表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺のスキルは<剣技:->(いち)!  作者: 日之浦 拓


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/175

願いの星

「キャァァァァァァァ!? ちょ、速い! ねえこれ、速すぎない!?」


「いや、むしろ遅いだろ? 降りるときの方が速かったぜ?」


「イッチー……何もしなくても下には落ちるけど、上には頑張らないと登れないんだぜ? それに今はエルルンもいるしな」


「わ、わかってるよそんなこと! 馬鹿にすんなよ!」


「ちょっと、それだとアタシが重いみたいじゃないの! 訂正しなさいよ!」


 暗くて長い一本道。ダンジョンと地上の直通通路|(自作)を進む剣一達が、賑やかにそんな会話を交わす。だがその余裕は背後から聞こえた轟音により、すぐに消え去ることとなった。


ガラガラガラガラッ!


「クァァァァァァァァ!!!」


「えっ、レヴィアータ!?」


「嘘だろ、ダンジョン壊して追いかけてきてるぞ!?」


 背後から迫る、巨大な竜の影。その体は無理矢理にダンジョンを壊しているからか血に濡れているが、それでもレヴィアータの動きが止まることはない。


「急げ急げ! 全速力だニオブ!」


「これ以上は無理だって! イッチーが迎撃してくれよ!」


「いや、迎撃って言っても……」


 ニオブの言葉に、剣一は甲羅に縋り付きながら振り返る。正面から向かってくるレヴィアータを斬り裂くことは簡単だが、幾らドラゴンでも頭を真っ二つにしてしまったら死ぬだろう。


「だ、駄目よケンイチ! 何か他の手段を考えなさいよ!」


「わかってるって。わかってるけど、他の手段……んん?」


 と、そこで剣一の心の眼鏡がキラリと光った。一時期はまっていた対戦型のレースゲームで、後ろから来て自分のカートをぶち抜いていった祐二が、得意げに口にした必殺技を思い出したのだ。


「そうだ、スリップストリーム! なら……えいっ!」


 気合いを込めて、剣一は目の前の空気を斬った。するとそこに真空の空間が生まれ、元に戻ろうと吸い込む力がニオブの体を押し上げる。


「ウェイ!? 何かちょっと速くなったぜ?」


「なによケンイチ、やるじゃない!」


「まあな!」


 褒めるエルに、剣一はフフンと得意げな表情を見せる。なおこの現象とスリップストリームは全く関係なかったが、幸か不幸かここにはツッコミを入れる人物はいなかったのでスルーされた。


 そうして剣一の嘘必殺技による加速効果を得たり、レヴィアータが苦し紛れに飛ばしてきた氷の矢をサクッと斬り払ったりしつつ、一行はいよいよ地上へと近づいていく。


「このまま外に飛び出すぞ! 二人共しっかり掴まれ!」


「了解! エル!」


「キャッ!? う、うん。平気よ!」


 剣一がギュッとエルの体を抱き寄せ、ニオブの甲羅にぺたりとへばりつくような姿勢を取る。そうして暗い穴から蒼い海の空が広がる第一階層に飛び出すと、その勢いを殺さないように大きな弧を描いてカーブすることで、一行はダンジョンの入り口から外の世界へと飛び出していった。


「ウェーイ! 脱出成功!」


「王女命令よ! みんな今すぐここから離れて!」


「王女殿下!? 一体何が――」


ドカァァァァァァン!


「クァァァァァァァァ!!!」


 突如飛び出してきた剣一達に周りの騎士達が驚きの声をあげた数秒後。轟音と共に「海の王冠」が崩れ去り、そこから蒼く輝くドラゴンが姿を現す。


「やっぱり追いかけてきたか」


「このまま空に昇って! レヴィアータが地上を攻撃しないように、アタシ達が囮にならないと!」


「わかってるって! で、イッチー、どうだ? 『空』は斬れそうか?」


「むぅ……」


 ニオブの問いかけに、剣一は思わず唸り声をあげる。如何な剣一であっても、「空」というのは斬る対象としてあまりに大きすぎる。適当に斬撃を放つことは可能だが、果たしてそれでいいのか? そう首を傾げる剣一だったが、そこにエルが声をかけてくる。


