46話 トンネルと穴
結論からいうとケーナの出番は1ミリほども無かった。
白いコンテナトレーラーを追い回していた4機の自動機械は、その背後から砲弾のように突撃したオプスのハルバード捌きによりあっさりと全滅した。
遅れて辿り着いたケーナが見たのは、オプスが最後の1機を唐竹割りにするところだった。
「あーあ、バラバラ……」
売れる部分など関係なく、斜めから半分にされた物。十字に斬られた物。胴体に大穴が開いている物。そして左右に半分こである。
余程親友の忘れ形見が心配だったのかは分からないが、オプスが自分以外の者にこれだけ執着することに、少し嬉しく思うケーナであった。
倒した者の権利として残骸をかき集めてワイヤーで縛り付けていると、白いコンテナトレーラーが引き返してきた。
白衣を着た数人の研究者が降りてきて、知り合いが驚いた様子で声を掛けてくる。
「オプス殿! ケーナさん!?」
「やはりオヌシらじゃったか」
「あ、どーもアテネスさん。お久しぶりです」
命の危機を感じるほどの脅威を事も無げに退けた2人の技量に、アテネス以外の研究者は息を呑む。
その上で当人は偉ぶったりしてないのだ。
しかし叩き斬って当然という強者の態度は、別の意味で恐ろしい人物として見られていたというのに、2人とも気付いていない。
アテネスら、見知った者たちと再会の挨拶を交わしているところへ、ようやくファングの運転するトラックが到着する。
「俺の分は無いかあ」
「文句はオプスに言ってよね」
「文句じゃねえけど、レストア機の試運転がぜんっぜん出来ねえんだが……」
ケーナたちと一緒に行動する限り、戦力は有り余っているようなものである。ファング自体も予備戦力(?)としてのヒュドラを有しているので、ソロ狩りにでも行くかと考えていた。
「助かったよ。数が多くて困ってたんだ」
「護衛無しでのフィールドワークは無茶にも程があるじゃろう」
「いやいやいや、私たちもさすがにそんなことはしないよ!」
オプスが無謀を諫めるが、アテネスたちも研究者だけで砂漠に出た訳では無いらしい。当然護衛のハンターを雇ってはいたが、襲ってきた自動機械の数が多かったために分断されてしまったようなのだ。
「分断されちまった奴等ってアレじゃねえの?」
砂丘に隠れるように近付いてきた3機の騎兵にファングが気付く。騎兵がケーナたちを警戒する素振りに、オプスが白旗を取り出して振った。
「あ、砂賊かなんかだと思われてたのか」
「そりゃ離れた護衛対象に見慣れぬ者が引っ付いてりゃあ、警戒するわな」
ポンと手を叩いて気が付くケーナに、ファングは呆れた視線を向ける。
ハンター同士で通じる簡単なハンドサインを教えて貰い、騎兵に示す。ようやく警戒を解いて近付いて来た。
「すまねえ。手を借りちまったようだな」
3機の騎兵と後から追い付いた戦車1両を有するハンターチームのリーダーは、ワイヤーで雁字搦めにされたバラバラの自動機械を見るなり頭を下げた。
彼の他メンバーは騎兵もないのに、自動機械をバラバラにできるケーナたちに訝しげな視線を向けている。
「帰り道にいきなり11機も湧きやがってなあ。あんたたちがいなかったら、依頼失敗どころじゃなかったぜ」
「群れるにしてもずいぶん多いのう。こっちにも襲撃があるかもしれんな……」
「あんたら何処から来たんだ?」
「バナハースからじゃな。つい先日あちらも襲撃があったばかりでのう。怪我人が出る程度で済んだんじゃが」
「マジか……」
情報収集という名の交流をオプスに任せ、ケーナはリュノフを抱きしめて地面をじっと見つめていた。
「どした?」
「自動機械って、湧くの?」
「あー、砂に潜って獲物を待ち構えてるんじゃねえの」
俯瞰視覚で見ていた時も何度か自動機械が砂中から姿を現すのを見ていたからか、特に疑問には思わなかった。その時は多くても5機ぐらいが現れる程度だったので、ファングのように考えていたのである。
しかしいくら集まるといっても11機が示し合わせたように同じ場所に潜むことは無いはずだ。ゲームの時のように時間が経てば、一定区域内に湧くなどとは思えない。
