冒険者+5:おっさん、また魔剣を貰う
あぁ疲れた。本当に疲れたよ。
私は思わず、その場で腰を下ろしていた。
敵が固いと、反動で身体に響くから辛いんだよなぁ。
腰とか肩とか、足の古傷が痛くて仕方ないよ。
早くお風呂に入りたいな。
私はそんな事を思いながら、未だに大樹に磔にされて人型に戻ったドーワを見上げた。
「……憎かったんだろうね」
どうも私は彼を憎めなかった。
子供の姿だから?
それとも、ハーフエルフ達が辛い目にあっていたのを知っていたからか?
どちらにしろドーワにトドメを刺す気はない。
彼の処罰は被害のあったエルフ族に一任しよう。
それが一番、問題にならない筈だ。
「師匠!」
「センセイ!」
「師匠~! お腹へったぁ~」
「ルイス殿!」
疲れ切った私の下に弟子達とルナリアがやって来た。
皆、元気だね。おじさん、走る元気はもうないよ。
「師匠、大丈夫ですか!?」
「肩をお貸しします!」
「あぁ、ありがとう……」
私はクロノとルナリアに、肩を借りながら立ち上がった。
やっぱりレベルが<70>以上になると、終わった後の反動がキツイな。
「はい師匠……あげる」
やぁレイ、何をくれるんだい?
――おぉ、翠色の綺麗な剣だね。ありがとう……って、ドーワの持ってた魔剣じゃないか!?
「いやいらないよ!? っていうか、それもエルフ族関係じゃないのかい!?」
「い、いえ……その魔剣はドーワが最初から持っていたもので、エルフに縁はありません」
「だからって貰えないよ! こういう時はまず、エルフの女王様の許可とか必要だ――」
「その必要はありませんよ」
私がそう言った瞬間、透き通った綺麗な声が周囲に響き渡った。
この声、私は聞き覚えがあった。
8年前、世界樹の迷宮に入る許可を貰った時に。
「エルフの女王様?」
「女王様!? 何故、ここに!」
そこにいたのは大きな杖を持つ、まだ少女とも呼べる女性だった。
だが神々しいドレスと威厳。周囲の護衛の態度から、彼女を侮る者はいないだろう。
「ご無沙汰しております、女王様……そして、すみません。この格好で」
今の私はボロボロで、クロノとルナリアに肩を貸してもらっている状態だ。
あまりにみっともない姿だから、私は心配していた。
けど、女王様は首を優しく振ってくれた。
「いえ、構いません。世界樹が教えてくれました……この度は、世界樹と我らエルフを救い頂き、感謝します。ダンジョンマスターよ」
そう言って彼女は頭を下げた。
私達は目を疑ったよ。
あの誇りあるエルフ族――最低でも500年以上生きている長が、たかが人に頭を下げたんだ。
私は驚いたが、すぐに止めようとした。
「い、いやいや!? やめてください女王様! エルフ族の長がそんな簡単に――」
「良いのです。エルフ族は滅亡の危機だったのでしょう。それを救って下さった英雄に、頭を下げるのは当然のこと。――しかし」
そう言って女王様は周囲を見渡し、怪我をしたエルフ族を悲しそうに顔をで見ていた。
「被害が被害です……今の私達には、貴方に報酬を渡す事ができません」
なんだそんな事か。少し真剣な表情もしていたから心配したよ。
けど別に報酬目当てじゃないし、別に大丈夫だ。
「いえ、別に要りません。ただ、少し休む場所を貸して貰えれば……」
「えぇ構いません。ですが、それだけでは我らの気が収まりません。――ですので、代わりではありませんが、その魔剣を貰って頂けませんか?」
そう言って彼女はレイに近付くと、レイから魔剣を預かった。
レイは賢いから、こういう時どうするか、ちゃんと分かってるんだよ。
そして女王様が私に魔剣・ガイアを差し出してきた。
そうなれば、私も肩を借りてる場合じゃないな。
「二人共、ありがとう……」
私はそう言って二人から離れると、フラフラしながらも彼女の前で膝を付いた。
「受け取って下さい。ダンジョンマスター」
「謹んで、お受け取り致します」
私はそう言って両手を前に出し、彼女から魔剣・ガイアを受け取った。
そして受け取ると同時に、ガントレットブレードと合成する。
あぁ、綺麗なマナを持つ魔剣だな。
まるで大自然で森林浴をしているかのようだ。
こうして私は再び魔剣を手に入れてしまった。
まぁ良いか今回は。女王様の頼みでもあるし。
私はそう思っていると、女王様は私を見て優しく頬んでくれた。
だがそこから少し見上げてドーワを見ると、やや厳しい顔を見せる。
「彼の身は我らエルフが預かります」
「分かっております。――ですが、彼はハーフエルフです。きっと根っこに悲しみがあります。行いは許されない事をしました。しかし、どうか理解だけはしてあげてください」
「勿論です。これはきっと……今までの罪。その罰だったのでしょう。――ですが、これは破壊します」
「えっ?」
私は何のことか分からなかったが、女王様が近くの地面へ杖を向けた。
すると、そこから魔法陣が現れた。
――なんだ、あの魔法陣は。あれは古代文字か?
「古代文字の魔法陣……まさか始高天の――」
「始高天……それが彼等の組織の名ですか。――マナの流れで分かります。どうやら、ここだけではなく色々なダンジョンで刻んでいる様ですね」
「なんだって……! それは……うぅ」
私は限界が来て膝を付いてしまった。
「センセイ!?」
「師匠!」
ミアとクロノ達の声が聞こえるが駄目だ。もう眠い。流石に疲れた。
私は倒れそうになるのを、再びクロノとルナリアに助けてもらった。
「いけませんね。まずは休ませましょう……ルナリア、ダンジョンマスター達を案内してあげて」
「はい!――こちらへ」
私が最後に聞こえたのは、ルナリアのその言葉だった。
もう瞼が限界だ。色々とあって限界が来た。
――もう寝る。
そこで、私の意識は完全に途切れてしまった。
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ルイスが手に入れた魔剣一覧。
・魔剣グラビウス(重力魔法)
・魔剣悪食(魔法吸収)
・魔剣ニブルヘイム(超氷魔法)
・魔剣ガイア(大地・植物魔法)←new




