七品目・チャーハン
学校帰り、チィのリクエストでプリンを届けるタクミ。
そのあと晩ごはんを作るために家に帰るタクミ。
この前から、母親の様子が少し変わっていってることに気づくが…
少し歩いて家に着いた。もうさすがに母親は帰ってきてるかな…?
『タクちゃん、おかえり〜』
帰ってきていた。やっぱり前の時から少し薄くなっている。
「ただいま〜、お腹空いたわ〜。今日はなんかパッと作れるやつがええわ」
『今日はいつもより少し遅めやったんやな?チィちゃんとこに寄ってきたん?』
「あぁ、そやねん。なんかプリンが食べたい言うから持っていってた」
母親は「ん?」という顔をして、それから納得したように僕の方を向いてニンマリした。
『あぁ、そりゃあれやわ。プリンが目的やなくて、タクちゃんの顔を見る口実やで』
んー、そうは見えなかったけどな。
「まぁそれはええから、今日は何を教えてくれるん?」
『あはは。あ、パッと作れるやつやったら、前のあまりの冷凍ごはん何個か冷凍庫にあるし、チャーハンにしよか。ご飯炊いてたら時間かかるやろ』
チャーハンいいね!たまに食べたくなるやつ。これは是非覚えておきたい。
「うんうん、それにしよ!冷凍ごはんをチンしといたらいいんかな?」
まず冷凍ごはんを、レンジにいれあたためておく。
『チャーハンは家によって色々作り方あるやろけども、さくっと工程だけ先に言うとくで。
①材料を切る、炒める
②炒めた具材の真ん中をあけて、とき卵いれる
③ごはんいれて炒めながら混ぜる、完成
こんな感じやわ。わかった?」
「うーん、なんとなくやけどわかった。まぁ作っていこ」
冷蔵庫にあまっていた食材の、玉ねぎを半分をみじん切りに、ニラも同じくみじん切り。あとウインナー2本と、ちくわ1本を細かく切り、ベーコン1パックを短冊切りにする。
『包丁使いもまぁまぁ上手くなってきたやんか。やっぱ慣れやね。あ、片手鍋にお水いれて沸かしとこっか。中華スープ作ろ』
片手鍋に水をいれて火にかけておく。
『ほな炒めていくで〜。あ、中華スープ用に、玉ねぎとニラとちくわはちょっとずつ置いとき。小さい器にまとめて入れといたら、パッと入れれるやろ』
その通りにする。フライパンに油をひいて、火にかける。その間に冷凍ごはんのあたためが終わってレンジが鳴った。切った具材をフライパンに入れて、じゃんじゃかお玉で炒める。いい匂いがする。
『火は中くらいでいいよ。ほんで塩コショウ、鶏ガラの素、しょうゆをちょっぴり入れよか。ほんで真ん中あけてな、卵そそぐから』
調味料を入れて、ある程度混ざってきたら、フライパンの真ん中を空ける。卵2つをボウルにいれて箸でといて、フライパンの真ん中に入れる。
「これ、混ぜるん?卵」
『あっ、卵はまだ混ぜんでいいで。なんていうかちょいポロポロってなってるほうがチャーハンの卵っぽいやろ。卵がくつくつなってきたら、温めてたごはんをボンっとほりこんでな。あとはごはんをほぐしながらじゃんじゃか炒めるだけや』
ごはんをいれる前に鍋に入れた水が湧いてきたので、よけていた玉ねぎ・ニラ・ちくわの残りをいれる。そして、ごはんをボンっ!
