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(12)さようなら武司君 2

転生人生の転機。この先HP1でもやっていけるか否かを試すため、初心者用ダンジョン、カンターンの地下迷宮第三層を攻略するが、そこに待っていたものは中級パーティーをも粉砕する階層ボスだった。


 痛恨の範囲魔法、バッシュ失敗。

 撤退を意識した際の油断が原因だ。

 くっそ! 

 詠唱が速すぎてタイミングが狂った。

 もしかして詠唱時間にバッシュ無効の時間帯があるのか?

 黒い精霊が足元を這う。

 エフェクトが発動して俺は死を意識した。


 「さようならみんな」


 「ありがとう」


 

 「兄貴! しっかりして! また魔法来る!」

 クロイツが盾で俺を小突く。

 「クロイツ、なんで俺、生きて?」

 「いいからバッシュ!」

 「リキャスト…間に合わない!」

 状況はすぐに飲み込めた、足が動かない。

 死神は黒魔法のバインド(呪縛)を範囲で掛けたのだ。

 その後、必殺の範囲攻撃魔法が来る。

 コレでグランベさんたちがヤラれたんだな?

 リポップする眷属にバラバラにされて、攻撃も効かず、範囲魔法で削られる。

 バインドで身動き取れない所に背後からリポップされたら総崩れだ。

 幸い、クロイツがメイジを『あえて倒さない作戦』が功を奏した、なんとか持ちこたえられる。この範囲魔法をバッシュさえできたら。


 「詠唱長い、範囲魔法だ、武司君さん、行けそうかい?」

 「楊さん、もう少し! バッシュ! 成功!」

 なんとか範囲攻撃魔法をバッシュの効果であるスタンで中断させた。

 「楊さん、このバインドっていつまで?」

 「わからない、が戦士と司祭さんが逃げられたって事は効果時間が必ずある」

 「それまで逃げられないって事か」

 「最悪、倒さないと出られないかもしれないね」

 「盾が持つか、アントンが削り切るかか…」

 盾の耐久度が心もとない、次の連携攻撃の間に盾を交換しておこう。

 

 攻撃によるヘイトでたまにアントンにタゲが行く。

 攻撃が当たるとエグいダメージがアントンを襲う。

 すぐにタゲを固定しなおすが、ジェシーの治療が間に合わないかもしれない。 

 バインドはいまだに続いている。

 動けるのはジェシーとタムラさんだけ。

 あとは固定され、動けない。

 「こりゃあ、控え目に言って地獄だな」

 「まあ、今までもそうでしたしね」と楊さんが笑う。

 「武司君、バインドが切れたら徐々に後退しよう」

 「ですね」

 とバインドが切れるのを待つ。

 死神のHPは三分の一まで削れているが、この後の暴走モードは予備知識が無い。

 なんとか暴走する前に撤退したい所だった。

 「HPが五万とかあればボスの行動パターンまで偵察するのにな」

 「武司君さん、無いものねだりという奴です、そろそろ暴走モードに入ります。アントン! 攻撃中止、暴走状態になる前に撤退します!」

 「承知!」

 とアントンが攻撃をやめたその時、二回目のバインド。

 「重ね掛けすんのか?」 

 「そのようですね」と楊さんが状況を確認する。

 戻ってきたタムラさんがバインド。その位置からだと何もできないという位置で固定される。

 「ジェシーは?」

 「君の後ろだよ武司君!」と真後ろから声がする。

 「それより範囲来る! バッシュ!」

 「了解!」とバッシュに成功する。

 命の綱渡りだ。

 「しばし防御で耐えましょう」的確に指示する楊さん。

 鎌をジャストガード、鎌をジャストガード、鎌をジャストガード、単発魔法バッシュ、鎌をジャストガード、鎌をジャストガード!

