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俺のスキルは<剣技:->(いち)!  作者: 日之浦 拓


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ニオブの助言

「ニオブ!? お前何でここに……てか、何だよアトランディアが滅ぶって!?」


 やたら軽薄な口調で喋る白い亀の登場に場が凍り付くなか、それが日常であるが故にいち早く反応した剣一が声をあげる。するとニオブはチッチッチッと人差し指を振るように自分の長く伸ばした首を振ってそれに答えた。


「ウェイウェイ、言葉の通りだぜイッチー。この島って元々変な魔力に包まれてたんだが、それがいきなり強烈になったんだぜ! むしろイッチーこそ、この敵意ビンビンの魔力を何も感じないのか?」


「えぇ? いや、俺は特に……?」


 不思議そうに首をくねらせるニオブに、剣一は改めて周囲に意識を向けてみる。だがどれだけ意識を研ぎ澄ませてみようと、特に何かを感じたりはしない。


「……すまん、わからん。あの、王様は何か感じたりとかは……?」


「む、余か!? いや、余も特には……? ミナスよ、お前はどうだ?」


「そう、ですわね。若干ピリピリしたものを感じないと言えなくもありませんが……」


 困った顔をするイリオスに問われ、ミナスがわずかに顔をしかめながら言う。他の者達に比べれば、一応ミナスは何かを感じていた。が、指摘されてなお「強いて言えば」という程度であり、自信を持って「何かある」と言えるようなものではない。


 そしてそんな二人の態度に、自分もまた何も感じていないニキアスが大声で笑い出す。


「クッ、ハッハッハ!  何を言い出すかと思えば、アトランディアが滅亡する!? そのふざけた亀にどうやって喋らせているのかは知らんが、そんなことでこの場を誤魔化せるとでも思ったのか!?」


「で、ニオブ。それはどうすりゃいいんだ?」


「そうだなー。イッチーならこの魔力をぶった斬ればそれで終わると思うけど、それだと根本的な解決にならないから、大本を叩くのがいいんじゃね?」


「おい、貴様! この私を無視するつもりか!?」


「大本?」


「そうそう。この力って、この島の中心……物理的にじゃなく、魔法的な意味でだけど、そっから出てるっぽいんだよ。どうでもいい場所ならこのまま帰ったっていいんだけど、エルルンの国っていうなら、イッチー的にもちゃんと解決した方がいいだろ?」


「この私を愚弄するとは! おいお前、あの無礼者を切り捨てろ!」


「えっ!? いや、しかし、それは……」


「ニキアスの命令は聞かんでいい。余が許可する」


「陛下!?」


「そりゃまあな。でも島の中心って言われても……何処だ?」


「ウェイ? 何でイッチーが場所知らないんだ?」


「「?」」


 周囲の喧騒を無視しつつ、剣一とニオブが顔を見合わせ、互いに首を傾げる。その後先に口を開いたのはニオブだ。


「だって、力の反応のすぐ側に、エルルンの反応があるぜ? 二人でダンジョンウェイウェイしてたんだろ?」


「エル!? エルがいるのか!?」


 その言葉に、剣一は思わずニオブの首を掴む。


「グェイ!? イッヂー、首!? 死ぬ!? 俺ちゃん死んじゃうから!」


「あ、すまん。で、ニオブ。お前エルのいる場所わかるのか!?」


「あったり前だろ! 俺ちゃんがウェイウェイしたい相手の居場所を見失うわけないじゃーん!」


「でかしたニオブ! よし、すぐ行くぞ! いや、だから何処なんだそれ!?」


 駆け出そうとした足を無理矢理に引っ込め、剣一が改めてニオブに問う。するとニオブは何かを探るようにぐねぐねと首を曲げながら言葉を続けた。


「うーん、この隔てられてる(・・・・・・)感じからすると、多分どっかのダンジョンだな。それも相当深いところだと思うぜ」


「ダンジョン…………」


 その言葉に、剣一の中でかつてディアに聞いた話が蘇る。ディア曰く、ダンジョンの中と外を転移で移動するのは途轍もなく大変で、ダンジョンから別のダンジョンに直接転移するのは更に難しいのだという。


 これはダンジョンの内外は曲がり形にも繋がった場所……扉を隔てた隣室くらいには繋がっているのに対し、違うダンジョンとはそれこそ独立した別の建物くらいの隔たりがあるからだ。


 そしてエルは、ダンジョンで姿を消した。あのディアですら難しいというのなら、他のダンジョンに飛ばされた可能性はかなり低く思える。そのうえでダンジョンの外にも出ていないというのなら……


「エルはまだ、『海の王冠』のなかにいる……っ!? くそっ、やっぱり俺が気づけなかっただけで、転移罠を踏んだってことなのか!?


