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《世界の終わりと始まり》

曖昧な記憶を掘り起こす。


クリスマスイルミネーションが街を飾る頃、眠い頭と疲労困憊の体を何とか動かして大学へ行った私は卒業研究の論文を提出した。

帰りには同じ研究室の斉木くんと一緒にスタ●へ行き、キャラメル○カを奢ってもらいこれからの研究発表について話あった。

徹夜明けの妙なテンションもだんだんと限界をむかえて話しながらうとうととしてしまった時だった。

背筋に感じた寒気に似た感覚、慌ててそちらに視線を移した私が目にしたのは大きなトラックだった。

まるで嘘の様に此方に迫るトラックは勢い良く店に突っ込んだ。


駅前の大通り、ガラス張りのそこに身を守る盾があるはずもなく無抵抗な自分達を車という凶器が襲った。


「サイッ!」


せめてと伸ばした手が彼に届いたかはわからない、ただ必死だった。割れたガラスが此方に降ってきた瞬間、唐突に死を覚悟した。

まるで世界がスローモーションのように感じ、凶器と化した硝子があまりにも綺麗に降りそそぎ私の意識は闇へと呑み込まれた。



――・・・




「で目が覚めたら、異世界って…」


千と●尋かっ!どうせジブ○ならいっそト●ロにしてくれっ!


八つ当たりで殴った枕からはハーブの香り、柔らかなシルク(?)のような寝間着にも慣れたのは、1年前ぐらいだった。

目が覚めたら異世界という非常事態に関わらずあまりにも自分は冷静だった、最初は夢かと思ったがそうでないと気づくまでにはそんなに時間は掛からなかった。


「っ痛」


足首を拘束する冷たく重い鎖にも慣れっこ、だが最近この鎖が更に重くなった事を私だけが気づいていた。まるで奴隷のような状態だが実際には違う。


控え目なノックの後、金属で作られた分厚く重そうな扉が耳障りな音を発てて開いた。



「リュカ様、お目覚めですか?」


例えるなら子リスのような少女は寝台の上で起き上がる私を見て、ビクッと怯え慌てて言い添えた。


「っ!あっ!あのお湯あみの準備をして参ります!」


そう言うと自動的に重い扉が閉まる。彼女が私付きになって一週間が経とうとしている・・・別に怯えさせるような事をしたわけでもない、ただ私の存在が彼女にとって畏怖を抱くものなのだ。


《國守 瑠佳 (クニモリ ルカ)23歳(死んだ時)  現在神様です。》


精神科どころかCTも受けさせられそうな状況に陥っています、お父さん、お母さん。


さて、いろんな説明が必要になってくるだろうか、お話しよう。私のこの2年間の話を―――。


目が覚めた瞬間、目に入ってきたのは月が3つという異常事態だった。

そのすぐ後に体中を奔った痛みをどう表現すればよいのだろうか、そう敢えて言えば全身の骨と内臓を引き裂かれたような痛みだった。だがその痛みの所為で私はいろいろなことがどうでもよくなってしまった。

思考は全て激痛の波に呑まれてしまったのだ。

その痛みはしばらく続き、私は息をすることさえ難しい状況に陥っていた。だがしばらくするとそれは鈍痛へと変換された、だがそれで息ができるようになっても痛みは消えることは無く私は再び死を覚悟した。

《これは死ぬな》と。

ただ覚悟が決まればなぜか冷静に周囲を確認する余裕まで出来てしまい、私はこれが夢なのではと思った。

都会とは言い難いがビル街の中心に居た筈の自分が、今いるのは明らかに大きな木々が生い茂っている。

だが夢である筈がないと五感が否定する――あまりにも鮮明な土の匂い、落ち葉の感触、風が髪を靡せる。

風が吹き月を隠すと暗闇が過ぎ大きさの違う3つの月が再び姿を現したその時、どこかから物音が聞こえた、動けるまでには体調は回復していない、夜に森に存在する生き物、それは人間を害するだろう。

だけど私を最初に見つけたのは、獣でも野蛮な山賊でもなく・・・ましてや白馬の王子様ではなかった。


私を見つけたのは、巫女だという少女だった。

この時私は、これは幸運だとそう確かに思った、だがこれが私の運命を変えたのだ。

彼女が私をみてその表情を驚きに変えその場で平伏したその瞬間に―――。


少女が私を運んでくれたのはこの国の神殿で、そこで手厚く看病を受けた私がやっとまともに動けるようになったのは既に20日以上経ったころだったと思う。


そして私はいつの間にか神の化身として祀られていたのだ。


どんなに否定しようとしてもそれを信じる人はいない、傅かれるその異様な状況を打開しようと何とか努力したがやっとまともに話をしてくれるようになるまでに1ヶ月は掛かった。

そしてある日私はこの国の王から召還を受けた。

少しでも現状を打破したい、そのきっかけが欲しかった。ただそれだけだったのに私は今王宮に囚われている。


『そなたがリュリカデインの化身か?』


リュリカという神がいるというのは神殿の神官から聞いていた。


『確かにその瞳、その髪、白い肌、伝承の通りだな、』


自分の容姿については、聞かされていたがここまで明け透けに並べ立てられるとムカついた。


『・・・・私をここに呼んだのはなぜですか?』


本当は口を利くことさえ、許可を得ないといけないのだがその時私は感情を抑えられなかった。

好奇の目にはいやらしい色も見て取れ聞いていた通りの人間だと確信したからだ。

召還を受ける前に教えられた国の成り立ち、それを汚すこの王と現在の政情・・・。

現在16人の側室を持ち8人の王位継承者を持つこの国は財政難に追われている。16人の側室やその子供の8人の王子、王女は贅沢三昧の日々を送っている、税率は21%だが本当はそれ以上の徴収が行われていると涙ながらに巫女の一人が語った。貧困にあえぐ国民を見て見ぬふりで国は傾くばかり・・・・そんな時に私を見つければ自ずと答えは出る。


『繁栄を!リュリカの神よ、あなたが造った世界だ、あなたの子供と言っていい人間を助けようとは思いませんか?』


くだらない、そう感じた私を責める人などいないだろう。

たとえ私が本当にこの世界の神だとしてもそんな願いを聞き届け、ましてや叶えようとは思わない。


『・・・・繁栄?それは何のために?』


返る言葉が偽りであってもせめて聞きたかった「国民の為と」。


『なぜ?繁栄を願わない人間がいると思いますか?』


その言葉を聞いて私は初めて此処にいる理由を知ったように思えた。


『私がそれを叶える事があなたの望みなら ―――――――』


召還を受けてから1年ちょっと、私は様々な事を行ってきたがそれらが未だ芽吹くことはなかった。




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