 「うあああ、こいつ止まらん、楊さんバインドの効果時間わかった?」

 「多分、5分以上でそこから各自レジストに依存かな、リキャストの方が速い、ある程度削ったら逃げられない仕様らしい」

 「二回目、バッシュのタイミングばっちりだと思うんだけど止められない」

 「無敵詠唱かもしれません、デバフの魔法の場合、たまについてる事が」

 「じゃあ、バインドは止められないって事?」

 「二回ではどうかわかりませんが可能性ありますね、リキャスト考えるとバッシュせずに次に来る範囲攻撃に備えたほうがいいかと」

 「それってつまり?」

 「逃げられない…って事ですね」

 「マジか、でも覚悟決めないと盾が尽きる」

 「通常攻撃でも微妙に耐久度減ってますね、もしかしたら追加効果防具破壊とかあるかもですね」

 「最悪だなオイ」

 「どうします?」

 「覚悟決めないと全滅かもな、すまんみんな俺がグランベさん助けようと思わなければ」

 「何言ってるの? 責任感じてた私の為に助ける事にしてくれたんでしょ? 武司君」背中のジェシーが涙声だ。

 「そんなんじゃねえよ、まあ恩義を返すってやつだ気にすんな」

 「着いてきたオレらも自己責任でしょ? 兄貴」

 「最初カラ、攻略ニ来テマシタカラ、ノープロブレム! 問題ナシネ」

 「うむ同意」

 「作戦参謀の私にも責任ありますよ、武司君さん」

 みんなの意思が固まった。

 「最後まで行くか、最後の作戦会議だ!」

 俺達は暴走モードになる直前を維持したまま作戦を練ることにした。

 「なんか意見を」

 「あ、盾で殴るの効果あるかも、鈍器だし」とジェシー。

 観察してると、バッシュ時に微ダメがある。

 「盾は鈍器…ありかもな。ほかに意見! っとあぶねジャストガード!」

 「バインド解けた人は申告してください、背後に回りましょう、背後からなら優位性追加効果で少しはダメージ通るかもしれません」

 「武司君、盾は?」

 「あと2枚…今からならギリ間に合うと思う」

 「暴走モード来たらヘイト無視ランダム攻撃来ると思うので、タムラさん退避しててください、あとジェシー、武司君を頼みます」

  ジェシーは無言で頷く。

 「なにそれ?」 

 「後ろで応援するって事」

 「お前なぁー」

 「だって動けないんだもん」

 「まあしゃあねえ、オレの後ろにくっ付いてろ、心配すんなって」

 「武司君、大好き❤」と後ろから抱きしめて来る。

 「はいはい」と俺は本気にしない返事をした。いつもの女狐だ大丈夫。


 アントンが攻撃に参加するとすぐに暴走モードになる。

 HPが1/3を切った証拠だ。

 ヘイトを無視してランダム攻撃が来る。

 少し離れた位置でメイジを抑えているクロイツと、タムラさん以外に攻撃が降りかかる。

 「アントン!」

 「平気だ!」

 「楊さん、生きてる!?」

 「大丈夫です! それより範囲魔法!」

 治療スキル持ちのジェシーがバインドでオレの後ろに居るため自前のポーションをがぶ飲みする。

 「この詠唱、バインドだ」

 「捨てて範囲攻撃をバッシュ!」

 バッシュ成功! 範囲の攻撃魔法がどの位の威力か知りたいが、どっちにしろ俺は喰らったら死ぬ。問題はみんなが生き残れるかだ。

 鎌・ジャストガード・鎌・ジャストガード!

 鎌・ジャストガード・鎌・ジャストガード!

 見た事ないモーションの鎌・ただのガード!

 「マジか、攻撃パターン変えて来やがった!」

 「武司君、注意してください、また鎌!」

 鎌・ジャストガード・鎌・ジャストガード!

 鎌・ジャストガード・鎌・ジャストガード!

 大振りモーションの鎌・ジャストガード!

 鎌鎌鎌! 

 くっそ連続攻撃。

 鎌鎌鎌!初撃ジャストガード!

 連続攻撃の1発目をジャストガードすると体勢が崩れて連携してこない!

 大振り鎌・ジャストガード!

 「呪文詠唱! 単発!」

 「シールドバッシュ!」

 「呪文!」

 「バッシュ!」

 鎌鎌・ジャストガード・鎌・ジャストガード!

 鎌・ジャストガード・鎌・ジャストガード!

 大振りモーションの鎌・ジャストガード!

