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異世界物怪録  作者: 止まり木
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第十九話 アオキVSオーガ

 ミシリとオーガの腕が悲鳴を上げる。不意の痛みに、オーガはサナリエンを放して、掴んでいるアオキの手を振り払う。そしてそのままバックステップでアオキから距離をとった。

 サナリエンの体は、手を離されたことにより、地面へ落ちそうになるが、アオキが抱きとめ、ゆっくりと地面に下ろす。


 アオキは、サナリエンが出て行った後に直ぐ追いたかったが、山ン本に言われて武器を取りに屋敷の蔵まで取りに行っていた。だが、そこで武器を出すのに手間取ってしまい、おかげでカラス天狗が報告した場所には、エルフの姿は無く、変わりに大量のモンスターの死体しか、残っていなかった。当然サナリエンの姿も無かった。どうしようかとアオキが悩んだ。木霊に聞こうとも思ったが、その場所には戦闘を恐れて、みんな避難してしまっていた。

フォオオオオオオオオオオオオオン!

 そんな時、アオキに耳に里ので使っている鏑矢の音が聞こえた。

 鏑矢とは、矢の先端に鏃ではなく鏑と呼ばれる笛のような物を取り付けた矢のことだ。その矢を射ると鏑に空気が流れ、笛のような音を出しながら飛んでいく。

 アオキが聞いたのは、サナリエンが最後に射った矢だった。聴いた瞬間、その方向に向かってアオキは全力で走り出した。

 そして見つけた…。

 オーガにつかまれたサナリエンを。


「大丈夫か?」

「うっあっ」

 薄く開いたサナリエンの目に、アオキが映ると、目を大きく見開いて驚いた。その目には、ありありと何で居るの?と言う疑問が浮かんでいた。

 その間にも、アオキは、背後に居るオーガを無視して、サナリエンの体を簡単に診察した。


 アオキは、簡単な医療知識を持っていた。実はあやかしの里では、山ン本の方針で、里の住人達が暇な時に色々な知識を勉強する寺子屋みたいな物をやっている。その知識の中に救急救命もあり。アオキは、その授業を受けていた。あやかしの里の寺子屋に通っている妖怪の数は意外に多く。長い生の中で日々に飽きてきた妖怪達に人気だった。(もちろん行かない奴も居る)妖怪にゃ学校も試験も無いが、その分暇なのだ。


「大丈夫…ではないな。酷い傷だ」

 頭からは血が流れ、左腕は折ている。全身に打撲、肋骨にも罅が入っているかもしれない。それに吐血していることから、内臓にもダメージが入っているだろう。一言で言えば酷い状態だった。

「な…んで?」

「ここで、おとなしくしていろ」

 アオキは、サナリエンを安心させる様に微笑む。微笑むのを見るとサナリエンは気を失った。

 それを確認するとゆっくりと彼女の体を横たえさせる。


「お前がやったんだな?」

 アオキの声には、静かな怒りが滲んでいた。もしこれが、ただの戦闘での負傷であれば、怒りは湧かなかっただろう。エルフ達はモンスターを問答無用で殺し、モンスター達はそれに全力で抗う。それは当然の事だ。だが、サナリエンの様子を見て気付いた。サナリエンが、オーガによって遊び半分で痛めつけられていた事に。

 アオキが振り向くと、オーガはアオキを警戒して様子を見ていた。

「ナゼダ!ナゼ邪魔ヲスル!ソレハ俺ノ獲物ダ!」

 オーガは、角の生えているアオキを同族だと思っていた。

「喋れるのか…。悪いが、彼女は俺の護衛対象だ。やらせるわけには、いかん」

「オ前モ、オーガダロウ!ソイツハ敵ダ!」

「俺はオーガでは無い。鬼だ」

「敵カ!?」

「これ以上、彼女を襲うなら、そうなるな」

「ナラ死ネ!」

 そういうや否や、オーガは棍棒を振り上げて、アオキへと襲い掛かった。

「こんなのと一緒にされていたとはな…」

 オーガのあまりにも単純な思考にアオキは呆れた。

 魔物の中でも喋れるだけ上等な知能があるといえるのだが、オーガに理性と呼べるものは殆ど無く、見境無く他のものに襲い掛かるので魔物扱いなのだ。


 アオキは蔵から持ち出して来た自慢の武器、金砕棒を構えた。

 金砕棒とは、御伽噺などで出てくる鬼が持っている金棒の事だ。長いバットのような形状の金属棒で、持ち手以外の側面に棘が規則正しく並んでいる。殴られれば、いかにも痛そうなあの武器だ。

 アオキは、オーガの攻撃を受け止めるべく、金砕棒を両手に持って横に構えた。

 その姿を見て、オーガは馬鹿めと思った。全力で振り下ろした棍棒を受けて、無事だったものは皆無だ。このまま、オニとか言う奴を叩き潰して、その後ゆっくりとあのエルフを喰ってやる。そう思っていた。

 金砕棒にオーガが全力で振り下ろした棍棒が叩き付けられる。

 ゴズン!