「大丈夫よケンイチ。アタシが誘導するから」


「エル?」


 振り返った剣一の前で、エルの青い瞳が輝く。するとそこから波紋のように淡い光が広がり、エルの赤い髪が海のように蒼く染まっていった。


「ニオブ、アタシとケンイチが背中に立つから、前進じゃなく上昇にして」


「ウェイ!? それだと速度が一気に落ちるから、すぐ追いつかれちまうぜ?」


「大丈夫よ。アタシ達を信じて……お願い」


「ウェーイ! エルルンにそう言われちゃ、俺ちゃんが頑張らないわけにはいかないぜ!」


 そう言うとニオブの体勢が変わり、斜め上を向いていた甲羅が水平になる。そこに剣一とエルが立つと、エルがピッタリと剣一の背中に張り付いた。


「うおっ!? え、エル!? どうしたんだ!?」


「落ち着いてケンイチ。ほら、ここよ」


 背後から剣一の両手に自分の手を添え、エルが頭上に誘導していく。そうして剣一の剣の切っ先が向けられた先には、青く輝く星が瞬いている。


「あれよ。あれを斬ればいいの。どう? できそう?」


「……ハッ、誰に言ってんだよ。当たり前だろ?」


 口元に余裕の笑みを浮かべると、剣一は星を見つめる。それが本当に夜空の星なのか、あるいは単に目印なだけなのかは剣一にはわからないが、どちらにせよそれが剣の間合いでないことくらい、誰にだってわかる。


 足場は不安定な亀の甲羅のうえで、しかも高速移動中。踏ん張りなどこれっぽっちも効かないどころか、こうして立っていられることすら奇跡。


 だがその程度の悪条件など、背中を支える友人の存在があれば何でもない。剣一の体はわずかにもぶれず、ただまっすぐに目標を見据えている。


「イッチー、来てるぞ! もうヤバいぜ!」


 天に昇る光が二つ。白い光に青い光が今まさに追いつこうとしており、衝突まであと一秒。それでも剣一は焦らない。


「どうかお願い。アタシ(わたし)を助けて」


「任せろ!」


 たとえ何億光年の彼方であろうと、見えるならば斬れる。背中から伝わる温もり(ねがい)が剣一の体を満たし、その一刀が空を斬る。


「全剣、抜刀!」


ガシャァァァァァァン!


 音を立てて、空が割れる。アトランディアを護り続けてきたレヴィアータの祈りが、無残に砕けて散っていく。


「クァァァァァァァァ…………」


 それと同時に、力の大半を失ったレヴィアータの巨体が落下を始める。天に昇る彗星が地に落ちる流星と成り果て、後はそれを見守るのみ……しかし剣一は、足下の甲羅を蹴りつける。


「ニオブ、下に回れ!」


「ウェイ!? あの質量を支えるのは、流石に無理だぜ!?」


「いいからいけ!」


「ウェーイ!」


「ケンイチ? 何をするつもりなの?」


 訳もわからず溢れ出る涙を剣一の背中で押さえ込むエルが、不安げにそう声をかける。すると剣一はニヤリと笑ってその声に応える。


「なーに、最後の悪あがきさ! 助けるって約束したからな!」


「ウェーーーーーーーーーーーイ! 到着!」


「よくやった!」


 レヴィアータを追い抜き地上に降り立ったニオブから転がるように降りると、剣一は改めて頭上を見上げる。夜空を埋め尽くすほどの巨体が目の前に落ちるまで、おおよそ三秒。


「さっきの三倍あるじゃねーか! なら余裕だ!」


 叫んだ瞬間、剣一の目の前……レヴィアータの落下地点の地面が猛烈な勢いで斬り裂かれていく。センチ、ミリ、マイクロ、ナノ、ピコ、フェムト、アト、ゼプト……細かく細かく斬り刻まれた大地は、莫大な衝撃を受け止められるクッション素材となる。


ボフーン!


「クァァァァ!?」


 レヴィアータの巨体が落ち、周囲に凄まじい量の土埃が舞い上がる。それが収まるのを待ってから、剣一がレヴィアータの側に近寄ると、その首が軽く動いた。


「クァァァァァァァァ…………」


「よし、生きてるな! これにてミッションコンプリートだ!」


「やったわ! ケンイチ、アンタやっぱり最高よ!」


「ウェーイ!」


 いい笑顔で親指を立てて見せる剣一に、エルが泣き笑い顔で抱きついて褒める。こうして剣一達の長い一日は、夜の帳と共に幕を下ろしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面白い、続きが読みたいと思っていただけたら星をポチッと押していただけると励みになります。

小説家になろう 勝手にランキング

小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
[良い点] スピード感と爽快感。 [気になる点] 細かいところがよくわからない。でも、ま、いっか。 [一言] この辺り、アニメで見たい。
[良い点] 更新お疲れ様です。 最後まで話聞いてなかったし大丈夫か!?と心配してましたが……何か良く解らんけどなんか良い感じでぶった斬って終わったからなによりですな!ミッションコンプリートだ! [一…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