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《神は祈る》

余生を楽しむにはあまりにも短い期間なのに、私の余生はどこまでも波乱に満ちていた。


「り・ゅ・り・かさまーーーーーーーーー」


勇者様という名の騎士を見送ってから5時間。今は夜だ。

こんな風に私を呼ぶのは、この世界では一人だけだ。

なんだろう、頭痛がしてる・・・・。黙ってればかなりの美丈夫なのにこの人の残念さは、私がこの世界から消えれば少しは改善するのかしら。


「・・・・なにかあったの?」


そう返すだけで決して手元の書類から目を離さないのは、経験からだ。


「・・・これを、着てみてはいかがでしょうか?」


「・・・今忙しいの」


「そんなーーーーーーーーー」


彼が持って来たのは、試作品らしい。


「そして、作り直しよ、シビア」


「せめて着てからお言いつけ下さいっ!!」


サテン生地に銀糸の見事な刺繍がしてある美しいドレスを私は苛立ちを込めて一瞥しそう返す。


「いい加減にしなさいっ!!どこの世界に死刑囚にそんなもの着せる阿呆が居るのよっ!!」


「ここにっ!!」


そんな元気よく手を上げるな、副神官長。

いや次代神官長様・・・・。やばいこの国ほんと大丈夫だろうか。


「・・・・いい?良く聞いて・・あなたたちは3日後には、私を異端者として裁き、神を語った大罪人として私をあの勇者様たちに明け渡すというお役目があるの」


今私が手にしているのは、このまま渡してはいけないものだ。

分かりやすく言うとオーバーテクノロジーというものだろう、魔法という便利なものがある上にこの世界は、中世ヨーロッパ的な考えが多い。

後100年ぐらい後に出てくるはずの技術を広めるには危険過ぎるし、だが発展させるには必要なものもある。


線引きは重要だ。


「そんな・・・こと・・・あああああああああああああああああ」


うるさい事この上ないこの男こそ、これを受け継ぎ、管理する人間だと忘れてはいけない。

他の分野は既に分類してこの部屋にある。

半分以上薬学や病理、病態のものばかりだ。


「むり・・・ム――――リ――――――でーーーーすう」


遂には泣き出す男を私は一切無視して作業を続けた。こっちは時間がないのだ。


「ああああ・・・一緒にいっぢょに・・・私もーーーーー」


後追いで死いたいと言いながらそう崩れ落ちる男をどうすればいいのか最近は諦めてもいる。

実際こういうのがなければ稀代の天才魔術師であるのだから、どうか彼の手綱を引ける相手が現れる事をせつに願うばかりだ


「・・・シビア、私の死後に私を奉ってくれるって嘘なの?」


誰も奉ってくれなくてもいいが、今はこれでいいと言葉を選ぶ。


「いえいえいえいえいえいえいえいえい・・・必ずっ!!あなたを世界一の神にっ・・でもでもでもでも」


面倒だなぁと思いながらもこれも後4日の間だと思うと僅かに寂しささえ覚えるのだから人間は現金に出来ている。

美しい髪を振り乱しそう叫ぶ男に私はため息一つで諦めて、その乱れた髪に手を伸ばしそっと手櫛で戻す。


「ありがとう・・・・この国を任せてごめんなさい」


「そんな事・・・あなたが下さったこの2年を私がどれだけ幸せだったか、あなたに伝えられず・・・ごめんなさい」


優しい人だ。そう言って貰える事が私を責めると知らなくてもそれでもただこの人を私は愛おしく思う。

ただ一人の人間として。

私がここで2年の間《リュリカ神》としていられたのはこの人のおかげだから。


「フレアにも・・・謝りたかったなぁ」


「・・・必ずどこかで聞いておりますよ」


「そうね・・・・あなたたちの神様で居られてよかった・・・でもねっ!!これは着ませんっ!!」


「えーーーーーーー」


「もっと確か新人用の神官服の下着あったわよね、それでそこら辺掃除しておいて、それをそのまま着るから」


「なななななななななんてことをーーーーーー」


「あなたなら用意できるわよね?」


最高の笑顔でそう言いつけると涙ながらに書庫を出て行く男に私は静かに息を吐いた。

さて、オーバーテクノロジーをなんとかまとめ上げて、その管理に戻った私の頭には、勇者さまたちでいっぱいだった。


昼間に話した時は随分と不満だらけだったし、それを力技でねじ伏せたこちらとしては、なかなかに顔を合わせづらい相手だ。


でも後1度だけ会えるというのはとても楽しみでもあった。

これからの国を率いるのはまさに彼等だ。

公正出来そうな王族は殺さず残しておくこと、それなりに育ったら他国との交渉に使うなりそれが無理なら身分を剥奪して国の邪魔にならないような所で静かに暮らさせてあげる事と明記したものもちゃんとシビアに渡してある。


「この国をお願いって言えるかしら」


王権に戻すかこのまま王権を廃止するかは彼等に任せると決めている。

どうか間違った選択はしないようにと祈る事は私に出来る最後の仕事のように思えた。







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