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俺のスキルは<剣技:->(いち)!  作者: 日之浦 拓


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心の会話

「それでエルルン? あれだけ大見得切ったんだから、具体的な作戦はあるんだろうな?」


「勿論あるわよ! アタシのスキルを使うの!」


「エルルンのスキルって……<共感>か?」


「そうよ! 上手く言葉にできないんだけど、何かこう……レヴィアータには<共感>のスキルが使える気がしたの。単純に力を借りるだけじゃなくて、彼女を助けられるって確信があるわ!」


「ウェーイ? それは…………」


 胸の前で拳を握って言うエルに、ニオブが首をくにゃっと曲げて考え込む。冷静に考えるなら、何故<共感>のスキルでレヴィアータが救えるのかがわからない。エルの言葉は何の根拠もなく、勢いだけのものだ。


 だが<共感>は神が人間に与えた、滅びに抗うための力の一つだ。滅びをもたらす側であるニオブにはわからないことも、抗う側であるエルになら本能的に理解できている可能性は否定できない。


 故にニオブは悩んだわけだが、そんなニオブの甲羅をペシッと叩き、剣一が笑いながら声をかける。


「難しい事考えるなって。要はエルがスキルを使ってる間、俺とニオブでエルを守ればいいってだけだろ?」


「イッチー……ハハハ、まあそうだな。ならとりあえずウェイっとやってみるか!」


 わからないことなら、とりあえずやってみてから考える。実に剣一らしい言葉に、ニオブは心配事をポーンと放り投げた。


「それじゃ早速……うおっ!?」


「クァァァァァァァァ!!!」


 と、その時。戦闘形態になりながらもここまでずっと何もしてこなかったレヴィアータが、遂に自分を抑えきれなくなったかのように改めて雄叫びをあげる。するとレヴィアータの周囲に何百もの氷の矢が生まれ、それが剣一達に降り注ぐ。


「きゃあ!?」


「通さねーよ!」


 その光景にエルが悲鳴をあげたが、剣一は全ての矢を斬って捨てる。キラキラと漂う飛沫が洞窟内の温度を下げ、剣一がブルッと体を震わせる。


「はー、動いてないと寒いな。こりゃ丁度いい運動になりそうだ。エル、大丈夫か?」


「平気よ! それじゃアタシはスキルに専念するから、ケンイチは防御をお願い!」


「任せろ!」


「ウェイウェイ、それじゃ俺ちゃんは、万が一に備えて力を溜めとくぜ。ウェーイ!」


 立ったまま固く目を閉じ、祈るように胸の前で両手を組み合わせるエルと、四肢と頭を甲羅に引っ込め、その場でクルクルと回転し始めたニオブを背に、剣一が腰の剣を引き抜き構える。するとレヴィアータも剣一を脅威と認めたのか、再びけたたましい鳴き声をあげる。


「クァァァァァァァァ!!!」


 繰り返される氷の雨。しかし精製された矢はもはや柱と呼ぶほどに太く、数も四桁に届きそうなほど。それらが一斉に剣一達のいる場所に目がけて降り注いだが……


シャァァァァァァァン!


 高く澄んだ音を立てて、全ての氷矢が白い霧に変わる。かつて光の速さで突っ込んでくる巨大なドラゴンの分身体を悉く斬り払った剣一からすれば、音速に届くかも怪しい氷の矢など、万でも億でも意に介するほどのものではないのだ。


「ふっふっふ、どうした? そっちの攻撃はそれだけなのか? 俺はまだまだ防げるぜ?」


「クァァァァァァァァ!!!」


 余裕の笑みを浮かべる剣一に、レヴィアータは同じ攻撃をひたすら繰り返す。そうして攻防が繰り返されている間に、エルの<共感>スキルはレヴィアータの魂を捉えていた。





「エルピーゾ……我が愛し子よ…………」


「その声、レヴィアータ!? え、でも、その姿……!?」


 そこは意識の中の世界。今までの英霊ならばぼんやりとした幻影だったというのに、そこには長い水色の髪を腰まで伸ばし、豪華な刺繍の入った布を体に巻き付けた、三十代くらいの人間の女性(・・・・・)の姿があった。


