(11)カスタマーセンターの担当女神様が女神だった件
ようやくこの世界に慣れてきた武司だったが、人生の岐路に立つ時が来た。
初心者用ダンジョン攻略である。
これまでと格段に違うアルゴリズムを持つ雑魚敵、そして本格的なボス攻略。
HP1ではすべてが死と隣り合わせだった。
このまま雑魚を倒して生計を立てるか、魔王討伐に乗り出すのか? 武司君決断の時!
(11)カスタマーセンターの担当女神様が女神だった件
タムラ /戦士 男 HP 22 トルコ人っぽい?カタコト
ジェシー /戦士 女 HP132 アバズレを隠し持ったサークル姫
ヤン /戦士 男 HP160 人格者で物知り
クロイツ /戦士 男 HP 62 人懐こい
アントン /戦士 男 HP132 寡黙 やさしい
タケシクン/重戦士 男 HP 1 PT期待の転生者、でもHP1
タムラ スキル:会計:1 人望:1 片手剣:3 料理:4
ジェシー スキル;交渉:3 人望:3 片手剣:2 藁竹細工:2
楊 スキル:博学:4 鑑定:2 片手剣:3 魔法知識:1
クロイツ スキル:敏捷:3 片手剣:4
アントン スキル:片手剣:4 攻撃:3
武司君 スキル:盾:15 頑強:2 カウンター:4
ダメージ軽減:40%(四捨五入)
うおおおお、みんな上がってる!
巨乳も片手剣スキル上がってる! たった2だけど。
楊さんは俺の希望で博学スキルを上げてくれた。パーティーの頭脳だ。
クロイツも戦力底上げし、アントンはアタッカー全振りだ。
ヒーラーも、魔法支援もないが初心者用のダンジョン第二階層ボスを順調に倒せるようになってきた。
なんたって、レベルがあがり、通常ダメージが少しでも通るのが大きかった。
いいじゃないか、いいじゃないか、待ってたんだよこういうの。
俺はみんなのステータスを確認しながら満足して笑った。
装備も俺意外のみんなが新調した。
今まで鉄製の数打ち片手剣(※一人ショートソード)だったのが、アントンは戦斧(大型モンスターに特効)、巨乳は、名匠のショートソード+1に、タムラさん、楊さんは鋼のロングソードになった。
防具もタムラさんが板金の胸鎧を買う事が出来た。
初心者パーリーからすると規格外に良い装備だ。
そりゃあ階層ボスを毎週倒しに行くだけある。
装備が揃うとかなり安定してくる。俺もボスの行動パターンに慣れて盾を壊すこともなくなってきた。
「なんか私たち、イイ感じよね!」と巨乳のサークルクラッシャー姫が言う。
コイツが何か言いだすとロクなことが無い。
俺は何度も死にかけた。
第六感が働かなくてもわかる、なんかトンデモナイ事を提案する前振りに違いない。
「そうですね」と楊さんが笑顔で答える。
楊さんはジェシーの提案を断らない。
「私たち、そろそろ第三階層目指してもいいんじゃないかしら?」
やっぱりそう来たか。
第三階層、それは初心者用ダンジョンと呼ばれているカンターンの地下迷宮最下層だった。
三階層と侮るなかれ、楊さんの受け売りだが本格的に敵が強くなる。
冒険者の成れの果て、アンデットやゾンビーが跋扈する。
金属鎧を装備したアンデットと戦うのも初めてだが、問題は武器だ。
みんなは知らないが俺のHPは1、レベルが低いモンスターの一撃でも死ぬ。もの人間のアンデットが生前のように戦うなら、軽いフェイントに引っかかっても即、死が待っている。
俺は空手の大会に出たことを思い出した。
いわゆる伝統派と呼ばれる流派だが、とにかく初撃が速い。
高速でフェイントをかけ、ほぼ強制的に反応させてくる奴もいる。
神経を研ぎ澄まし、相手のわずかな兆しを読んでフェイントかそうでないか見極める必要がある。
幸い、俺にはその能力が高いらしく、これは柔道にもアメフトにも役立った。勉強する頭は良くなかったが、相手がどう動くか、どう動きたいかがわかる。最凶のタックルモンスターと呼ばれたものだ。
そう、俺は輝いていた。
母さんに言われた「武司ちゃんは運動が出来るんだから」
逆に言うと運動しかない。
この世界でもそうだ。楊さんみたいに頭は良くない。
クロイツみたいに人付き合いも得意な方ではない。
タムラさんみたいに人に世話やいて陰でグループをまとめる力もない。
ジェシーがあれだけ好き勝手しててもみんなが輪になっているのは、見た目怪しいトルコ人のタムラさんのお陰だ。
余談だが、なんでトルコ人かというと赤い円柱形の帽子をかぶっているからだ。 あとドネルケバブに似た料理がおいしい。
何気にジェシーの行動力が俺たちを引っ張っている。
寡黙なアントンも余計な事を言わずに頼りになっている。
良いパーティーだとしみじみ思う。
部屋に戻った俺は、いろいろ考えた。
正直、死ぬのは怖い、死ぬのは怖いがそれを乗り越えねば。
空手の師範に『死中に活』と教えられた。
その時はなんとなくカッコいいぐらいに思えたが、今ならわかる。
死にたくない、前に進む、死ねない、乗り越える、死を俺は乗り越える!
