45話 第3使徒が仲間になりたそうに以下略
今年もよろしくお願いします。
本来であればエディスフに向かう予定だったが、地下都市の発見によりヤルインへ寄ることになった。
出立する前にはミイラ化した遺体を火葬してから埋葬し、仕上げに日本式墓石を建てておく。墓石は以前にリアデイルで採掘した大理石を加工して置いた。
スキルひとつであっさり加工される墓石にはファングも「そんなんありかい」と苦笑する1コマも。
ヤルインへの移動中にはオプスが地図へ方角を測定し、ターフに距離を申告してもらい丁寧に記入していく。どちらかというとヤルインよりバナハースの方が近いが、戦力という意味ではヤルインの方が多い。
それでも通常の商隊速度であれば、バナハースより約2日、ヤルインより約3日ぐらいは掛かるだろう。場所が商隊行路からずいぶんと離れているので、興味を持った者たちに任せる方針だ。
甲板にパラソルと椅子をならべてダベる。
トロピカルフルーツでもあれば南国気分が味わえたが、オレンジジュースを用意するのが関の山だった。給仕もいないのでセルフサービスなのは仕方がない。
「それにしてもあんなのがまだどこかに眠ってんのかよ。住んでた前世紀の人間はどこ行っちまったんだかなあ」
「T・Sが協力を渋ったって言ってるのは、存在を知ってんのかなぁ?」
「はい熟知しております」
「「……っ!?」」
唐突に割り込んだ声の主にケーナとファングはびっくりして振り向いた。
そこにはケーナに向かって一礼するT・Sがいつの間にか居た。オプスに視線だけで尋ねると、肩を竦めて、甲板に続く扉を示す。
いつものごとく、何食わぬ顔で入って来たらしい。
「私が地下都市への協力を渋った理由は単純にひとつだけです結局のところ人は太陽の下を離れられぬのですよ」
「それって逃げ出してったの? それとも退去せざるを得なかったの?」
「正確にはどちらでもありません新天地を求めて移住したのです」
「新天地?」
「ええしかしそれもかなり愉快な結果に終わりましたが結局のところひとは大地と太陽がないところではロクなことにならないのですよ」
知っているようで結論をぼかした話に、その場の全員が首を傾げる。
「それって最終的には自滅したっつーオチか?」
「概ねその通りですね私が寸前で気付きまして援助をしなければ今頃は墓場のなんとやらですわ」
慎ましい胸を張ってふんぞり返るT・Sに、それまで難しい顔をしていたオプスが口を開く。
「今まで変に思っとったんじゃが……。オヌシがそこまで人類に情けを掛けるのは違和感ありまくりじゃな」
「まあ! 何を言っているのかしら烏ってば」
眉をピクリと跳ね上げたT・Sは、大袈裟に驚くフリをしてオプスを睨み付けた。
「これも全て我が主姫様が与える無償の愛に他なりませんわ」
「え? 私?」
いきなり話の方向を向けられてキョトンとするケーナに3人の視線が集中した。リュノフだけはターフと睨み合ってる最中なので、除外される。
「今の姫様に記憶は無いのかもしれませんが『人を頼む』と言われればそれに最大限の力を以て応えるのが忠実な僕と言うものですわ」
どうやら何年も前のケーナの命令を忠実に実行しているだけらしい。
その長過ぎる忠誠心を労えばいいのか、過酷な世界に縛り付けてしまったのを謝罪すればいいのか。苦悩に歪むケーナの表情を見たT・Sは慌てた様子で「それに」と言葉を付け加えた。
「私にも利益があるお仕事として頑張らせて頂いております」
「利益?」
ピクリと眉を跳ね上げたオプスが呟く。
どちらかというと意外性ではなく「何をとち狂っとるんじゃこやつは?」という意味だ。
「ええ救った者共に結果論だけを突き付けてやれば面白いように表情が強張るのですよ何を勘違いしたのか憎悪の感情をぶつけて来る者もいて背筋が震えるほどの楽しい一時を過ごさせて頂いておりますわ」
ほんのりと上気した頬をおさえ、服装も相まって恋をしている女子高生の様に見えるT・Sであった。しかし見た目はともかく、ここに居る者たちは彼女の中身が怪物に等しいと分かっているのでドン引きだ。
ケーナは苦悩も吹き飛び、「うわあ……」と呆れた顔でリュノフを抱いて距離を取った。
「ドMか?」
「いや、ドSじゃろう」
「何か不都合でも?」
「「ありません! サー!」」
小声の会話を聞きつけたT・Sに、ギロリと睨み付けられたファングとオプスは、声を揃えてなんでもないと返答する。
「あー、それでちょっとT・Sに聞きたいことがあるんだけどー?」
「なんでしょう姫様……おや?」
ケーナへ振り向き、胸に手を当てて軽く頭を下げるT・Sを、唐突に出現した光のリングが何重にも取り囲む。魔法スキルの【縛鎖】であり、使ったのはオプスだ。
すぐさま非難の視線が彼に飛ぶ。
いや、物理的に赤いビームが飛んでった。それは「うおおおっ!?」と瞬時に伏せて避けたオプスの頭上スレスレを飛んで行き、背後を流れる風景の砂丘へと着弾した後に、盛大に爆発した。
流れ去るたなびく爆煙を一同は青い顔で見送る。ファングなどは全く見切れなかったため慌ててオプスの近くから離れる怯えようだ。
「なんちゅー非常識なことをするんじゃっ!!」
「問答無用で拘束してくる輩に言われたくはないわっ!」
やってることはドングリの背比べのような気がしないでもないが、オプスの行為はケーナが頼んだことなので間に割って入る。
「待って待って、それは私が頼んだの。ごめんねT・S。だって貴女すぐにどこかへ消えちゃうんだもの」
