28話 魔人VS騎兵(模擬戦
さすがに市内で騎兵を戦闘させる訳にもいかず、模擬戦は市外の壁から離れた所で行われることとなった。
市壁に近いと言っても砂アゴの例もあったり、自動機械が徘徊していることもあったりで必ずしも安全とは言えない。
模擬戦に参加しない青猫団員から周辺を警戒させる者を出すことで話はついた。
更には話を聞きつけた暇な市民(外の危険に躊躇しない者)やハンター、市外で出待ちをしていたキャラバンの手空きな者などが野次馬として参加。野次馬というか見物客と化している。
ついでに賭け事も行われていた。
倍率としては18:1となっていて、もちろんオプスが18だ。スバル他2名が参加してやっと賭けが成立したくらいである。
どれだけ騎兵が人々の間で絶対なのか分かるところであろう。
50メートル程の間を開けて向かい合う1名と1機。始まる前から歓声と野次が飛んでいる。
オプスはいつもの黒コートと青マント。武装は右手に持つ長めの黒棒。形状はトンファーの打撃部分が1メートルくらいの長さになっている片手杖みたいな物である。
「あー、あれかあ。まあ、この地形なら最適かもねー」
「武器はあれでいいのかよ。本当に本当に大丈夫か? 相手騎兵だぜ。しかもC型じゃねえか」
オプス側応援席(と言っても立ち見)はファングとケーナのみ。スバルも賭けた手前こちらに居ようとしたのだが、体裁が悪かったのか仲間の青猫団側にいる。
相手の騎兵は茶色い無骨な人型だ。
最初はいきり立った若い衆が4機でかかろうとしたのだが、戦力差が有りすぎると副団長のネープトに却下された。厳正なる抽選の末に最初にファングへ突っかかった若者がその座を勝ち取った。
「C型って?」
ファングの発言に首を傾げたケーナが問いかける。
こちらの世界で騎兵というのは大体4種類くらいに分類される。
まずF型は戦車モドキ。下半身がキャタピラだったり、戦車に腕が付いていたりするのがこれだ。テスタメント機関が介入しない時代に造られたものらしい。
その上のE型はF型とそんな変わらないらしい。
機関が介入したために操縦系統が変わったとか、武装が増えた程度の変化だそうだ。
D型はようやく二足歩行となって現れた。
ただし人類反抗作戦真っ只中のものなので、見た目は子供の遊ぶブロックで造られたような四角と長方形の固まりである。
当時は物資も不足していたので、コクピット以外に装甲を付けないスケルトンな物も数多く存在した。
C型は今現在最も普及しているタイプである。
D型よりは多少スリムにはなったが、まだまだ無骨な部分は捨てきれてはいない。
オプスと相対している機体は頭部が太さの違う円筒形が重なっていて、胸部がお盆の底のように丸いので、正面から見ると機関車のようだ。
本人が格好いいと思っているのだろう。蜘蛛の巣模様が入っているので尚更機関車にしか見えない。
武装は右手にライフル。左手側に4発装填のバズーカ。
これに本来は短距離ミサイルランチャーも付くらしいが、対人相手にそれはないだろうと外されている。ライフルにはペイント弾が詰めてあるらしいが、バズーカは実弾である。
周辺の安全が確認されてからようやく試合が開始される運びとなった。
オプスの敗北条件は負けを認めることで、相手の敗北条件は弾切れである。
一応試合中に自動機械の襲撃があるかもしれないので、連絡用としてオプスにはインカムが渡された。
開始の合図のホイッスルが鳴り響き、と同時にオプスの左側にライフル弾が打ち込まれた。
『どうよ、オレの狙い撃ちは。悪いこたァ言わねえがさっさと負けを認めるんだな』
と言う降伏勧告に淡々とした表情のオプスは耳をほじりながら言い返す。
『グダグダ言わんとさっさと掛かって来んか。この小童め』
『っ!? ッテメエッ!!』
激高した若者は「うおおおっ!」と吠えながらバズーカをオプスへ撃ち込む。しかし半身を逸らしたオプスの脇を通り越して、その背後の砂地を虚しく爆発させるだけであった。
オプスが無造作に騎兵に向かって歩み始めると、ギャラリーから小さく悲鳴があがる。普通の人間ならば武装した騎兵に近付こうなどと考えないからだ。
『なっ!?』
反射的に突き出したライフルから撃ち出された弾は太い帯状のモノに阻まれてオプスに当たることはなかった。
それどころかしなる帯状のモノに打ちすえられた騎兵が、弾かれてひっくり返るというこの地の人々からすると信じられないことが起きる。
帯状の正体はオプスが円を描くように振るった黒杖の先端から繋がる砂で出来た太い鞭だった。見物客も青猫団のメンバーも、相対する騎兵乗りもファングさえも唖然として固まる。
砂が形を帯びて弾を防ぎ、騎兵を弾き飛ばすことに理解が追いつかないからだ。
「なんなんだよあれはっ!?」
