表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/83

【番外編】エルヴィラの贈り物ー完

          ‡


一ヶ月後。

朝食の席で、わたくしは緊張を隠しながらルードルフ様に言いました。


「ルードルフ様」

「なんだい? エルヴィラ」


ルードルフ様はデザートの苺のコンフィチュールのパイを食べ終えようとするところでした。


「実はわたくし、ルードルフ様にささやかながら贈り物を用意しましたの。受け取ってくださいます?」

「贈り物? どうして? ハンカチをもらったばかりじゃないか。刺繍を入れた」

「……そのことは仰らないでくださいませ」

「気に入っているよ」


おそらくは本心からルードルフ様はそうおっしゃいます。わたくしはできるだけ落ち着いた声を出すように心がけました。


「この前、ルードルフ様から馬と厩舎をいただいたでしょう? そのお礼ですわ」

「いや、でも、それはあのとき言ったじゃないか。私が贈りたいから贈ってるって」

「もちろんルードルフ様のお気持ちはわかっているつもりですわ。ですが、同じようにわたくしもルードルフ様に何か贈りたいのです」

「それは嬉しいけど」

「ルードルフ様のような贈り上手にはなれませんけども」

「いや、私は数が多いだけで上手とは言えない……」


わたくしは微笑みます。


「ルードルフ様の贈り物はいつも的確で、わたくし本当に暖かい気持ちになります」

「その言葉だけで充分なんだけど……じゃあ遠慮なくいただくよ」

「では。朝食が済んだら付き合ってくださいますか?」

「どこへ?」

「ルードルフ様の執務室へ」


          ‡


「これは……驚いたな。いつの間に?」

「こっそりと時間を作りましたの」


ルードルフ様の執務室には、わたくしがルードルフ様のいらっしゃらない間に運ばせた大きな絵が飾られていました。

そこにはまるで春を切り取ったかのような薔薇の生垣が生き生きと描かれています。


「いいね。匂いまでしそうだ」


ルードルフ様が楽しそうに仰いましたので、わたくしはほっとしました。


「執務の気分転換にいかがかと思いまして。もちろん、気が散るようなら別の場所に飾りますわ」

「いや、気に入ったよ、ありがとう。なんという画家かな?」


「ヨーゼフ・アルムホルドさんとおっしゃる方です」

「ヨ?!」


ルードルフ様はサインを確認して、目を丸くしました。


「ほんとにヨーゼフ・アルムホルドだ! 今一番売れている画家じゃないか!」

「シャルロッテ様のお知り合いらしく、お話ししたら興が乗ったとかで快く引き受けてくださいました」

「シャルロッテが? いつの間に?」

「ご助言いただきましたの」

「はー、なるほど」


ルードルフ様は食い入るように絵を見つめてから呟きました。


「初めてエルヴィラと出会った公爵家の庭を思い出すね」


同じことを考えてくださったとわたくしは胸を高鳴らせておりますと、ルードルフ様がじっとわたくしを見つめていることにきがつきました。


「ルードルフ様?」

「エルヴィラ」

「はい」

「ヨーゼフ・アルムホルドにまた頼みがあるんだが」

「どうされたんですか?」

「ここに」


ルードルフ様は薔薇の絵の隣を指します。


「同じくらいの大きさのエルヴィラの肖像画が欲しい」

「わたくしの、ですか?」

「ああ、やはりあの風景にはエルヴィラがいなくては」

「ですが、それはちょっと大きすぎでは」

「楽しみだなあ」

「あの、ルードルフ様」


だから言ったじゃないですか、というシャルロッテ様の声が聞こえてきそうでわたくしは慌ててルードルフ様を説得しようとしました。




ですが。


「エルヴィラ様、はい、こちらを向いて座って……はい、その感じです」

「頼むぞヨーゼフ殿。エルヴィラの美しさ、神々しさを写し取ってくれ」

「おまかせください! 腕が鳴りますね」



……執務室には二枚の絵が並ぶことになりました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★書籍版公式ページはこちら!! 書籍、電子書籍と共に10月10日発売!

王妃になる予定でしたが、偽聖女の汚名を着せられたので逃亡したら、皇太子に溺愛されました。そちらもどうぞお幸せに。4
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[良い点] 番外編ありがとうございます。 クラッセン夫人、相変わらず人生相談には安定感抜群。見事エルヴィラの内助の功の役割を果たしておる(違) 側近フリッツの奥様シャルロッテ夫人、穏やかなイメージの旦…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