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俺のスキルは<剣技:->(いち)!  作者: 日之浦 拓


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誤解と理解

「ダンジョンの最下層って、こんな感じなのか」


「ウェイ? イッチーは来たことないのか?」


「まあな。あれは色々面倒なんだよ」


 ダンジョンの最奥には、大体の場合ボスっぽい魔物がいて、それを倒すとちょっといい魔導具が手に入ったりする。つまり金になるので、その分だけ厄介ごとも多くなる。


 一年目(しんじん)から二年目(しょしんしゃ)になっても、冒険者としての立ち位置はまだまだ下。先輩達に絡んだ愚痴混じりの雑談ネタなら幾つもあったが、今の剣一達にそんな話をしている時間はない。


「……まさか斯様な手段で、我が領域に踏み込んでくるとは」


 ニオブのいた場所のような無限の広がりこそないものの、青く光る岩壁に囲まれた広大な空間。何処か肌寒く感じられるその場所の中心には剣一達に声をかけてくる者がいた。


 白く細長い、鱗に覆われた蛇のような体。ただし長く伸びた胴体の上部には猛禽のような手が生えており、よく見ると下半身にも同じような足がある。その見た目はディアやニオブ達が西洋の竜なら、こちらは東洋の龍の印象だ。


 頭の部分では緑に逆立つ鱗が王冠のような形になっており、海のように深い蒼を宿す瞳が、あからさまな警戒を浮かべて剣一達を見下ろしている。


「ですがここまでです。これ以上の狼藉は、氷時竜(ひょうじりゅう)レヴィアータ・アナスタシア・エフィ・カロリーナ・ヴァシリス・コスタ・オケアノスが許しません。ドラゴンの名を畏れるならば、今すぐこの場を立ち去りなさい」


「ドラゴン!?」


 その名乗りに、剣一は驚きの声をあげながら足下に視線を落とす。


「おいニオブ、どういうことだよ!? ここにドラゴンがいるなんて聞いてねーぞ!?」


「ウェーイ、そう言われてもなぁ……俺ちゃん的にはこうして目の前にいても、こいつからドラゴンと呼べるほどの力を感じないんだけど……?」


「つまりディアみたいに、ここに封印されてたってことか? まあいいや。あー、えっと、レヴィアータさん? 俺はここに友達を探しに来たんですけど……」


 人には人の事情があるように、ドラゴンにはドラゴンの事情があるんだろう。そう判断してひとまず自分の目的を告げる剣一に、しかしレヴィアータの向ける視線は冷ややかなままだ。


「友? 戯れ言を……ここまで攻め込んできたということは、地上はもう全滅してしまったのですか?」


「ぜ、全滅!? いや、あー…………?」


 剣一の脳裏に、ダンジョン入り口を守っていた騎士達の姿が浮かぶ。あれは確かに「全滅」と言って差し支えない光景だったが……そんな剣一の反応に、レヴィアータの蒼い目から涙が零れる。


「ああ、ああ……言わずともいい。もうわかってしまった。私の結界を破り、ダンジョンを損壊せしめるこれほどの力、地上の民で敵うはずがない。


 略奪者たるドラゴンに踊らされし、愚かなる人の子よ。お前がどんな甘言を受けたのか、私は知りません。莫大な富? 永遠の命? それとも全てを焼き尽くし、地上の王としてやるとでも言われましたか?


 ですがそれらは全てまやかしに過ぎません。どのような姿に擬態しようと、ドラゴンはドラゴン。すぐに世界を食い尽くし、貴方の前から去っていくことでしょう」


「いやいやいや!? あれ、何かこれ認識が致命的に食い違ってる気がするぞ!? そうじゃなくて、俺は――」


「今の私に、同類たるドラゴンを倒すほどの力はありません。ですがせめて、我が愛しきアトランディアの最後の子だけは守り抜いてみせましょう。この身の全てに代えてでも、我が子等に未来を繋いでみせる!」


「あ、これ駄目なやつだ!? くっそ、こうなったら……ニオブ!」


「ウェイ!?」


 自分語りに集中していて話を聞かないレヴィアータに対し、剣一は素早くニオブの甲羅の上に飛び乗る。


「飛んで光ってグルグル回れ!」


「ウェーイ! 任せろ!」


「さあ、尋常に勝負……勝負を…………」


「ハナシヲキイテクダサイ! ハナシヲキイテクダサイ!」


「……………………わ、わかりました。話くらいは聞きましょう」


 光って空を飛ぶ亀に乗りレヴィアータの視線の高さまで飛び上がり、敵意がないことを示すように両手を広げて回転しながら声を上げる剣一。そのあまりのヤバさに、流石のレヴィアータもひとまず話を聞くことを了承した。





