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34話 幕間3

「ど、どうぞこちらへ」

「どうも」


 その日バナハースの行政府は、不意に訪れたとんでもない来客に要らぬ緊張を強いられていた。


 発端は何処からともなく飛来した飛行型の見慣れぬ騎兵が衆人環視が見守る中、行政府前に着陸したことが始まりである。

 それは鷲をモチーフにした上半身に獅子のような四つ脚の、ケンタウロス型をした騎兵であった。

 コンテナを縦に2つ積んだ程の大きさで、通常のC型騎兵と比べても優に3倍近い体積がある。そこから大2つ小1つ、計3人の人物が降り立った。


 つまりはT・S(テッサ)とその護衛である。


 都市を維持するための生産設備や、水に関する施設はT・S(テッサ)率いるテスタメント機関が設置したものだ。その関係で各都市の行政府の上層部はT・S(テッサ)とは顔見知り程度には付き合いがある。


 アポイトメントも無しに突然やって来たにも関わらず、行政府側が緊張の面持ちでT・S(テッサ)を迎え入れた。彼女は護衛と共に会議室へ案内される。

 相対するのは行政府長である50代の男性ロウムと、副府長の40代女性のカーデである。


 先ずはソファーに座った3人ではあるが、ロウムとカーデはT・S(テッサ)の背後に控える護衛の片方をチラチラと窺っていた。

 片方はガタイのいいボディを黒服に包み、サングラス着用の典型的なSPの様相を呈している。だがもう片方は絶対この場には異色と言える姿だ。思いきってカーデは訪ねてみることにする。


「あの……、T・S(テッサ)殿。そちらの方もSPなのですか?」


 T・S(テッサ)は背後の問題となる護衛の片方を見ることもせず、補足説明だけを口にした。


「ああこちらはただの記録係ですよお気になさらずに」

「き、記録、係、ですか……」


 ご紹介に与りましたとでもいうように、片方の護衛はフロント・ラット・スプレッドのポーズをとって、行政府側の2人へ何とも言えない精神的ダメージを与える。

 それはパッツンパッツンのブーメランパンツのみを身に付けた、首から下はムキムキのポディビルダーであった。本来頭がある場所には撮影用のカメラがあるという異様な風体だが。


 こんな者をT・S(テッサ)が連れて来た目的はもちろん嫌がらせ80%に、10%は相手の度肝を抜くためだ。残りの10%は撮影用で、その他の仕様もある。


「そ、それでは、今回の訪問の目的をお聞きしても?」


 姿は少女とは言え、彼女の協力なくしては都市の運営もままならない。

 ソファーに腰を落ち着けて下から心の底まで覗き込まれているようなじっとりとした視線に、ロウムとカーデはさっきから汗を拭きまくりだ。


「なんのことはありません今回はただの技術協力です。それに伴いいい機会なので給水システムと港湾防御壁のメンテナンスの為双方を一時停止させました。何の異常も見つからなければ数時間程で再稼働するでしょう」


 さり気なく2つの重要施設の停止を告げたT・S(テッサ)に、行政府トップの2人は息を呑む。


 カーデが断りを入れて席を立ち、外から様子を窺っていた職員に指示を出して問題の施設まで様子を見に行かせる。だがその者と入れ替わりに「大変です!」と泡食って飛び込んで来た職員がいた。


「どうしたの? 今は重要な……」

「それどころではありません! この会談の一部始終が街中に中継されています!」

「なんですって!?」


 しっかりとした防音対策があるわけではないので、会議室の中までそのやり取りは筒抜けであった。

 それを聞いたロウムは困惑した表情でT・S(テッサ)の連れて来た記録係を凝視する。彼? はその視線に気付くとサイドチェストへ姿勢を変えて胸をピクピクと動かした。

 げんなりしたロウムは目を逸らす。


「どういうことでしょうか?」

「オープンな政治は民衆に喜ばれるそうですよ」


 微妙に質問とは違う返答にロウムは顔をしかめた。

 これ以上聞いたところで明確な答えは得られないような気がしたのだ。カーデが戻ってきて、一方的な通告という会議は再開される。


「まずはこちらの調査員からの報告ですね。生産設備が足りないのではないのかという意見が上がって来ています」

「ちょっと待って下さい。調査員というのは初耳なのですが?」

「読んで字の如しの役名です」


 当然のごとく上がるだろう疑問も、想定内の内と一言で切り捨てるT・S(テッサ)。反対にそんな役職の者に常時都市内を見張られていると判明し、気が気でない様子の行政府側。これは後ろ暗いことに手を出していなければ慌てる必要もない話だ。

 しかしロウムとカーデには心当たりがあるようで、幾分か顔色が悪い。


 この調査員という役職は実のところ正式には存在していない。

 今回だけ「行政府にチクってやる」と告げられたケーナを護るための限定的な処置だ。その他にも敬愛する主に無礼を働いたという名目で、合法的に相手を始末できる理由も含まれている。


「しかし生産設備ですか。今現在バナハースの食料事情は安定していると思っていましたが。その調査員の方が逼迫(ひっぱく)していると判断した理由をお聞きしても?」


 バナハースの食料供給量の凡そ6割は海産物で占められている。

 ロウムらも今まで餓死による死者が出たなんて話は聞いたこともない。真偽の程を問いただすのも当然の行為だろう。


「行政府直下の孤児院では孤児たちががりがりにやせ細っているそうですね。逆に孤児院の管理者たちがブクブクに太っていたそうですよ。当然把握しているはずですよね。何しろ行政府直下ですしね。おや早くも異常がひとつ見つかりましたね。これでは施設再稼働が何時になることやら」

