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烈風のアヤキ  作者: 夢闇
四章 ~古今の異邦者~
125/154

『会議・過去』

 室内はざわついていた


それも当然であろう


会議の場に突然神獣が現れたのだ


実際に初めて見たものが殆どであったが、誰もが本物の神獣だと信じる程にそのあまりの神々しさに膝をつきたくなる


全身を純白の体毛で包み込み、スラリと額から伸びる角はまるで天を貫かんという意思が込められたかのように美しい


その翼は折りたたまれているが、それもまた気品溢れる姿で見る者を圧倒させる


そして全員が同時に膝をついて頭を垂れる



「顔を上げよ人の子らよ」


「顔あげろってさ」


「・・・僕が折角威厳を保とうと頑張ってるのにそのセリフは無いんじゃない?」


「いやぁ、なんか、ついおかしくなって」



ついと魔女を見る神獣に対し、ケラケラと笑いながら魔女はそう答えた


なんとフレンドリーなんだとその場の殆どの人物が思った



「僕そんなに威厳無いかなぁ」



どこか遠くを眺めるようにしてついこの間も似たような事を言われたなぁと一角天馬は思い出す


その呟きに彼らは「無い」と即答していた事も思いだし思わずため息をつきたくなる一角天馬であった



「というわけだし、顔あげていいよ。どうせ言うほど偉い存在じゃないしね僕たち」


「そんな事言わない言わない」


「君が全部ぶちこわしたんじゃないか」


「あれ、そうだっけ?」


「もういいよ。さて、これは感動の再会というのかな?」



一角天馬の横には湊夕日の体をぎゅっと抱きしめる女性がいた


涙を零し、嗚咽を漏らしながら抱きしめるその女性の様子を見ては現実を打ち明けるのを躊躇いそうになる一角天馬、ハートウィッチ、そして千尋である


これほど母親に思われている事を知れば、今はこの肉体に宿らぬ元の主も喜ぶであろう


しかし、だからこそ伝えねばならないのだろう



「夕日の母上殿、いくつか伝えたい事がある」



そう、湊夕日の体を使って千尋はそう言った


もちろんそれに一番驚いたのは夕日の体に抱きついていた夕日の母、湊実みなと みのりであった


声の音程こそ変わっていないものの、やはり口調が自分の娘と違う事にあれ?と思ったのか体を少し離してまじまじと娘の瞳を見つめる



「すまない。この体を借りている私は湊夕日では無いのだ。訳あって彼女の魂はこの肉体を離れている。理解できないであろうが、説明は順々にしていく。後で何でも答えよう。だから今はその涙は仕舞うべきだ。その涙は私なんかに流す涙では無いだろう」



