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俺のスキルは<剣技:->(いち)!  作者: 日之浦 拓


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最後の試練

「カッカッカ、よい顔になったな、ケンイチよ」


 そんな剣一の姿を見て、ディアが楽しげに笑う。その顔は相棒というよりも、子の成長を喜ぶ母のようだ。


「じゃが意気込みだけでどうにかなる相手でもあるまい? それはどうするのじゃ?」


「うっ、それは……」


 ディアに指摘され、剣一は口ごもる。そもそもウロボレアスに対抗する手段が、スキルによる先制攻撃しかなかったからこそ、この状況になっているのだ。いくら剣一の心構えが変わったとしても、その状況そのものが変わるわけではない。


「そう、だな…………剣でも振ってみる、か?」


「うむ? 剣を振るのじゃ?」


「ああ。だって俺にできるのはそれだけだしな」


 確かにスキルは封じられた。だが剣を振れなくなったわけではない。全ての剣の(ちょうてん)は失ったが、全ての剣の(げんてん)は、今も剣一の手の中にある。


「俺さ、思うんだよ。スキルってできないことをできるようにする力じゃなくて、いつかできるようになることを今すぐやらせてくれるものなんじゃないかって。


 だからスキルがなくなったとしても、いつか届くと思うんだ。あの場所に……俺の剣が」


 剣一が空を見上げる。黒い太陽の穴からにじり出てくるウロボレアスの巨体は、今の人類が英知を結集しても届かない場所にいる。


 だがその頭頂には、だらしなく斬れたドラゴンもどきの触手がある。それは間違いなく人の力がそこまで届いた証。


「この世界に、後どれだけ時間が残ってるのかわかんねーし、本当に俺がそこまで辿り着けるのかだってわかんねーけど……でも、あいつらに背中を押されたんだ。やる前から諦めるなんて選択肢、ないだろ?」


「……ふふ、そうじゃな」


 ニヤリと笑う剣一の言葉に、もはや体のほとんどが崩れ落ちたディアもまた笑う。そのまま静かに目を細めると、ディアは意を決したようにその口を開いた。


「のう、ケンイチよ。今のお主に、ワシがしてやれることがあと一つだけある」


「うん? 何だよ突然」


 首を傾げる剣一をそのままに、ディアは真っ赤に染まり、黒が舞う空を見上げたまま語り続ける。


「じゃがワシは、それをするべきかずっと迷っておった。使えばお主は、望むものを得られるかも知れぬ。じゃがそれは想像もできぬほどお主を苦しめる。故に今までのお主であれば、ワシはこの力を使うことなくこのまま死んでいったじゃろう」


「ディア……」


「じゃが今のケンイチならば。大切なものの死を乗り越え、それでもなお前を向いて歩くことができるようになったお主ならば……あるいは試練を超え、その先に辿り着けるかも知れぬ。


 のうケンイチ。この力の正体は、ワシにもよくわからぬ。故に事前に説明してやることも、使ったあとでお主を助けてやることもできぬ。じゃがそれでも……お主はワシの力を受け取るか?」


「……受け取る」


 最後の力を込めるようにしてグッと首を持ち上げたディア。その顔をまっすぐに見て、剣一が頷く。


「正直何言ってるのかよくわかんなかったけど……でも、ディアがスゲー考えて、俺のことを思って力を託してくれるって話なんだろ? ならそれを受け取らないなんて言うと思うか?」


「カカカ、そうじゃな。お主はそういうやつじゃ。じゃからこそ言い出せなかったし、言うつもりもなかったのじゃ。


 さあケンイチ、ワシの側にくるのじゃ」


 呼ばれて、剣一はディアの側まで歩いていく。いつも腹をタプタプ揺らしていた印象が強いだけに、頭と左胸付近しか残っていない体が、驚くほど小さく感じられる。


「では、その剣でワシの胸を……心臓を貫くのじゃ。なに、今のワシならスキルをなくしたお主でも、簡単に斬れるじゃろうて」


「……………………わかった」


 それはあれほど忌避していた、友の命を奪う行為。だが放っておいても間もなく死ぬであろう相棒の最後の願いを叶えるためならと、剣一はそっとディアの胸に切っ先を当てる。


「……頑張るのじゃぞ、ケンイチよ」


「ああ。ありがとうディア」


 柄にグッと体重をかけると、ただの鉄剣が強靱なはずのドラゴンの体に、何の抵抗もなく沈んでいく。ぐちゅりと命を貫く感触があり、ディアの優しい励ましが耳朶をくすぐると、剣を刺した穴から迸った黒が、夜の帳のように優しく剣一を包み込んだ。