「なんですって!?」

「……っ!?」


 ロウムは寝耳に水といった様子で驚いていたが、カーデは一瞬で顔色が悪くなった。

 ついでに施設の異常ではなく、人為的な問題があるだけ都市機能の正常化が遠のくと揶揄されたことに愕然とする。それはそれとしてロウムの厳しい視線はカーデへと向けられていた。


「どういうことかなカーデ君。孤児院はキミが責任を持って運営して行くと申し出てきたはずなのだが?」

「……そ、それは、……」


 前門の虎、後門の狼。

 対面からは無関心なT・S(テッサ)の瞳。それでいて心の奥底まで見通されるような恐ろしさも感じられる。隣からは説明を要求するロウムの鋭い視線。室内にいる警備員からも憎々しい視線に晒されてカーデは言葉に詰まる。

 後は外から聞こえてくる行政府前に押し掛けた民衆の怒号だろうか。行政を口汚く罵る声が途切れ途切れに室内まで届く。


「最近では子供を専門に売買する『ヴァルゴ』という組織があると聞きます。もしや金の為にそこに売り払ったりしてないでしょうね? それはそれでここが子供に関心を持たない者たちの住まう都市というカテゴリーに納まるだけです。私が目を掛けるグレードも下がりますから手間も掛からずに済みますね」

「そんな事はありませんっ!!」


 世界の技術力はテスタメント機関に支えられている。そこから受けられる援助が減ることは都市に住まう人々にも不利なことに成りかねない。今回のことはカーデが悪いだけであり、都市の皆には関係ないとロウムは訴えた。


「では子供たちをここへ連れて来て下さい。子供たちが売り払われる前に此方で保護しましょう」


 ロウムはカーデを拘束するように伝え、別の警備員に子供たちを此処へ連れて来るように指示を出そうとした。


「いえあなた方は動かなくて結構です。今街の方々が向かいました」


 T・S(テッサ)が言った途端に室内に空中投影された画面が表示された。

 そこには武装したハンターや街の者が100人近く集まって行政区画の中を突き進み、件の孤児院へ雪崩れ込む様子が映し出されている。

 室内にいる誰もが胸の前で手を組み、祈るように子供たちの無事を願っていた。半分くらいはその結果によって都市機能が低下してしまう事にならないように願っているだけだろうが。

 室内の視線が全て画面に向いていたので、T・S(テッサ)の口元だけが愉悦に歪んでいたのに気付く者は居なかった。


 群衆の踏み込んだ孤児院のホールにはシスターハゼとカッパ牧師が奥より引きずり出され、子供たちの行方を聞かれていた。どっちかと言うと暴力込みで詰問されていると言った方が正しいだろう。

 2人は涙と鼻水にまみれながら「知らない」と繰り返し、室内を隅々まで探し回った人々は首を振って落胆の様子を見せる。

 行政府側に居る者たちはそれを見て顔面蒼白になっていた。


「子供は見当たらないということですね」


 ヤレヤレと首を振りソファーからT・S(テッサ)が立ち上がる。


「ちょっ、ちょっとお待ちを!! まだ子供たちがさらわれたと決まった訳ではっ!?」


 会議室を出ようとするT・S(テッサ)に弁明しながら必死に引き止めようとするロウム。だが離れた場所でも都市内でT・S(テッサ)の感知を誤魔化せる者はいない。


 彼女にはあの場所に子供たちがいないのは(・・・・・)前もって判明していた。

 これ以上行政府側と話す事も援助を申し出る事も無意味だ。焦った様子で言い訳を口にするロウムを引き連れながら行政府の外に出るT・S(テッサ)


 そこに集まっていた人々は少女の護衛2人を見て、その異様さに距離を取る。

 空いたスペースに大型騎兵が手を差し込み、T・S(テッサ)たちを持ち上げて腰のコクピットに続く扉を開く。

 なおも追いすがろうとするロウムを一瞥してT・S(テッサ)は立ち止まった。


「そうですね。ウチの調査員があ奴等に『刃向かった罰に行政奴隷にしてやるぜばーかばーか』と言われたそうですがあなた方はあれを行政奴隷にすれば連帯責任を逃れられるとは思いませんよね?」


 ロウムは「そ、それは……」と言葉に詰まる。

 顔を見合わせた人々から『じゃあ責任持ってアイツ等は砂漠に放り出してやるぜ!』と安請け合いをする声が飛ぶ。

 それにニッコリと笑顔で頷いたT・S(テッサ)は「行政より民衆の方々の方が良く分かっていらっしゃいますね」とだけ残し、騎兵へ乗り込んで都市を離れて行った。


 後に残ったのは呆然と取り残されたロウム。


 彼を建物の入り口から突き飛ばした人々は、行政府内よりカーデを引きずり出す。ロープに繋がれたカーデはほかの主犯の2人と共に戦車の後ろに繋がれて市中引き回しにされた。

 都市内を1周した後は、只々真っ直ぐに砂漠へひた走るオンボロジープに繋がれて、バナハースから放逐されたという。


 今回の主人公サイドの反応は次回にて。

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