考えすぎて頭が沸騰しそうだったが、これは逃げてはダメだと思う。
この先、この世界で生きていくなら避けては通れない事が色々あるだろう。
HP1ってのはもう諦めた。いろいろ足掻いたし、女神さまにもみっともないところを見せた。
しかし俺はこの職業で輝ける。
半端に器用貧乏な聖騎士や暗黒騎士、万能な勇者じゃなくてもやっていける。余計な事を考えずに、盾だけで、重戦士専門、防御一辺倒でいこう。
アメフトだって専門職の集まりだろ。
俺は女神様に挨拶に行った。
「こんにちわ女神様」
「なんだ? まーた悩み事か?」
「いえ、今日は挨拶にだけ参りました」
改まって頭を下げる。
「なんか今日は顔つきが違うな?」
「ええ、なんというか覚悟決めました」
女神はふむ、と考え込むと武司君の肩を叩いた。
「いつの間にかバイト敬語もやめたのか? 随分と男の顔になったじゃねえか。イイ面してる」
「俺、第三階層に挑戦してきます」
まるで魔王の討伐前のような気持ちだった。
「まあ確かに、お前にとっての試金石、お前にとってこの後どうするかの決戦だ。雑魚モンスターを倒して細々暮らすか、魔王討伐の道を目指すか」
どうせ次も泣きついてくるんだろう? と武司君を見る。
しかし武司君の目はまっすぐ女神を見つめ、真剣そのものだった。
「ホントに覚悟決めた面しやがって、男の子! って顔だ」
そう言って、女神様はほほ笑むと背筋を伸ばして俺を抱きしめた。
「ふお? 女神様?」
「これでようやく女神の加護を与えることができますね」
今までのヤンキー面は消え失せ、慈愛の笑みと光に包まれる。
「勇者、いえ、誇り高き重戦士宮本武司よ、汝に女神の加護を与えます」
「え?」
「汝の行く末に、光と栄光のあらんことを」
ステータス画面にアラートが点滅する。
画面には、「ユニークスキル『絶対の守護者』を獲得しました」とある。
絶対の守護者は攻撃を防御する際、ジャストガードを成功させるといかなる攻撃も防ぐ事が出来る。またその際、同様の効果を同パーティーに与える。
「これは? えっとなんで?」
「貴方は神からの贈り物をキャンセルしましたね?」
あの下らないお願い事のことだ。
「ああああ、ありがとうございます!」
俺は人生の大事な瞬間に「武司君って拗ねたように呼んで」というお願い事をした。まったく馬鹿な事をしたものだ。
女神様は、キャンセルを受け付け、俺に勇者の資格というか覚悟が出来るまで待っていてくれたのだ。
「折角の顔がぐしゃぐしゃですよ?」
「はいぃ、ぐ」
涙が溢れて止まらなかった。
「折角、男の顔になったんだ、しけた面すんな武司君」
急にヤンキー顔に戻った女神に背中を叩かれる。
「男が泣いていいのは女に振られた時と、友が死んだときだけだ」
そういってニカっと笑う女神様。
「ほら、営業時間はとっくに過ぎてんだ、うじうじ悩んで夜中に呼び出されたときはブッコロそうかと思ったが、まあホント、頑張れよ」
そう言って女神は俺を送り出すと空間を閉じた。
翌日、俺はパーティーメンバーに相談することにした。
第三階層攻略について。
この作品を読んでいただきありがとうございます。
次回、最終回。 好評ならいつか続編を書くかもしれませんがひとまず終了です。
あと、もう少しだけ武司君の冒険に付き合ってあげてください。
面白く感じて下さった方は是非ともブックマークと評価をお願いいたします。
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