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俺のスキルは<剣技:->(いち)!  作者: 日之浦 拓


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ダンジョン「海の王冠」

「おおー、ここが?」


「そうよ。アトランディア王族専用ダンジョン、『海の王冠』よ!」


 準備と手続きを経ての、六月九日。剣一はエルと共に、待望のダンジョン探索へとやってきていた。セルジオが御者を務める馬車に揺られること、一時間。平原に突如出現した壁を越えた先にあったのは、エメラルドグリーンの岩がこんもりと積み上がった、明らかに不自然な洞窟であった。


 ちなみにだが、ニオブは当然留守番である。ニオブに対してかなり柔軟な対応をしてくれたアトランディア政府や王様であっても、流石に王族専用のダンジョンに一緒に入る許可までは出さなかったのだ……閑話休題。


「それでは姫様。私はここで待機させていただきます」


「ええ、お願いねジイ。さ、ケンイチ、行きましょ!」


「おう!」


 元々王族が訪れる場所だけに、近くには馬車を止める場所も、従者が待機する場所もある。なのでセルジオと別れると、剣一達は意気揚々とダンジョンに近づいていく。


「こうして見ると、スゲーちっちゃいな」


 緑の石が積み上がってできた洞窟は高さも幅も五メートルほどの大きさで、横に回り込んでみると奥行きも五メートルほどしかない。正面の穴は墨汁で塗りつぶしたように黒く、中に光は一切差し込んでいない。


 というか、光が届かないのだろう。入り口部分からもう別空間というのは、ダンジョンの在り方としてはオーソドックスな形なのだ。


「んじゃ行こうぜ! って、うわっ!?」


「あ、ちょっと!」


 早速剣一がダンジョンに入ろうとすると、不意にその体がポヨンとダンジョンの外に押し出される。思わずよろけた剣一に、エルが呆れた表情で声をかけた。


「王族が一緒じゃないと入れないって、散々説明したでしょ!? 何やってるのよ!」


「すまん、ついテンションがあがっちゃって……」


「まったく仕方ないわねー。ほら、いくわよ!」


 エルの伸ばした手を剣一が掴むと、今度は二人一緒にダンジョンへと足を踏み入れる。すると今度は何の抵抗もなく進み……その先には蒼い世界が待っていた。


「うぉぉ、スゲーな!?」


「フフーン、どう? これが『海の王冠』と呼ばれる理由なのよ!」


 遙かに広がる青白い地面と、木のように聳え立つ色とりどりの珊瑚。周囲に壁はなく、見上げた場所に広がるのは空ではなく海だ。キラキラと鱗に光を反射させながら魚が泳ぎ回る様は、まるで流星のように美しい。


 王族のみが立ち入ることのできる、天に海を頂く聖地。それこそが王族専用ダンジョン「海の王冠」の姿であった。


「うわー、うわー! マジか、めっちゃ綺麗じゃん! あーくそ、祐二達にも……でもスマホで撮ったら駄目なんだよな?」


「そりゃ駄目よ。ここ一応機密区域なんだから」


 剣一がもらったのはあくまでもこのダンジョンに入る許可であり、内部の情報を自由に公開してもいいという権利ではない。録画して公開すれば万バズ確定の景色ではあるが、それをやったらアカウント停止どころではなく犯罪だ。


「持ち帰れるのはお宝と思い出だけ、か……でもまあ、それも浪漫だよなぁ」


「そういうこと。それじゃ行きましょ」


「おう!」


 エルに促され、剣一も歩き出す。王家には地図もあったがそちらは貸してもらえなかったため、ひとまずブラブラと広大な海底を歩いて行くと、やがて二人の目の前に、プニョプニョと跳ねる緑の魔物がその姿を現した。


「お、スライムだ。ここでもやっぱり最初はスライムなのか」


「まあ、お約束だしね」


 必死に跳ねて移動するスライムの姿は、魔物であっても何処か微笑ましい。脅威ではないのでそのまま無視して通り過ぎてもよかったのだが、そこでふと剣一の頭によぎるものがあった。