 見えてきた、攻撃パターンが見えてきた。

 大振り攻撃は盾の耐久度が下がるから防御貫通だ、しかし大振りだからタイミングさえとれば問題ない。

 「武司君さん、あと1割!」

 「最終攻撃来る?」

 パターンが解らんが、来た攻撃は全部ジャストでガードするしかねえ。

 「正念場だ、声出して行くぞ!」

 「詠唱!」

 楊さんの指示が的確だ。

 「バッシュ! 成功!」

 「また詠唱!」

 「なんだ魔法で暴走する気か? バッシュ!」

 俺は盾を握りしめガードを繰り返す。

 「しかしスタンからの回復速えぇなコイツ!」

 「魔法暴走ならバッシュできる人数が多い分助かりますね」

 「このまま行けるかもな」

 「そう願いたいですね…」


 しかしここにきて事態は急変する。

 「兄貴! コイツ死んじゃった!」とメイジ担当のクロイツが叫ぶ。

 一瞬誰が? と思ったが横を見ると崩れるスケルトンメイジ。

 シールドバッシュで微ダメージがあるってさっき確認したのだが

 あまりにも微ダメなので見落としてた。

 「ジェシー、リポップ時間!」

 計画が崩れる。どこにポップするかわからないし、どっちが来るかわからない。人数的に片手剣スケルトン2体のほうがヤバいが、遠くにポップされて背後から魔法攻撃も拙い。

 「わかったわ、教える! 今から30秒!」

 「タムラさん、周囲警戒!」

 「私バインドレジストヨ、引キウケル!」

 自由に動けるのはタムラさんだけ、HPが低いので出来ればホントに片手剣タイプはやめて欲しい。

 「耐えててくれタムラさん!」

 「リョウカイヨ、任セテ」

 「クロイツがバインドで動けない、そこまで引っ張ってくれ!」

 「アイヨ!」

 「武司君さん、暴走モード!」楊さんが叫ぶ。

 「武司君、リポップ来るわよ!」

 どこだ、どこに現れる?

 意識を拡散できるような状況ではないが、一つ間違うと全滅もあり得る。

 「タムラさん、ボスの後ろにメイジ!」ジェシーがオレの脇から手を出す。

 良く見えたな。と感心した。

 「やった、メイジだオレの所に連れてきて!」

 タムラさんはボスの後ろに回りタゲを取った。

 メイジの詠唱が始まる。

 「タムラさんバッシュだ!」

 「了解ヨ!」とバッシュを試みる。

 しかし失敗。

 メイジの攻撃魔法がタムラさんを襲う。

 「タムラさん、ダメージは?」

 「心配ナイ、レジストシタ!」と笑顔だが、ステータスが見える俺には解る。HPバーが赤い。ほぼ即死級のダメージだ。

 「回復してください!」と声を出すのが精いっぱい。

 鎌をガード、鎌をジャストガード、鎌をガード。

 リズムが乱れてジャストガードを失敗する。

 気にしている余裕もないが「タムラさんナイス」とクロイツの声で上手く行った事が解る。

 「あと一息だ!」と俺が叫んだ瞬間。

 「武司君、スケルトン武器、二体!」と後ろのジェシーが悲鳴を上げた。

 ここにきて眷属スケルトンが三体だと?

 楊さんが一体引き受ける。

 アントンは…駄目だアントン以外、ボスにまともにダメージが出ない。

 ジェシーは俺の背後から動けない。

 詰んだ…か?

 俺は楊さんを見る。楊さんは無言で頷くと叫んだ。

 「みんな、とりあえず眷属どうにかして立て直そう!」

 「おう!」×5

 

 タムラさんは虎の子のポーションを呑んで回復。楊さんと1体処理。

 ジェシーが後ろから聖水を投げる。

 相変わらず準備が良い、隠し持ってたのかホント女狐最高だな。

 「高いのよ聖水!」と心の声が聞こえたのか後ろで笑っている。

 「最高だよジェシー!」

 「ホレた?」

 「んなわけねえだろ?」

 「あら残念!」

 鎌の攻撃が止むころ、魔法が来る。

 ジェシーの聖水を喰らって怯むスケルトン。

 行ける。

 鎌、ジャストガード、鎌ジャストガード、鎌、ジャストガード。

 俺は一瞬、慢心した。

 ゲームじゃないと分っていたのにも関わらず、攻撃パターンとか…ありえないだろ?

 そんなもの、プログラムじゃないんだ、法則なんてない。

 死神の手に高速詠唱の火の玉が生成される。

 ジャストガードと身体が勝手に防御を選択する。

 火の玉はジャストガード以外では物理防御無効だ。

 タイミングが合わない。

 飛んできた魔法を打ち落とすのは至難の業だ。

 僅かにリキャストが間に合わない。

 死?

 死を覚悟したオレの前に、バインドで動けない筈のジェシーが現れる。

 「庇う!」戦士のスキルにもある「庇う」のスキルだ。

 ジェシーの全身を炎が舐める。

 続いて鎌の攻撃が来る。

 安い木の盾で何回防御が出来るか?

