(10)なるほど、そうか! 需要と供給。
初心者ダンジョン第二階層のボス再び?
女狐巨乳のジェシーにそそのかされて再び死地に赴く武司君。
HP1のハードフルタンクコメディー第10話
(10)なるほど、そうか! 需要と供給
俺は宿屋に戻るとマニュアルを読んだ。
店はまだ混雑する時間ではないので俺は遅い昼食を食べる事にした。
相変わらず旨い! なんの肉を使ってるかわからんけど旨いスープだ。
黒パンをちぎって食べる。炭水化物ジャスティス!
食べながらステータスウインドウを開き、マニュアルを参照する。
ここのひと達にはなんか中空を見つめて指を動かす変な人に見えるだろうがまあ気にしない。
マニュアルは初心者必須の内容が書いてあった。
俺はマニュアルなしで生き残ったことが奇跡だと思える内容てんこ盛りだった。
自分で見つけ出した『ジャストガード』は敵の攻撃があたる直前、受付時間が2フレームとある。(1/30秒)
なんか表記がいちいちゲーム臭いが、女神様によると転生者の皆様に解りやすい表記にしているとのことだ。
流石カスタマーサービスまである世界だ。
その他にも重戦士の覚えるべきスキルやアビリティーなんかも簡単に紹介されていた。
HPを増やす類のはあるにはあるが焼け石に水に感じる。
なにせ俺のHPは1なのだ。
結構最後の方にQ&Aが載っている。
よくあるご質問というやつだ。
初日にこれを読んでいればカスタマーサービスの女神様を困らせる事もなかったろう。
「まじ? 壊れる前に直したほうが格安です?」
「街にある防具工房の紹介?」
「クラフト系スキル習得方法?」
すごい、全部紹介程度だけど一気に世界が広がったようだ!
俺は独り言をぶつぶつ言い、興奮しながらマニュアルを読んだ。
とりあえず、重戦士にはHPが重要です。と説明の書きだしにあるが諦めよう。
極力、ジャストガードを狙い盾の耐久値を温存しましょう。
盾の種類とジャストガードについて。
「へえー、タワーシールドのジャストガードだとブレス攻撃も避けられるのか、マジ神性能だな」
※1/30秒の受付時間しかありません。
とりあえず、アイテムボックス持ちなので予備の盾が持てる。
格安品を見つけたら買っておこう。
防御貫通攻撃があるのはレアモンスター以上なので、普段の狩りでは必要ないだろう。これで財政難から脱出できる。
「しっかし、レベル上がらん世界だよな」
仲間はまだレベル1である。
まあ現実でも2週間ジムに通ったら耐久力10%アップなんて都合がいい事あるわけがないもんな。
しかしエリアボス、階層ボス倒しているんだから上がってくれてもよさそうだ。そんなことを考えていたら巨乳が飛び込んできた。
「武司君、いる?」
「おう、ジェシー、どうしたん?」
「神託、聞いた?」
「いや、まだだけど」
「神殿に張り出されてて、コレ」
羊皮紙に書き写された神託情報で1シルバで配られる。まったくいい商売である。
「なになに? 今月の天気予報?」
「そこじゃなくて!」
「戦闘に関するバランス調整を行いました。一部の階層ボスのアイテムドロップについて不具合を調整しました。ふうん」
「で、出るのよ!」
「何が?」
「初心者用のダンジョンの第2階層のボスのドロップ!」
「へえー」
「私たちが倒した後に出るようになったってわけ!」
と悔しそうに言う。
「聞いたら、あのボス、絹落とすって言うんだもん、シルクよシルク!」
「そんなにいいモノなのか?」
「庶民には手の届かないシルクが手に入るのよ?」
シルクで盾は作れないしな。
「ドロップする『絹糸』1個2ゴルドで売れるんですけど? それ1回で10個は堅いって言うんですけど?」
「えっとそれって金貨20枚?」
「Yes!」
「銀貨にすると2000枚?」
「Yes! その通り!」
「盾、20枚は買えるじゃん!」
「そうなの! じゃあ決まりね」
「何が決まり?」
「ひと狩りいこう!」
なんかモンスター狩るゲーム誘うみたいに言わないでくれ。
「えっと、この間、死にかけたよね?」
「金貨20枚よ?」
「戦力的にまだ早くない?」
「また乱獲で絹の相場下がったらどうするの? 武司君、今がチャンス!」
「いや、まず盾買わないと」
「そんなお金、倒せば一発じゃん!」
「盾がないと倒せないじゃん!」
「買えばいいじゃない」
盾が無ければ盾を買えばいいじゃないって、マリーアントワネットかよ? いや、もっと酷いか? パンが無ければパンを買えばいいとか理論がおかしいだろ?
