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俺のスキルは<剣技:->(いち)!  作者: 日之浦 拓


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お姉さんと剣一

「あっ、ごめんなさい。突然話しかけちゃって。心配しないで、貴方に何かをするつもりはないの」


 ダンジョン内部において、不用意に他の冒険者に近づき、声を掛けるのはマナー違反である。これは法の光が届きづらいダンジョン内という場所において冒険者が身を守るための暗黙の了解であり、当然アリシアもそれを知っている。


 なのでアリシアは両手を顔の高さまであげ、開いた手のひらをヒラヒラ振って見せることで戦闘の意思がないことを示した。軍の制服を着ていればこの状態であっても警戒されていたかも知れないが、今のアリシアは私服なので問題無い。


「はぁ。いやまあ、別にいいですけど……」


 故に剣一も、若干の戸惑いを覚えつつもアリシアに対する警戒を緩めた。不意打ちをするなら声を掛ける理由がないし、今自分がいるのはダンジョン奥まった部分なので、周囲に誰かを潜ませておいて奇襲というのも考えづらい。


 それに何より、あれだけの事件に巻き込まれてなお、剣一のメンタルは未だに一般人であった。実際誘拐されたのは祐二と愛であって、剣一は家に来た謎のオッサンを軽く張り倒しただけだし、アトランディアでニキアスが襲ったのはエルやレヴィで、剣一は直接攻撃されていない。


 つまり、剣一には危機意識があまりなかった。一応頭では理解しているが、それは「学校が突然テロリストに制圧されたらどうしよう?」と妄想する学生のようなもので、実際に狙われたり襲われたりすることは想定していないのだ。


「それで、俺に何か用ですか?」


「何か用ってわけじゃないわ。今言ったとおり、貴方が凄くいい動きをしていたから、思わず声をかけちゃったの」


「そ、そうっすか。どうも……」


 ニッコリと笑うアリシアに、剣一が微妙にどもりながら答える。するとそんな剣一の態度に、アリシアが更に笑顔を深めて言う。


「ねえ、もしよかったら、もうちょっと貴方の事を見ててもいいかしら?」


「ふぁっ!? そりゃ、別にいい、ですけど……?」


「よかった! ならちょっとだけお邪魔するわね」


 そう言うと、アリシアが少し離れた壁際にストンと腰を落とし、剣一を見て笑顔で手を振った。そんなアリシアの態度に、剣一の脳内で激しい戸惑いが生じる。


(え、何だ? 何だこれ!? 今俺に何が起きてるんだ!?)


 軽い運動くらいのつもりでダンジョンで剣を振っていたら、突然年上の金髪お姉さんに声をかけられ、ニコニコ手を振られた。その状況の意味がわからず混乱する剣一だったが、いつもならキラリと輝く心の眼鏡が、今日に限って曇ったままだ。


「どうしたの? 鍛錬を続けていいのよ?」


「は、はい! そうですね!」


 不思議そうなアリシアの声に、剣一はビクッと体を震わせ我に返ると、ひとまず運動を再開することにした。軽く断りを入れてから近くのスライムを集め直し、その体当たりをヒョイヒョイとかわしていく。しかし……


「あっ」


「あー、惜しい! 次はいけるわよ!」


 精彩を欠いた剣一の動きに、スライムの体当たりがぷにょんと命中する。そこにアリシアの言葉が声援が届き、剣一の顔がわずかに赤くなる。


 そう、剣一は緊張していた。一四歳という思春期真っ盛りの剣一にとって、ちょっとラフな格好をした美人のお姉さんに見つめられ応援されるという状況は、ドギマギするのに十分であった。


 加えて剣一は、自分の剣を見られることに慣れていなかった。最近でこそ英雄達や悪ガキ三人衆に軽く剣の指導をしたものの、自分自身は誰かに指導を受けたことがないので、こんな風にじっくりと……しかも上から目線で見守られるというのは初めての経験だったのだ。


「よっ! ほっ!」


「おおー、連続成功! 凄い凄い!」


 その結果、剣一の動きは良くも悪くも「才能のある新人冒険者」くらいに留まっていた。剣一にとってこれはラジオ体操くらいの感覚だったので、本気を出して全ての攻撃を回避する理由もなかったからだ。


 しかし。最後は違う。そろそろスライム達の弾み方に元気がなくなってきたと感じたところで、剣一はとどめを刺すべく剣の柄に手をかけ――


「格好よく決めちゃえー!」


「……あっ」


スパスパスパスパッ……プニョーン!


