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《望みと代償》

騎士の誓は古く200年前に起源をもつ儀式だ。


主が最初に騎士に告げる望みはこれからの騎士の在り方を決めるのだ。

まさか『全てを頂戴』なんて言われてそれに頷く日が来るとは騎士になろうと8年間主席を取り続けた士官学校時代には思いもよらなかった筈だ。


簡易の儀式を終えた直後に事件は起きた。


・・・・・・・・・


『リュリカさま――――――――――ぁあ!!』


バン!!

叫び声?と同時に扉をけり破ったのは、鬼の形相を浮かべた神官だった。美しい髪とその物腰の柔らかさから城の女中には人気が高いこの男が、髪を振り乱す姿を見たのは実は2度目だったりするが、その時よりも今は凄かった。造作が半端なくいい人間が怒ると迫力が違うのだと俺は初めて知った。


『・・・・』


その場の空気を凍らせた人物は俺らを認識した瞬間に恐ろしい速さでリュリカの前に進み出た。


『貴様らぁあ!』


『スットプ、』


『すと・・・ぷ?』


そう女神が告げると戸惑ったように彼は止まった。


『シビアの言いたい事もわかるけど落ち着いてくれる?私はあなたに聞かなきゃいけない事もあるしこれからの事をここに居る我が騎士達とも話さないといけないのよ』


『ですが』


『静かに・・・、みんな寝てる時間なのよ、いくら私が夜這いされたからって』


『夜這い!!』


『冗談よ』


にこやかに神官をからかう彼女の笑顔がとても綺麗で俺はただ嬉しかった。

その理由もわからぬまま俺は彼女を見てやっと自らの行いに恥じた、いくら急ぎだったとはいえラビスの知り合いに頼んで夜の神殿に入り込み、眠りにつこうとしている婦女子の寝所に忍び入りましてや多分湯あみの直後の艶めかしい姿の主と契約したのだ。


非常識にもほどがある。


『あ・・・・』


『さてと、えー・・・・・と今夜はもう遅いし明日にお話ししましょう。我が騎士どの』


『我が騎士?』


『さっき契約したから、11人も駒が増えたわ』


シビアの疑問詞にしっかりと応える彼女はどこか楽しげだった。


『駒?あの』


彼女の言葉についそう返したのは、駒という言葉があまりにも彼女にとって当たり前のようだったからだ。


『騎士契約・・・えっ!何時の間に!?』


美貌の神官殿がそう驚きいに声を荒げた。


『さっき。流石にこんな恰好で騎士契約するなんてするとは思わなかったけどね』


『っつ!!リュリカ様~~!!!』


真っ赤に顔を染めた神官は慌てて自らのローブをリュリカに渡した。


『ありがとう・・・・じゃあ、明日の朝、八時の鐘が鳴る時間に神殿へおいでくださいな』


受け取った彼女がローブを羽織り向き直る彼女はさっきまでの年相応の笑みでなくまるで歴戦の選者のような顔をしていた。


『早っ!』


普通の貴族ならまだベットの住人である筈の時間に指定されついそう反応したラビスに彼女はにこやかに言い切る。


『私には時間がないの』


確かにそう言った。

だけどこれがどんな意味をしているのか気付けるほど俺は彼女を知らなかった。


そして・・・・



・・・・・・・・



全てを知らされる事になった我々は信じられない内容に絶句していた。

涼やかに風が吹きぬける神殿の本堂は、遠くの森から鳥の声が聞こえるほど静まりかえっていた。


「今なんて・・・・」


振り絞る声が震えてしまうのは、誰も責めないだろう。


「だから4日後に私は」


「我々騎士の使命は、主と共にあり共に生きることです。」


驚愕で固まったラビスの代わりに俺はそう告げるが彼女はにこやかに続けて言った。


「国と共に生きて。主の名において命じます。計画は、もう変更の出来ない所まで来ているのよ」


彼女に出会ってから驚くことばかりだったがまさかこんな願いをする主を持つとは思いもしなかった。

ただただ驚くばかりの俺達の言葉が彼女に届く事はない。

そしていっそすがすがしい笑みを返されるだけだ。


暖かな日差しを浴びて彼女は言った。



「4日後に私を全国民の前で盛大に処刑しなさい」





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