表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺のスキルは<剣技:->(いち)!  作者: 日之浦 拓


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/175

剣一と外国

 海外に行くとなれば、一体どんな準備が必要か? 誰もが最初に思いつくのは、パスポートの調達だろう。


 当然というか必然というか、今まで海外に行ったこともなければ行こうと考えたこともない剣一は、パスポートを持っていなかった。だが剣一は冒険者なので、協会証(ライセンス)を持っている。これはダンジョンの謎技術で作られているだけあって信頼度が抜群であり、身分証としての価値がとても高い。


 故にそこそこの数の国では、協会証(ライセンス)をパスポート代わりとすることができる。今回向かうアトランディアもそれに対応していたので、まずこの問題が解決した。


 次の問題は、出国制限。一部の冒険者は、国から出ることに制限がかかることがある。これは強力なスキルを持つ冒険者は、そのまま強力な兵士であり兵器であるからだ。


 だが剣一はその実態はともかく、対外的には<剣技:(いち)>というありふれたスキルを持っている、活動二年目の新人冒険者に過ぎない。なので当然規制対象になどならないため、これも問題にはならない。


 更に他にも渡航費用はどうするのか、両親への説明、留守の間の家と居候の管理などなど、解決しなければならない問題は幾つもあったが……





「おおー……ここがアトランディアか」


 六月五日。全ての問題を滞りなく解決した剣一は、その日およそ四時間のフライトを終え、太平洋に突如として出現した謎の国、アトランディアにやってきていた。降り立った空港は日本のものと違ってだだっ広い広場であり、足下に敷き詰められているのもコンクリートではなく、深緑色の謎の石材だ。


「うわ、この景色も久しぶりね!」


 そんな剣一の後に続いてタラップから降りてくるのは、この国の王女であるエルだ。うーんと背筋を伸ばして懐かしの空気を堪能するエルに、剣一が訝しげな視線を向ける。


「なあ、エル。お前この国のお姫様なんだよな?」


「? そうだけど、それがどうかしたの?」


「いや、スゲー今更だけど、何で俺と一緒に普通の飛行機で来たんだ? お姫様とかって、普通は専用機? そういうのに乗るんじゃねーの?」


 問う剣一に、エルが猛烈なあきれ顔をする。


「あのねケンイチ。アタシが日本にいたのは、一応お忍びなの。そりゃ色んな人が知ってたでしょうけど、公式にはアタシは今もこの国にいるって設定なのよ。


 なのに専用機が日本から(・・・・)飛んできたら、どうなると思う?」


「そりゃあ……エルが日本にいたことがバレる、のか?」


「そういうこと。アトランディアからアタシが乗っている体の飛行機を出して、そのまますぐにこっちに引き返させるって手段なら一応誤魔化せるでしょうけど、流石にそこまで無駄なことはできないし。


 というか、そもそもアタシが非公式に日本にいたのなんて当たり前でしょ? じゃなかったらどうしてアタシの立場で、護衛もつけずにダンジョンに潜ったりできると思ってたのよ!?」


「それは……な、何となく?」


「何となくってアンタ……」


 もの凄く残念そうな目を向けられ、剣一が思わず抗議の声をあげる。


「し、仕方ないだろ! そもそもエルがお姫様だってこと自体、指導員の仕事を終える時まで知らなかったんだし!」


「まあそうだけど……でも今は知ってるでしょ? アタシが誰だか知ってからも、何も疑問に思わなかったの?」


「……………………こ、細かいことはいいじゃん」


「……………………」


 そっと顔を逸らす剣一に、エルが何とも言えない表情になる。そうしてどうにもいたたまれない空気が流れたところで、不意に二人の背後から別の人物が声をかけてきた。


「お待たせ致しました姫様、蔓木様」


「ジイ!」


「セルジオさん! 助かった……じゃない、すみません、席譲ってもらっちゃって」


 やってきたセルジオに、剣一がそう言って頭を下げる。今回剣一が座っていたのはエルの隣……本来ならセルジオが座る席だった。冒険者は武装を持ち込む関係上チケットを取るのに手間がかかるため、エルと同乗するために冒険者枠を確保していたセルジオに席を譲ってもらい、セルジオは改めて一般枠の席を取っていたのだ。


