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38話 初めてのお留守番

「とりあえずターフはもうしばらく都市から離れた所で待機。ごめんね」

「了解しましたです! ご主人様」


 戦艦ターフはひじょ――に目立つので、目撃された場合は新たな自動機械の脅威と勘違いされる可能性がある。光学迷彩を備え付けてくれたT・S(テッサ)には感謝せねばなるまい。


「それとファング。アレ出してアレ」

「アレとか言われてもどれだよ?」

「ファングの騎兵。艦じゃないと修理が出来ないんでしょ?」

「あ、ああ。分かった」


 ファングが自分のインベントリから白い牙(ホワイトファング)を引き出す。

 白の装甲をドレスのように纏った、貴婦人を彷彿とさせる騎兵。

 それを修理出来ないかターフに頼んでみる。ケーナからのお願いであれば拒むことはないようだ。


 艦のハンガー部分から伸びてきた巨大なアームが白い牙(ホワイトファング)を掴み、内部の作業用ベッドへ固定する。そこでターフが今気付いたとでもいうように首を傾げた。


「おやあ?」

「どうしたの?」

「この騎兵何故だかライブラリイにデータがあります! 不思議なものです!」

「そ、そう。良かったわね……」


 ケーナがひと雫の汗を垂らしてファングの様子を窺うと、ギリギリと歯軋りを鳴らしつつ遣り場のない怒りを何処にぶつけたらいいのか、手をワキワキさせていた。「オレの艦なのにオレの艦なのにオレの艦なのに……」と、恨みの篭もった呟きも聞こえてくる。


「ご主人様。部品足りません!」


 とてててと駆け寄ってきたターフの周りの空中に20以上の小さい画面が開く。

 そのひとつひとつに色々なパーツが表示されていた。


 ハンガー設備でも装甲を加工するくらいしか出来ず、部品の製造は無理なのだそうだ。

 これは改造したT・S(テッサ)がケーナには不必要だと思って、リソースを削っているところもある。


「うげっ! こんなに消耗してたんかよ……」


 それを見たファングは意気消沈して肩を落としていた。

 何やらステータス画面を確認する仕草にしかめっ面が増えるところを見るに、更に出費がかさむらしい。


「ターフ。この中に部品は無いのかな?」


 昨日狩った自動機械をアイテムボックスから取り出してターフに見せる。

 山積みにされたそれに近付いたターフは、ふんふんと鼻を鳴らしながら残骸に頭を突っ込み匂いを嗅いでいるようだ。やがて頭を上げて「ありません!」と告げる。


「匂いでわかるんかいっ!?」

「謎生物じゃなあ……」

「可愛いからいいや」



 戦艦ターフにファングの騎兵を預けたままにして、3人はバナハースへ戻ることにした。

 トラックの荷台から遠くなっていく白亜の戦艦が、一瞬で風景に溶けたように見えなくなる。


 仕留めた自動機械は平べったくなったアダンテをソリのように使い、他をワイヤーで雁字搦めにして固定した。

 運転するのはオプスなので、荷台側はケーナとファングになる。ケーナの左腕にはしがみついた状態のまま、リュノフがすやぁと熟睡していた。


「ファングは部品の調達、する前に金策だよね?」

「だなあ……。少なくともエディスフまで行かねえとパーツを作るのは無理だな」

「そうなんだ。じゃあとりあえずこれ」


 とケーナが差し出したのは鉛色をした涙滴型の石が付いたストラップだ。


「これをどうしろと?」

「腰のベルト辺りにでもぶら下げておいてよ。あとその状態でファングのステータスって何か変わってる?」


 言われた通りにストラップを装備したファングは、ステータス画面を開いて「うおおおっ!?」と驚きの声を上げた。


「どお?」

「ダメージ全般が3桁も上昇してんぞ! なんだこれ!?」

「ああ普通に使えるね。良かった。それ攻撃力を10%上げる小物なんだ。ついでにちょっと強く叩いてみて」


 ストラップを摘んでデコピンをかましたファングの目が更に見開かれる。


「なんだこりゃっ!? 元の数値より3割ぐれえ上がってんぞ!」

「たぶん30秒くらいしか保たないと思うけど、もしもの時には使って。でも一度作動させちゃうと基本効果も戻るまで半日くらい掛かるからね」

「おう、サンキュー!」


 石自体は魔韻石(まいんせき)で作られているので、時間が経てば元に戻る。かなり少ないが、この世界にもマナと呼ばれる物質はあるからだ。おそらくは自然がいくらかあれば、もう少し回復スピードは上がると思われる。


