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俺のスキルは<剣技:->(いち)!  作者: 日之浦 拓


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ファーストコンタクト

「では、具体的な動きを指示する。まずジミー、お前はセンサーを使って次元震の正確な発生場所を特定しろ」


「センサー? そんなの何処にあるのさ?」


「手持ちのがあるだろ?」


「は!? あれで調査って、現地に行かないと無理なんだけど!?」


 次元震の痕跡を探すというのは、特定の波長をもつ魔力の痕跡を探すということだ。軍基地にあるような巨大なものなら遠方からある程度の探索も可能だが、手持ちのセンサーとなれば現地に……それも震源地にかなり近い場所でなければ反応しない。


「だからこそだ。手持ちセンサーで拾える範囲などたかが知れている……つまりより正確な震源地がわかるということだろう?」


「そうだけど、この案件は相当ヤバそうだって今説明したばっかりじゃん! まさか僕に死んでこいとでも?」


「死ぬのも軍人の仕事だが、そこまでは言わん。ちゃんと俺が同行するから大丈夫だ」


「あー、そう? それならまあ……」


 不承不承ではあるものの、ロイの言葉にジミーが納得する。元より命令なのだから拒否する権利などないが、それでも人間死ねば終わりだ。飛来する隕石に核爆弾を仕掛けにいくミッションなら格好もつくが、センサー片手にフラフラ歩いているところを殺されたり拉致されたりではあまりにも情けない。


「え、待って。ロイとジミーが一緒に行くなら、私だけ単独行動ってこと?」


 そしてその説明に、今度はアリシアが不満げな顔をする。だがそんなことは慣れたものとばかりに、ロイは軽く笑って受け流す。


「そうだ。お前はこのままこのダンジョンで活動し、現地の調査員……いや、日本人のほとんどは冒険者と呼ぶんだったか? とにかく彼らと仲良くなって、次元震のあった日の情報を聞き出してくれ」


「情報って言われても……具体的には何を聞いたらいいわけ? おかしな事があったかとか、体に違和感を感じたかとか、そういうこと?」


「まあ、そうだな。とはいえ、正直得られる情報にはあまり期待していない。そんなにすぐわかることなら、そもそもこっちで情報を掴めているはずだ」


「……ああ、そういうこと」


 ロイの言葉に、アリシアは一瞬だけ考えて頷く。得られる情報には期待しないのに、情報収集をしろという命令……それはつまり、釣り針の先に引っかけられたエビになれということだ。


「なるほど、確かにそれなら私の方が単独なのは納得ね」


「そういうことだ。若い女であるアリシアならこの場に多い新人冒険者に話しかけても違和感がないし、もし相手がいるのであれば、ほどよく捕まえやすい餌に見えることだろう。


 ああ、使えるなら女の武器も使っていいぞ。そんなものに応じるような二流を相手に、お前が後れを取るとは思えないがな」


「うっわ、最悪! 今の時代、それセクハラ発言よ?」


「ハッ! ハラスメントなんてのを訴えるのは、対等が強者の譲歩で成り立ってることを理解していない夢想家だけだ。自分より立場が上の相手に好き放題言える権利を『当然』だと考えているような奴らとは、一生話が合わないだろうな」


「それ、奥さんと娘さんにも言える?」


「そりゃ無理だ。その権利(・・・・)はとっくに放棄しちまったよ」


 ジト目を向けるアリシアに、ロイは肩をすくめて言う。立場の上下は単なる強さの序列に非ず。必死に口説き落とした二歳年下の妻や、今年八歳になった愛娘のお願いなら、ロイは喜んで裸踊りだってすることだろう。


「さ、くだらない話はここまでだ。俺達は行くから、アリシアは活動を開始しろ」


「了解。アリシアも気をつけてね」


「任務了解しました。お二人とも、お気を付けて」


 小部屋を出て行く二人を、ビシッと敬礼を決めて見送る。そうして二人が消えると、アリシアは早速任務に取りかかるべく、ひとまず第一階層をそのまま歩き回ることにした。


 明るくて物怖じしない性格のアリシアは比較的誰とでもすぐ仲良くなれるし、実際友達も多い方だ。だがだからといって、明確な用事もないのにダンジョン探索中の冒険者に「ちょっとお話しませんか?」と声をかけることはできない。強盗か何かを露骨に警戒されるし、万一通報でもされれば今後の活動に支障がでる。