「そうだエル。ちょっとあのスライム倒してみてくれよ」


「え? いいけど、何で?」


「いやほら、エルと一緒に戦うのって一ヶ月ぶりだろ? だからどのくらい成長したのかなーって思ってさ」


「うぐっ……わ、わかったわ」


 剣一の言葉に、エルは何故か渋い表情になってそう答える。それからプニョっているスライムに向き合うと、徐にスキルを発動させる詠唱を口にした。


「いけ、ウォーターアロー!」


 エルの正面に出現した水の矢が突き刺さり、スライムの体がはじけ飛んだ。だがその様子を見て、剣一は怪訝な表情を浮かべる。


「あれ? 前より弱くねーか?」


「し、仕方ないでしょ! 今はヒデオやヒジリと一緒じゃないから、スキルが弱体化しちゃってるのよ!」


「ああ、そっか」


 エルのスキル<共感>は、英雄の<共鳴>や聖の<共存>と同時に使うことで真の力を発揮するスキルだ。それは逆に言うと、自分一人だと大きく弱体化するということでもある。


「ケンイチには前も説明したけど、そもそもアタシが使ってる水魔法のスキルは、あくまでも<共感>のスキルで同一化した巫女様のスキルを借りて使ってるだけなのよ。


 だから大本の<共感>のスキルが弱体化すれば当然引き出せる力も落ちるし、何よりヒジリが一緒じゃないから<共感>のスキル効果を維持できなくて、魔法を使う度に<共感>のスキルを使いなおさないとだから、魔力消費もいつもの倍になってるのよ」


「そりゃ大変だなぁ……ん? それだと英雄達も今は弱くなってるってことか?」


「あっちはヒジリが<共存>を解除しない限りは、そこまでじゃないと思うけどね。アタシのスキルレベルがまだまだ低かったのと、結局強敵を相手にするようなことがなかったから、敵に合わせて能力を切り替える……みたいな戦い方はしてこなかったから」


 エルがいれば状況に合わせて能力を変えられる。聖がいれば消費なしで変えた能力を維持できる。そして英雄がいれば無条件で能力を強化できる。それぞれの長所が大きいだけに、失われた時の落差はどうしようもなかった。


「まあでも、最初からそうだってわかってるんだから、ヒデオ達も無茶はしないわよ。にしても……うぐぐ」


 はじけ飛んだスライムの魔石を拾いながら、エルが悔しげな唸り声をあげる。一人になったことによる能力弱化を別にすれば、自分の実力が一ヶ月前とほとんど変わらないことが気に入らないのだ。


 もっとも、普通は一ヶ月やそこらでいきなり強くなったりはしない。エルが不甲斐ないとかサボっていたとかではなく、ごく普通の成長速度というだけではあるのだが……


(使命が終わっちゃったせいで、無意識に気を抜いてたのかしら? もっと頑張らないと駄目ね)


「エル? どうかしたのか?」


「ううん、何でもない。それよりケンイチ、次はあっちに行ってみましょうよ! アタシの記憶が確かなら、あっちに階段があったはずよ」


「そうなのか? てかエルの記憶って……」


「五歳になって少しした頃のやつよ。ここってね、アトランディアを守ってくれてる海神様のダンジョンだって言い伝えもあるの。で、アタシってその時、神様の声を聞いたって伝えたから……」


「あー、その時に来たのか。でもそれ、違うんだよな?」


「そうね、なんの反応もなかったし。それにディアやニオブの話からすると、神様ってもっとずっと遠くにいるんでしょ?」


「そう言えばそんなこと言ってたな」


 神とは世界一つを食い尽くしたドラゴンが、更に数えきれぬほどの世界の力を集めて目指す先……つまりそれだけ巨大で強大な存在である。そんな相手からすればドラゴンなど簡単に倒せるが、力が強すぎるせいで自分でそれをしようとすると、ドラゴンのいる周辺の世界まで全部巻き込んで潰してしまう。


 世界を守るために大量の世界を巻き込んで潰してしまうのでは本末転倒。それ故神は使徒を生み出し、自分の世界を自分で守るように仕向けるわけだが……それは言い換えると、神とは一つの世界のなかに留まるような小さな存在ではないということだ。


 少なくとも、ダンジョンの奥にひっそりと収まるようなものではない。もしそんなことができるなら、それこそ「神」は自分の手でサクッとニオブを倒していたことだろう。


「ま、ダンジョンの奥に何がいるかなんて、今考えても仕方ないわよ。それよりほら、早く先に進みましょ!」


「何だよ、スゲーやる気だな?」


「当たり前じゃない! アタシだって強くなったり、探索したりしたいんだから!」


「ほほぅ? でもそれなら、俺だって負けねーからな!」


 一緒にいたい誰かの隣を歩くために……せめて置いていかれないために。そんな内心を自覚することなく張り切るエルに、剣一もまた気合いを入れてダンジョン探索を再開するのだった。

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