 その辺の検証事項は横に置いて、ケーナは居住まいを正すとファングへ頭を下げた。


「ファングの艦を奪うような形になっちゃってごめんなさい。T・S(テッサ)も悪気……はあったかもしれないけど、私の為にとやったことだから。本当に申し訳ないと思っています。そのアイテムでは埋め合わせにはならないだろうけど、今後貴方のパワーアップになることだったら、なんでも手伝うから」

「……〜。ぐ……」


 頭を下げたままのケーナを見て苦虫を噛み潰したような顔になったファングは、声を掛けようとして思いとどまるを何度か繰り返す。

 最後には頭をバリバリと掻き毟りながら「あ゛――――っ!!!?」と叫んだ。


「分かった。詫びを受け入れるよ。受け入れるから頭を上げてくれ」

「今のところ長期的な補填とか考えてるから……」


「分かった。分かったから頭を上げてくれ!


 ……あの、ケーナさん? ちょっと頭を上げてくれませんかね? 精神的にオレがピンチなんだけど……。今その小窓からオプスさんが金色の瞳孔が縦に裂けた目でオレを見ていてね……、マジだからっ!? マジ洒落になんねーからっ!!」



 一拍を置いて、静かな砂漠にファングのではない悲鳴が轟いたが、小動物すらも動じなかったのは言うまでもない。



 ◆


「やー。なんか凄い注目されたけど儲けた儲けた」

「そりゃ騎兵もねえ、銃も持たねえ奴が自動機械をあんだけ納めりゃあ悪目立ちするわな」


 ファングの言う通り、バナハースの門前で待機していたキャラバンの者たちらに指を差され。

 街中を走っていく時も通りすがりのハンターや、騎兵からも視線が飛んで来たり。

 挙げ句の果ては商人組合に売り払うときも、査定していた者が手ぶらのケーナたちを訝しげに凝視してたりだ。酒場へ行ったらうらやむ奴らに絡まれないかと、心配になる。どちらかというと絡んで来る奴らの生命の方が危険な意味で。


「……でもいいのか? オレなんにもしてねえんだけど、分け前貰っちまって」

「いーのいーの。補填するって言ったじゃん。報酬を3等分したって私らの懐は痛まないよ」


 基本的にケーナたちは武器や防具に金を使わない。宿泊費や食事代に費やすくらいである。気分で食事を採るリュノフが加わっても、すぐさま破産に至るようなことにはならない。


「そーか。なら有り難く貰っとくぜ。……で、いい加減アレほっといていいのか?」


 後ろを気にするファングに言われて、ケーナはしぶしぶ振り返った。

 そこには腕を組み、しかめっ面をして如何にも「怒っています」と言わんばかりのオプスがいた。額にはバツ印に貼られた白いテープがあり、その横ではリュノフがそれを指差して爆笑している。


「あははははははっ」

「…………っ」


 文句を言いたくてもリュノフの方が格上なので、言葉を飲み込んでいるといったところだろう。


「オプスまだ怒ってんの?」

「怒らぬ方がおかしいわっ!! 問答無用で(あるじ)に如意棒ぶち込まれた身にもなれいっ!!」


 運転席からケーナに頭を下げさせているファングを睨んでいたら、ケーナが如意棒を伸ばして突っ込みを入れてきたのである。理不尽極まりない。


「オプスが魔眼で牽制しようとするからでしょ? あれは配下の不始末を上司が詫びる流れ」

「上司が頭を下げるのを見ている配下は面白くないのじゃが」

「そういうものだって教えてくれたのはオプスじゃない。ちょっとは仲良くなったと思ったのに、こういう時だけは友誼を無いことにするんだから」


 かつて彼女にゲーム内で道徳を説いていたことを引き合いに出されれば、オプスも苦い顔で唸るしか出来ない。その様子を見て、もう一押しだと感じたケーナはあまり使いたくない手段に出た。