 となれば狙い目はダンジョンの出口で待ち構え、仕事終わりの冒険者に声をかけることだが、今はまだ朝。人が吸い込まれるように入っていくダンジョン前広場で待機し続けるにはいくら何でも早すぎるし、それを理由に一日サボってましたなどと報告したら、ロイに尻を引っ叩かれてしまう。


 ではどうするか? アリシアが考えたのは「先輩として新人冒険者に色々教えてあげよう!」作戦……要は伸び悩んでそうな新人を見つけて、指導にかこつけて声をかけるということだった。<剣技:四>のスキルを持つアリシアなら教えられることは沢山あるのだし、少し探せば困っている新人くらいいくらでもいると思っていたのだが……


「うぅ、まさか全員に指導員(チューター)がいるなんて……」


 多寡埼ダンジョン第一階層。そこで活動していた新人冒険者には、一人の例外もなく指導員が随伴していた。勿論一人に一人というわけではないが、三人程度の明らかに同一パーティと思われる組み合わせには、間違いなく一人の指導員らしき人物がいる。


 そう、いくら義務ではないとはいえ、昨日まで普通に暮らしていた子供に「今日から実戦で魔物と戦ってね」などと放り出すことを選ぶ親はまずいないのだ。


「……とりあえず下に降りてみよっか」


 やむなくアリシアは階段を降り、とりあえず第二階層に行ってみた。するとそこでは指導員なしで活動する子供達もいたのだが……


「喰らえ糞雑魚!」


「へいへーい! 悔しかったらやり返してみろよー!」


(……あれは駄目ね)


 まともな反撃などできないスライム相手に調子にのり、適当な攻撃を繰り返す新人冒険者(こども)の姿に、アリシアは冷えた目で視線を切る。あの手の子供が年上の指導など聞き入れることはないし、それどころか下手に絡まれると面倒なことになるのが経験でわかっているからだ。


(知り合いのとこのお子さんなら地軍仕込みの地獄の特訓コースだけど、見ず知らずの相手にそこまでやったらこっちが悪者だものね。


 あーでも、情報収集……いやいや、あの子達からまともな話は聞けないでしょ)


 軍務を思い出して一瞬だけ足を止めるも、すぐにアリシアは歩き出す。頭のなかでロイが「そのでかい胸でも触らせてやれば、あんなガキすぐにいいなりになるだろ」と無駄にいい笑顔で親指を立てる妄想が浮かんだので、夜にあったらとりあえず殴ろうと心に決めた。奥さんに電話しないのは最後の良心である。


「……仕方ない。三階まで降りましょ。確かそこまでは初心者区画のはずだし」


 最近日本で制定された、何とも不合理な法律……「保有技能のレベルに応じた異界の門探索における段階的侵入規制法」では、スキルレベル一が潜れるのは第三階層までとされている。


 勿論アリシアはもっと深くまで潜れるわけだが、そこにいるのは「訓練中の新人」ではなく「仕事中の冒険者」だ。そこに声をかけられないから新人に当たろうと考えたのに、新人がいない階層までいってしまえば本末転倒である。


(ここにも丁度いい感じの子がいなかったら、どうしよう? カフェで夜まで時間を潰す? でもそれだと、『餌』の方の仕事にはならないわよね。うーん……)


 決して頭が悪いわけではないが、考えるより体を動かす方が好きなアリシアが悩みながらダンジョンを進んでいく。しかし人目に付くような場所にいる子はやはり指導員が随伴しており、これは駄目かもと半ば以上諦め、作戦の再立案(いいわけ)を考え始めた、まさにその時。


「フッ!」


(あ、あの子!)


 五匹ほど集まったスライムの体当たりを軽やかなステップで回避し、次の瞬間その全てを一太刀で斬り伏せる少年。それはアリシアがダンジョン入り口で見た「凄く強そうな子」であり……


「ハーイ! 貴方、いい動きね?」


「へ? あ、どうも?」


 それが米国地軍に所属するアリシア・ミラー軍曹と、単なる日本の冒険者である蔓木 剣一との初めての出会いであった。

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