「あれは流砂の杖。砂とか水とかを操作するアイテムだよ」
ヒステリックに叫ぶファングへケーナが淡々と解説する。
ゲーム中は単なる道具だった物だが、リアルとなって武器に転用が可能となった中のひとつだ。
ただし、一度の発動が5秒につきMPを馬鹿食いする上に連続使用は倍化消費するという扱い難いものでもある。
コクピットの中でもパイロットが呆然としているのか、起き上がる動作もノロノロと緩慢だ。
まあ乗り手からすれば歩兵に倒される騎兵という不名誉な称号を受けたことになるだろう。自身の状況が分からなくなるのも無理はない。
オプスは律儀に騎兵が起き上がるのを待ってから右腕を振るった。
砂で形成された新体操のようなごんぶとリボンが無抵抗の騎兵に巻き付く。次に黒杖に両手を添えて体ごと大きく捻ったオプスの動きに見物客からどよめきがあがった。
立て続けに人々の常識を打ち壊したオプスの所行はまさに魔王のごとし。
ろくな抵抗も無しに砂を滑った騎体はハンマー投げの要領で宙を舞う。100キロにも満たない人の身が1トンにもなろうという騎兵を振り回しているからだ。
見物客からはその非常識さに失神者まで出る始末。
カラクリは簡単で、オプスの肩に地精霊が鎮座しているのをケーナは見付けていた。その力を借りて騎兵を浮かせているのだろう。
程良くパイロットをシェイクして満足したのか、オプスは流砂の杖へのMP供給を切って騎兵を解放する。が、解放された騎兵は遠心力の影響で勢いよく飛んで行った。
その方向には見物客が固まっている。
砂地を滑ったり転がったりしながら見物客を押し潰さんと迫る騎兵。
悲鳴をあげて逃げ惑う人々。団員たちが必死にインカムに呼び掛けるも、操縦士の反応は無いらしく騎兵から勢いを殺そうとする気配は皆無である。
いよいよ逃げ遅れた人々が転がった勢いで四肢をだらりと広げた騎兵にのしかかられようとした時。
左腕に白銀の小さな丸い盾を装備したケーナがその間に割り込んだ。
「【盾衝反射撃】ッ!!」
ケーナの腕半分程しか覆わない小さな盾が、四肢の制御もままならない全高7メートルの騎兵を防ぎきる。跳ね返すよりも逸らすようにして騎兵のボディを人の居ない右後方へと振り落とした。
「……あっぶなー」
つい反射的に割り込んでしまったが、二次災害が起こらなかっただけ良かったなあと安堵の息を吐く。
それにさっきの盾スキルは直感のみのぶっつけ本番の行動である。
本来はカウンターで相手の攻撃を跳ね返す技であり、決して今のような使い方をするものではない。
(キー、ありがとう)
『ドウイタシマシテ』
騎兵が跳ね返らずに後ろに流れたのはケーナの意図を汲んだキーの仕業であった。
庇った人たちの安否確認に後ろを振り向けば、目を見開いて硬直している人が多数。自身の無事を確認すると次々に意識を手放し倒れていった。
「すまぬな。無事か?」
「……やりすぎ」
悪びれた様子もなく戻って来たオプスに愚痴る。
周囲を窺えば、無事だった見物客がこちらに向ける視線の大半に畏怖が含まれている。
その向こうでは青猫団員たちが倒れた騎兵から操縦士を引っ張り出している光景も見える。
「おーいアレン。生きてるかー?」
「ダメだこりゃ目え回してやがる」
「おいそっち持て!」
「1・2の3で引っ張り出すぞ。いっちにーの!」
「なんちゅーか。あのニイサンも恐ろしい御仁だなあ」
「えーと、怪我はコブと打撲くらいか」
「ある意味こいつも頑丈ではあるな」
「逆に騎兵がうんともすんとも言わんのだが……」
苦笑半分呆れ半分な顔のスバルが、驚き疲れた表情のシグとガーディを伴いこちらにやって来た。
「いやー、儲け儲け。稼がせて貰ったよ2人とも。奢りで飯でもどうだい?」
「お仲間を放っておいてもよいのか?」
「耐性がねえとアノ光景はウチの連中にもチョイとばかしキツいだろーよ。仕事の話と接待役がコッチに回って来たわな」
「すみません。スバルさんにもご迷惑を……」
ペコペコと頭を下げるケーナに待ったをかけて、スバルは肩をすくめる。
「アタシんとこよりそっちはこれからキツいんじゃないのかい? あれだけのギャラリーが見てたんだから、2人が規格外だっつー噂が流れるのは早いと思うよ」
「あー」
頬をかきながらケーナの視線が泳ぐ。
多少の力量を見せつけておこうとは思っていたが、あそこまでオプスがハッチャケるとは予想外であった。その原因となった当人はというと……。
「いやこの依頼でしばらくはヤルインから離れられるじゃろう。丁度良いタイミングじゃて」
「まだ依頼で行く先は言ってないんだけど……」
「まあ、オプスの一言にいちいち突っ込み入れてたらキリないですよ」
所在なさげに呟くスバルの肩をケーナは慰めるようにポンポンと叩いた。