「……なるほど。つまり貴方もそのドラゴンも略奪者ではなく、貴方は本当にあの子の友達なのですね?」


「はい! いやー、わかってもらえてよかったです」


「まったく、俺ちゃんみたいなイケてるドラゴンを強盗呼ばわりなんて、勘違いにも程があるぜ! ウェイ!」


「いや、ディアと違って、お前最初は思いっきりそのポジだったじゃん。まさか忘れたとは言わせねーよ?」


「ウェイ!? 今更そりゃないぜイッチー!」


 何とか戦いになる前に会話に持ち込め、理解を得られたことで剣一が喜びの声をあげる。だが同時に調子に乗ったニオブの頭をペシッと叩くと、そんな二人の様子にレヴィアータが大きな目を細めた。


「フフフ、まさか本当に人とドラゴンがこのような関係になれるとは……」


「いやまあ、俺達は割と特殊だと思うんで……それよりレヴィアータさんは、何でいきなり俺達に襲いかかってきたんですか?」


 こうして話をしている感じでは、レヴィアータは理知的な存在に思えた。なのになぜいきなりと問う剣一に、レヴィアータが呆れたような声を出す。


「むしろ、何故そう思われないと思ったのですか? ドラゴンが世界を喰らい、自らの力とするものだというのは知っているのでしょう? そんなものが自分の国に来訪し、数日滞在するくらいまでなら、私もたまたまこの地に留まっているだけなのだと理解もできました。


 ですが今日、私の元に愛し子がやってきました。酷く心が傷ついていた愛し子を寝かしつけたところで、ダンジョンの入り口の結界どころかダンジョンそのものまで破壊してやってきたのが貴方達です。


 しかもその口から出たのが『友達を探しに来た』ですよ? これで警戒しないものが存在するとは思えません」


「……………………」


 あまりにもまっとうな主張に、剣一は猛烈にしょっぱい顔つきになって目をそらす。もし自分の家に玄関をぶち抜いて見知らぬ他人が押し入り、「オトモダチヲサガシテイマス」とか言われたら秒で警察に通報するに決まっているので、言い返せる要素は何もない。


「って、傷ついてた? エルに何かあったんですか?」


「それは……私にはわかりません。ただ今言ったとおり、あの子の心は深く傷ついていました。そのままでは時の水底に沈み込んでしまいそうだったので、やむなく寝かせているのです。


 私はてっきり、ドラゴンの暴虐で地上が焼き尽くされ、あの子が最後の生き残りであったからあれほど悲しんでいるのだと思ったのですが……」


「いやいや、それは違いますから! でもそうすると、エルに何が……?」


 剣一には、エルがどうしてそれほど傷つき悲しんでいるのかがわからない。だがほんのわずかとは言え自分が目を離してしまったせいだという後悔や、大事な友達が悲しんでいる時に側に寄り添っていられなかったという悔しさに、自然とその拳を握りしめてしまう。


「大丈夫だってイッチー。エルルンは強くてイイ女だからな! 今からだってフォローすれば、きっとすぐ元気になるさ」


「ニオブ……そうだな。レヴィアータさん、今からエルに会うことってできますか?」


「ええ、勿論大丈夫ですよ。では――――?」


 不意に、レヴィアータは自分の尾の先にチクりと痛みを覚えた。それに一瞬遅れて全身を駆け巡る悍ましい熱にレヴィアータが慌てて振り向くと、自分の巨体の影に隠れるように何かがいるのがわかる。


「あな、たは…………!?」


「ハ、ハハハ! やった、やったぞ! これで私は、竜殺しの英雄だ!」


 驚きに見開かれたレヴィアータの瞳が映したのは、自分の与えた護国の秘宝「竜殺しの短剣」を自分の尾に刺し、高笑いをあげる愛し子(ニキアス)の姿であった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 ヤバいレヴィアータさんのド正論パンチが痛過ぎるwwまぁ初見ディア&ニオブみたく話し合い無理ぽ…なドラさんじゃなくて何よりでした。 [一言] このクソ王子…!?(殺意)…
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