「おおっ、めっちゃチャーハンぽくなってきたで〜!いい匂いするわ」
『オッケー、もうチャーハンは完成や。ほんでスープのほうにも鶏ガラの素ちょっとと、ごま油と、あと乾燥わかめと、いりごまいれてな。そっちもそれで完成や』
スープも簡単だ。味噌汁も澄まし汁も、中華スープも基本は同じで、具材とダシ、あとは調味料で味が変わるだけのことなんだな。これは覚えておこう。
「ほんとに簡単やったわ。これはまた作ろ。お皿お皿…と」
『あ、せっかくやからチャーハンをお店っぽい盛り付けにしよか。少し大きめのお椀あるやろ、そこにチャーハンをいっぱいに詰めてな。ほんでお皿にひっくり返してポンしてな』
その通りにすると…おぉっ!お店っぽいチャーハンだ。
「いいやんいいやん。なんかテンションあがったわ!」
出来上がったスープも器に入れる。
「いただきまーす!うんっ!美味い!」
『そやろ〜、この作り方が母ちゃんも一番好きやねん』
母親はニコニコしながら僕の食べてる姿を眺めている。
『あ、タクちゃん。食べながらでええから少し聞いといてほしいんやけどな』
ん、なんだろう。
『母ちゃん、あと2週間くらいしたらタクちゃんとサヨナラしないとあかんくなったわ…』
え。
「え、2週間て…早くないん?」
『うん…あんな。タクちゃんにはあまり詳しく話してなかったんやけど、どっちにしても母ちゃんが死んでから49日経ったら、もういなくなる予定やったんよ』
「49日…」
『まぁ、あんまり難しい話してもしゃーないからあれやけど。この世とあの世をふらふらできる期間が49日なんよな。んで、その間に思い残してることがあったら済ましたり、あとは閻魔様とその後どうするとか相談するんよ』
エンマ様て…なんか急にリアルっぽい話になってきたな。エンマ様と相談してる母親の姿は想像できないんだけど。
「エンマ様って…なんか地獄行きとか、そういうのを裁くとかじゃないん?母ちゃんそんな悪いことしてないやろ?」
『あぁ、母ちゃんもエンマ様ってなんか怖いイメージやったんよね、絵本とかそういうのやと。実際は閻魔様って、神様とか、仏様とかと同じような存在らしいわ。ちょっと説明難しいけど、その時によって役割りとか姿も変えるみたいな感じやねんな』
んー、まぁエンマ様の話はややこしいからいいか。それよりも日数のことだ。
「ほんで、その49日がなんでいきなり2週間になったん?」
『それやねん。まぁ母ちゃん死んでから1週間と少しかな?経ってるのは引くとしてもまだ40日くらいあるはずやったんやけど…前のあれ。強盗事件あったやろ?』
母親も僕に口裏を合わせてくれたみたいだ。うん、それでいい。
「うんうん、それで?」
『あん時にな、ちょい力を使ってしもたんよな。しかも3回も』
力ってなんなんだ。
『まぁこれも詳しくは言わんけども、強盗をバシュッとしたのと、あいつに呪いかけたんと、タクちゃんにお守りしたんとやな』
なんかよくわかんないけど、色々したんだな。
『まぁ簡単に言うと、力使うと、現世をふらふらできる日にちが減るんやわ。それをいいことと思うか、悪いことと取るかはその人によるんやけどな』
「うん…結局、母ちゃんは2週間後にはいなくなるってことなんやな?」
『うん。うん…そうやねん。母ちゃんもう少し、タクちゃんに色々教えてあげたかったんやけどな』
なんだよそれ。なんだよ…それ。なんでそんな勝手になんかして、勝手に早くいなくなっちゃうんだよ。僕は…
「大丈夫やで、僕。結構色々教えてもらったし。てか、そんなしょっちゅう料理教えてもらわんでも大丈夫やから、母ちゃん好きなことして過ごしたらええよ」
母親が寂しそうな顔をして、僕の方を見る。ごめんな、こんなこと言って。
「すごい料理教えてくれてありがたかったけど。まぁ言うても、これから一人で生きていかなあかんし。いつまでも母ちゃんに頼ってばかりやったらあかんし」
『タクちゃん…』
ごめんな。でもこうでも言わないと母親も辛いだろ。
「ごちそうさま〜!お腹いっぱいなったら、もう眠いわ〜。お風呂は明日の朝にはいるわー、おやすみー」
母親は悲しそうな顔をしている。
隣の部屋で布団を敷いて、そこに横になった。
七品目・チャーハン
中華スープ
ごちそうさま。
あと…母ちゃん。ごめんな…僕のせいで。
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かぐつち・マナぱ様に、素敵な挿し絵をいただきました。
もう母ちゃんと呼ぶにはもったいないくらいの、可愛い素敵な母ちゃんをありがとうございます!タクミが17歳なので、母ちゃんは37歳くらいです。
タクミんちの冷蔵庫の中身
◯たまご 2個
◯白だし
◯豚肉 150g
◯玉ねぎ 二分の一
◯キャベツ 四分のニ
◯スパゲティ 400g
◯マヨネーズ
◯えのき茸 半分
◯ウインナー 10本
◯ハム薄切り 2パック
◯ベーコン 2パック
◯ちくわ 1本
◯マカロニサラダ 三分の一
◯ミニハンバーグ 2個
◯冷凍ごはん 2パック