「その自動機械が湧いたってのは何処!」
「うわっ!?」
オプスがアテネスらに報酬無しでいいから同行するか否か、という会話の最中にケーナは割り込んだ。
その真剣な眼差しに強制力的なものを感じたハンターは、だいたいの方角と距離を素直に話してしまう。
「あ、ええとだな……」
「ふむふむ」
「唐突に目の前に出たからな。ぶっ放しちまって、まだ残骸が転がってるはずだぜ」
「そうなんだ。ありがとう」
「どうしたんじゃ、いきなり?」
ケーナの勢いに置いてけぼりなオプスとファング。
ついでにアテネスに「じゃ、ちょっと行って来るから」と告げると、返事も聞かずに駆け出した。車両に匹敵するような速度で砂丘の向こうへと走り去るケーナをポカーンと見送る一同。
「「「「ええええええええっっ!?!!?」」」」
「ちょっ、まっ!? おいいいっ!? 丸腰の嬢ちゃんをひとりで行かせていいのかよっ!!」
アテネスたちはクッチーを退けたのを知っているが、ケーナの単独行動にまで口を出す気はない。精々心配をするくらいだ。
ファングはいざとなったら戦艦が救援に駆け付けるアレに、手を出す奴等の冥福を祈っていた。
オプスに至っては、リュノフ+キーのくっ付いているケーナの心配をするだけ無駄だと気にしていない。
慌てているのはハンターチームのメンバーだけだ。
「オプスさんよぉ、どーすんだ?」
「先にヤルインに向かうとしよう。あ奴は放っておいても問題なかろう。何かあったら連絡くらいはするじゃろうて、子供ではないのだし」
「まあ、そうだな」
「おおおおいっ!?」
マイペースな2人の会話に焦った様子のハンターチーム。
ファングは安心させるような、慰めるような感じでリーダーの肩を叩く。
「だいじょーぶだって。あれは嬢ちゃんの皮を被った戦略核弾頭だと思え」
「「「「どんなだっっ!?!?」」」」
自分の発言ながら「どんなんだろーなぁ」と自問するファングであった。
◆
オプスたちと別れたケーナは、途中から飛行魔法に切り替えて砂漠を突き進み、20分ほどで自動機械の湧いたという場所に到着する。
確かに穴だらけでボロボロになっている自動機械が放置してあった。
辺り周辺には自動機械の移動痕跡と騎兵の足跡が辛うじて残っていた。一応、俯瞰視覚も使って2キロ四方の探査をするが、敵性体らしきものは存在しない。
「ここから湧く、ねえ?」
爆裂系魔法を打ち込んでみるが、地面を起点として威力のほとんどは上に向いてるため、小さなすり鉢状の穴が出来るだけである。
「むう〜? ひめさまなにしてるのぉ〜?」
土木工事のようなものに適した術はなかったっけ、と考え込むケーナにリュノフが首を傾げる。
「んー。この辺りの砂をどかしたいんだけどねー」
「なら、リュノフがすなあそびとくい〜! まーかせて」
無邪気な笑みを浮かべたリュノフが手を無造作に振る。
途端にケーナたちの頭上、5メートル程の高さに黒い穴が開いた。手が突っ込める程度だった穴は瞬時に頭上を覆い、更に拡大する。
おおよそ直径500メートルになろうかという大きさまで広がったところで拡大が止まる。
ところがそれは上空からの俯瞰視覚ではその場所に黒い穴など欠片も見当たらないという代物であった。
「なにこれっ!?」
「おかたづけのあな〜」
リュノフがのん気に言うが早いか、地表の砂が徐々に上昇して穴の中へ消えていく。
範囲内にはケーナたちも含まれるが、逆昇る砂は彼女らの周囲を避けていった。ケーナの肩に半透明の蛇が出現しているので、彼の防御により影響から外れているもののようだ。
どうやら単純に吸い込まれている訳ではなく、下から上に落ちているらしい。
これはリュノフの「うえがはちじで、したがいちじなの〜」という発言からの推測である。8Gと1Gと言いたいのだろうと思うが、本人にその辺を質問しても同じ事しか繰り返さないので詳細を聞くことは出来なかった。
それはともかく、ケーナの考えていた事は範囲内の地面を覆っていた砂が無くなり、周囲から流れ込む砂もがほぼ無くなったところで露見した。