カラス(・・・)


 力を言葉に乗せて真名を呼べば、オプスは右手を左肩に当てて一礼し「異論ありません」と答えた。


「じゃ、これはコレで可決っと。この話はおしまいね〜」


『バカメ』

「くううぅぅっ」


 ウインクしたケーナがファングを促して宿までの歩みを再開する。

 オプスにはキーから憐れみと小馬鹿をまぜたような一言が飛んできた。この世界に来てから記憶を思い出しつつある(ケーナ)は喜ばしいのだが。


 ……だが、これまでの友人関係だった頃の優位性が失われた気がしてちょっぴり涙するオプスであった。




 翌日、昼前にケーナたちは桟橋までやって来た。もちろん漁に参加するためである。

 ケーナだけは意気込みが凄まじく、護衛兼手伝いとして参加するハンターが早いもの勝ちと知り、早朝から港湾区の塀の前で待っていたくらいだ。これには後からやって来たハンターたちも苦笑していた。


 出航する時間がすぐそこに迫っている時、船の甲板にいるのはケーナとオプスである。ファングは考えたいことがあると言って、街に残ることにした。


 それはまだいいのだが問題はその横にリュノフがいて、ケーナに向けて大きく手を振っていることだろう。


「ひめさまーっ! いってらっしゃーい!」

「オレ一緒にいてぺしゃんこにされたりしねえだろうなぁ……?」


 何でも本人曰わく「しーつとはんぺんでおぼれちゃうからみずはきらーい」だそうだ。まったくもって意味が分からない。ケーナは元々の言葉が何だったのかを気にして、色々と質問を投げかけたりした。結果、クエスチョンマーク飛び交うパニック状態となったので、詳しく聞くことは断念されたのである。



 ケーナたちを見送ったファングは銃器を扱う店を巡り、新たな戦闘方法を模索していた。


「とは言っても、基本飛び道具が主流な世界だからなあ。剣や何やらが自動機械に有効な訳でもねえし……」


 剣や盾が無いわけでもないが、騎兵用としてなら販売はしている。

 使ったが最後、酔狂かマニアックな連中という枠組みにされるだろう。あれもダメこれもダメと店をひやかしつつ、消耗品などを補給していく。


 ふと気が付くと隣ではしゃぎながら着いてきていたリュノフの姿が見えなくなっていた。

 辺りを見回してみれば、ずいぶんと前に通り過ぎた店先で西の空を見上げていた。釣られてファングも同じ方向を見上げ、黒い雲が急速に近付いてくるのを確認した。


「スコールか。そういや水が嫌いだっつーんなら雨も……、っていねえええ――っ!?!?」


 少し目を離した隙にリュノフの姿は忽然と消えていた。

 今までの話からとんでもない存在だとは分かっていたが、一言も告げずに消えられると逆に不安になるファングであった。


「いやいや、ケーナたちの方に行ってるかもしんねーな。うん」


 口に出して不安を洗い流そうとするファングの身に、バナハース自体に更なる不安の陰が差し掛かる。


 ヴォ――――――――!!!!


 唐突に街のあちこちに設置されたスピーカーからサイレンが鳴り響く。


 ファングも、通行人も、客と談笑していた店の店主も、客のハンターも、道を横切ろうとした騎兵も、街のだらけた空気さえも、瞬時にビリッとした緊張感を帯びだした。


「襲撃っ!? スコールに紛れてかっ!!」


 一般人は家に向かわずに列を成して緊急避難場所へと移動し始める。戦える者は銃を取り、騎兵を走らせ、戦車を駆り、防衛を固めに動き出す。

 心ここに在らずという状態で車列を眺めていたファングだったが、通り過ぎた戦車が鳴らしたホーンで我に返り、正門側へ向かって走り出した。


「ちっくしょう襲撃だと。冗談じゃねえぞ……」


 さっきのリュノフに感じた不安はこれのことかと毒づく。

 手持ちの騎兵(カード)はここには無い。リュノフの力は当てには出来ない。一番運が悪いことと言えば――


「最大戦力がいねーじゃねえかあああっ!!」


 慟哭にも似た叫び声は、キャタピラの軋む音にかき消されて何処かへ消えた。


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