招かれざる客
念願のハンバーグを作り、食べることができたタクミ。
完成したあと、母親はまた出かけると言って出ていくが…
晩ごはんを食べたあと、ここでいつもならお風呂に入るのも出来ずに寝てしまうのだけど、今日はなんか目が冴えていた。お腹はいっぱいなんだけど、料理でテキパキ動いたからかな?
座椅子にもたれながら、チィにメールを送ることにした。
『体調はもう大丈夫か?僕今日ハンバーグとマカロニサラダとコンソメスープを作った。なかなかやるやろ。チィにも食べさせたいくらいや』
夜だからもう寝てるかもな。
◇ ◇ ◇
ピンポーン ピンポーン
気づくとウトウトしていた。でもそんなに時間は経っていないと思う。
こんな時間になんだろう。
「はーい!」
玄関のほうに行ってみる。とくに配達とかそういうのは頼んでないと思うんだけど。
「お届けものです〜!」
ん?誰か親戚とかが、送ってくれたとかかな?あまり普段そういうのは全くないんだけど、母親が亡くなったあとということもあって、気を使ってくれてるのかもしれない。
カギを開けた。と、その瞬間、凄い勢いでドアがあけられた。
一瞬何が起こったかわからなかった。僕は家の中にはじき飛ばされ、配達の人が中に入ってきて、カギを閉めた。
配達の人…の格好じゃない。
「サプライズの、お届けものですよ。おぼっちゃん」
全然知らない50絡みくらいのおっさんが立っている。タバコと酒の混じったような、嫌な臭いがする。僕は押し飛ばされた衝撃もあって、ただただびっくりしていた。
「だ、誰…?ですか?」
何か凄く嫌な感じはする。それだけはわかった。
「あれ?俺のこと覚えてないんやったっけ…?まぁ小さい頃以来やしなぁ。彩海もお前に、俺のことなんか言わないか。それにしてもよう探したで〜」
アヤミは母親の名前だ…なんとなくわかってきた。でも、なんで今更この家に。
「死んだやろあいつ。少しくらいは大事な息子のためにお金入るように残してるんちゃうかなぁと思ってなぁ。保険金とかまぁまぁ入ってるやろ。どこに隠しとんや」
少しずつ。怒りが湧いてきた。でもなるべくまだ冷静に。一応確認をしてみた。
「お前は…母ちゃんと僕を捨てた父親か?」
声を殺して男が笑っている。
「捨てたっていうのは人聞き悪いやんなぁ。俺がお前らを捨てたんやなくて、俺が捨てられたんやで」
どう考えても、コイツの言ってることは信用できない。どうせ捨てられたにしても、無茶苦茶してるコイツに、母親が愛想を尽かしたような感じだろう。どちらにしても、コイツが言うような保険金はあるにはあるけども、母親が残してくれたものは、毎月振り込まれるタイプのものだから、大きいお金は家にはない。あったとしても渡さないけども。
「お金はない。そんな保険金はないで。とっとと帰れや」
男が機嫌悪そうにこっちを向く。
「ないわけはないやろ。まぁ保険金はないにしてもちょっとは金置いてるやろ。まぁゆっくりしときや、物色させてもらうわ」
「おっさんふざけんなや。はよ出ていけって言うてるやろ!」
男の目つきが鋭くなる。僕はその瞬間押し倒されて、動けなくなった。凄い力だ。
「大人をなめんなよ…ガキが。1人で生きていくこともできひんガキが偉そうにすんな…」
抑えられながら必死にもがくが、肩と首を抑えられていて動けないし、苦しい。
「コソドロみたいなやつが何を大人ぶってんねん…」
「調子のんなよガキ!黙らせたろか!」
男は僕の上に馬乗りになって、僕のノドを思いっきり両手で締めつけてきた。動けない上に、苦しいし、力がはいらない。こんなおっさんを跳ねのけることもできない自分が情けない。
「弱いくせに偉そうにするからやぞ!ははは、ええ顔しとるわ!」
意識が…
その時。
部屋中が真っ昼間のように光った。
──バシュッ!!
