19話 自動機械を狩ろう
「うむ、お主が自重するに至った原因は名が売れてなかったせいもあるじゃろうな」
「認めたくないけど『蹴り姫』という2つ名が付けられちゃってるけどね……」
「そんなもん極少数しか知らんわ」
◇
フィールドワークはあれから何事もなく5日間を経過し、無事に終了した。
ヤルインに戻ってから報酬を受け取り「また機会があったらお願いしたい」と好意的に研究者たちに受け入れられていたケーナである。主に胃袋を鷲掴みにしていた理由で。
中には「資金を援助するから飯屋でもやらないか?」という意見もあったくらいである。逆にどういう食生活をしていたのかと問い詰めたいところだ。
キングやスバルの別れは割とあっさりとしたものだった。ハンターをやっていれば、いずれ何処かで会うだろう。程度の気安さである。
ケーナやオプスの強さについて、組合には報告せずそれとなく噂を流すと言っていた。
持つべき者は気心の知れた友人であると今更ながらに涙したケーナであった。
マルマールに顔を出して部屋のキープ権を解除してもらい、引き続き宿泊する契約を結ぶ。
ミサリからは「素泊まりの宿なのに継続する人は初めて」という感想を頂いた。夫であるベルナーさんの方は、次の商談に旅立ったらしい。
今2人はその足で商業組合まで向かっているところだ。で、冒頭の会話となる。
「自動機械をガッポガッポと狩ってくればいいのね。なるべく無傷で」
「だがやはり程度というものは必要じゃろう。まずはどこまで破壊せずに無力化できるかじゃ」
「電撃でまるっと焼いてしまえばいいんじゃないの?」
「それじゃと使える配線や基盤までおしゃかになるじゃろう」
「むー。難しいねー」
この世界で人類の脅威である自動機械に対抗する技術のひとつである騎兵。
全高4〜6メートルの搭乗できる人型ロボットである。だがそれを製作するには自動機械の部品が必要となるため、非常に流通が偏っていた。
「その部品流通を担おうと……なにあれ?」
言い掛けて言葉に詰まるケーナの視線の先には白い騎兵が近付いて来ていた。
普段市内や砂漠で見掛ける騎兵というものは、だいたいが四角や長方形を組み合わせた厳つい代物である。つい先日に発表された新型騎兵が、二の腕や太ももに円筒形に変化したパーツが加わり、多少は柔らかく見えるものになっていた。
しかし、今ケーナたちの視線の先にある騎兵はまったく系統もコンセプトも違う物体だ。
見た目から受ける印象は白いドレスで着飾った貴婦人といったところか。それも派手な方ではなく、静かに佇む年輩者のような在り方の。
生物的な一次装甲に白い軽装鎧のような二次装甲を纏っている。
駆動音が一番やかましいと言われる騎兵とは思えないほどの静かな歩行だ。
ケーナたちの横を通り過ぎて、背面が見えなくなってから「はふっ」と息を吐く。
同時にアレは自分たちと同じくこの世界の異物だと感じた。何がどうとは言葉に出来ないが、ケーナは直感のみでそう結論付けた。
「アレがスバルさんたちが言ってた奴かな?」
「そうじゃな。あの白い騎兵が白い牙とかいうハンターじゃな。あの騎兵については発掘してきたとか、テスタメント機関直属の恩恵だとか色々憶測が飛び交っているそうじゃ」
「騎兵って発掘できるの?」
「極たまに地下から製造設備だとか、ハンガーだとか、積んだまま墜落したが中身は無事な輸送機だとかから見つかるという話は聞いたことがあるのう」
「何ソレ。山師になったら儲かりそう」
目をキラキラさせて、地下にあるものを探索出来るスキルをピックアップするケーナ。
今更獲物を変えるものじゃあるまいと、オプスはケーナの背を押しつつ商業組合へ向かった。
組合で目的のものを閲覧し、とんぼ返りした2人の姿はヤルイン市の門の外にあった。
閲覧したものは狩ったら金になる自動機械のリストである。
そのほとんどが動いているところを撮ったり荒かったりブレてたりする写真ばっかりだったのであまり参考にならなかったとだけは言っておこう。
「……で、この広大な砂漠で自動機械をどう探すつもりだったんじゃお主は?」
門からずいぶんと歩いた所で左右を見渡してオプスは眉をしかめた。
ヤルイン市は遥か彼方に豆粒のように見えていた。
ケーナはそれにアイテムボックスから取り出したあるものを見せることで答える。
「じゃーん。これなーんだ?」
「なっ、七星の枝じゃと。持って来ておったのか」
ケーナの手にあるものは長さ1メートル程の木の枝だ。
葉や花は無いが、七色に輝く芽が幾つか付いたアイテムである。