「その金が無いから困ってんだろーがよ」
この巨乳、欲に目がくらんで俺を殺そうとしている。
そいつと触れることは死を意味する! くらい死と隣り合わせなんですが?
「ねえ、武司くぅーん!」
腕に絡みついて乳を押し付けても無駄だ。
無駄、無駄、ああもう!
「盾があればな」
自分の意志の弱さを呪いたい。
いくら貧乳好きでも、この美人にこの乳は反則だ。意思が揺らぐ効果が付いた魔具である。
「やったー! 私の貸してあげる!」
そう言って、安物の木の盾を差し出すジェシー。
「ジェシーさん? これの耐久度知ってる? 貫通攻撃ジャストガードできなかったら一発で壊れるんよ?」
「盾は盾でしょ?」
俺は鍋の蓋で古代兵器のビームと戦うどっかの勇者ちゃうで?
「いや、タワーシールドじゃないとアイツは無理!」
「武司君の嘘つき~! 盾があれば一緒にイクって言ったのに、一緒に最後までイクっていったのに~!! 私と一緒にいきたくないんだ~!」
「なんかいかがわしく聞こえるんだよそのイントネーション!」
「いいもん、楊さんに言いつけるから」
なんで楊さんの名前出てくるんだよ。小学生か?
「あ、そうだお金と言えば」と両手をパンと合わせる。
「なんだよ?」
「武司君、ギルド行ってないでしょ?」
ジェシーは腰に手を当てて指を振る。
「ギルド?」
「あのルイージの酒場の」
なんかいろいろ拙そうな店舗名だな今更だけど。
店主はちょび髭の目つきの悪そうな痩せた男ではない。
ガッツリと大柄のファットママである。
ラーメンで言うと二郎系を二杯ぐらい完食しそうだ。しかも豚ダブルで。
「ああ、そういや暫く顔出してないな」
あそこ、高いし。一泊朝食付き1シルバって高級旅館か?
※武司君が泊っている方が格安価格なだけです。
「武司君、貰ってないでしょう? 報奨金」
「は? なんで金くれるの?」
「こないだ高レベルパーティー助けたでしょ?」
助けたっていうかボス部屋に落ちてたってーか? あの人たちの死体って売れるの?
「蘇生してもらったんで、あの人たちから報奨金が出たの」
「蘇生?」
「うん、蘇生」
「蘇生ってできんの?」
「あれ? 武司君しらないの? 神の奇跡」
「やったああああああああああ!」
おれ、死んでも死なないんだ! マジ? やったー!
「大声出してどうしたの?」
「いやあ嬉しくて、死んでも死なないんだなーって思ったらなんか涙が」
嬉しくて涙が出る。
「いや、死ぬわよ? 死んだら。当たり前よね?」
「あれ? さっき蘇生って言ったじゃん!」
「ああ、あれ? 冒険者ランクCからね」
「でも蘇生出来るんでしょ?」
「まずはレベル10になって、協会に10ゴルド払って登録するのよ?」
「はあ? そんなに金取るの?」
「んで、蘇生するには今度、教会のほうに100ゴルド払うの」
「庶民には無理じゃん!」
「だからお金持ちパーティー以外は野葬」
「野葬って、葬儀の葬ついてっけど、野ざらしで置いてくんだよね?」
「まあそうなるかな」
「ダメじゃん」
でもまあ、全く絶望的ではなさそうだ。
「で、いくら出たの?」
「100シルバ」
「おおお、盾が買える! …いや待てよ収支おかしいぞ?」
「なんで? 結構な額じゃない」
「オレ、赤字なんだけど?」
「まあまあ、稼げばいいじゃない、それを元手に、稼いだお金で装備補充して、また稼ぐ! レッツ労働よ!」
「ジェシー、それ自転車操業っていうんだぜ?」
「自転車ってなにそれ? まあいいわ、盾を買うめどもついて武司君が行かない理由もなくなったので、さっそく出発しましょ?」
もうすぐ日が暮れる時間です? 良い子はおうちに帰りましょう。
「いや、オレ命の危険しかなくて得が無いって言うか」
「じゃあなに? 私に死ねっていうの? 私たちだけじゃあの芋虫に殺されちゃうじゃない、それでいいの? 武司君それでいいわけ?」
詭弁だ。
「うわああああん、武司君が私に死ねって! 死ねって言った~っ!」
この巨乳、いつか犯す!