戸惑う実であったが、とりあえず目の前の存在が自分の娘では無いということを理解すると、すぐに娘は無事なのかと聞きそうになり、それをグッと堪えた


たった今目の前の、娘ではない誰かが説明していくと言った。聞きたいことは沢山ある。


しかし自分が今彼女に対して質問攻めにして結論を聞こうとするならば、偏見や思いこみが其処には作られてしまう事も鈍った思考回路でなんとか考えた


だから、グッと堪え、耐える


涙を拭き、一体今どういう状況なのかという事を正しく判断する為に


そんな実を見て千尋はすまない、と一言だけ謝った




「さて、話を続けようと思うんだけどその前にみんな顔あげていいよ。っていうかあげて」



一角天馬が許可をする、というよりもお願いをして一同は頭を上げる


それに続けてハートウィッチが軽く神獣と少女の名前を紹介する



「さて、まぁさっきも言ったけどこれは神獣の一柱である一角天馬、そして彼女は千尋。私よりちょっと年上なんだったっけ?」


「そうだっけ?そっちが上なんじゃないかな」


「これっていうなこれって」



全員が唾を飲み込む


人の何倍もの時を生きてきた最古の魔女が、目の前でさらりと自分より小さい幼女に対して自分より年上だと言ったのである。驚くなという方が無理である


驚きの種類としては一つは今あげたように、この小さい少女が魔女と近しい年齢でるという事に対して


もう一つは割とフレンドリーに話す神獣に対して、であろう


神獣はこの大地に置いてまさしく伝説級の存在である


精霊は世界を、神獣は大地をそれぞれ守護していると伝えられ、両者は信仰の対象にもなる程に幻の存在とも思われている存在である


事前に報告で神獣が存在すると伝えられていたアルフレアやアルデリア聖王国国王ウェルナンディアも、少しあっけにとられてしまう



「僕達神獣と、吸血者こと吸鬼とは古い付き合いになる。そう。それは大凡ここにいる魔女やその少女の精神が存在した時代にまで遡る」











水玉


紅玉


黄玉


地玉


翠玉


氷玉


響玉


黒玉


光玉



それぞれの宝玉は人の手に負えぬ宝物として小さな島国の大地に封じられていた


あまりに強すぎる力の塊を人間が扱えるわけもなく、人々はその力の毒を恐れ、封じるしかなかったのだ


しかしある時その島国に一匹の獣が現れる


真っ白な毛並みの獣だった


獣は大妖怪と言っても過言ではない程の強大な魔力をもっていた


九つの宝玉をその身に宿し、その力で人間界を支配しようとする


しかし、その野望はとある人間によって打ち砕かれる


獣は人に戦いを挑み、その戦争とも言うべき戦いの果てに獣は大きな傷を負い逃走をはかった


九つの宝玉の魔力によって、人が追って来られない全く別の次元へと逃げようとしたのである


しかし、その追っ手の男が振りかざした宝剣によって、逃げようとした獣の尾は大きく切り裂かれた


空間に空いた穴は獣と男、そしてこっそりと隠れて様子を見ていた男の妹を吸い込んだ


男と獣は荒れ狂う異空間に空いた出口に吸い込まれていったが、男の妹はその出口とは別の出口へと吸い込まれた


放り出された獣は大きな尾を使い男と空中で何度も交差しながら戦い、そしてボロボロになった両者は同時に地面に叩きつけられた


だが獣は大地に叩きつけられ、男は木が僅かにクッションとなり命を取り留めたそうだ


落ちてきた男は最後の力を振り絞ってその獣の魔力が溜まった尾を切り飛ばし、その顔に剣を突き立てた


すると獣の体は徐々にひび割れ、最後に獣は巨大な石の塊へとなってしまった


それと同時に主を亡くした魔力と宝玉はこの世界に飛び散った


魔力はこの大地を覆い尽くし、宝玉は二つの混ざり合う怨念を乗せたまま各地へと散っていったのである


そして男は身につけていた二本の剣のうち一本をこの地に残した


この剣はこの地に封印した魔獣を縛り付けるための剣


故に我は持ち歩けないと男は言った


男はその宝玉に宿る怨念の邪悪さを懸念し、各地を旅する事となる


男は宝玉に宿る怨念を封じるため、九つの剣を鍛える


怨念は魔力に引かれ、宝玉に憑依していた


しかし、獣が朽ち果て、世界に充ち満ちた魔力をその身に宿すものは宝玉以外にも多くあった


それは魚


それは鳥


