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俺のスキルは<剣技:->(いち)!  作者: 日之浦 拓


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無限の可能性

 そうしてアリシアと剣一がいい汗……他意はない……を流した、その日の夜。アリシア達は宿泊先のホテルの一室にて集まり、顔をつきあわせていた。


「さて、それじゃ今日の活動報告を――」


「ちょっと待ってロイ」


 話を始めようとするロイに、アリシアが鋭く言葉を挟む。


「何だアリシア?」


「何って、今朝はわざわざダンジョンで話したのに、今はもうここでいいの?」


「ああ、それか。問題ない。というのも……」


「僕がちょちょいーっと細工したからね! ペンタゴン並とは言わないけれど、即席の盗聴グッズで聞かれるほどじゃないさ」


 ロイの言葉を継いで、ジミーがそう言ってニヤリと笑う。だがその発言に対し、アリシアは怪訝そうな表情を浮かべる。


「ちょちょいって……貴方ならできるんでしょうけど、でもそれなら朝だってそうすればよかったじゃない。なんでしなかったの?」


「おいおいアリシア、勘弁してよ。まさか君、僕に徹夜で仕事しろっていうの? カフェインは友達だけど、エナドリは寿命の前借りなんだよ?」


「徹夜? えーっと……?」


「ゴホン、その件も含めて、改めて説明しよう。ではまずこちらからだが……実のところ、魔力波のおおよその発生地点は思った以上に簡単に判明したんだ。だがその場所が……」


「聞いてびっくり! 何と普通の住宅街だったんだよ!」


 両手を広げて大げさに言うジミーに、アリシアはいつものことと流しながら問う。


「住宅街? つまり、民家だったってこと?」


「まあ、そうだな。そしてその時点で、我々の予想は大きく外れた。あれだけのことができるのだから、てっきりもっと広い場所だと思っていたんだが……まさかそれほど小型だとはな」


 それがどんなものであれ、大きなエネルギーを扱うなら、その設備も大きくなるのが当然だ。数千キロ先の対象に計器が振り切れるほどの衝撃を与えるとなれば、その設備はどれだけ小さく見積もっても一〇トントラック二、三台分くらいにはなるというのが、上層部とロイの共通した見解だった。


 だがロイ達が辿り着いたのは、ごく普通のアパート。運送業者の倉庫や貸しビルなど、広い空間と機密性を両立できる場所を想定していただけに、それはあまりにも予想外であった。


「発生源は、ごく普通の賃貸アパート。出入りする住人も軽く確認したが、俺の目では一般人にしか見えなかった。


 まあ実際には一棟全部貸し切っていて、住人にカモフラージュした構成員が住んでいる、という可能性も否定はできないが……」


「そこまでの調査となると、もう僕達の領分じゃないからね。うちの国のダウンタウンだったら、管理人にお金を握らせればわかりそうだけど」


「何を馬鹿なことを。他国の組織が拘わってるなら、金を取られて終わりだろう?」


「そこはほら、僕ならこう、色々と……ね?」


「うわー、ジミーってそういうの好きよね」


 頼りになるはずの仲間の言葉に、アリシアは微妙に引きながら言う。だがジミーはそれこそ本懐とばかりにニヤリと笑うと、そのまま言葉を続けた。


「そんなわけだから、調査の方はサクッと終わっちゃって、あとは諜報部の報告待ちって感じでさ。もの凄ーく時間が余ったから、暇つぶしにこの部屋に色々仕込んだんだよ。


 まあ僕だけ前乗りすれば同じ事もできたけど、それはそれで問題あるしね」


「だな。ジミーだけ日本に送り出したら、仕事もせずに買い物をしまくるに決まってる」


「うわ、絶対そうね!」


「ちょっ、二人共酷いな!? 精々必要経費として、限定フィギュアの予約を入れるくらいだよ?」


「堂々と横領を宣言するな! ったく……いい仕事をすれば、人形くらい買ってやる」


「やった! 流石は我等のボス、太っ腹ー! じゃあ一二〇〇ドル宜しく! それでアリシア、そっちは?」


「……待て、一二〇〇ドル? たかが人形が一二〇〇ドルだと!?」


「あー、うん。私の方は予定通り、現地の冒険者と仲良くなってきたわよ」


 背後でロイが「ジミー、どういうことだ? 一二〇ドルの聞き間違いか? いや、それでも高いが……人形なんて精々三〇ドルくらいだろ?」と騒いでいたが、それを無視するように押しのけ、ジミーがアリシアに問いかける。