騒ぎを聞きつけて楊さんたちが宿屋の二階から降りてくる。
「うわあああん、聞いて楊さん、アント~ンっ! 武司君が私に死ねって!」
「何か穏やかではありませんね?」
楊さんがこちらを見る。
「えっと、そうじゃなくってあの」
「兄貴、姐さん泣かしちゃだめですよ?」
クロイツ、そいつのウソ泣きを信じるな!
「ああもう、わかった、わかったから、今回だけだぞまったくもう」
「やっぱり武司君、頼りになるーっ!」
わかったから寄るな巨乳ビッチ! 楊さんの目が怖いだろうが!
多分、楊さんいないと俺は死ぬ。
楊さんのモンスター知識がないと俺は生きていけない。
だからパーティークラッシュすんじゃねえ! 巨乳!
結局、無理やり腕を引っ張られてダンジョンに向かい、二階層のボスを倒した。何回か死にかけたが、二回目の戦闘という事で前回よりはまあ、マシだった。
絹糸は無事にドロップ。個数にして3個。
うわあ、微妙だなおい。誰だ10個は堅いって言ったの。
とらぬ狸のなんとやらだ。
まあ、道中のドロップ品を売って経費トントンか。
だが良かったこともある。
みんなレベルが上がった事。
コレでまあ少しは楽になるであろうと喜ぶジェシーを見ながら思う。
コイツも、黙ってりゃ美人なんだけどね。
街に帰って、ドロップ品を売ると俺は盾を買いに防具屋迄来た。
次から、稼がないと日々の生活費が尽きてしまうなと分配された100シルバを握りしめて防具屋の戸を叩いた。
「だから、兄ちゃん、タワーシールドは120シルバなんだって!」
「はあ? 昨日まで100シルバだったじゃいか!」
「でも今日は120シルバなの」
「なんで?」
「わかんねえかな、需要と供給だよ」
「えっと?」
「兄ちゃんが毎回買う、これが需要、職人が頑張って作成して納品する、これが供給な?」
「はあ、まあわかるけど」
俺は100シルバが入った麻袋を握りしめた。
「で、供給側が提供できない、欲しい人は沢山いるってなると値段が上がるんだぜ?」
「そんな、じゃあ頑張って作ればいいじゃないか!」
「あのなー、お兄ちゃんが買ってたのは中古の盾、そんなホイホイ出物がでるか?」
そういえば中古だった。
「で、こいつはお得意さんだからまけにまけて120!新古品だよ?」
「新古品って中古車じゃないんだから」
「要らないってんなら、他に売る、神の信託からこっち重戦士の需要増えてるし」
「え? 俺意外にも重戦士いんの?」
「まあ、そりゃ要るさ、ありふれた職業だからな、いちおう上級職だけど、聖騎士とか暗黒騎士とか、上級侍とかのほうが人気だな、特に聖騎士は回復の奇跡使えるし」
「何それ回復とかズルくない?」
もっとも俺の場合は回復する前に即死だが。
「まあ、そういうわけでタワーシールドは今後値上がりしそうなんだ、新品でも良ければ今ならもう一つ在庫あるぜ?」
「あ、え? 結構です」
「なんならローンも出来ますよ? 旦那」
急に猫なで声になる。脅しといて救済策を出すとは悪徳営業の手口である。まあ、俺はそれが嫌で会社辞めたんだけどな。
結局、ローン組んで買ってしまった。背に腹は代えられん。
契約用羊皮紙10シルバ、利息1か月10%。
死んで踏み倒されない様に、俺が死んだら装備などを売ったお金で支払う事になってる。
魔法の羊皮紙にサインをすると俺は晴れてローン持ちになってしまった。ついでにナイフで親指切って血判を押す。
借金187シルバ。
あの巨乳女狐め。
俺は財布に残った小銭数カパーを眺めて涙した。
宿屋に帰ると、料理をバンバン頼んで大騒ぎのメンバーたち。
まあ、そりゃそうだ。
財布が温かい、そりゃもう携帯カイロが入ってるかと思うぐらいアツアツだろうコンチクショウ。
「あ、兄貴お帰り、今日はジェシーさんが奢るって!」
「マジ?」
「だって、武司君のおかげだもん!、ささ、主役はお誕生席! はやくはやくぅ!」
まあ、飯を食う金もなかったからありがたい。
「さー主役が来たからもう一回、かんぱーい!」
イエーイと超笑顔で乾杯をするジェシー。
みんなも嬉しそうだ。
「これ美味しいよ、武司君!」とクロイツが皿に取り分ける。
ホントお前可愛いな。
めっちゃ笑顔のメンバー達。
その笑顔を見ていたら、盾の事とか金の事とか悩みも吹っ飛んだ。
「ま、いいか明日考えよ! おねえさん俺、エール特大ジョッキ!」