それは角獣


それは土竜


それは龍


それは狼


それは妖精


それは蛇


それは天馬


生き物たちは魔力をその身に宿し、新たな存在へと進化する


中でも最も力を持つ者が群れの長となり、大地を統べるようになる


そんな魔獣の持つ魔力に怨念は引かれる


かつての主のような魔力のエネルギーに引き寄せられ、九つ揃った完全体へと戻るべくその獣の身を乗っ取ろうとした


しかし、長ともなるほどに魔力を操る事に長けた獣が、そう易々と怨念に身を乗っ取られることは無かった


ある怨念はそのまま魔獣に支配され消滅し、ある怨念は宝玉へと閉じこもった


男はそんな宝玉を封印するため、鍛えた剣で宝玉を結界の中へと閉じこめ封印してゆく


こうして、宝玉は再びかの島国にあったようにバラバラに封印されていったのである





そしてそれから時が流れる


大陸の北方、一年中雪が積もる小さな村があった


それはかの有名な、異世界の男と戦い、敗れ、この世界に魔力をもたらした存在である始まりの獣が散った地でもあった

そして男が魔獣を封じた場所には巨大な獣の亡骸とも言うべき岩が出来ていた


その岩の前に一つの祠が建てられていた


異世界の男はこの剣はこの地に封印した魔獣を縛り付けるための剣と言った


ならばこの地にこの剣を祀り、村の守り刀として崇めようと最初に授けられた英雄が建てたものだった


そしてこの剣はこの村の守り刀となった


それから数ヶ月後、この村に猛暑と冷害が襲った


猛暑は大地を枯らし、冷気は全てを凍てつかせ、村の活気は徐々に減っていったという


そこで若者は祀られた剣を片手に、熱波と冷気が強く吹いてくる森の奥へと入っていった


森の木はカラカラに干からび、草木の葉は冷気によって霜が降りていた


生い茂る森、その奥に居たのは2匹の魔獣であった


そして2匹の魔獣はかつて封じられた魔獣を封じた岩に向かって熱波と冷気を放ち始める


その剣には名前が無かった


異世界から現れた男が村を去ってからというもの、その剣を使った者はいない


剣を預かったその英雄はもういない


若者はその剣に名前を付けることにした


若者は一昼夜悩み抜いた末、その剣にシリトクルバという名前を付けた


かつて若者にはシリバと言う兄、そしてクルトという弟がいた


だがその二人はすでに事故で死んでいた


その二人の名前を剣に付け、いつまでも我と二人が愛したこの村を守って欲しいという願いを込めたのだった


岩ノ下から漏れ出す魔力に引きつけられたその2匹の魔獣に向かって若者は剣をかざす


かざしたシリトクルバは神々しい鈍色を宿し、2匹の魔獣はその若者とシリトクルバへ向かって熱波を、冷気を浴びせた


だが不思議なことに、その熱波と冷気は瞬く間に若者の持つシリトクルバへと吸い込まれていった


そして2匹の魔獣の首を若者は切り飛ばし、かつて空から振ってきた男と同じようにこの地に2匹の魔獣を封じ込めたのである


だが代償も大きかった


若者は2匹の魔獣と相打った


完全に殺しきることが出来なかった若者は仕方なくこの地に封じ込めたのである


それと同時に若者の命は尽き、小さな祠の前で息を引き取った


そう。彼が旅立ったのは、こことは違う世界であった


しかし、彼の封印は完全では無かった


三体もの魔獣が封印されている事に頭を悩ませたのはその地を治める一角天馬と呼ばれる神獣であった


一角天馬はその二匹の魔獣を、誰にも封印が解かれない場所へと封印しなおす事を決める


誰にも見つからぬ湖で宝玉を封じた剣と共に、天の力と冷気を操る魔獣を


誰も立ち寄らぬ火山の麓の樹海の奥で宝玉を封じた剣と共に、重さの力と熱を操る魔獣を


そして村を苦しめていた巨大な魔獣を打ち倒し、英雄と呼ばれるようになった少年が使ったとされる剣が再びその地には納められていた


その剣は、まさしくこの地に始まりの魔獣を封じた剣であった


それからというもの、村では毎年魔獣を倒す英雄の演劇が行われるようになった


始まりは英雄を模した仮面と服、そして納められた英雄の剣を使って彼らは祭りを盛り上げた


そしていつしかその村では英雄を目指す者達は決まって仮面を付けるようになった


仮面はいつしか英雄から昔から村の守り神であると言われる氷鳥、グリシェという魔獣を模すようになった


