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俺のスキルは<剣技:->(いち)!  作者: 日之浦 拓


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死に至る遊戯

(どうする? どうすればいい!? どうすればこの場を乗り切れる……!?)


 粘つくような笑みを浮かべる昭人を前に、祐二は必死に思考を巡らせる。だが昭人が本当に「嘘を見破る」などというスキルを持っているなら、取れる手段は何もない。


「えーっと……『僕は』あんまり詳しいことはわからないんですけど……」


 ディアの薬の仕組みなんて、祐二にはわからない。だから「詳細不明」という意味で口にすれば嘘ではないはずだが……


「詳しくなくても構わねぇよ。わかってることをわかってるように、全部話せ」


「ぼ、僕が強くなったのは、あくまでも僕の努力で……」


 薬は強くなるきっかけであり、強くなったのは自分の努力。だからこれも嘘ではないが……


「努力だけじゃねぇだろ? お前だってそれを自覚してるはずだ。その部分を説明しろ」


「っ…………」


「はぁ……あのなぁ皆友君? 俺が今までどれだけの嘘を見破ってきたと思ってんだ? お前みたいなガキが思いつく程度のとぼけ方で、俺を出し抜けるわけがねぇだろ?」


 呆れたように言う昭人に、祐二は何も言い返せない。剣一は賞賛しているものの、祐二の頭のよさは常識の範囲内……それこそテストをやると学年順位で安定して上位三割に入るくらいの、あくまでも秀才型の頭の良さなのだ。


 故に、この場を乗り切るための天才的な閃きなどというものは生じない。悔しげに唇を噛みしめ……そんな祐二に昭人が優しげな声をかける。


「なあ皆友君? そもそもお前、何でそんなに必死に秘密を守ろうとしてんだ? お前が素直に話してくれりゃ、別に俺はお前に何もしねぇぜ?」


「兄貴!? それは――」


「黙ってろ! なあ皆友君、今のは誓って嘘じゃねぇ。だってそうだろ? 俺にはお前をどうにかする理由なんてねぇんだ。まあウチの弟みたいに調子に乗って秘密を吹聴されまくったら話は別だが……この状況でダンマリ決められるくらい気合いが入ってんなら、この先もずっと守れるだろ?


 ならそれでいいじゃねぇか。それともどっかの誰かと契約でもしてて、破ったらヤバいとかがあんのか? ならそれを俺に言えば、そのくらいどうにでもしてやるぜ?


 ああ、そうだ。俺がお前を守ってやる。だから安心して言っちまえよ。長い物に巻かれるのは裏切りじゃねぇ、大人の処世術ってやつさ」


「貴方が、僕を守る……? プッ」


 床に転がされたまま、祐二は首を曲げ昭人の顔を見る。そこに浮かぶ醜悪な笑みを見て……祐二は思わず吹き出してしまった。


「……何がおかしい?」


「すみません。でも貴方じゃ僕の大切なものは、きっと守れないと思いますよ」


「守れない? 俺がそいつに劣るってのか? これだけのことをしてる俺が?」


「まあ、はい。だってあいつは……最強ですから」


 祐二の顔が、ニヤリと笑う。それを見た昭人はスッと表情を消すと、そのまま立ち上がり祐二の顔を思い切り蹴飛ばした。


「ぐふっ!?」


「祐くん!?」


「……予定変更だ。おい平人、こいつで遊んでいいぞ」


「いいのか!? やったぜ、流石兄貴だ! へっへっへ、どうやって……」


「待て、遊び方は俺が決める。おい、そこのパレットもってこい。それで……」


 昭人が指示を出すと、作業員の男達が動き出す。そうして完成したのは、フォークリフトで荷物を運ぶときの土台……パレットと呼ばれる板切れに、大の字になるように拘束された祐二の姿だ。


「くっそ、何をするつもりだ!?」


「おいおい、見りゃわかんだろ? 楽しい的当ての時間だ……ほれっ!」


「ぐあっ!?」


 少し離れたところに立ち、昭人が無造作に投げたドライバーが祐二の太ももに突き刺さる。その激痛に祐二が顔を歪めると、未だ床に転がされたままの愛が大声をあげた。


「祐くん!?」


「へーい、命中! 七のトリプルってところか? ほら平人、お前もやっていいぞ。あーでも、当てる場所は選べよ? あっさり死なれちゃ困るからな」


「わかった! ほらほら皆友、どんどん行くぜ?」


 足下に置かれた工具箱から適当に先の尖った工具を手に取り、平人が祐二に投げつける。昭人と違ってそれは当たったり外れたりしたものの、それでも回数を重ねるごとに、どんどん祐二の体に工具が突き刺さっていく。