これはリアデイルのアイテムで“七星の枝”という。
幾つかのクエストに必要な素材を集めるのに使っていた。使い方は簡単。
ケーナは砂地に枝を立てると「自動機械」と言って手を離す。
枝はヤルイン市から見て東の方向にぱったりと倒れた。
枝の先端から上の空間に3桁数字のスロットが現れ、クルクルっと回って“010”で止まる。
「10歩だって」
「666歩でないだけマシなのじゃろうな……」
疲れた顔であさっての方向に視線を向けるオプス。
「666歩に何かあったの?」
「海を越え、山を越え、溶岩を越え、魔人族トラップを越え、魔人族狩りをこ「分かった! わーかったから! もう聞かないからっ!!」」
焦点と光を失った瞳のオプスの肩を叩いて言葉を止める。
このアイテムを使うにあたってのデメリットは、何があろうとも倒れた方向へ真っ直ぐ規定数進まないと素材は手に入らない。途中で失敗した場合はリアル24時間使用出来ないというものだ。
「「いーち、にー、さーん」」
2人並んで数えながら歩き始める。
「「しー、ごー、ろーく、しーち」」
なんとなく童心に返った気になって、2人の顔は綻んでいた。
「「はーち、」きゅー、じゅ、えっ!?」
途中から黒い笑みを浮かべたオプスが足を止め、それに気付くのが遅れたケーナが10歩目を踏んだ瞬間であった。
「きゃあああぁぁぁぁ!!?」
ケーナは足元から突如として間欠泉のように吹き上がった砂に飛ばされて宙を舞う。
しかし器用にも空中で態勢を立て直し、体操選手のようにくるくる回って綺麗なフォームで着地した。
「酷いよオプス!」
「スマン。なんぞ嫌な気がしたもんでの」
如意棒を取り出しながらぷりぷり怒るケーナに、片手を立てて詫びを入れるオプスは大剣を空間から引き抜く。
砂の中から縦回転しつつ現れたのは、直径3メートルもある灰色のトゲ付き鉄球だ。
ケーナたちが油断無く構える前で、鉄球上半分の半円が3つに別れる。中央部分が鎌首となってスライドして起き上がり、左右に広がった部分が斜めに立ち上がって翼を立てた鳥のような姿へと変わった。
下半身を横に回転させ、トゲ部分で砂地をかき混ぜながら見た目とは裏腹に高速移動する。
突進を受けたオプスが横に転がって回避したところで鎌首がぐるっと回転してケーナの方を向いた。
「げっ!?」
鎌首から数条の銀線が放たれる。
瞬時に跳ね上げた如意棒との間で金属音を響かせながらそれは散らされた。
針のような見た目だが、五寸釘に近い太さだ。
砂丘を蛇行しながら加速し、再びオプスに突進する。
切っ先を砂に埋めて斜めに構えた大剣に激突して盛大に火花が散った。それだけではなく突進まで急停止させられ、下半身のモーターが空回りの異音を上げる。
咬み込んだ大剣をそのまま維持しながら、オプスはニヤリとイタズラが成功したような笑みを浮かべた。
両翼のトゲを打ち下ろそうとした自動機械は、突如として砂を割って生えた鋭利な岩に突き上げられ空を舞う。
「さっきのお返し!」
黄土色の光を纏って砂地へ突き刺さったケーナの如意棒の武技スキルに依るものである。
軽い動作で大剣を振ったオプスの武技スキルに依り、刀身が青白い光を放つ。
あとはそれを落下して来る自動機械に突き刺して、唐突に始まった戦闘は終わりを告げた。
「おうふ。凄い金額に」
「これで多少は噂も広まって、文句をいう輩も減るじゃろう」
下半身の動力源をひと刺し。
動かなくなった自動機械をワイヤーで雁字搦めにし、幌トラックで引きずって凱旋したケーナたち。
市外にいた者たちも、市内ですれ違う者たちも、検分にあたった組合の職員も、皆例外なく目を見開いて顎を落としていた。
それくらい原型を留めたままの自動機械が捕獲されるのは衝撃的だったらしい。
組合の職員などは呂律が回らなくなり、1桁多い報酬額を提示する有り様だ。
それでも札60(600万ギル)という大金を手に入れ、2人の懐はだいぶ温まっていた。
道々屋台で買い食いしながら帰路につき、空が赤くなるころに喫茶マルマールへ戻る。
「あら、お帰りなさい。お2人とも」
「ただいまですミサリさん」
珍しいことにカウンターには男が1人。貪るようにケーキを食べていた。
中肉中背の30代後半くらい。無精ひげを生やしリスのように膨らんだ頬についた生クリームの顔がケーナたちをチラリと見る。その目が大きく見開かれ、大きな音を立てて椅子を蹴り倒し立ち上がる。
「ぼはへらっ!?」
「汚い」
「……口の中のものを飲み込んでから喋れ」