 「うわああああ、ジェシー!」

 情け容赦のない鎌の攻撃はジェシーを切り刻む。

 瞬く間に盾は壊れ、HPバーがオレンジに変色していく。

 それでも死神は攻撃をやめない。

 それはそうだ、戦ってるんだもんな俺達。

 とっさに楊さんがジェシーを庇う。

 それは片手剣のスケルトンに背を向ける行為だった。

 スケルトンの片手突きが楊さんの脇腹を貫く。

 それでも楊さんは倒れたジェシーに覆いかぶさるように倒れジェシーを抱きしめた。

 俺の足はバインドで動かない。

 楊さんは追い打ちの鎌を喰らう。

 エグいダメージが入ってHPバーが減っていく。

 なのに俺は動けない。

 ジェシーと入れ替わったせいで、いや入れ替わってくれたから生きているんだ。何か探せ!

 何か!

 死神の鎌が大きく振りかぶられる。

 この位置からバッシュは届かない。

 「タケシクンサン! バッシュイキマス!」

 死神の背後に居た!

 タムラさんだ!

 盾スキルの低さを背後からの位置有利でカバーしたのだ。

 しかし眷属のスケルトンがタムラさんに向かっていく。

 死神を振り向いた。

 アントンがタムラさんに割って入る。

 駄目だ、アントンが抜けたらこいつを倒せない。

 庇ったアントンが倒れる。

 タムラさんを庇って打ちのめされた。

 血だらけで転がるアントンの手から戦斧が落ちる。

 クロイツも魔法を喰らって燃えた。

 危機に、恐怖に筋肉が硬直してバッシュが失敗したのか?

 ただでさえ少ないHPが激減する。

 クロイツ! アントン! 糞、思いつかない!


 まだ誰も死んでいない。

 まだ誰も死んじゃいない、考えろ!

 考えろ!


 考えるな、動け!


 「ヘイトボルケーノぉおおおおおおおおおお!!」

 俺は全ヘイトを自分に向かわせた。

 全て弾く、魔法も、攻撃も、バッシュは自分にも隙が出来る。

 そう、俺には最初からこの戦い方が性に合っている!

 鎌・ジャストガード! 魔法の詠唱の前に片手剣・ジャストガード!

 鎌・ジャスト! 魔法来た! ジャスト! 片手剣・ジャスト!

 鎌・ジャスト! メイジの魔法? 先に片手剣・ジャスト!

 魔法もジャスト! 鎌もジャスト! 

 正面からならすべて受けきる!

 ジャスト、ジャスト、ジャスト、ジャスト!


 受けきった時に一瞬の静寂が訪れる。

 ジャストガードの仰け反り判定が重なった瞬間だった。

 交互に繰り出された攻撃の波長が合った。

 刹那が永遠に感じられる。

 「みんな、ありがとな」

 

 「真!!(人力)ヘイトボルケーノ!」

 俺は盾を振り回した。

 盾は鈍器だ、防御を打ち捨てタワーシールドの耐久値限界まで振り回し続ける。

 盾が壊れるか、俺が壊れるか、お前らが死ぬか勝負だ!

 「うりゃああああああああああ!」

 盾が骨を砕く、盾が骨を砕く、盾が骨を砕く、盾が骨を砕く

 盾が骨を砕く、盾が骨を砕く、盾が骨を砕く、盾が骨を砕く

 盾が骨を砕く、盾が骨を砕く、盾が骨を砕く、盾が骨を砕く 

 盾が骨を砕く、盾が骨を砕く、盾が骨を砕く、盾が骨を砕く

 盾が骨を砕く、盾が骨を砕く、盾が骨を砕く、盾が骨を砕く!