「がっ!? ぐぅぅ……っ!」


「ほらほら皆友クーン? 的なんだから、当たったらもっといい声をあげてくれよ!」


「その気になったら、いつでも秘密を言ってくれ。そうすれば助けてやるから」


「だ、れが…………」


「祐くん! 祐くん! ねえお願い、私を離して! 祐くんが!」


「さあ平人選手、第……何投だっけ? まあいいや。おらっ!」


「あっ、馬鹿!」


「が…………っ!?」


 平人の投げた工具が、祐二の胸に突き刺さる。腕や足の時とは違うその衝撃に、祐二は自分の命が零れていく恐怖を感じた。


「イヤーッ! 祐くん! 祐くんが死んじゃう!」


「こら平人、何やってやがる!」


「ご、ごめん兄貴。ちょっと手が滑っちまって……」


「ったく、これじゃ情報が聞き出せなくなっちまうじゃねぇか……まあ本命がまだ残ってるから、駄目なら駄目でもいいんだが」


「離して! お願い離して! 私なら治せるから! 今すぐ私を祐くんのところに連れてって!」


「ん? ああ、そう言えばお前……天満だったか? 回復魔法のスキル持ちだったよなぁ。死体の処理は金がかかるから、治せるっていうなら治しても構わねぇけど……」


「だったら早く!」


「……まあいいや。おい、解放してやれ」


「ハッ!」


 昭人の指示を受けて、愛を拘束していた手足の縄がほどかれる。すると愛は飛ぶような勢いで祐二の元に駆け寄ると、すぐに傷の状態を確認した。


「駄目、駄目……手や足はどうにでもなるけど、胸のこれは……引き抜いたら血が吹き出て死んじゃう……? それに錆びだらけで、ちゃんと殺菌しないと感染症が……駄目、駄目、駄目、駄目…………っ」


「メ、グ…………僕は、いいから…………逃げ…………」


「馬鹿なこと言わないで! 助ける……絶対に助けるから!」


 息も絶え絶えの祐二を前に、愛はそう言うと腰につけている小さなポシェットに手を突っ込んだ。そこから小さなカプセルを取り出すと、迷うことなく口に入れる。


「メグ!? それは――」


「ごめんね祐くん。剣ちゃんもディアちゃんも大事なお友達だけど……でも私には、祐くんが一番大事なの。だから…………ぐぅぅっ!?」


 愛がカプセルを噛み砕くと、その体に焼けた鉄の杭が徐々に差し込まれていくような激痛が走る。だがそこから熱が広がると、次にやってくるのは圧倒的な全能感だ。


「これなら……祐くん、少しだけ我慢してね。いくよ……えいっ!」


「ぐはっ!?」


 愛が祐二の胸に刺さっていた工具を抜くと、そこから一気に血が噴き出してくる。だが愛は慌てることなく傷口を強く素手で押さえ、本来使えるはずのない魔法を、溢れる魔力で無理矢理に解放する。


「お願い、治って……エクスヒール!」


 瞬間、パッと光が瞬く。すると胸の傷口のみならず、祐二の体に突き刺さっていた工具がぽろぽろと勝手に抜け落ち、その傷口まで全てが治りきった。そうして完全回復した祐二とは裏腹に、愛はその場にぺたりと座り込んでしまう。


「メグ!? 大丈夫!?」


「うん、へーき……でも……あはは、ちょっと疲れちゃったかも…………」


「メグ……」


「おい……おいおいおいおい!? 何だ今の!? お前一体何をしやがった!?」


 そんな二人の様子に、昭人が興奮して近づいてくる。事前調査でわかっていた<回復魔法:二>ではとても考えられない魔法の発動に、昭人は愛の顎を掴んで自分に顔を向けさせる。


「おいお前、今何しやがった!? 何か飲んでたな……身体検査だ! 下着まで全部脱がせて、尻の穴まで調べ尽くせ!」


「ハッ!」


「えっ!? 兄貴。それ俺も……」


「黙ってろ馬鹿! ……全部終わったら遊ばせてやるから、大人しく待っとけ」


「わ、わかったよ……」


「おっと、こいつが持ってるなら、皆友も同じのを持ってる可能性があるよなぁ? おい、こっちもだ。全部調べろ!」


「兄貴? 俺男の裸は…………な、何でもないです…………」


「イヤーッ! やめて! 触らないで!」


「メグ! くそっ、離せ! やめろ! メグーっ!」


 愛と祐二、二人の声が倉庫のなかに響き渡る。しかし……


スパッ! ガラガラガラガラ――


「何だ!? どうし…………っ!?」


 締まっていた金属製のシャッターが切り裂かれ、眩しい外の光が倉庫の中に差し込む。逆光に照らされて立っていたのは、一四歳にしてはやや小柄な、一人の少年の姿だった。

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[良い点] 更新お疲れ様です。 ……二話も待たせやがって……(スラムダン○並感) ヒーローは遅れてやって来る! [一言] さて向こうは親友を殺そうとしたんだ…アメリカの有名な推理小説家さんが生み出し…
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