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作戦会議その2

 買い出し組がホームセンターに居る頃、山口と柏田の2人は車内に居た。

「……何か揺れてね?」

「気のせいだろ」

「でもあの電線見ろよ」

「電線?」

 運転していた山口も道路の両脇にある電線を見た。異様なほど忙しく動いているのが分かる。電柱も同様にグラグラと左右へ揺れていた。

「あー、風じゃねぇなこりゃ」

 ここはトカブの山へ通ずる道の途中。まだ市街地にほど近いが周囲はもう田んぼしかない。トラクターが出入りしていそうな少し開けた所が脇にあったのでそこに車を一時停止した。

「震度はどれぐらいだろうな」

「4かそこらだろ、いっても5弱か」

 20秒ほど揺れが続いた。収まった所で再発進。遠目にもトカブの山が見え始めたが、2人は異変に気付いた。山の前に消防車が1台と白い軽ワゴンが1台、路肩に停まっているのが分かる。周囲には作業服姿が4人。そして黒い法被を着たのが3人。

 山口はアクセルを緩める。30キロまで速度を落としたがこれ以上は向こうにも怪しまれる可能性があった。

「……ちょっと拙いな」

「そっち入れ」

 咄嗟に柏田が指を刺した道に車を入れた。すれ違えない1本道が田んぼの中に伸びている。適当な所で車を停めて話し合った。

「どうする」

「田んぼの様子を見に来たって感じで外に出ればいいんだ」

 提案した本人が真っ先に降りたので山口もそれに続く。目の前の田んぼは別段、異常だと思える事はない。何をどうするか理解仕切れてない山口を余所に柏田は携帯を取り出してカメラを立ち上げ、2台が停まっている所をズームした。

「……役場の人間と消防団だな」

「あー、卓がぶつくさ言いながら所属してたな確か」

「実家出るのを口実に抜けたらしいぞ。消防車のガソリン全部抜いて廃油に入れ替えてやろうかと思ったとか言ってたな」

「やったのか?」

「やらねーだろ。まぁ土日潰されて何やかんや集まりってなると俺らの世代はどうしたって嫌になるだろうぜ」

 山の前で何をしているか分からないが、取りあえずこのまま進めば面倒になるかも知れない。そう考えた2人は昨晩に翔太が行きで走った道を調べて車を進めた。

 入った道を直進し続けるとその先で高速道路の高架橋を潜る。次に出て来る十字路を左折し、何本か先の道をまた左折してもう1度高架橋を潜ればトカブの山の裏へ到達する道だ。アスファルトは途中で消えて未舗装の道になる。山の正面からだと死角になっていてこちら側は見えない。山の前を通る道からではかなり遠くから走っていると見える可能性はあるが「何か居るな」ぐらいにしか認識されないだろう。

「夕べ通ったのここだよな」

「そこそこ歩いた気がしたけど山までそんなに遠くないのか」

 カーナビをいじっていた山口がある事に気付いた。自分たちが居る所から北へ50mほどの地点に川が流れているのを発見。その川は今居る道と同様に高架橋の下を通っている。

「少し戻るぞ。高架橋の下で降りよう」

「なんで?」

「使えそうな道を見つけた」

 方向転換して高架橋の下まで戻る。車から降りた山口はまた山の方へ出て、高架橋の盛土に沿って歩き出した。轍が出来てるがここ最近での車通りはなさそうな道を進んでいく。100mばかり歩くと山の方から伸びている川に達した。

「この辺だけ護岸工事されてるな。それ以外は自然のままか」

「水は膝下ぐらいだな」

「向こうからは死角だ、このまま山に向かって進むぞ」

 川に沿って山に近付いた。フェンスなどは何もないので何所からでも川へ降りられる。水の流れも穏やかだ。

「戻るぞ。大体分かった」

「えー、戻んの?」

「今度は高架橋の向こうを調べる」

 来た道を引き返して高架橋の所まで戻った。車に乗り込んで高架橋を抜け、川が流れていく先へ向かう。辿り着いたのは大小の石で構成された河原だ。周囲の地形よりも1段低い。

