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22話 特訓は受けるもの

「ううっ、あっちぃ〜」

「ほらほらー。まだ若いんでしょう。泣き言を言わない」


 ファングがケーナたちに合流して数日後。

 ヤルインを離れて砂漠を進むケーナたち3人の姿があった。


「よくお前らそんな格好でケロッとしてやがんな……」

「そお?」


 ケーナは軽装鎧に蒼マント。

 オプスに至っては上から下まで真っ黒コートで覆われている。更に肩からケーナと同じように蒼マントをぶらさげているので、見た目だけでも暑苦しい。

 胸板が見えるくらいまでボタンを外した西部劇スタイルのファングはというと、全身びっしょりと汗をかいていた。延々と砂漠を歩かされればそうなろうというものだ。


「そりゃ生身でも戦闘が出来るようになりたい、とは言ったがよ。砂漠を強行軍して何か変わる、……げっ」

「…………」


 声も態度も不満たらたらなファングは、無言で鋭い視線を向けて来たオプスにたじろいだ。


 ファングをパーティに加えるとケーナが認めた時、オプスは「ケーナの決定には従うだけだ」とは言っていた。それからは問い掛ければ答えるが、ファングへの対応がかなり大ざっぱになっていたのである。


 ケーナから見れば素っ気ないように思えたが、キー()わく『イライラしているだけ』なんだそうな。


「だいたいそっちはスキルさえ取って、後は習熟度を上げればいいんでしょう? 割と本気に近い相手なら、PVP感覚でスキル上昇は望めるはず。でもその相手を用意するとなると、人目に付く街中だと駄目なんだよねえ」

「相手を用意するって……。何と戦わせる気だよ?」


 げんなりしながら肩を落とすファングに対して、「それは着いてからのお楽しみ」とウインクで返すケーナであった。




 半日掛かりで砂漠を行軍し、着いた場所は先日に護衛で訪れた岩場である。

 到着した途端にファングは日陰に逃げ込み、水筒の水を被る。


「暑い。疲れた。動きたくねえ……」

「しょうがないなあ。ほら」


 愚痴るファングにケーナは青い腕輪を差し出した。

 紫色の宝石がはまり、蒼竜の意匠がなされた耐熱防御を上昇させるアクセサリーである。

 鎧やマントと比べるとその効果は微々たるものだが、他のゲームからの来訪者(プレイヤー)にも装備が可能かどうかのお試しでもあった。


「お? おおっ!? 暑さが消えたっ!!」


 左腕にはめるなり、ファングは目を見開いて驚いていた。


「暑さが消えるなんて効果はないと思うけど……。元々の世界の差なのかなあ?」


 リアデイルは場所によって差異はあれど四季がある。

 ガーランドは荒野等の赤道直下の乾燥地帯が主なフィールドなので、生まれの耐性差なのかと推測される。調べようにもここには3人しか例がいないので、やるだけ無駄であろう。


 暑さが弱められても疲れが消える訳ではないので、ファングが休憩を要求する。



「ケーナよ。こちらを先に済ませようぞ」

「はいはい。よろしく」


 先に示し合わせた通り、オプスが召喚術を行使した。

 2人とも余計な予備動作や言葉による発動も必要なくなっているので、召喚陣は突っ立ったままのオプスの足元に展開される。


 ―――WWWHWAOGO


 およそ人の声帯では発言不可能な鳴き声をあげて、黄褐色の細長いミミズ型のモンスターが姿を現した。


「なんっじゃっそりゃっ!?」


 ボケッと見ていたファングが泡食ってその場を逃げ出す。

 ミミズらしく目にあたるような器官はない。全長は10メートル程で、胴回りは大人が抱えられるくらいだ。体躯の先端には太い牙が円環状に生えた口腔があり、頭頂部には7色に光る6角形の石が嵌っていた。


「この子はジュエルワームって言って、宝石とか鉱石とか溜め込んでくれる召喚獣よ。ちょっと掘削したら何が出て来るのかなあって思ったんでね」


 ファングからの熱い「説明しろよ」視線に、ケーナがジュエルワームの特性も交えて簡単な解説を入れる。オプスは顎をしゃくって命令を出し、ジュエルワームは軽々と岩場を掘り進んで姿を消した。


「鉱石ならまだ使い道はあるだろうけどよ。宝石はどうだろうな?」


 女性ならば着飾るだろうが、成金趣味よろしくこれ見よがしに宝石を盛る者などこの世界情勢では皆無に等しい。宝石の需要は少ないと言ってもいいだろう。


 リアデイル側では宝石は着飾る他に、属性魔法を詰めて誰でも使える単発魔法攻撃手段とすることが出来る。使い方は投げつけるだけ。

 ただし宝石はコストが掛かる上に、質や大きさによって威力が減退するため、使用者は少なかった。


「んで、おっ……ファングの相手はこっち」

「おいっ! 今おっさんって呼ぼうとしなかったか!?」


 ついうっかりを聞き漏らさなかったファングの抗議をスルーして、ケーナが展開した召喚陣より出現したのは黄土色の2メートルサイズのトカゲである。


「ちょっ、え? おまっこれっ!?」

「みんなの高額商品(アイドル)、エルダードラゴンくんだよ!」

「ホァッッ!?」


 震える手で指差して絶句するファングに正直に答えてやれば、白目を剥いて固まった。


 「よーしよーし」と眠そうなエルダードラゴンを撫でながらケーナは喚び出した目的を伝える。


「あのおっさんと戦ってちょうだいね。殺したらだめよ。逝かさず殺さず、骨折打撲くらいまでならオーケーね」

「だからおっさんじゃねーってっ!」


 ファングは気にしているキーワードで復活し、欲望にまみれた瞳でエルダードラゴンを見詰めながら自動小銃を構えて臨戦態勢をとる。


「なあ、こいつ倒したらオレのモンでいいのか?」

「倒せるなら、どーぞ」


 ファングは舌なめずりをしながらエルダードラゴンから目を離そうとしない。

 ケーナもかなり投げやりに許可を出した。実のところ召喚獣を倒して落とすのは経験値くらいである。ドロップ品はない。

 だがそれはリアデイル産の話であって、こちらで登録されたエルダードラゴンに当てはまるのかは実証されていない。なので対戦相手にと出したのだが、力量差にとんでもない幅があるとは気づかなかった。


 ファングが自動小銃の引き金を引こうとした瞬間、エルダードラゴンがいた場所には足跡とホンの少しの砂煙があるだけであった。


「ゲッ、ヤッベ!?」


 その時になって初めてエルダードラゴンの特性に気付いたファングが慌てて離脱しようとした瞬間。風切り音と共に飛来したエルダードラゴンの尾がファングに痛烈な一打を与えた。


「ぐあああっ!? いってええええっ!!!!」


 ボキリとかゴキリとかいう骨の折れる音と悲鳴が乾いた空に響く。


「あ、ああ。そういやーエルダードラゴンって、砂漠の最速だとかダンさんが言ってたっけ?」


 気付いたが遅すぎる反応に、見物だけに留めていたオプスはため息を吐いた。



 ダンはベルナーキャラバン専属傭兵の頭。

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