「この姿のことも含めて、貴方に伝えたいことは沢山あります。ですが今はそのための時間がありません。本来ならば私の力の全てを貴方に託せればいいのですが……それをするには貴方の器はあまりにも未熟。無理に力を押し込んだりすれば、耐えきれずその身が破裂してしまうことでしょう」


「うぐっ!? が、頑張ってはいるんだけど…………でも、じゃあどうすればいい? どうやったらレヴィアータを助けられるの?」


「貴方が御せるくらいまで、私の力を大きく削るしかありません。ですが既に、私の体は荒れ狂う魔力に犯され制御不能の状態です。今はそれでも最低限の攻撃で押さえ込んでいますが、もはや首を差し出すことはできないのです」


「大丈夫よ! レヴィアータが本気になったって、ケンイチなら何とかしてくれるわ!」


「ケンイチ……? 貴方の横にいるドラゴンではなく、ドラゴンの眷属の少年ですか?」


「ケンイチはニオブの眷属なんかじゃないわよ? アタシ達の代わりに、この世界に攻めてきたニオブを一人でボッコボコにやっつけちゃったんだから!」


「まさか、ドラゴンを!? 気安い関係だとは思っていましたが、あの少年の方が上位者なのですか!?」


 笑顔でシュッシュッとパンチしてみせるエルに、レヴィアータが驚きの表情を浮かべた。その反応が何故だかちょっと嬉しくて、エルは更に笑みを深めて言葉を続ける。


「そうよ! ケンイチは最強なの! ニオブも……あとディアっていうもう一体のドラゴンがいるんだけど、そっちもやっつけたんだって! だからレヴィアータのことだって、きっとやっつけてくれるわよ!


 いや、やっつけるのが目的じゃないんだけど……あれ、じゃあどうしたらいいのかしら?」


「フフフ……では貴方の心に、少しだけ触れさせてください。できるだけ正確に、あの少年のことを思い浮かべるのです」


「ケンイチのことを考えたらいいの? わかったわ」


 言われて、エルは剣一のことを考える。ただし先日母であるミナスに怒られたばかりなので、ちゃんと控えめに、客観的な事実だけだ。


 ただ、その試みは些か無謀だった。ただでさえここは精神の世界で、触れ合うのは魂と魂。隠そうとしても抑えようとしても、その心は全てレヴィアータに伝わってしまう。


 もっとも、それはレヴィアータからすれば必要のない知識だ。故にレヴィアータは幼い愛し子の淡い心を傷つけぬようそっとそこから目を反らし、厳然たる事実……光塵竜ニオブライトとの戦いの様子を見て、エルから離れる。


「ど、どう? アタシ、上手く伝えられたかしら?」


「ええ、とても良くわかりました。もし彼の少年に、本当にこれほどの力があるのなら…………」


「どうすればいいの?」


「アトランディアの、空を斬りなさい」


「空?」


「そうです。私の力はほぼ全てがアトランディアと共にあり、中でも空を覆う結界には多くの力を費やしています。それが失われれば私は大きく弱体化して、魔力の暴走状態を維持できなくなります。ただ……」


「つまりレヴィアータが助かるってことね! わかったわ!」


「あ、こら。まだ話は――」


 レヴィアータがまだ何かを言いかけていたが、エルは<共感>のスキルの力を弱め、意識を現実に戻していった。そうして開いた目に一番最初に映った、世界一頼りになる少年の背に、思いの限り願いを叫ぶ。


「ケンイチ! 今すぐダンジョンの外に出て、空を斬って!」


「空!? 何だかわかんねーけど、わかった! ニオブ!」


「ウェーイ! 俺ちゃんエンジンは温まってるぜ!」


「なら地上まで一直線だ! エル!」


「ええ!」


 剣一がニオブの背に飛び乗ると、手を伸ばしてエルの体をギュッと抱き寄せる。


「ウェイウェイウェイウェーイ! 俺ちゃん、フライハーイ!」


「「いっけー!」」


「クァァァァァァァァ!」


 光る亀の背に乗って、二人は叫ぶレヴィアータをその場に残し、ダンジョンの縦穴に突っ込んでいった。

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