「ここに車を停めて入れ物を担いで山へ向かう。そして残っている虫たちを容器に入れて、川を歩いてここに戻って来る。積み込んだら移住先の山へ行ってまたここに戻る。ってのはどうだ」

「そっか、川の方が低いから誰にも見つからないって事か」

「トラブルが無ければな。巡回してる警察に引っ掛からないのを祈る」

「ガサガサやってますとか適当言えばよくね」

「2回も遭遇すりゃ怪しまれるだろ」

「それもそうか」

 ここを地図に書き込んで取りあえずの集合場所とした。山の前の道は通らない事にしてここから移住先の山へ行く道を探る。

 因みに移住先は残りの民の総意で一番栄えている山に決まっていた。朽ちたバス停でGと遭遇したあの山だ。

 車は河原を後にして発進。大きく迂回して山の前の道との接合点まで来た。西崎が抜け道を書き込んだ地図は助手席の柏田が持っているのでカーナビで現在地と照らし合わせながら移動ルートを選定していく。

「次、何所で曲がるんだ」

「えーと……2つ目の十字路を左。信号ないから気を付けろ」

 暫く走り続ける。途中で田んぼに入る道が左右に現れて混乱するも、それではない事が分かったので直進。何とか目印の十字路に到達したので左折した。その後も直進が続く。

 約40分後、車は移住先の山に到着。翔太が車を停めた所と同じ場所に停車した。ついでなので自販機で水分補給する。

「やっす、100円だって」

 昨今あまり見ない値段に柏田が素っ頓狂な声を出した。

「俺ら子供の頃って何円だったっけ」

「110円だったよな」

「あー、気付きゃ120円から130円」

 ワンコインで買える有難みを感じつつ山口も100円を入れた。気温が上がって来たので車内に戻ってそこで飲む。取りあえずこれで移動ルートは決まった。Nシステムがない道だけを選び、なるべく信号を避けたルートで選定。行って戻って早くても1時間だ。

「いま何時だ」

「11時前」

「もう1つぐらい移動ルートを作っておこう。何かあった時に別々の方向から行ければ一緒に走る必要もない。ここに着ければいいんだ」

「ちょっと腹減って来たわ」

「適当な店あればそこに入るぞ。シートベルトしろ」

「へい」

 車は再び進み出す。途中で見回りと思しき消防車3台、役場の車2台とすれ違った。さっきより時間が掛かったものの2つ目の移動ルート選定は終了。助手席の柏田が空腹を訴えて五月蠅いので視界に入った店の駐車場に突っ込んだ。ドライブインなんて懐かしい看板を掲げたやってるのかやってないのか分からない店に入る。

 注文を済ませて数分。山口は川を歩くのなら必要な物がある事に気付き、店から出て買い出し組に電話を掛けた。

「もう買い出し終わったか?」

「いい感じのホムセン箱がなくて3件目に向かってる」

 電話の相手は翔太だ。卓は運転してるから必然的に出られない。

「長靴を人数分買っといてくれ。金は後で出す」

「長靴?」

「あの山から安全に虫を運ぶ方法を思い付いた。そのために必要だ」

「了解、多分あるだろうから買っておく」

 電話が終わって席に戻ると注文した物が来ていた。柏田が一足先に食っている。

「美味いか」

「……あんま大きい声じゃ言えない」

 含むような言い方である。一口食べて見ると、まぁこんなモンだろう、と言ってしまいたくなる味だった。しかしどうにも柏田の発言が気になったので少し貰うと向こうのがハズレだったのが分かる。注文した手前、文句も言えないのでそそくさと胃に流し込んで店を出た。