「いえいえ、構いませんよ。蔓木様でしたら、万が一の際の護衛としても全く不足はありませんので」


「そりゃあもう! 何が来たってバッチリ護ってみせますよ!」


「なっ!? アンタは本当に、そう言うことをさらっと言うわよね」


「? 何かおかしかったか?」


「別におかしくはないわよ! まったく! ケンイチはまったくもー!」


「???」


 何故かそっぽを向いたエルに、剣一が首を傾げる。そんなエルの姿を目を細めて見つめるセルジオだったが、すぐに意識を改め、二人の前に立って他の乗客とは違う方向に歩き始めた。


「では、お二人ともこちらへ」


「あれ? あっちの建物に行くんじゃないんですか? みんなあっちに行ってますけど」


「この国にいるはずの姫様に入国手続き(・・・・・)をしていただくわけにはまいりませんので。お手数ですがこちらでお願いします」


「あー、なるほど、了解です」


「ほらケンイチ、さっさと来なさい! 手続きが終わったら、このアタシが町を案内してあげるわ!」


 納得する剣一に、少し前を歩くエルが振り返って呼ぶ。その笑顔に釣られて剣一も小走りに進み、簡単な手続きを終えて町に出ると、そこに広がっていたのは現実とは思えないようなファンタジーな景色であった。


「うわぁ、こりゃスゲーなぁ」


 赤や緑などの鮮やかな石材で作られた建物は、高くても三階程度。また日本と違って窓はどれも円く、扉も上部が丸くなっているアーチ扉がほとんど。また広めの石畳の道路はややデコボコしており、人は歩いているものの自動車の類いは見受けられない。代わりに走っているのは、何と馬車だ。


「ふふふ、ビックリした?」


「そりゃビックリしたよ……馬車って。人も荷物も、全部あれで運んでるのか?」


「大規模な物資輸送に関しては別の手段もあるけど、おおよそはそうね。結局はあれが一番安定するの。だって馬は子供を生んで増えるし、エサも国内で作れるもの。


 自動車は便利だけど、国内に生産工場を作るほどの需要はないし、何より燃料のガソリンを完全に輸入に頼るっていうのが、ね」


「? 輸入だと駄目なのか? 日本もほぼ一〇〇%輸入してるはずだけど」


 日本は小さな島国なので、世界中から様々な資源を輸入することで生活が成り立っている。だからこそうしないのは何故かと問う剣一に、エルが苦笑して答えを告げる。


「それはアトランディア独自の問題よ。アトランディアがこの世界に来たのは五〇年前だってことは知ってるわよね?」


「そりゃ勿論」


「あのね、アトランディアって、五〇年から一〇〇年くらいの周期で別の世界に飛ばされちゃうのよ。そうなったら当然この世界の物資を輸入することなんてできなくなっちゃうから、それがないと成り立たない技術に依存しちゃうと、それが得られなくなった時点で国が崩壊しちゃうの。


 だから基本的に、自国内で……この島の内部で完結する技術だけで全部を回すようになってるのよ。一時的に便利に使うのはいいんだけどね」


「へー! え、じゃあこの国って、この世界以外にも、色んな世界にいたことがあるってことか?」


「そうよ。まあアタシは生まれたときからこの世界にいるからあくまでも話に聞いてるってだけだけど。


 でも歴史書を見ると、海ばっかりの世界で魚みたいな人間と出会ったとか、いっつも雷が鳴り響いてるような世界で二足歩行する鹿を見たとか、誰もいないと思ったら雲の上に鳥っぽい人達の国があって交流したとか、色んな話があるわよ」


「マジか!? え、それスゲー読みたい!」


 ファンタジー小説みたいなノンフィクションの歴史書の存在は、あまり読書をするような趣味のない剣一でも強烈に興味をそそられた。そうして食いついた剣一に、エルがちょっと得意げに言う。


「ふふ、いいわよ。ならあとで資料館に行きましょ。一般開放してる部分だけでも見応えたっぷりなんだから!」


「うぉぉ、楽しみだぜ!」


 はしゃぐ剣一の様子に、エルもニッコリ笑ってチラリと視線を背後に向ける。それを受けて静かに成り行きを見守っていたセルジオが小さく頷き、早速関係各所に連絡を飛ばしていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面白い、続きが読みたいと思っていただけたら星をポチッと押していただけると励みになります。

小説家になろう 勝手にランキング

小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