「…………はっ!?」


 息を飲んで、剣一が目を覚ます。酷く長い夢を見ていたようで、頭が重い。だがそんなことで仕事を休むわけにもいかない。剣一はボロボロのパイプベッドから体を起こすと、くみ置きの水で軽く顔を洗う。


「うぅ、頭いてぇ……風邪でも引いたのか? こういうときは栄養のあるもんを食っとかねーとな」


 食料は貴重だが、万一寝込んだりすればその時点で死ぬことになる。ここは出し惜しみするべきではないと、剣一は半分戸が外れ欠けた棚の奥から、とっておきの缶詰を取り出した。


 それは乾パン。賞味期限は四〇年前だが、缶に穴どころかへこみすらない極上品だ。


「うーん、甘くて美味い! タンスイカブツが染み渡るぜ……」


 数年前に死に別れた親友の言葉をなぞり、剣一が呟く。炭水化物が何なのかはわからないが、腹に溜まりそうなものを食べた時は、とりあえずこう言っておくことにしているのだ。


「ふー、食った食った。それじゃそろそろ、瓦礫漁りに行くか」


 小さなクズすら見逃すまいと缶の内側までペロペロ舐め尽くした剣一は、資源箱に空き缶を突っ込むと家の外にでる。


 周囲に広がるのは、一面の廃墟。吹き抜ける風は乾ききり、空に浮かぶ太陽は嫌らしいほどにギラついている。


「おー? 蔓木じゃねーか!」


「……チッ、葛井かよ」


 と、そこで剣一に声をかけてくる男がいた。ことあるごとに絡んでくる嫌な男……葛井(くずい) 平人(ひろと)だ。


「おい蔓木、お前今舌打ちしなかったか?」


「別に……何だよ葛井」


「ハァ!? 蔓木お前、何調子に乗ってるっすか! 葛井『さん』だろ!?」


「うっ!?」


 そんな平人の取り巻きの片割れである鳥間(とりま) 桐央(きりお)が、剣一の体を突き飛ばす。よろけた剣一を受け止めたのは、もう一人の取り巻きである尾小保(おこぼ) (れん)である。


「な、何だよ!? 離せよ尾小保!?」


「お前が平人さんに謝るのが先だ」


「は? 謝るって、何をだよ!?」


「はぁ……平人さん、こいつ何もわかってないですけど、どうします?」


「そうだな……よっと!」


「ぐはっ!?」


 連に羽交い締めにされた状態の剣一の腹に、平人の拳がめり込む。その後連が手を離すと、剣一は腹を押さえてうずくまってしまった。


「ぐっ、うぅぅぅぅ…………」


「なあ蔓木、お前を守ってくれてた皆友は、もうとっくにいねーんだよ! いい加減意地張ってねーで、俺の下につけや! 雑用で使ってやるからよぉ!」


「……断る。俺にはやることがあるんだ」


「なーにが『俺にはやることがある』っすか! <大食い>なんてクソの役にも立たないスキルを持ってるのが認められなくて、馬鹿みたいに剣振ってるだけじゃないっすか!」


「そうだぞ蔓木。適正スキルなしでそんなことしても、どうせ成長しやしねぇ。それなら割り切って雑用の腕を磨くべきだ。その方が平人さんの役にも立てるだろうしな」


「そんなの俺の勝手だろ! いいからあっちに行ってくれよ!」


「テメェ蔓木! いい加減に――」


「あー、もういい」


 剣一の物言いに腹を立てた桐央が拳を振り上げたが、それを平人が止める。もっともその顔に浮かんでいるのは、剣一を見下す嘲りの表情だけだ。


「こんなカスでも集めりゃそれなりに役に立つんだろうが、ここまでカスだと声かけんのも面倒だわ。もういくぞ」


「さっすが平人さん! 器がでかいっすねー!」


「チッ、役立たずのクズが!」


 自分から声をかけてきたくせに、ペッと唾を吐き捨てて平人達がその場を去って行く。その姿を見送ると、剣一はよろよろと立ち上がり、腰の剣に手をかけた。


「フッ……フッ……」


 そうして人気のない廃墟で、剣一は一人剣を振る。スキル補正のないそれは明らかに素人のものであり、戦闘系スキル持ちの人間にも、ダンジョンの魔物にも通じるものではない。


「フッ……フッ……」


 そんなことは、剣一自身が一番よくわかっている。だというのに、剣一は素振りを……鍛錬をやめられない。生活に必要な物資を調達する時間以外は、来る日も来る日も剣を振っている。


 そこはダンジョン出現から間もなく、大規模な核戦争により文明の崩壊した世界。誰もが生きるために必死で、乾いた大地と共に人の心から優しさも失われた地にて、剣一は一人、ひたすらに剣を振り続けていた。

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