「晩飯どっか行こうぜ、明日に備えて気合入れなくちゃ」

「家まで送るの面倒だから潰れんなよ」

「知ってるか。消防団って飲む練習と称して飲み会の前から飲み始めるらしいぞ」

「何だそれ」

「前に卓から聞いた。付き合ってられるか、ってさ」

「……そりゃ嫌にもなるわな」

 もう1度買い出し組に電話をした。長靴人数分とホムセン箱を幾つか購入し終え、向こうも昼を食っている最中だった。

「何所かで合流しよう。移動ルートの事も話したい」

「また図書館でいいか? 俺の帰りが楽って理由で悪いけど」

「チャリ?」

「チャリ」

「分かった、先に行ってる」

「すんません」

 朝に集合した図書館へまた戻った。到着から30分ほどで買い出し組も合流。正人が追加で移動ルートを書き込んだ地図をフリースペースで広げて打ち合わせスタート。川の件があるので必然的に山口が仕切った。

「まず移動ルートについて。夕べ翔太が使った道の近くに川があったのを見つけた。ここを歩くと山の裏側の近くまで行く事が出来る。そこから地面に上がって山に入って虫たちを回収、川を歩いてこの河原まで移動する」

 地図の上をなぞる山口の指を全員が見つめた。川はトカブの山に対して右側に位置。真っすぐ下って緩やかに右へ曲がり、その先へ流れていく。この曲がる所が山に最も近い部分だ。

「最初の集合場所はこの河原だ。ここから川を上って山に近付く。川は周囲の地形より低いから簡単には見つからない筈だ。行きも帰りもここを歩く。後は車に積み込んで目的地の山で虫たちを下ろし、またこの河原に戻る。残っている虫が居なくなるまで往復を繰り返せばいい」

「よくこんなのに気付いたな」

 付近の道路事情に詳しい西崎も知らなかったようだ。意識して見なければ分からないだろう。

「山の前の道路に役場と消防団が居たんだ。下手に近付いたら面倒になりそうだったから色々考えた」

「げ……最悪」

 西崎の顔色が露骨に変わる。声も重たくなった。隣に座る柏田が慰めるように肩を抱く。

「でも卓が居た所の分団とは関係ないだろ?」

「ないけどさぁ……異動で知ってる顔が居る可能性もあるだろ」

「異動? 転勤すんの?」

 消防団について全く知識のない翔太が口を挟んだ。支社を持つ会社であれば異動がそのまま市外、もしくは県外への転勤となるのは珍しくない。

「引っ越したら所属が変わるんだ。手続きが必要だけどな。遠方への引っ越しを理由に退団する手もある。だから俺はそのまま退団になる方法として実家を出て人口の多い所へ移ったの!」

 急に子供っぽい口調になる。さっきまで運転してたからまかり間違っても酒は飲んでない筈だ。

「愚痴はまたの機会にたっぷり聞いてやるよ。取りあえずスタート地点に関してはこれで行こうと思うが翔太はどうだ」

「ぶっちゃけここまで考えてなかった、ありがとうございます」

 続いて移動ルートを柏田が説明。どっちの道でも行きつく場所は同じだ。コピー機で地図を人数分コピーしておく。

「明日の集合時間は早朝にしようと思う。役場も警察も8時半より前は動きが鈍いだろ。出来るなら3時間程度で全部を終わらせてしまいたい」

「何時だ」

「……5時に山の近くのコンビニ集合で」

「はっや」

「嫁に怪しまれそうだな。まぁ何とか言いくるめる」

「悪い」

「正人、お前は俺が迎えに行くからそれまで動くなよ」

「何で」

「お前の車、黄色いだろ。目立つ」

「……まぁ目立つな、マフラーも2本だし」

「卓、前の白い方で来いよ。今日のイカついヤツじゃなくて」

「あー、実家に行って1台借りて来る。軽ワゴンならあの辺には馴染むだろ」

「俺は……」

「お前はいつものでいい」

「いつものってかあれしかないんですけど」

「車買うなら俺の店来いよな」

「中古でいい。今からだと再就職に間に合わない」

「んじゃ将来的にでいいからさ」

 急に始まった柏田の営業を回避しつつ打ち合わせは進む。1時間程度で解散し、晩飯の約束を交わして別れた。ホムセン箱は山口の車へ一旦全部積み込み、長靴の分配も忘れずに行う。

久々にゾーンってやつを体感しました。

長続きはしませんが……

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