「それでしたら言ってくだされば……姫様の命我等に従わない道理などありません」
違い過ぎる対応にどっと疲れが押し寄せ、座り込むオプスであった。
「それでT・Sってばなんか口では忙しそうなこと言って、頻繁に顔を出すけど実は暇なの?」
「暇そうに見えますか? これでも方々に指示を出し引き取った子供の様子を観察し然るべきところへ援助を惜しまないのですが暇に見えるのですかそうですか」
「へえ」
両者の間に沈黙が降りる。
視線で何かを測っているようなケーナに対し、T・Sは真剣な表情である。
「【真贋看破】スキルが反応してるんだけど、これについて申し開きはあるかしら?」
「私が姫様に謝罪することなどありませんとも真実しか語っていないのですから」
再びの沈黙である。視線は交差するが愛は芽生えない。
真剣みを帯びてる表情に汗をだらだらと垂らしているT・S。
その主な原因は、ケーナの腕の中でおメメを三角にして睨み付けているリュノフだ。その瞳は『おう! 姫様に虚偽を申すなんていい度胸をしてんじゃねえか。ブッ殺されてぇのか、ああン?』と雄弁に語っている。
ついでに空気が軋むような威圧感もセットになって、T・Sの背後では景色が歪んでいた。
そのリュノフの頭をなだめるように撫でたケーナが威圧感を解除させる。
「まあ、一緒に旅が出来れば楽しいかな。って希望的観測を言いたかっただけなんだけどね。貴女的には私に言い辛いこともあるでしょうし、今は伝えたくないという事柄もあるんだろうけど。報連相だけはきっちりして欲しいかな?」
ケーナのアイコンタクトにオプスが【縛鎖】を解除すると、T・Sは観念したように膝を付いて頭を下げた。
「申し訳ありません姫様今現在立て込んでいる案件がありまして片付き次第必ずやご報告に上がります」
「うん、無理をしないように。よろしく」
ケーナが頷くとT・Sはすぐさま転移していった。
呆れ顔のオプスが首をひねる。
「主権限で全て洗いざらい吐かせるという選択肢もあったのじゃぞ?」
「元々は何代か前の私が『人を頼む』って言っちゃったのが原因なんだから、そこまで無理強い出来ないよー」
「ふう……。恐ろしい奴だったぜ」
嵐が過ぎ去ったことを確認したファングが退避していた騎兵のハンガーブロックから顔を出す。
「まさか現実に目からビームを出す奴が居たなんて、衝撃だ……」
「あはは……」
苦笑いをするしかないケーナである。リアデイルのスキルにもあのような物は無く、言われてみればあれがそうかと納得していた。
「それにしてもケーナよお」
「ん?」
「アイツの言葉のどこに嘘があったんだ? 棒読みで喋ってるから抑揚が掴めなくてなあ。オレにはさっぱりだ」
ファングのスキルにも【看破】というのがあるとのことだが、応用の幅が広すぎたために嘘を見破るまではいってないそうだ。「レベルが低いのもあるけどよ」と付け加えるのも忘れない。
「どこ? って言われると漠然ととしか言えないけど。しいて言うなら“然るべきところ”?」
同じスキルを持っているオプスに確認を取るが、彼も漠然としたところでしかないので答えはあやふやである。
「予想としてはじゃが……」
「うん」
「マザーの潜伏場所は既に特定しとるのではなかろうか?」
「マジか……」
ファングが愕然とするが、それはケーナも可能性のひとつにいれてある。
「あとは何かの条件に重なっていて手が出せない、とかだね」
憶測としては都市を人質に取られているとか。マザー消滅が何かのトリガーとなっているとかであろう。幾つかは思い浮かぶが状況が分からない内は決めつける訳にもいかない。
「目からビーム出せる奴が手が出せないとかどんだけだよ……」
「関係ないと思うんじゃが」
「拘るなあ」
別にそれが出来るからと言って、万能な訳でもない。
妙に気にするファングに苦笑するしかないケーナであった。
「ひめさまぁ〜」
未だケーナの腕に抱きかかえられていたリュノフが、間延びした声を上げつつ進行方向のさらに先を指差した。
「じどうきかいいっぱい。なにかおいかけてるぅ」
「ええっ!?」
T・Sに集中するため俯瞰視覚を切ってたのが徒になっていたらしい。慌てて視覚を広げるケーナである。
オプスはスキルを多重起動させてみるが、豆粒としてもリュノフのいうものは捉えられない。
「どーいう視力してんだよ、あれ……」
目を細めて座ったり傾いたりしながら遠くを見るファングがボヤく。
オプスが集中しているケーナの邪魔をしないように艦を停止させ、下に降りてトラックの準備を終える。
遠方の確認を終えたケーナがヤルイン近辺で姿を消して待つようにターフに伝えてから艦から降りてきた。
「どうじゃった?」
「うーん。どうも商隊を追ってる訳じゃないみたいね。コンテナ1台を追いかけ回してるみたいだし」
この辺りはヤルインに近いがバナハースからの行路よりは離れ過ぎている。かと言ってバナハースからエディスフの行路を使うには商隊規模が足りない。
それとは別に嫌な予感がしたオプスは、念のためケーナにコンテナの形状を聞く。
「うん、見覚えのある白さだったよ」
「先にそれを言わんかバカもーん!」
「手は打ったから平気……」
ケーナの言い訳を最後まで聞かず、文句を言うなり飛行魔法で飛び出して行くオプス。
唖然として見送ったファングの肩をポンと叩き「トラックよろしく」とだけ告げ、ケーナもまたその後を追う。
「ええいっ置いてけぼりかよ、しょーがねえなおいっ!」
愚痴りながらハンドルを握り、ケーナたちの後を追うファングであった。