「やっぱり……」
それは地中より伸びる直径5メートル程の筒状の人工物である。
先端の方は傘の持ち手側のように曲がっていた。工場などの屋根に取り付けてある通風口と同じく、口が下を向いている。
降りて確認してみるが、口の内部は砂が入り込まない仕組みと固く閉じられたシャッターで塞がれていた。
ケーナは砂中に自動機械用の通路があるのではないかと考えていたのだが、ここまで大きな物が出てくるとは思わなかった。おそらくはまだ人類が健在だった頃の地下鉄でも利用して、自動機械を各地に届けているのだろう。
焼け石に水かもしれないが、この一路線でも破壊してしまえば多少なりともあちらの動きを遅らせることは出来るはずだ。そう考えて、ケーナは上を見上げる。
上空の穴はケーナが現状を確認している間も継続中で、この瞬間にも吸い込みを続けている。
砂の次はその下にあった硬い岩盤部分に亀裂が入り、小さな物は人間大。大きな物は大型車両並みの塊が次々に吸い込まれていく。
岩盤が剥ぎ取られると、その下から東西に伸びる直径10メートル程の地下鉄の外郭が現れた。
それまではなんとか耐えていたが、地面に固定されていた岩盤が無くなれば抵抗は無意味である。
耳障りな金属音が大きくなり、構造が歪み始めると、ボルトが弾け飛んだ。そこからは重力に負けて壁が剥がれるわ、引き裂かれるわであっという間に丸裸にされてしまう。
壁が無くなれば内部の線路も例外ではなく、先の先まで芋ずる的に引きずり出される。
引き出すものが無くなり、後は更にその下の岩盤まで亀裂が入った時点で、リュノフの開いた穴は唐突に消えた。
「ひめさまぁ、まだおかたづけする〜?」
「ううん。もういいわ。ありがとう」
頭を撫でると「えへへ〜」と照れて喜ぶリュノフを連れて、大地に開いた穴の底へ降り立った。
砂丘部分に至っては周囲1キロメートル四方がほぼ消失し、その下の土部分や岩盤も直径5〜600メートルに渡って抉られている。
深さは80メートル程度だが、底には水が染み出している所もあった。かなり浅い所に水脈があるようだ。
さっきまで東西に伸びていた地下鉄部分はひしゃげて歪んだ無残な開口部を晒している。
片方を覗いてみるが、非常灯などは無く真っ暗な通路が遥か先まで続いていた。
「たんけんするのぉ〜?」
「さすがに1人だと厳しいかなあ」
いくらキーの鉄壁の防御やら威力の高い魔法攻撃などがあってもソロでダンジョン攻略は無謀と言わざるを得ない。
ましてやファンタジー的なダンジョンとは全然違うのだから。まあ、地下鉄ではあるのだが。
少し思案したケーナは、アイテムボックスよりスクロールを取り出して起動させた。スクロールは灰になるが、ケーナの前には10の人影が現れて膝を付く。
現れたのはどれも身長が2メートルもあるゴーレムの集団であった。
ボディビルダーのような体に鎧を纏い、自分の身長と同じくらいの大剣を背負ったゴーレムが2体。
同じく巨大な両刃の斧を持ったゴーレムが2体。
身長よりも長いハルバードを持ったゴーレムが2体。
ドラム缶のようなハンマーを持ったゴーレムが2体。
ケーナの身長程もあるクロスボウを持ったゴーレムが2体である。
イベントで配布されたスクロールでのみ呼び出すことが可能な【ゴーレム鉄塊傭兵団】である。
物理攻撃にはムチャクチャ強い岩の壁だが、ご覧の通りゴーレムしか居ないので魔法には滅法弱い。あとはレベルが200しかないので、初心者を卒業した者までにしか使いどころがないのが、死蔵されていた理由だ。
「じゃあ、あなたたち!」
『モ゛ッ!!』
「この道を突き進みなさい。出会った物は全てぶっ潰すのよ!」
と、ケーナが指し示したのは西側の地下鉄の穴だ。
ヤルインの北側を通過すると思われる方向である。
『『『『『モ゛ーッ!!』』』』』
ずしんずしんと足音高く穴を進み始めるゴーレムたち。
リュノフは口を丸くして「わあ……」とそれを見送った。
「あれが倒されたらドラゴンの出番かなぁ」
ケーナはゴーレムたちが見えなくなるのを確認し、リュノフを連れてその場を後にした。