 剣一の剣は四匹のスライムを一太刀で斬り裂いたが、一匹だけ斬り損ねてしまった。その理由は単に手が滑っただけであり、決して「どう斬ったら格好いいかな?」などという邪念が頭をよぎったからではない。


 あれはきっと、ドラゴンより強い名のあるスライムに違いない……剣一がそんなアホな妄想を浮かべていると、パチパチと拍手をしながらアリシアが近づいてくる。


「凄い凄い! 一太刀で四匹もスライムを斬れるなんて! 貴方本当に凄いわね!」


「ど、どうも……」


 その純粋な賞賛に、剣一は微妙な笑みを浮かべる。剣一からすれば、たかがスライムを一匹斬り逃したなどというのは大失敗だ。悔しがるほどのことではないが、褒められるのは何ともばつが悪い。


 しかしアリシアからすれば違う。不規則に弾むスライム四匹を一度に斬るというのは、新人冒険者が成し遂げた快挙に他ならないのだ。


「はー、いいもの見たわ! 貴方すっごく才能あるわよ! けど……うーん?」


「? 何ですか?」


「いや、それだけ戦えるのに、何でこんなところにいるのかなって。貴方ならもっと下までいっても十分戦えるでしょ?


 あー、それともお友達を待ってるとか? 新しい法律のせいで、皆がスキルレベル二にならないと潜れないものね」


「いや、それは……どっちかって言うと、待たせてるのは俺の方っていうか……」


「え?」


 苦笑する剣一に、アリシアが首を傾げる。アリシアからすれば、新人としては図抜けた動きを見せる剣一が弱いなどという発想は浮かばないからだ。


 だが、現実は違う……いや、強いのは事実だが、それ以外の部分が違う。


「俺のスキルレベルが一なんです。なんでここより下には降りられないんですよ」


「は!? 嘘でしょ!? だってそんな……あ、でも、そうか。ひょっとして貴方のスキルって、剣を使うものじゃないの?」


 何らかの技術に天賦の才を持ちつつも、芽生えたスキルがそれと関係ないということはたまにある。剣一もまさにそれなのかと思うアリシアだったが、剣一は首を横に振る。


「いえ、違います。俺のスキルは<剣技:一>なんです。ほら」


 言って、剣一は自分の協会証(ライセンス)を鞄から取り出して見せた。するとそこには剣一の名前や写真と共に、<剣技:ー>というスキルも記載されている。


「嘘、本当に……?」


 それを見せられ、アリシアは激しく戸惑った。自身もまた高い剣技スキルを持っているだけに、今の剣一の動きがレベル一のものでないことは明白だったからだ。


「ははは、参っちゃいますよね。それのせいで今までずっと一緒に冒険してきた友達からは、パーティを外されちゃって……」


「それってつまり、置いていかれたのは貴方の方だったってこと?」


「まあ、そうですね。でも――」


「なるほど、よーくわかったわ。そう言うことなら、私が貴方を鍛えてあげる!」


「……へ?」


「大丈夫! 貴方すっごく才能あるもの! 私が鍛えたらスキルレベルなんてすぐあがるわよ! そしたら貴方を置いていったお友達を見返してあげましょ!」


「いや、別に喧嘩したとかじゃ……」


「で、その後は仲直りして、また一緒に冒険するの! ふふふ、その頃の貴方なら、すぐにパーティのエースになれるわよ!」


「あの、話聞いてます? 別に教えてもらわなくても――」


「ああ、心配しないで! お金なんか取らないし……あ、それとも私の実力が気になる? ならこれを見て!」


 剣一の話を一切聞かないアリシアが、ニヤリと笑って自分の免許証(ライセンス)を取りだし、剣一に見せてくる。それはアメリカで発行されたものなので当然表記も英語だったが、どの部分に何が書かれているかは世界共通のため、剣一にもその内容がわかる。


「Alicia Miller……アリシア・ミラー? 鏡の国のアリス?」


「違うわよ! っていうか、(ミラー)とはスペルが違うでしょ! いや、読み方は合ってるけど、そうじゃなくてこっち!」


 子供の頃から散々言われた指摘に不満を現しつつ、アリシアが自分の指でスキル欄の方を激しく主張する。


「<Sword Mastery:4>? あ、英語だとスキルじゃなくてマスタリーなんだ……って、四!?」


「そうよ! こう見えて、私は一流(タツジン)なんだから!」


 驚く剣一に対し、アリシアはその大きな胸を張ってドヤ顔をした。

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[良い点] 更新お疲れ様です。 お~、レベル四ですか!思ってたより強かった。 やっぱりスキル取得前の人生…アリシア女史みたく荒事に長けた仕事や、武術の修行に明け暮れてた人=身体や精神の土台が出来てた…
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