凄い弾けるような音がして、男ははじき飛ばされた。意識が…少しずつ戻っていく。必死で息をする。なんとか、大丈夫みたいだ。それよりも眩しくて周りが見えない。
「なんやねん、ったく…うわぁっ!!!」
男の声だけが聞こえる。はじき飛ばされたからか、声は少し離れたところから聞こえた。
『許さない…』
その声は、今まで僕が聞いた中でも、一番恐ろしく、憎しみのこもった声だった。
「えっ、え、アヤミ!?お前死んだんとちゃうんか?なんやその姿!」
『二度と…一生この子に近づくな…!!さもなければお前は地獄で永遠にもがき苦しむことになる!!』
「ちょ、ちょっと待ってぇな。顔見に来ただけやんか、たまたま偉そうに言われてカッとしただけやんか…な?」
2人の声だけが聞こえる。
『お前に、呪いをかけた。この子に近づけないようにする呪いだ。早死にしたなかったら、すぐ出ていけ!』
「ひぃっ!!わかった!わかったすぐ出ていくわ。やから呪い殺すとかだけは勘弁してくれ。すまんかった!」
男は、何かにぶつかりながら、玄関の方へ向かっていく。そして、カギをあけてドアを乱暴にあけて、出ていった。
◇◇◇
少しずつ、光が薄くなっていった。それと共に、僕の上がっていた息も落ち着いてきた。僕は何も言えず、その場にただ座っていた。
『タクちゃん…』
いつもの、優しい母親の声がする。光はほとんど無くなって、いつもの部屋の明るさに戻ったけど、母親は少し前よりも透明になってる気がした。
「母ちゃん…」
母親が僕のほうに近づいて、両手を抱きかかえるように交差した。もちろん僕の体はすり抜けていく。それに気づいてか、気づかずにか、母親は僕のほうを見る。
『タクちゃんごめんなぁ、怖い思いさせてしもて…あんな…』
「あっ!ほんま怖かったわぁ〜!あれ、宅配業者を装った強盗て言うん?よく噂には聞いてたんやけど、ほんまにあるんやな〜、びっくりして腰抜けてしもたわ。母ちゃんが助けてくれんかったら危なかったわ〜」
『タクちゃん…あんた…』
母親にそんな辛いことを話させたくない。それに知る必要もない、あんな人間のことは。
「それより、母ちゃんなんか薄くなってない?元々幽霊やから薄いんやろけど、なんかより薄くなったような…」
『あ…えーと。あっ、いや、あれやわ。母ちゃん元々存在薄い感じやったやろ。やから気のせいちゃうかな?てか薄いほうが美人に見えるやろ、透明感のある素肌っていうやろ?ほらほら』
んー。なんか怪しいけども、まぁ言いたくなさそうなことみたいだからいいか。
「まぁいいや。あっ、母ちゃん言い忘れてたけど…ハンバーグごちそうさま!美味しかったで」
母親は、泣きそうになったところを無理やり笑顔を作ったような、なんか複雑な表情をしていた。
急に眠気がきた。緊張していたのがゆるんだからか。
「晩ごはんの片付けできてないんやけど、もう眠気が限界やから寝るわ〜。おやすみなさい、母ちゃん」
『うん、うん。おやすみタクちゃん。ゆっくり休みや』
幽霊も涙を流すんだ。
タクミんちの冷蔵庫の中身
◯たまご 4個
◯白だし
◯ニラ 三分の一
◯玉ねぎ 1個
◯豚肉 150g
◯キャベツ 四分のニ
◯スパゲティ 400g
◯マヨネーズ
◯えのき茸 半分
◯ウインナー 12本
◯ハム薄切り 2パック
◯ベーコン 3パック
◯ちくわ 2本




