると、一気に一反木綿が浮上する。

 その時、ダークエルフの登場に浮かれていたマロ爺が正気に戻った。

「ちょっ!待つのじゃ!ワシも!ワシも乗せてくれぇ!」

 それに気がついた、マロ爺が、呼び止めようとするが、山ン本の「かまわないから行ってください」の一言で、合えなく無視された。

「山ン本~~~!待たんか!おぬしだけダークエルフと出会うなんて許さんぞ!山ン本~~~!」

 あやかしの里にマロ爺の叫びが木霊した。


 正味五分も無い空の旅を終える。

 ダークエルフが待っている場所はちょうど里の中心部にある御山の裏にあたる場所だった。一応お客さんであるダークエルフを驚かせない様に、と一応の配慮だ。

「ありがとうございました」

「気にせんで下さい」

 一反木綿の背中から礼を言って降りると道案内してくれる輪の助に聞いた。

「それで、ダークエルフの皆さんはあちらに?」

「へぇそうです」

「分かりました、貴方もここまでで、いいですよ。後は私一人で行きます」

「では、失礼します」

 輪の助にダークエルフの居る方向を確認すると、一人で歩き出した。輪入道の姿は、初見だとかなりインパクトが強い。いきなり連れて行って警戒されるのは困るので先に帰ってもらったのだ。

(第一印象は、なるべく良くした方がお得ですからね)

 少し歩くと、山ン本の前方からなにやら騒がしい声が聞こえてきた。それはどう聞いても、冷静に話し合っているという雰囲気ではない。

(何事ですか?まさか、うちの者と何か面倒ごとでも起きて無いでしょうね!?)

 思わず、駆け足でその音の発生源へと山ン本は向かった。下駄を履いていた事が災いして、あまりスピードが出ず、山ン本は焦った。

(いきなり、交戦状態とか勘弁してください!)

 草を掻き分け、音の発生源についた時、山ン本は見た。


 ダークエルフと思われる人達と完全強面系妖怪達との酒盛りをしている現場を。

「いぇ~い!牛鬼、一発芸やります!」

「「「「「おおおおおおおおおおいええええええええええ!」」」」」

「は?」

 それを見た瞬間、山ン本は珍しく思考停止した。



「はぁ!?酒盛りしてたんですか!?」

 その話を聞いていた。カラス天狗は口が開きっぱなしになった。

「そうですよ。朱点、青坊主、女郎蜘蛛、牛鬼、土蜘蛛と一緒にね」

 その時の事を思い出して、山ン本は呆れたように方をすくめた。

「うわ、それって里きっての強面って言うか怖い外観の皆さんですよね。本当に酒盛りをしてたんですか?」

 はっきり言って、初見で恐ろしい怪獣に出会って仲良くしようと思うだろうか?普通なら否だ。だが、ダークエルフと呼ばれる種族はそれをいとも簡単にこなした。それは、怖がられる事が常だと考えていた山ン本に、未知の恐怖を喚起させるのに十分だった。

「ええ、私も最初は何かの冗談かと思ったんですが。どう見ても楽しそうに酒盛りしてるようにしか見えませんでしたねぇ」

 山ン本は、腕を組んだ。

「たしかエルフって排他的って聞いてましたけど?」

「ええ、確かにそうでしたね。サナリエンさんの時は、彼女がいきなりアオキに襲い掛かってきたそうですから…」

「それもどうかと思いますが、いきなり酒盛りとかも如何なものかと思います」

「仕方が無いでしょう。私が行った時には、もう始まってたんですから…」

「それからどうなったんですか?」

 カラス天狗はその続きを聞いた。

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