 叩きつけらた棍棒が軋み、アオキの足が地面に埋まる。だが、それだけだった。アオキは押し潰されるどころか、平然とオーガの一撃を受け止めていた。勝利を確信していたオーガの顔に驚愕に染まる。

(ここで戦うと、彼女に危険が及ぶな…)

 オーガの驚愕など、お構いなしに、アオキは、受け止めた棍棒を跳ね除ける。跳ね除けられたオーガはたたらを踏みながら、後ろに下がる。その隙にオーガの懐に入るとがら空きの腹に強烈な前蹴りをお見舞いした。

「ふん!」

「ガフッ!」

 アオキと変わらない巨体のオーガが面白いように飛ぶ。しかも、アオキは器用にも、オーガの体が木に当らないように、飛ぶ方向すら計算に入れた蹴りだった。

 オーガは、一度地面にバウンドすると、体勢を無理やり立て直し、四足の獣の様に地面に手足をつけてブレーキをかける。それでもオーガが停止するまでに5メートル程、地面を削ってやっと停止した。

「グゥウウウウ!」

 停止したオーガが顔を上げると、そこにはもう金砕棒を振り上げ、追撃体勢に入ったアオキが迫っていた。近くに落ちていた棍棒を拾うと、即座に防御の為に横に構える。

 先ほどとは、攻守の逆転した光景だ。

 オーガは自分に防げないとは思ってはいなかった。目の前にいるやつが出来たのだ。自分に出来ないはずは無いと。

 バキっボギン!

 アオキが金砕棒振り下ろすと、オーガが構えた巨大な棍棒はいとも簡単に砕けた。金砕棒の勢いは止まらず、オーガを叩き潰す…事は無く地面に小さなクレーターを作る。

 棍棒が折られた事を悟ると直ぐにオーガは、棍棒の柄を放し、握りこぶしを作るとアオキに殴りかかった。今ならアオキは、振り下ろしたばかりの金砕棒を直ぐに持ち上げる事は出来ないと判断したのだ。

 ベギィ!

 オーガの拳は、アオキの顔面へとクリーンヒットした。

「グフフ…?」

 勝利を確信した、オーガだったが、その手ごたえがおかしいことに気がついた。良く見れば、オークの拳はアオキの顔面ではなく、正確には額に当たっていた。それに本来なら首がもげてもおかしくは無いはずの拳打だったにもかかわらず、アオキの頭は、変わらずにそこにあった。恐る恐るオーガが拳を引くとそこには、傷一つ無いアオキが立っていた。自分の拳打をまともに受けて平然としている相手なんて、オーガは知らなかった。

「それがどうかしたか?」

 その一言がトリガーとなり、オーガは無数の拳打をアオキへと繰り出す。

「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

「いいだろう。素手で相手してやる」

 アオキは、地面に突き刺さった金砕棒を離すと、拳を握り、同じように拳打を繰り出した。

 硬い肉と硬い肉がぶつかり合う音が森に響く。

 驚いたことに、アオキは、オーガの繰り出す連続拳打に対して、そのすべてを同じ拳で迎撃していた。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!

 それはもう、どちらの拳が先に壊れるか競うチキンレースだった。とはいえ、勝敗はとうに決まっているが。

 打てども打てども、アオキの体にオーガの拳が当たる事無く、変わりにオーガの拳が自身の血に濡れていく。

 その時、オーガの心に始めての感情が芽吹いた。"恐怖"だ。拳打を打てば打つほど、迎撃されればされるほど、その芽は育っていく。

 芽が大きくなれば、結末は同じ、爆発するように花開く。その瞬間オーガは、拳打をやめ、地面に突き刺さったままだったアオキの金砕棒に血まみれの手を伸ばした。

「アアアアアアアアアアアアアアア!」

 オーガが、自分が使っていた棍棒より何倍も重い金砕棒を火事場の馬鹿力で振り上げると、全力を超えた力で振り下ろした。

 ドンッ!

 だが、金砕棒を振り下ろしたオーガは、最後の絶望を知った。

 オーガの振り下ろした金砕棒を、アオキは片手で軽々と防いでいた。

「つまらない事をするな」

 オーガは悟った。自分は、遊ばれていたんだと…。気付いたところでもう遅い。何故なら、目の前にアオキの拳が迫っていたからだ。

 グシャ!

 

「ううん。…こ・こは?」

 彼女は、厚手の敷物の上に寝かされていた。

 場所は森の中、まだ、サナリエンが気を失ってからそれほど時間は立っていないようだった。

「おお!サナリエンちゃん気がついたか!良かった良かった!」

 サナリエンの顔を覗き込んでいたマロ爺が快哉をあげた。

 サナリエンが気がついた時、彼女は心配そうにしている妖怪達に囲まれていた。囲んでいるのは、アオキにマロ爺、カラス天狗、そして河童。

 マロ爺が、サナリエンが心配だと騒いで、カラス天狗と河童を引っ張って彼女を追いかけてきたのだ。

 河童は、横になっているサナリエンに塗り薬を塗っていた。

 河童が塗っているのは"河童の妙薬"といわれる薬だ。打ち身、打撲、骨接ぎに良く利くと言われている伝説の薬。

 心配そうにしていると分かっているのは、彼女が少ない時間でも里で生活したおかげだろう。この世界の住人から見たら、化け物が囲んで獲物の品定めをしているようにしか見えない。

「無茶をするな。寝ていろ」

 サナリエンのそばに立って、顔を覗き込んでいたアオキが言った。

「あっアオキ!大丈夫か!あの後…。グッ!」

 サナリエンが思わず周囲を見回す為に起き上がろうとした時、左腕に激痛が走った。サナリエンが左腕を見ると、奇妙も曲がっているのが見えた。

「無茶をしてはいかん。まだ寝てるんじゃ」

 マロ爺が、サナリエンの肩を押さえつける。大した力は無かったが、それだけでサナリエンは起き上がろうとする事は出来なくなった。

「大丈夫だ。あのオーガは倒した。だから今はゆっくり休め」

 アオキがそう言うと、サナリエンは、安心して体から力を抜いた。

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