「流石はアリス、パーティへのお誘いはお手の物だね。それでどんな相手と仲良くなったんだい? もし同世代の女の子だったら、僕にも紹介……あー、いや、やっぱりいいや」


「あら、そう? ま、どっちにしろジミーの好みじゃないかもね。何せ私が仲良くなったのは、年下の男の子だから。ほら、朝ダンジョンに入る前に、凄く強そうな子がいるって言ったでしょ? その子よ」


「ほう? まさか狙って声をかけたのか? ジミー、遠足のおやつは五ドルまでだ。異論は認めない」


「そんなー!? 今時五ドルじゃアクスタだって買えないよ!」


 遂にジミーを押しのけて前に出たロイが、興味深げにアリシアに問う。するとアリシアは軽く笑いながら首を横に振った。


「いいえ、完全に偶然よ。アメリカと違って、こっちはソロで活動してる子って全然いなかったの。で、やっと見つけた貴重な人材が偶々その子だったってだけ。


 でも凄いのよその子! まだまだ未熟なところは沢山あるけど、才能だけなら私より凄いかもね」


 剣一が第三階層以降に降りられないため、結局アリシアは剣一がきちんと戦っているところを見なかった。なので剣一が「既に途轍もなく強い」ことまでは気づけず、単に「とんでもない才能を持っている」という判断に収まっている。


 だがそれでも、ロイとジミーは目を見開く。アリシアの凄さを知っているだけに、その彼女がちゃんと自分の目で確かめたうえで「凄い」と言っていることに驚いたからだ。


「まさか本当にそこまで? うーん、事前情報ではそんな冒険者の話は聞いてないんだが……」


「朝の話だと、今年冒険者に登録したばっかりみたいな子なんでしょ? なら頭角を現すのはこれからなんじゃない?」


「あ、ごめん。それ私の勘違いだったみたい。本人に聞いたら、来月一五歳になるって話だったわよ。あー、でも……」


「? 何だ?」


「その子ね、私と同じ<剣技>のスキル持ちだったんだけど……スキルレベルが一だったの。免許証(ライセンス)を見せてくれたから、間違いないわ」


 アメリカの免許証(ライセンス)と、日本の協会証(ライセンス)。管理している団体が違うため多少の違いはあるものの、大本になっているのはどちらも同じダンジョンとスキルが拘わる技術だ。それらは偽装が極めて困難であり、今のところ成功したという事例は一つもない。


 なので確実だと主張するアリシアの言葉に、ジミーがキョトンとした顔になる。だがすぐに眉をひそめるとそのまま言葉を続けた。


「何それ? 意味わかんないんだけど……アリシアが認めるような才能の持ち主が、二年以上活動しててスキルレベル一? そんな事あり得るの?」


「我々の常識で考えればないだろうが……しかし本当だというのなら、理由が気になるな」


「だねー。もしレベルが一のまま成長し続けられるなら、それって雑魚狩りだけで無限に成長できるってことでしょ? ひょっとしてそういうスキルがあるとか?」


「「あっ!?」」


 何気ないジミーの言葉に、ロイとアリシアが声をあげる。もしそんなスキルがあるなら、現代の戦力図を大きく塗り替える力がある。


「……ふむ、ならその件も一応上に報告しておくか。アリシア、その少年の名前はわかるか?」


「えっと……ケンイチよ。ツルギ ケンイチ。そう名乗ってたわ」


「ツルギケンイチ、か……文字通り国を揺るがす兵器に加えて、強くなってもスキルレベルがあがらない少年とは。今回の任務も賑やかになりそうだな」


「僕はカフェでスマホをいじりながら時間を潰せる任務の方がいいなぁ。あ、でもガチャは駄目だ。あれを考えた奴は、きっとこの世界で一番最後に生まれたデヴィルに違いないね!」


「ケンイチ…………」


 警戒するロイと、面倒くさそうに言うジミー、そして出会ったばかりの後輩を気にかけるアリシア。彼らの任務が果たして何処に向かうかは、今はまだ誰も知らないことである。

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