 王様、俺をもう一度『海の王冠』のなかに入れてください!」


「う、うむ。そうだな。そういうことなら――」


「お待ちください陛下!」


 剣一の願いに、イリオスが頷こうとする。だがそれを阻んだのは、またしてもニキアスだ。


「国が滅ぶ? エルピーゾがダンジョンの奥にいる? 詐欺師の少年とそれの連れてきた喋る亀などという得体の知れないものの言葉を鵜呑みにするなどあり得ません!


 これは陛下や王妃様をダンジョンに誘う罠です! もし入れば、また誰にも見えぬところでこの詐欺師に殺されてしまうかも知れないのですよ!?」


「さっきから何なんだよアンタ!? 何でそんなに俺がエルを助けるのを邪魔したいんだよ!?」


「邪魔だと!? ふざけるな賊が! 貴様のような部外者にこの国を好き勝手されないように振る舞うのは、次代の王として当然ではないか!」


 睨む剣一に、ニキアスもまた睨み返す。どうしてもエルを助けたい剣一と、万が一、億が一にでもエルを助けられては困るニキアスの意見が交わることは、未来永劫ない。


「王様!」


「陛下!」


「むむむむむ…………」


 そんな二人の板挟みに遭い、イリオスは悩む。エル(むすめ)のことは勿論助けたい。国がピンチだというのなら、自分が動くのも吝かではない。だが問題なのは、そのどちらもが「何の権威もない一般人の少年が、ただそうだと主張しているだけ」だということだ。


 つまり、客観的な事実がない。どうしても行きたいと言うエルをただ送り出しただけの時や、自分の懐が痛むわけでもない褒美を渡したときと違い、王である自分が直接出向く理由としては、あまりにも根拠が弱すぎる。


 それにニキアスの主張もまた、頭ごなしに否定するのは難しい。王として相応の権謀術数を経験しているイリオスからすれば、剣一のふんわりした主張よりニキアスの語る陰謀論の方が、自分の常識で理解できる内容になる。


 下す判断は、果たして王としてか父としてか。迷いに迷い考え込むイリオスの答えを拳を握って待つ剣一に、ふとニオブが声をかける。


「なあイッチー、何であいつの許可を待ってるんだ?」


「何でって、エルがいるはずの『海の王冠』ってダンジョンは、この国の王族が一緒じゃないと入れないんだよ。つまりこの中の誰かが一緒じゃないと、エルを助けにいけないんだ」


「ウェイ? それは道が繋がらないやつか? それとも壁があって入れないやつか?」


「うん? その表現なら、壁の方が近いかな?」


「ウェーイ! そっちなんだったら、イッチーが斬っちゃえばいいんじゃね?」


「……あっ」


 大きな谷があるのなら、剣一は橋がなければ向こう側に渡れない。だが大きな岩が道を塞いでいるのなら、斬ってしまえば通り抜けられる。ニオブの言葉に間抜けな声をあげると、剣一はニヤリと笑ってイリオス達に背を向け走り出した。その背に誰かが声をかけてきたようだったが、剣一はそれを気にせず振り返らず、ただまっすぐに城内を駈ける。


「おいニオブ、お前どうやってこの城に来たんだ?」


「俺ちゃんが留守番してる間、スタジオで会った人がたまに遊びに来てくれてたのはイッチーも知ってるだろ? 今日はちょうど俺ちゃんの甲羅にイケてるペイントをしてくれた子が来ててさ。一緒にウェイウェイしてたら周囲の魔力が急にピリピリし始めたから、頼んで馬車を手配してもらったんだぜ!」


「あー、あの人か。その馬車はどうした? まだいるのか?」


「帰りも頼もうと思ってたから、多分いると思うけど?」


「よっしゃ採用! 案内しろニオブ!」


「ウェーイ!」


 手足を甲羅に収納し、甲羅を横回転させることで亀にあるまじき速度で床を滑るニオブに先導され、剣一は城門の外に止まっていた馬車に辿り着くと、そのまま「海の王冠」へと向かってもらう。


 といっても、流石にいつものように壁を素通りとはいかない。壁の手前で馬車を降り、その後は顔パスで中に入ると、そのままダンジョンの入り口目がけて一直線に走る。


 しかし……


「そこまでだ、下郎!」


 入り口までもうすぐそこという時。多数の騎士と共に剣一の前に立ちはだかったのは、黒髪のイケメンもどき……王太子ニキアスであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 流石に鬱陶しくなって来ましたねこのクソ王子…もう入り口を斬るついでにうっかり纏めてぶった斬っても良いんじゃないかな? 陛下はともかく、ミナス様なら「まぁ仕方ないね」と…
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