 

 ババン!と音がして盾が砕けた。

 

 死神は残っている。

 メイジは砕けた。 片手剣の奴も砕けた。

 

 もう何も残っていない。

 CON値のメーターがオレンジだ。

 もう何も振るえない。

 指一本動かせない。

 アントンは倒れた。

 クロイツも倒れた。

 楊さんはジェシーを庇う様に倒れている。

 ジェシーは動かない。

 くっそ。

 俺が、あの時俺が、くっそ。

 ジェシーの責任を感じた顔が浮かぶ。

 なに、お前のせいじゃねえって。

 俺が甘かったんだって。

 盾もない、持久力も残っていない。

 空っぽだ。

 動けば死ぬ。

 動かなくても死ぬ。

 目の前で死神が範囲魔法を唱えている。

 バインドからの範囲攻撃。

 嫌らしいな死神。

 くっそ、こんなことならジェシーの胸くらい揉んでおけばよかった。

 こんなに悲しい死なら、いっそジェシーのビンタで死ぬのも悪くない。


 バインドがかかる。もう動けないというのに。

 闇の精霊が這いまわる。

 もう動けないって。

 エフェクトが終了して俺たちはその場に固定された。

 容赦も慈悲もない。

 そうだよな、死神だもんな。

 さようなら、みんな。


 ありがとう。


 「バッシュ!」

 詠唱中の死神が止まる。

 理解の範疇を超える。

 「な?」

 死神が崩れ落ちる。

 最後の断末魔を上げて崩れ落ちる。

 「タケシクンサン!」

 「はは、ははは! タムラさん!」

 「ヤッタ! ワタシタチヤッタヨ!」


 最後のひと削りはタムラさんの背後からのシールドバッシュ。

 俺は余りの嬉しさに飛び上がりそうになったがバインドの効果で飛べない。

 脚が地面に張り付いて俺は後ろに倒れた。


 「あれ?」

 と後頭部を床に打ち付ける。

 「俺、こんなので死ぬの?」


 遠ざかる意識の中で俺は叫んだ。

 「やってらんねえ!」と。

 「でもまあ、悪くない転生だった、さよならだみんな」

 







 どうやって帰ってきたかわからない。

 なぜ生きてたのかわからない。

 頭を打ち付けて俺はダメージを受けた。

 ダメージ1、死亡の流れだ。


 何故か俺は宿屋のベッドにいる。

 これは死んでしまうとは何事だ案件なのか?

 生きている不思議。

 窓からそよぐ風を受け、髪をなびかせる女。

 よく見ると美人だ。

 リンゴを向いてくれるその美人に俺は目を細めた。

 「ジェシー、ありがとな」

 「聖水のこと? 後で割り勘ね」

 「だと思った。 じゃなくてさ」

 「なに?」

 「最後庇ってくれたろ?」

 「ああ、あれ?」

 「助かった、マジで」

 「ふふ、ホレた?」

 「ホレた」

 急に顔を赤くするジェシー。

 「な、何言ってるのよ、馬鹿ね」

 「他のみんなは?」

 「重傷者はみんな元気よ、司祭様が治療してくれた」

 「タムラさんは?」

 「役所に手続きに行ってるわ、はいリンゴ! 食べるでしょ?」

 「あ、ありがとう」

 俺は辺りを見回した。

 「コレ、夢じゃないよな?」

 「夢かもね」

 「どっちなんだよ」

 「だって武司君がホレたなんて冗談云うんだもん」

 「そっか」

 「本気にしていいの?」

 「何が?」

 腕を抓られる。

 「さっきの事」

 「俺は生きてたからさ」

 「答えになってない」

 「またみんなと冒険したい」

 「答えになってないってば」

 「お前を独り占めしたら、このパーティー解散してしまうだろ?」

 「何それ」

 「ジェシー、俺は…」

 「四の五の言わないで抱いてキスすればいいのよ」

 と唇を重ねる。

 「女狐め」

 「早く元気になって私に貢いでね」

 とジェシーは手をひらひらさせて部屋を出ていった。

 

 柔らかな唇の感触が俺に生を実感させた。

 前世で簡単に捨てた命。

 なんて馬鹿だっんだろう。

 今はこの命が大事で愛おしい。

 二度目の人生、運が悪けりゃ死ぬだけの糞ったれな人生だが…。

 

 「やるしかないでしょ女神様!」


 俺はこの世界で生きていく。

 この糞ったれな素晴らしい世界で。

  

終り


 

武司君の冒険にお付き合いしてくださいまして誠にありがとうございます。

男の子こ顔になった武司君、覚悟を決めてボスに挑みました。

試験的作品の為、いったんはここで終了ですが、またいつの日か武司君の物語を書くかもしれません。


面白いと思ってくださいった方は是非評価とブックマークをお願いいたします。




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[良い点] 面白かった コメディだけど脳筋主人公の脳筋らしい成長が見られて良かった [気になる点] ダイス1発振りは事故るから運営の責任ですねー キャラメイクは複数回振って選択かダイスの入れ替えありに…
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