ですが村はいつしか吹雪にのまれ、人の温もりは徐々に消えていきました


また各地に封じられた剣と宝玉の話は次第に人々から薄れ消えていき、それぞれ人の手を伝いバラバラになっていきました


そんな時代、英雄を生み出すと言われた村を再建するために一人の若者が旅立ちました


英雄が振るったとされる剣を持ち、村を救う英雄になろうという思いを込めて氷鳥の仮面を被り各地を巡りました


そして気がつけばどこか遠く、雪が積もらぬ大陸の南の方までたどり着きました


お金を貯め、そして脚を止めたその場所で彼はまた一つ大きな儲け話を耳にします


まさしくそれは水の国、アルデリア王国でのつい先日行われた武闘大会の事です


その道中、神子である彼は神獣からの信託を受け、見えぬ力と熱を操る魔獣が封じられたシトレの森の奥深く、夜の森奥へと足を踏み入れます


そして、封印され続けていた魔獣が解放された場面に出会しました


彼は戦いを続けるもその魔獣に逃げられ、また剣と封印されていた宝玉も突如目の前に現れた一人の男が

両手に持っていました


その戦いの最中、首に提げた宝石が奪われてしまいます


それこそ、魔獣の本体とも言うべき魂の欠片でした


そしてその魔獣はその大会にも現れました


またしても魔獣は逃げてしまいましたが、人々はなんとか宝玉を守ることに成功したのです


そして湖にも吸鬼は現れました


隠された祠を開け、眠っていた魔獣を解放し、宝玉と剣をまたしても奪っていきました


そして、その場にはもう一つ、この少女の魂が眠っていた


それすらも吸鬼は奪っていった


その間、神獣の虹魚は湖に張り巡らされた結界によって身動きが取れなくなっていた


人々はまたしても吸鬼を撃退するも、それらを奪われて逃げられた


彼らはそれらを使い、再び獣を蘇らせるつもりだ


獣を再び魔獣にして、手駒にしようと考えている


その封印が解けかかっていた


それまで僕はそれを獣が自力で破っていると考えていた


だから、再度強固な封印をかけるべく、唯一封印を行える我が神子、イチジョウユイに頼むこととなり、サクラアヤキはそれに同行することとなった


しかし、実際には違った


獣の力に引かれた二匹の魔獣が過去に封印を僅かに解いてしまっていた


封印された後、その封印を解くのを引き継いだのが吸鬼であった


吸鬼はかつて、僕ら神獣と手を結んでいた


彼らは魔力を吸い力とする種族。人よりも魔力の扱いに長けていた


そして僕ら神獣は大地のマナを管理する為に集中できる場所を確保する必要があった


だから取引をした吸鬼に結界をはって貰い、大地を管理する場所を提供してもらう代わりに吸鬼の行う事には干渉せず、一定量のマナを提供するという盟約をかわした


アルデリア上部の荒れ地なんかにマナが極端に少ないのはそのせいだ


しかし、僕たちは恐いのさ


魔獣が蘇り、この世のマナを治める力を奪われたらと思うとね


僕たちの存在意義が失われる


この力がなくなれば、寿命なんてとうに過ぎている僕たちは命尽きるのも当たり前だろう


だから恐いのさ


彼らが何故魔獣を蘇らせるかを知った上で、僕は今こうして話をしている


それを伝えることは出来ないけど、これから起こることも先を知る事が出来る僕だからこうして動いているんだ


でも、それでも魔獣を蘇らせるよりかはマシさ


僕たち神獣や、その眷属は彼らに刃向かう事が出来ない


だから、君たち人間にお願いがある



魔獣の復活を阻止して欲しい


宝玉、聖天下十剣、魔獣の魂の欠片、怨念、そして少女の魂


宝玉なんかは蘇るために一つでも有れば十分なんだ


それが今や最低二つは彼らの手に治まっている


封印するための剣も彼らの手にある


蘇るための魂も彼らに奪われ


器としての少女の魂も奪われた


勝手なお願いなのは重々承知だ


本来、ここまで裏側を喋るのはタブーだ


でもお願いだ


説得でも、討伐でも何でも良い




「彼らを止めてくれ」




静まりかえる会議室にて、死にたくない、と切に願って神獣は頭を垂れた








もちろん神獣が全て正しく伝えている訳も無く

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